いい子をやめて姿を消したら、御曹司が狂い始めた

いい子をやめて姿を消したら、御曹司が狂い始めた

By:  ぶりっ子Updated just now
Language: Japanese
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何の前触れもなく、理由すら告げられずに一方的に捨てられた4年間、桐生拓真(きりゅう たくま)からの音沙汰は一切なかった。 SNSに残された最後の投稿は、拓真と彼の幼馴染のツーショット写真だった。 彼が浅野琴音(あさの ことね)に残したメッセージは、たった一言だけだった。 【お前としなかったこと、彼女とは全部した】 周りの人間は皆、琴音を嘲笑った。 男に体も心も弄ばれた挙句、本気で愛されるとでも思ったのか。身の程知らずにもほどがある、と。 琴音は12歳の時に拓真と出会った。 拓真は飲み込みの悪い彼女に勉強を教え、進学のための支援者を見つけ、補聴器まで買ってくれた。 彼女のこれまでの人生、そのすべての「初めて」の時には、必ず拓真の姿があった。 琴音にとって、彼への想いは決して治ることのない重い病のようなものだった。 4年ぶりの再会、 琴音はただ、正式な「別れ」の言葉が欲しかった。 だが彼は、掠れた声で彼女に尋ねた。 「……俺のこと、愛してたか?」 彼女がその本当の意味を知るのは、まだ先のことだった。 あの頃の出来事には、互いに口には出せない事情があったのだと。

