LOGINそれから数日後。慧さんがシンガポールへ移動した頃。また慧さんの新たな報道が持ち上がった。しかもまた熱愛記事。もちろん、今度もあたしが相手ではない。今度の相手は、藤代さんだった――。どこでどう二人の関係が漏れたのかはわからないけど、二人が昔恋人関係であることが、今度は取りざたされていて。尚且つ、その前に報道された美山さんとの三角関係かと、更に白熱した記事になっている。その記事も話題にしたいからなのか、少し悪意を感じる記事で、美山さんの時は、慧さんとあたしの気持ちがちゃんとしていたら大丈夫だと思っていたのに、今回は少し自分の気持ちが乱されているのもわかる。多分その記事の内容について、それに便乗した女性がいる。それはあたしと付き合う前に、慧さんがお酒を飲んだ時に、酔っぱらってそれなりに仲になっていた女性の人たち。それが数人。記事の内容からして、きっと慧さんに本気になってもらえなかったこと、相手にしてもらえなかったこと、その口約束を守ってくれなくて付き合いもできなかったこと、そんな昔慧さんのしてきてしまったことが、ここに来て全部明るみに出てしまったのだ。きっと美山さんが報道されて、今まで関係してきた数々の女性が悔しくなってきたのだろう。ここに来て、そんな報道に乗っかって、そんな暴露するなんてありえない。そんなのずるい。きっと少なからず慧さんはその女性たちを傷つけることはしていない。でも、あたしが出会う前の慧さんは女性に対してどんな慧さんだったのかは、正直わからない。だからそうあたしが思ってても、ホントはその女性たちはそれぞれ何かしら傷ついてることがあるのかもしれない。好意を持った相手に、それなりに気持ちを返してもらえて、だけど最終的には酔っぱらった故の言動だったと説明したところで、やっぱり納得出来る人は少ないのかもしれない。あたしが慧さんとこんな風に始まったのも、そのやり取りは続いていたし、実際あたしがあの彼女役をやっていない時は、どんな風に慧さんがそれを終わらせたのかもわからない。だから、ただその想いを受け止めてもらえなかっただけでも、その女性たちは傷ついてしまっているかもしれない。だけど……、それで慧さんを陥れるようなことをするのは違うと思う。こんな状況になって、初めて昔の慧さんを知らないことが悲しくなる。悔しくなる。も
「ありがとうございます」『ん? 何が?』「電話、かけてきてくれて。慧さんの言葉を、声を、届けてくれて」だから、今あたしはその嬉しさを伝えるだけ。『オレが依那の声が聞きたくて、話したかったから』「嬉しいです。これで慧さん帰ってくるまで、また頑張れます」『オレも。依那と出会ってから、依那が当たり前にいてくれてたから。やっぱ長く離れるとオレも頑張れる力出ないみたい』「ホントですか?」『もちろん。依那がそばにいてくれて、メシ作ってくれて、ずっとオレを気にかけて支えてくれたことで、オレは日々頑張れてたんだなぁって、離れてまた初めて実感した』あたし自身が望んでしてくれることを、慧さんはそうやって感じてくれるなんて……。だけど、きっとそこには、あたしが慧さんを大好きで、その想いと共に存在してるのは確かだから。だから、あたしのその想いが、慧さんに届いてるのだとわかって、また嬉しくなる。「あたしの当たり前が、慧さんにとっての当たり前になってくれて嬉しいです」『そうだな。オレにとって依那はもう当たり前にいる存在だから。だからこそ、オレにとって、それだけ依那が大切な存在なんだってことだからわかっておいて』「はい」きっとその当たり前はマイナスの意味じゃなく、プラスの意味なんだと慧さんは伝えてくれているように感じた。いつか当たり前は慣れて飽きてしまう時がくる。だけど、あたしも慧さんとは、その当たり前がそういう意味じゃなく、いて当たり前の幸せを、ずっと感じ合える関係でいたい。当たり前だからこそその幸せにまた幸せを感じられたり、もっとその幸せが増えたり、大切に感じたり、そういう当たり前を、あたしは慧さんと作っていきたい。