ログイン『それ以外は?』「えっ?」『なんか不安だったり伝えておきたいことある?』「えっ……!?」慧さんからそう言われ、一瞬美山さんとの記事や、さっきのやり取りを思い出す。だけど、慧さんのこの言葉がそれを指してるのかはわからない。そもそも海外で忙しくしている慧さんが、今そんな情報を知ってるのかもわからない。でも、情報通の慧さんだから、もしかしたらもうすでにそれも知っているのかもしれない。だから、もしかしたら、あたしが不安で寂しくなったタイミングで、電話をかけてきてくれたのは、それを気にかけてなのかもしれない。だけど、もしかしたら、本当に同じタイミングで、あたしが慧さんを思い出して恋しくなってたのと同じように、慧さんもそう感じて、ただ電話をくれただけなのかもしれない。「いえ。大丈夫ですよ。慧さんは、お仕事頑張ってください」今慧さんが何を思って、何を知って、何を感じているかはわからない。だけど、今あたしが不安を伝えたところで、慧さんは出張中でどうにか出来るわけでもない。結局はその場しのぎの言葉になるかもしれない。だから、やっぱり今それを慧さんに伝えることはしないでおいた。『うん。ありがとう。依那の声聞けて、依那と話せてまた頑張れそう』「あたしもです。慧さんちょっと恋しくなってたんで、こうやって話せて嬉しかったです」だけど、恋しかったその気持ちは、伝えたくなった。それくらいは大丈夫だよね?だって、どんな時だって、あたしは慧さんをずっと恋しく想ってるのは確かだから。『ん? ちょっと……?』「え?」『ちょっとしか恋しくなってなかったってこと?』すると、電話越しから、慧さんの少し嬉しい意地悪な言葉が返ってくる。「あっ! いえ! めちゃめちゃ恋しいです! めちゃめちゃ慧さんに会いたいです!」そして、そんな慧さんにまんまと流されて、勢いよくあたしはその想いを伝えてしまう。『ハハ。よかった。出張で離れてる間に、オレへの気持ちも離れていってるのかと思った』「えっ!? そんなことあるはずないじゃないですか! 逆にこの会えない時間で慧さんの想いも強くなってます!」『なら安心した』やっぱり今日の電話での慧さんは、いつもと違う言葉をあたしにくれる。ほんの少しかもしれないけど、慧さんがこんな後ろ向きな言葉をあたしに対して、こんな言葉を伝えるのは
「あたしも……。同じことさっき思ってました」『依那も?』「はい……。仕事終わって慧さんどうしてるかな~って考えてて。慧さんの声が聞きたくて、電話しようとしてたんですけど、仕事の邪魔もしたくなくて……」『そんなの気にしなくていい』すると慧さんはその言葉を打ち消すように、すぐにそんな風に言葉を返す。「えっ?」『依那が声が聞きたいと思ったら、電話してくれたらいいから』そしてそんな言葉を返してくれる。「でも……。迷惑になるんじゃ……」『迷惑なら言ってないよ。てか、依那がすることで迷惑なんて一度も思ったことないから』「慧さん……」電話の向こうで優しく響くその声と言葉に切なくなって胸がキュンとなる。『だからオレもこうやって依那の声が聞きたいって思ったら電話する』「はい……」こんなにストレートに伝えてくれる人だったっけ。逆に距離が離れてるから会えない分、伝えやすくなって素直に伝えくれてるのかな。『でもまぁ、どうしても出れない時もあるかもしれないから、その時は着信か留守電に入れておいてくれたらいいよ』「留守電に入れておいてもいいんですか?」『もちろん。その時話せなくても逆に留守電に声残しておいてほしい』「えっ、逆に?」『うん。あとから何度でも依那の声聞けるのも嬉しい』あぁ、そんな風に思ってくれるんだ。ホントだ。それも逆に嬉しいかも。いつでも自分だけのメッセージや声聞けるの、いいな。「じゃあ、慧さんも、もしあたしが出れなかったら、声入れてほしいです……」『うん。わかった。オレもちゃんとメッセージ残しておく』「はい」『ちゃんと着信かメッセージ残してくれたら、時間出来た時また返すから、安心して』「はい」慧さんは、あたしが全部言わなくても、ちゃんとあたしが伝えたいこと・望むことを感じ取ってくれて言葉にしてくれる。そこにちゃんと安心を感じられる。