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Chapter 1

第 1 話

「浅野琴音さんって、今日来ないよね?もう4年間、一切連絡がなかったし」

「私があの子なら、絶対に同窓会来れないわ。

あんな堂々と泥棒猫やっておいて、よく平気でいられるよね」

琴音の指が個室のドアノブに触れた瞬間、ドアの隙間からそんな声が聞こえてきた。

彼女の指先がビクッと強張り、無意識に自分の耳元へ触れようとして、慌てて手を下ろした。

「拓真があの子に優しくしてたのって、ただ可哀想だったからでしょ。それなのに、あの子が他人の家庭を壊そうとするなんて……」

「拓真はもう結婚して子供もいるのに、これ以上首を突っ込んでこられたらマジで引くわ」

「精神科病院に入れられたのも自業自得よ!妄想癖が酷すぎて、拓真と付き合ってたなんて嘘ばっかりついて」

「え?精神科病院って、どういうこと?」

「あら……知らなかったの……?」

個室に響く噂話を聞いた瞬間、琴音が必死に振り絞った勇気は、あっけなくしぼみ、冷え切っていった。

4年前、彼女は確かに拓真と付き合っていた。

ただ、何の前触れもなく、理由すら告げられずに一方的に捨てられただけだ。

初めて身を重ね、愛が最も燃え上がっていたあの時、彼は突然、幼馴染の女と海外へ飛んだ。

ついさっきまで「愛してる」と甘く囁いていた男が、次の瞬間にはSNSで幼馴染とのツーショットを投稿していたのだ。

彼が最後に残したメッセージは、たった一言。

【お前としなかったこと、彼女とは全部した】

それ以降、彼女の連絡先はすべてブロックされた。

親友は、「あんたは遊ばれたのよ」と言った。

ああいう金持ちのドラ息子は、琴音みたいに世間知らずで純粋な子を弄ぶのが大好きなのだと。

でも、彼女は信じなかった。

4年経った今でも、信じられない。

彼女はただ、答えが欲しかった。

個室のドアの前に立ち尽くす彼女は、いまだにその扉を押し開けられずにいた。

中の会話はエスカレートし、彼女が最も恐れている「精神科病院」の話題にまで及んでいた。

彼女は大きく一歩後ずさりし、ドンッと誰かの温かい胸にぶつかった。

琴音はハッとして振り返り、一瞬で息を呑んだ。

記憶の中の傍若無人な男とは違い、彼はすっかり大人びて落ち着いた雰囲気をまとっていた。

隙のない仕立てのスーツをまとい、高い鼻筋と彫りの深い目元、目尻をわずかに上げたその顔立ちは、どこか気だるげな色気を漂わせている。

拓真の整った顔立ちは、どこから見ても隙がない。今はシャツのボタンをいくつか無造作に開けており、その奥に鎖骨が覗いていた。

彼はただそこに立っているだけで、冷ややかな気高さを纏っていた。

まるで頭上の照明が、彼だけをスポットライトのように照らし出しているかのようだ。

かつて同じベッドで未来を誓い合ったというのに、まさか、次にこうして再会するまでに、丸4年が流れているとは思いもしなかった。

それでも琴音には、この数年間、彼が一度も自分のそばから離れていなかったように感じていた。

どこを向いてもどこへ行っても彼の姿を見るような気がしてならなかった。

「あんたはおかしくなっちゃったんだよ」と親友は泣きながら彼女を抱きしめた。

拓真に深く傷つけられ、心を壊してしまったのだと。

彼女は手をそっと背後に隠し、ぎゅっと握りしめた。

「久しぶり、拓真……」

その名前を呼ぶ声は、わずかに震えていた。

今夜、彼が来ると知っていたからこそ、彼女はここに来たのだ。

拓真は背が高い。190センチ近くある彼は、琴音を見ても全く動揺も見せず、ただの同級生に会ったかのような態度だった。

彼の視線は彼女に数秒留まっただけで、すぐに逸らされた。

「入らないのか?」

低く響く彼の声は、ひどく冷淡だった。

琴音は伏し目がちに視線を落とした。

ずっと前から胸に秘めていた問いかけが、喉の奥でつかえて出ない。

「私がここに来たのは、聞きたいことが……」

彼女が言い終わる前に、廊下から一人の女性が姿を現した。

「もう拓真、待たなくていいって言ったじゃない?」

その声には、少し不思議そうな響きが混じっていた。

琴音の体がビクッと震えた。

視線を上げ、白鳥咲(しらとり さき)の姿を目にした瞬間、思わずグッと拳を握りしめた。

咲こそが拓真の幼馴染だ。

彼女の手には、4歳くらいの小さな女の子がちょこんと引かれていた。

その子の目元は拓真にそっくりだった。

咲は完璧な身なりをしており、にこやかに挨拶をしてきた。

「あら、琴音さんじゃない。お久しぶりです」

琴音の視線は、その子供に釘付けになった。

手を痛むほどに強く握り締めた。

女の子は小さな手を伸ばし、拓真のスーツの裾を引っ張った。

「パパ」

拓真は身をかがめ、その子をひょいっと抱き上げた。

先ほどまでの冷ややかな様子とは打って変わり、その顔はこの上なく優しげだった。

「どうした?」

女の子は満面の笑みを浮かべ、彼の頬にチュッとキスをした。

咲がわざとらしく怒ったように言う。

「こら、葵(あおい)。さっきマンゴーケーキを食べたばかりでしょ。

パパがマンゴーアレルギーだって知ってるじゃないの」

彼女がティッシュを取り出して拓真の頬を拭こうとすると、拓真は自然と顔を背けた。

「大丈夫だよ」

咲は彼を軽く睨みつけた。

「あなたって、いつもそうやって甘やかすから…… 」

そこで咲は、まるで琴音の存在を今思い出したかのように、彼女の方を振り向いた。

だが琴音は、その光景に胸を深くえぐられたように背を向け、先ほどまで開けられなかった個室のドアを一気に押し開けた。

個室の中は盛り上がっていたが、琴音の姿を見た瞬間、嘘のように静まり返った。

そして、彼女の後ろにいる拓真たちの姿に気づくと、皆の顔に面白がるような笑みが浮かんだ。

琴音は逃げ場を失ったように、一番隅の席に座り込んだ。

彼女は膝の上で拳を固く握りしめ、その痛みで自分を正気に戻そうとしていた。

もう……これ以上、馬鹿な真似をしてはいけない。

周りの人々は、先を争うように拓真に挨拶をし始めた。

あの頃と同じように、彼はいつでも一番輝く存在だった。

今では、彼に取り入ろうとする者はさらに増えている。

琴音は周りの人々が何を話しているのか、一切耳に入らなかった。

ふと、「この子、拓真の子供?」という誰かの声が耳に届いた。

拓真は相変わらず冷ややかな声のまま、抱きかかえた女の子を見て言った。

「これだけ似てりゃ、俺の子に決まってるだろ」

確かに、その顔立ちを見れば、もはや疑う余地などなかった。

「おめでとう!結婚式は海外で挙げたのか?俺たちに晴れ姿を見せてくれよ!」

「拓真、お前は本当に人生の勝ち組だな。ずっと支えてやって、咲も今ごろすごく幸せだろ!」

「拓真にそっくりだなあ、本当に可愛い!」

拓真は、離れた席で静かに座っている琴音に視線の端を向けながらも、ごく自然に周りの会話に合わせていた。

咲は子供を彼から受け取ると、彼に釘を刺した。

「後で絶対にお酒は飲んじゃダメよ」

その言葉に、周囲から冷やかすような声が飛んだ。

「おいおい、拓真もすっかり奥さんの尻に敷かれてるな!」

拓真は軽く笑い、何も言わなかった。

社会に出て数年の荒波に揉まれてきた大人たちだから、空気が読めない者などいない。

当然、こんな席でわざわざ琴音のことを持ち出すような野暮な真似はしない。

そもそも、大学時代の琴音は目立たず、存在感の薄い女だった。

田舎の村から大都市へやってきたような地味な彼女が、拓真のような勝ち組の男と結ばれるなどと、誰も思っていなかった。

だから皆、あの時の騒動は、琴音が勝手に妄想して狂っただけだと思い込んでいたのだ。

今、周囲の盛り上がりなど、彼女には関係のないことだ。

その盛り上がりを見て、琴音は自分の心が少しずつ冷え切っていくのを感じていた。

頭を垂れ、今すぐここから消えてしまいたいと思っていると、ある女性の声が耳に届いた。

「琴音、昔あんなに必死になって拓真を探し回ってたじゃない?

今、本人がここにいるわよ」

その場にいる全員の悪意を孕んだ視線が、一斉に彼女へと突き刺さった。

当時、拓真と連絡が取れなくなった琴音は、焦りのあまり大学の掲示板で人探しをした。

しかし逆に個人情報を特定され、ネットで晒されてしまったのだ。

あっという間に噂が広まり、それに追い打ちをかけ、拓真が彼女との関係を急いで否定するかのように、咲との写真をSNSにアップした。

そして、大学の担当教員にまで呼び出され、優しくも冷徹な言葉で、彼女が嘘つきだと断定されたのだ。

「あなたは中学の頃から、見ず知らずの篤志家からの支援で学校に通っていたそうですね。

その支援者が誰か知っていますか?白鳥家ですよ。

咲さんは白鳥家の令嬢ですよ。それなのに今、あなたは彼女の恋人と同棲して寝たなんていう噂を流している。

これが恩人に対するあなたの恩返しですか?」

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