だからこそ、慧さんに好きでいてもらえる努力はし続けなければいけないし、好きだというその気持ちを、ちゃんと慧さんに伝えていかなければいけない。「慧さん。大好きです」だから、遠く離れている時だからこそ、会えない日々が続くからこそ、この言葉を伝えよう。不安だとか、寂しいだとか、そういう気持ちも全部ひっくるめて、結局その気持ちが一番大事だから。『ん。オレも』自分の想いをなかなか言葉にしない慧さんが、ここまで伝えてくれるだけで十分。あたしのその想いに対して、そうやって返してくれるだけで、ちゃんと届いてるのだと感じられる。そして、その言葉
『それ以外は?』「えっ?」『なんか不安だったり伝えておきたいことある?』「えっ……!?」慧さんからそう言われ、一瞬美山さんとの記事や、さっきのやり取りを思い出す。だけど、慧さんのこの言葉がそれを指してるのかはわからない。そもそも海外で忙しくしている慧さんが、今そんな情報を知ってるのかもわからない。でも、情報通の慧さんだから、もしかしたらもうすでにそれも知っているのかもしれない。だから、もしかしたら、あたしが不安で寂しくなったタイミングで、電話をかけてきてくれたのは、それを気にかけてなのかもしれない。だけど、もしかしたら、本当に同じタイミングで、あたしが慧さんを思い出して恋しくなってたのと同じように、慧さんもそう感じて、ただ電話をくれただけなのかもしれない。「いえ。大丈夫ですよ。慧さんは、お仕事頑張ってください」今慧さんが何を思って、何を知って、何を感じているかはわからない。だけど、今あたしが不安を伝えたところで、慧さんは出張中でどうにか出来るわけでもない。結局はその場しのぎの言葉になるかもしれない。だから、やっぱり今それを慧さんに伝えることはしないでおいた。『うん。ありがとう。依那の声聞けて、依那と話せてまた頑張れそう』「あたしもです。慧さんちょっと恋しくなってたんで、こうやって話せて嬉しかったです」だけど、恋しかったその気持ちは、伝えたくなった。それくらいは大丈夫だよね?だって、どんな時だって、あたしは慧さんをずっと恋しく想ってるのは確かだから。『ん? ちょっと……?』「え?」『ちょっとしか恋しくなってなかったってこと?』すると、電話越しから、慧さんの少し嬉しい意地悪な言葉が返ってくる。「あっ! いえ! めちゃめちゃ恋しいです! めちゃめちゃ慧さんに会いたいです!」そして、そんな慧さんにまんまと流されて、勢いよくあたしはその想いを伝えてしまう。『ハハ。よかった。出張で離れてる間に、オレへの気持ちも離れていってるのかと思った』「えっ!? そんなことあるはずないじゃないですか! 逆にこの会えない時間で慧さんの想いも強くなってます!」『なら安心した』やっぱり今日の電話での慧さんは、いつもと違う言葉をあたしにくれる。ほんの少しかもしれないけど、慧さんがこんな後ろ向きな言葉をあたしに対して、こんな言葉を伝えるのは
「あたしも……。同じことさっき思ってました」『依那も?』「はい……。仕事終わって慧さんどうしてるかな~って考えてて。慧さんの声が聞きたくて、電話しようとしてたんですけど、仕事の邪魔もしたくなくて……」『そんなの気にしなくていい』すると慧さんはその言葉を打ち消すように、すぐにそんな風に言葉を返す。「えっ?」『依那が声が聞きたいと思ったら、電話してくれたらいいから』そしてそんな言葉を返してくれる。「でも……。迷惑になるんじゃ……」『迷惑なら言ってないよ。てか、依那がすることで迷惑なんて一度も思ったことないから』「慧さん……」電話の向こうで優しく響くその声と言葉に切なくなって胸がキュンとなる。『だからオレもこうやって依那の声が聞きたいって思ったら電話する』「はい……」こんなにストレートに伝えてくれる人だったっけ。逆に距離が離れてるから会えない分、伝えやすくなって素直に伝えくれてるのかな。『でもまぁ、どうしても出れない時もあるかもしれないから、その時は着信か留守電に入れておいてくれたらいいよ』「留守電に入れておいてもいいんですか?」