そんな美山さんに圧倒されて、それから一気に気疲れしたまま、そのあと仕事に戻った。それから今日中の仕事を残業して、ようやく会社を出る。帰り道、少し当たる風が心地よく感じる。落ち着かなかった気持ちを、少し冷静にしてくれる。慧さん、今どこいるのかな~。今はまだ韓国かな? 声、聞きたいな……。そう思いながら携帯を取り出し、一瞬慧さんに電話したくなって、慧さんの番号を表示させるも、さすがに押す勇気は出ず……。いきなり電話して仕事中だったら迷惑になっちゃうしな……。でも、メッセージくらいはなんか送っておこうかな……。暇な時見てくれるかもしれないし……。その番号表示を切って、メッセージ画面に切り替えようとしたら……。画面にまた同じ慧さんの名前が表示される。あれ!? 今、切ったはず。じゃなくて、いや、これ慧さんからの着信だ!えっ、えっ、どうしよう!いきなりの着信とこのタイミングで、思わずテンパってしまう。そしてとりあえず人の少ない場所に急いで移動して、電話の画面を確認し、電話を出るボタンを押す。「もし、もし……」『あっ、依那……?』ずっと恋焦がれた、想い続けていた、愛しい人の声が耳元で響く。あぁ、慧さんだ……。慧さんの声だ……。その愛しい声と、あたしの名前を呼ぶ声に、胸がギューッとして、それだけでなぜか泣きそうになってしまう。『依那……?』すると、何も喋らないあたしを不思議に思って、慧さんがもう一度名前を呼んで確認する。「あっ、もしもし。慧さん!」あたしはそれに気付いて急いで慧さんに返事を返す。『ごめん。今忙しかった?』すると、慧さんは心配までしてくれる。「いえ! 大丈夫です! 今、ちょうど会社出たとこで」『そっか。お疲れ様』「ありがとうございます」今のあたしには、慧さんからのその言葉は、温かく胸に染みる。『てか、今まで仕事?』すると、時間が気になったのか慧さんが尋ねる。そっか。もう20時か。少し仕事したつもりだったけど、こんな時間になってたんだ。「あっ、はい。プロジェクトの打合せが終わった後、少し残業してて」『そう。プロジェクトは順調に進んでる?』順調だと言いたいとこだけど、今日の美山さんの件で、少し精神的にはそうじゃないとも言える……。だけど、慧さんにそんなことを言えるはずもなく……。「はい
「社長とのあの記事では熱愛って書かれてましたけど……」なので、あたしはその理由をわかってても、あえてそこに触れてみる。「フフ。あの記事だけ見たら、いい感じの仲みたいに思えますよね♪」はい。きっと実際付き合ってるあたしや、片想いだと先に伝えていたここのチームメンバー以外は、あなたが彼女なんだと誤解しそうな記事でした。「あ~あ。こんな報道すぐ出るんなら、ここの人たちにも片想い宣言するんじゃなかったなぁ~」「え?」すると、あたしにコソッと耳打ちしながら。「だって、そしたら、そのままホントにあたしが付き合ってるって皆思ったじゃないですかぁ」と、耳を疑う信じられない言葉を、あたしに囁く。え……、それは周りを騙して勘違いさせてでも付き合ってるフリをしたいってこと……?あたしはさすがに、そのしたたかであざといこの女性に唖然としてしまう。付き合ってもないのに、そんなの利用するとか、何考えてるんだろう……。あたしは予測できないこの人に、少し怖くなる。そして実際付き合ってるのはあたしなのに、そんなの意味がないと突きつけられてるような気分になって、思わず黙っていられなくなりそうになる。「でも……、もし、実際付き合ってる女性がいたらどうするんですか……?」だけど、さすがにあからさまな言葉は伝えられなくて、そんな言葉で聞き返す。「え~。別に関係ないです」すると、美山さんは、少しも動揺せず平然とそんな言葉で返す。え……? 関係ない……?それは一体どういう……。「関係ない、って……?」あたしはその言葉に理解が出来ず尋ねる。「彼女いたらいたで奪うだけです♪」美山さんは、ニッコリ微笑んで悪魔のような言葉を呟いた……。