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第3話

Auteur: ピッタリさん
「翼さん、私、どのお部屋使えばいい?」

若葉の声は、突然大声で尋ねてきた薫の声にかき消された。

翼はすぐに車椅子を動かして、薫と一緒に部屋を選び始めた。

「この部屋がいいね。日当たりもいいし、君にぴったりだ」

「本当?翼さん、どうして私がこの部屋を一番気に入ったって分かったの?」

薫は嬉しそうに言うと、ドアを開けて中に入っていった。

その瞬間、若葉は全身の血が頭に逆流するような感覚に襲われた。

そこは、自分の亡くなった両親の部屋だったからだ。

ダメ、絶対にダメ。

若葉は狂ったように部屋に駆け込んだ。でも薫は、彼女が宝物のように大切にしていた家族写真を、すでに手に取っていた。

「早くそれを置いて!」

だけど、薫は若葉を一瞥すると、わざとらしく手を滑らせた。

すると、写真立ては床に叩きつけられて粉々になった。そして、飛び散った破片の一つがちょうど薫のすねをかすめた。

薫は悲鳴をあげた。「きゃっ、足から血が!」

それを見て、翼はすぐに我を忘れて車椅子を動かした。そして、床に落ちた写真をそのまま踏みつけていった。

「薫、大丈夫か。今すぐ病院に連れて行っててやる!」

彼はそう言って慌てて薫を連れて出て行った。その傍らで取り残されて呆然としている若葉には、まったく気遣うことなく。

若葉はゆっくりと床に膝をついた。鋭いガラスの破片が散らばっているのも構わず、両親と写ったたった一枚の写真を拾い上げた。

若葉は必死で写真を拭いた。でも、優しい両親の顔には、車輪の跡が二本、黒く残ってしまっていた。

「お父さん、お母さん、ごめん!」

若葉は写真を抱きしめ、誰もいない家で、子供のように泣きじゃくった。

でも、彼女を一番愛してくれた二人は、ただ写真の中から、優しい眼差しを向けてくるだけだった。

それから、若葉は一人で部屋の惨状を片付けた。彼女は破片を一つ一つ拾い集めて綺麗にすると、ドアにしっかりと鍵をかけた。

もう二度と、誰にも両親の安らかな眠りを邪魔させない。

すべてを終えてから、若葉は自分の足もガラスで切れていることにようやく気が付いた。

血がだらだらと流れていて、見るからに痛々しい傷だった。

彼女が自分の部屋に戻って手当てをしようとしていると、翼がまた慌てた様子で飛び込んできた。

彼は若葉の足の酷い傷には目もくれず、いきなり引き出しを開けて中を探し始めた。

「翼、何してるの?」

翼は顔も上げずに、手慣れた様子で彼女の通帳を取り出した。

「薫が怪我をしたんだ。少しお金をおろして、数日入院させた方がいい。そうしないと心配で」

若葉はあまりのことに、言葉を失った。

「翼、それは私が貯めたお金よ!」

それを聞いて、翼は苛立ったように言った。

「若葉、どうせ俺と結婚するんだろ。そんなにケチケチしないでくれないか?

薫が怪我したのは、君が突然大声を出して彼女を驚かせたせいじゃないか。たかが写真一枚で、何をそんなに騒いでるんだ。これは君の代わりに俺が罪滅ぼしをしてやってるんだぞ!」

そう言い終わると、彼もさすがに言い過ぎたと思ったらしい。

「そういう意味じゃない。ただ、君のご両親はもう亡くなったんだから、生きている人間の方が大事だろ」

若葉はもう何も言わなかった。

両親が生きていた頃、翼とこっそり付き合っていることを知って、「翼は本当の息子みたいだ」と笑っていた時のことを思い出すと、ただ皮肉にしか感じられなかった。

目の前にいるこの男は、もうかつて両親の前で胸を叩いて「絶対に彼女を悲しませません」と誓った男ではないのだ。

若葉の失望しきった眼差しに、翼の胸がチクリと痛んだ。

翼は少し間を置いて、苛立ちを抑えながら彼女を説得しようとした。

「若葉、薫は俺の命の恩人なんだ。放っておくわけにはいかない」

「前に言ったでしょ、あなたを助けたのは私だって」

しかし若葉の言葉を聞いて、翼は突然笑い出した。

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