『もちろん。その時話せなくても逆に留守電に声残しておいてほしい』「えっ、逆に?」『うん。あとから何度でも依那の声聞けるのも嬉しい』あぁ、そんな風に思ってくれるんだ。ホントだ。それも逆に嬉しいかも。いつでも自分だけのメッセージや声聞けるの、いいな。「じゃあ、慧さんも、もしあたしが出れなかったら、声入れてほしいです……」『うん。わかった。オレもちゃんとメッセージ残しておく』「はい」『ちゃんと着信かメッセージ残してくれたら、時間出来た時また返すから、安心して』「はい」慧さんは、あたしが全部言わなくても、ちゃんとあたしが伝えたいこと・望むことを感じ取ってくれて言葉にしてくれる。そこにちゃんと安心を感じられる。
そんな美山さんに圧倒されて、それから一気に気疲れしたまま、そのあと仕事に戻った。それから今日中の仕事を残業して、ようやく会社を出る。帰り道、少し当たる風が心地よく感じる。落ち着かなかった気持ちを、少し冷静にしてくれる。慧さん、今どこいるのかな~。今はまだ韓国かな? 声、聞きたいな……。そう思いながら携帯を取り出し、一瞬慧さんに電話したくなって、慧さんの番号を表示させるも、さすがに押す勇気は出ず……。いきなり電話して仕事中だったら迷惑になっちゃうしな……。でも、メッセージくらいはなんか送っておこうかな……。暇な時見てくれるかもしれないし……。その番号表示を切って、メッセージ画面に切り替えようとしたら……。画面にまた同じ慧さんの名前が表示される。あれ!? 今、切ったはず。じゃなくて、いや、これ慧さんからの着信だ!えっ、えっ、どうしよう!いきなりの着信とこのタイミングで、思わずテンパってしまう。そしてとりあえず人の少ない場所に急いで移動して、電話の画面を確認し、電話を出るボタンを押す。「もし、もし……」『あっ、依那……?』ずっと恋焦がれた、想い続けていた、愛しい人の声が耳元で響く。あぁ、慧さんだ……。慧さんの声だ……。その愛しい声と、あたしの名前を呼ぶ声に、胸がギューッとして、それだけでなぜか泣きそうになってしまう。『依那……?』すると、何も喋らないあたしを不思議に思って、慧さんがもう一度名前を呼んで確認する。「あっ、もしもし。慧さん!」あたしはそれに気付いて急いで慧さんに返事を返す。『ごめん。今忙しかった?』すると、慧さんは心配までしてくれる。「いえ! 大丈夫です! 今、ちょうど会社出たとこで」『そっか。お疲れ様』「ありがとうございます」今のあたしには、慧さんからのその言葉は、温かく胸に染みる。『てか、今まで仕事?』すると、時間が気になったのか慧さんが尋ねる。そっか。もう20時か。少し仕事したつもりだったけど、こんな時間になってたんだ。「あっ、はい。プロジェクトの打合せが終わった後、少し残業してて」『そう。プロジェクトは順調に進んでる?』順調だと言いたいとこだけど、今日の美山さんの件で、少し精神的にはそうじゃないとも言える……。だけど、慧さんにそんなことを言えるはずもなく……。「はい
「社長とのあの記事では熱愛って書かれてましたけど……」なので、あたしはその理由をわかってても、あえてそこに触れてみる。「フフ。あの記事だけ見たら、いい感じの仲みたいに思えますよね♪」はい。きっと実際付き合ってるあたしや、片想いだと先に伝えていたここのチームメンバー以外は、あなたが彼女なんだと誤解しそうな記事でした。「あ~あ。こんな報道すぐ出るんなら、ここの人たちにも片想い宣言するんじゃなかったなぁ~」「え?」すると、あたしにコソッと耳打ちしながら。「だって、そしたら、そのままホントにあたしが付き合ってるって皆思ったじゃないですかぁ」と、耳を疑う信じられない言葉を、あたしに囁く。え……、それは周りを騙して勘違いさせてでも付き合ってるフリをしたいってこと……?あたしはさすがに、そのしたたかであざといこの女性に唖然としてしまう。付き合ってもないのに、そんなの利用するとか、何考えてるんだろう……。あたしは予測できないこの人に、少し怖くなる。