「え? う、奪う……!?」「だって~。もし今そういう人がいるとしても、こんな風にあたしと撮られるってことは、それだけ社長は隙見せてくれるっていうか、あたしに気を許してるってことですし~、こんな風に別の女性と報道が出るくらいなら、その彼女も、それだけの存在ってことじゃないですか~?」美山さんが最もだと思いそうな言葉を並べてまた余裕そうに微笑む。「それ、は……」完全に違うとは、なぜか言い切れなかった。美山さんといたからこそ、そういう雰囲気が醸し出されてて、そんな風に見えたのかもしれないと、そんな風に少し思ってしまったから。だけど
だけど、まだ美山さんが片想いだって言ってくれててよかった。これがホントに付き合ってるとか言い出したら、ホントに慧さんを疑うことになっちゃう。それだけは嫌だ。ちゃんと慧さんの目を見て、直接慧さんの言葉を聞きたい。慧さんに安心させてもらえる言葉さえもらえれば、今のあたしならきっとそれだけでちゃんと安心出来る。だけど慧さんが出張から帰ってくるまでは、真実か嘘かわからないこの状況の中、耐えなきゃいけなんだな……。強い意志で負けないつもりではいるけど、自分一人でどこまで頑張れるかは、少しだけ不安。結局はただの片想いとしても、慧さんを好きだと言ってしまえる美山さんの方が、真実かどうかはわからなくても、それはそれで成り立ってしまう。上手く誤魔化せば、どこまでの仲かなんて他人にはわからない。あたしは慧さんを信じているから、美山さんの言葉に惑わされることはないけど、でも、他の人は、いい感じの二人なんだと思うんだろうな。付き合ってるのに好きだとも公言出来ないあたしは、結局はなんでもない存在でしかない。だけど、あたしが別に好きだとか憧れてるとか言ったところで、誰も興味もないし現実的にも思ってもらえない。真実はどうであれ、結局は美山さんみたいな人が影響力あるってことだ。それからずっとその試作の時間が終わるまでは、ずっと最後までその話で持ちきりだった。正直どこまでホントかわからないけど、だけど、美山さんはこの慧さんとの熱愛報道で、多分きっと慧さんとどうにかなりたいと思っているのが伝わってくる……。こんな時、あたしが彼女だから手を出さないでと言えればどんなに楽か……。今までは慧さんと付き合えることだけで幸せだったから、それを誰かに言ってしまいたい衝動なんて起きたことなかった。自分が彼女だと言えないことに、こんなにモヤモヤすることもなかった。自分が彼女だと宣言する自信もなかったし、そんな勇気もなかった。だけど、慧さんにちゃんと想ってもらえてるのを、ちゃんと自分自身感じるから、だから、今のあたしは言えないことが悔しいと思った。勇気がなくて言わない選択じゃなく、この言えない状況が、とてももどかしく感じた。「お疲れ様です♪」すると、また一人離れて最後の片付けをしていると、一人その話に乗っからないあたしが気になったのか、美山さんがまた声をかけてきた。「お疲
だけど、当然騒いでるその中に入って、『あたしが社長の本当の恋人です!』とは言えるはずもなく。騒いでるその一連を見ているただの傍観者でしかすぎない。だから、あたしは変わらずその輪には入らずに仕事の準備をし始める。だけど、そんなにみんなが大声で騒いでるせいで、聞かなくていい話も自然に耳に入ってきてしまう。「やだ~まさかあの日撮られてなんて思わなかったんでビックリです~。あの日、社長と一緒にお食事行って、すごい酔っぱらってたんですよね~。そのあとうちのマンションに来たとこまで撮られてるなんて思わなかった~」鼻につく甘ったるい声を出して、その日のことを嬉しそうに話す美山さん。そんな美山さんにいつだったとか詳しく聞き出す人たちに対して、その日を思い出し伝えた日が、まさしく慧さんが酔っぱらって帰ってきたあの日だった。確かにあの日以外、慧さんがひどく酔っぱらって帰ってきた日はなかった。帰ってきた時間の遅さや、酔っぱらったタイミングやその日着てた服装。