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第2話

Author: ピッタリさん
静香のオフェスを出ると、若葉は自転車に乗って家に帰った。

帰り道、彼女はずっと昔の記憶を思い出していた。

かつての人生では、静香の忠告を聞き入れず、翼に頼まれて仕事をやめてしまった。そして、自分の仕事を菅原薫(すがわら かおる)に譲ったのだ。

安定した仕事を失ってからは、両親が残してくれた遺産で二人の生活を支えるしかなかった。それだけでは足りず、彼女は家政婦などのアルバイトをして家計を助けていた。

翼は毎日車椅子に座って、本を読んだりお茶を飲んだりするだけ。なのに、彼はいつも自分のことをみっともないとか、薫を見習えとばかり言っていた。

そんなふうに毎日見下されて、若葉は自分が製鉄所で一番期待されていた若手だったことを忘れかけていた。

自分は翼のために将来を捨てたのに。彼に自分をどうこう言う資格なんてあるの?

そう思いながら、若葉は自転車に鍵をかけると、深く息を吸い込んで、家のドアを開けた。

この家は両親が残してくれたもの。でも、家の中には招かれざる客がいた。

薫が翼の足元に寄り添って、二人で親密そうに同じ本を読んでいた。

翼が怪我をしてから、若葉はあんなに近くに寄れたことなんて一度もなかった。

物音に気づいた薫は瞬きをすると、若葉の落ち込んだ様子には気づかないふりをして、待ちきれない様子で尋ねてきた。「若葉さん、仕事の件、どうなった?私、明日からでも出社できるわ」

だけど、若葉は何も言わずに、部屋に増えている荷物に目を向けて、眉をひそめた。

彼女の顔色が良くないのを見て、薫はまたぺろっと舌を出した。

「ごめん、若葉さん。翼さんからもう聞いた?

私の家、製鉄所からめっちゃ遠くて、だから翼さんが、私が長い距離を通勤するのを心配してくれて。ここに住みなよって言ってくれたんだけど……迷惑じゃないよね?」

彼女がそう言うと、若葉が答える前に、車椅子に座った翼が口を挟んだ。

「大丈夫だよ、薫。若葉は気にしないさ。

君は俺の命の恩人なんだ。この家も寂しいもんだから、君みたいな明るい子がいてくれたら、若葉だって嬉しいに決まってる」

そう言って若葉に視線を移すと、翼の声は少し冷たくなった。

「若葉、そこでぼーっと突っ立ってないで、さっさとご飯の支度をしろ。お客さんが来てるんだぞ」

かつての人生でも、彼はいつもこんな口調だった。

「若葉、俺の服が汚れてるのが見えないのか?」

「若葉、腹が減った。飯はまだか?」

「若葉、布団と敷いてくれ!」

若葉と翼は、幼なじみだった。

あの事故が起こるまで、翼はとても優しい人だった。

若葉が生理で辛い時は、わざわざお店に並んで、彼女のためにいろいろ世話をしてくれたりもした。

道端にきれいな野の花が咲いているのを見つけると、顔を赤らめながら、大切そうに彼女に差し出してくれた。

だから、二人が恋人になるのは自然な流れだったし、婚約した時も、両方の家族が心から喜んでくれた。

しかし、あの大地震で、翼は両足、若葉は自分の両親を失った。

若葉はずっと、翼の性格が変わってしまったのは、突然の不幸でショックを受けたせいだと思っていた。だから、彼が自分を使用人のようにこき使うのも、仕方がないことなんだと思っていた。

それに、60年あまり連れ添って、辛い思いばかりをしなかったわけでもなかった。

だから彼女は、その楽しかった頃の思い出を支えにして、涙をぐっと堪えてきた。そして、性格が一変した愛する人のために、精一杯の優しさを注いできたのだ。

でも、翼が薫を甘やかすのを目の当たりにして、若葉は初めて気づいた。昔の自分が、どれだけ愚かだったのか。

翼は性格が変わったわけじゃなかった。

彼は心が変わってしまったんだ。

若葉は、はっきりさせておくべきことがあると思った。

翼は薫のことを命の恩人だと言うけれど、おかしい。田舎に住んでいる薫が、どうして都合よく地震の日に翼の家のそばにいて、彼を助けられたっていうの?

「翼、あなたを瓦礫の下から掘り出したのは、本当は……」
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