そして実際付き合ってるのはあたしなのに、そんなの意味がないと突きつけられてるような気分になって、思わず黙っていられなくなりそうになる。「でも……、もし、実際付き合ってる女性がいたらどうするんですか……?」だけど、さすがにあからさまな言葉は伝えられなくて、そんな言葉で聞き返す。「え~。別に関係ないです」すると、美山さんは、少しも動揺せず平然とそんな言葉で返す。え……? 関係ない……?それは一体どういう……。「関係ない、って……?」あたしはその言葉に理解が出来ず尋ねる。「彼女いたらいたで奪うだけです♪」美山さんは、ニッコリ微笑んで悪魔のような言葉を呟いた……。「え? う、奪う……!?」「だって~。もし今そういう人がいるとしても、こんな風にあたしと撮られるってことは、それだけ社長は隙見せてくれるっていうか、あたしに気を許してるってことですし~、こんな風に別の女性と報道が出るくらいなら、その彼女も、それだけの存在ってことじゃないですか~?」美山さんが最もだと思いそうな言葉を並べてまた余裕そうに微笑む。「それ、は……」完全に違うとは、なぜか言い切れなかった。美山さんといたからこそ、そういう雰囲気が醸し出されてて、そんな風に見えたのかもしれないと、そんな風に少し思ってしまったから。だけど
この場所でも花火見れるかな。ちょうど鼻緒擦れして足痛いしなぁ~。あ~あ。やっぱ足赤くなってるな~。俯きながら赤くなって足を確認する。すると。「大丈夫?」隣から男性の声がする。えっ……? もしかして……。根拠のない期待をしながら、声をした方に振り向くと。「一人?」…………。全然知らない男性の姿。無駄に社長かもしれないと期待した自分に、そして社長とあまりにも違う姿にガッカリする。ハハッ。社長が声かけてくる訳ないか……。あの瞬間で気付いてたかもわかんないし、そもそも気付いてたとしても社長が都合よく自分のとこに来るとかあるはずないのに。そのあともなんかその人が声をかけ
それから少し経ったある週末の土曜日。「えっ、もうこんな朝早くに出発ですか?」「あぁ。今後の打合せだったり現場視察とか、今日は一日いろいろやらなきゃいけないこと多くてさ」「お休みなのに、泊まりでそういうお仕事も入るんですね」「こういうことは休日にしか出来ないことも多いからな。代表のオレは正直休みはあってないようなもんだよ。それよりその時出来ることがあれば常に動いてたいしな」「さすがですね社長。でもそっか。土日、泊まりなら二日間会えないってことですね」「あぁ。悪い。明日の夕方までには帰ってこれるとは思うから。晩飯は一緒に食おう」「じゃあ、明日の夜はお家で準備しときますね」「いや、
「依那ちゃ~ん! やっほ~!」「綾ちゃ~ん!」そして本日のイベント会場で待ち合わせしていた推し活仲間の綾ちゃんと合流。綾ちゃんはルイルイと同じグループのメンバーの遼我のファン。瑠偉は可愛い担当で、可愛い中にカッコいい部分が見え隠れするタイプだけど、遼我は真逆でクール担当でクールなカッコよさの中にたまに可愛いが見え隠れするタイプ。そんな二人がメンバー内でもわちゃわちゃイチャイチャしてると、あたしと綾ちゃんはたまらんキュンキュンと癒しをもらえるのだ。そんな綾ちゃんとは、推し仲間としての相方で、いつも行動は共にしている。「え~綾ちゃん浴衣姿めちゃめちゃ可愛い~♪」「依
「あっ、彼女の顔も見えた! うわっ! めちゃ美人! あ~あれは羨ましくなってずっと見てたくなるパターンの方だ(笑)」そう言われて一瞬見えたそのカップルを見る。……え? 社長……と藤代さん……?いやいや、なんかの見間違いかな。こんなお祭りに浴衣で二人しているとかありえないし。社長仕事で出張行ってるはず。でも、どこ行くとかは聞かなかったな。社長どこ行ったんだろ。でも、なんかすごく二人の雰囲気に似てるような……。少し後ろの方から前に見える二人をちゃんと確かめたくて、人混みで見え隠れする中必死で見ようとする。だけど、どんどん人に邪魔されて見えなくなる。「あっ、依那ちゃん! 公式