いつもと違っていたから、やけに鮮明にあたしも覚えてしまっている。だからこそ、この美山さんが話す撮られたその日の相手は、間違いなく慧さんなのだと自分の中で確信してしまう。あ~、そういうことか……。だから慧さんあのとき、あんなに自分を信じてほしいって言ってたのかな……。珍しくあの日はあたしを好きだという想いも、あたしに対して伝えたい想いも、ちゃんと言葉にしてくれた。あれは、ただ酔っぱらっただけだと思っていたけど、その酔っぱらった裏には、こういうことがあったってことなんだ……。実際この日撮られたことを、慧さんがわかっていて、あたしにあんな言葉を伝えてくれたかどうかはわからない。だけど、多分少なからず、美山さんとのこういう時間があって、慧さんの中で何かを感じたから、あたしに想いを伝えてくれたのだということはわかる。それがどういうことを考えて伝えてくれたのかはわからないけど……。「え~。酔っぱらった社長ってどんな感じなんですかー!?」「あのクールな社長が酔っぱらった姿なんて想像出来ないですー!」すると今度は、慧さんが酔っぱらった姿に関して興味を示し始めるメンバー。「フフ。なんか可愛い雰囲気でしたよ♪ いつもより柔らかい感じになって。そんなギャップ見て、ますます好きになっちゃったっていうか~」美山さん
「しかも、この段ボールあんたどうやって運ぶの? 引っ越しの人取りに来るの?」「えーっと、それは~あの~」適当に誤魔化しながら段ボールを運びながら玄関へ移動すると。人の気配が……。って、社長だ!「あっ、もう着いてたんですね!」「あぁ。うん。なんか二人で話してたみたいだから、ちょっと待ってたんだけど」いつの間にか玄関に社長が到着していて。ん? ちょっと待ってた?ってことはルイルイのことでお姉ちゃんと話してたの、もしかして聞かれた!?いや、そこまでは聞こえないか。てか、聞かれても意味わかんないだろうし、別に社長にとっちゃ興味もないだろうけど。住んでるとこ問い詰められてたとこ
「それで。彼を応援するために、幸せな時間を過ごすために、あたしは現場があれば出来るだけ足を運びたくて……」「現場?」「あっ、彼を観に行くライブとか舞台とかイベントとか。実際会いに行く場所です」「なるほど。そういう言い方するんだ」「はい。それでその現場には、それぞれ一回とかじゃなくて……。ライブやイベントがあれば、あたしは自分のスケジュールが合えば全部行きたい人で。舞台とかも、さすがにお金高いしスケジュールも厳しいんで、全部とはいかないですけど、初日と千秋楽は絶対行きたいですし、まぁ自分の中の必要最低限の回数は行きたいというか」「へ~。そんな感じなんだ」「それぞれの場所で会って一緒
「どうぞです!」そう言って、勢いよく自分の部屋のドアを開けて、社長に中を見せる。「おわっ!! え! なんだこれ!?」すると想像通りの社長の驚きっぷり。ええ、そうなりますよね。「あたしの愛すべき推しコレクションです」「推し……?」社長が驚いたその理由は、部屋一面に並べたルイルイグッズのコレクション。「はい。あたしの推しの琉偉です。社長に見てほしくて、あたしの持ってきたグッズ全部並べました」そう。もう洗いざらい琉偉を推していることを社長に打ち明けようと決めた。「お姉ちゃんが言ってた琉偉は、この推しのルイルイのことです」「ルイ……ルイ……?」「はい。可愛さが天使級の彼の愛
すると。「逢沢。顔上げろ」静かにあたしに声をかける社長。「……はい」どうしよう。社長怒ってたら。あたしみたいなヤツにこんな勝手なこと言われて絶対ムカついたよね。だけど、契約……解消したくないよ……。そのまま俯いたまま、ちょっと泣きそうな寸前になっていたら……。「フッ。お前、なんて顔してんだよ?」すると、社長はあたしを見てなぜか優しく笑う。「……えっ?」「わかったから。もうそんな顔すんな」「わかったって……」「オレが余計な気回しすぎただけだったみたいだな。悪かった」「いえ! 社長は全然悪くないです! あたしが勝手に……! 勝手に……ちょっと悲しくなっちゃっただけです