INICIAR SESIÓN《sideノクス》 重い……体が動かない。 目を開けようとしても、瞼が鉛のように重たくて開かない。肩には鋭い痛みが残り、胸にこみ上げてくるのは、自分が敗北したという屈辱だった。 最後に見たのは、俺の肩を剣で貫いた貴族の顔だ。 切っ先が肉を貫き、全身から力が抜け落ちていく。地面に崩れ落ちた俺は、そのまま意識を手放した。 ゆっくりと目を開ける。 ぼやけた視界が徐々に焦点を結び、見慣れない天井が目に入った。 寝たこともないような高級なベッドだ。 柔らかな寝台の上に横たわり、肩には包帯が巻かれている。あれほど酷かった痛みも、ずいぶん和らいでいた。「治療を受けたのか? それに、ここは……どこだ?」 体を起こしてみると、思っていたよりも軽く動いた。傷が塞がりかけているのだろう。 だが、それ以上に理解できない。 どうして俺が、こんな場所で寝かされている?「目が覚めたみたいだね」 声に反応して顔を上げる。 部屋の扉を開けて入ってきたのは、俺を倒した貴族だった。 あのときと変わらない穏やかな表情で、こちらを見ている。「お前……どうして……?」 言葉が続かなかった。 俺はこいつに牙を向けた。それどころか、本気で命を奪おうとした。 それなのに、どうして俺を治療した?「まずは自己紹介をしておこうか。僕はフライ・エルトール。帝国のエルトール公爵家、その次男だ。君が嫌う貴族として生まれた」 貴族という言葉を聞いただけで、拳に力が入った。「君の名は?」「……」「言いたくないか。まぁ、《グラディエーター・アリーナ》の決勝に残っていたから知っているよ。ノクス」 黙っていても意味がないことくらい分かっている。 それでも、貴族と馴れ合うつもりはなかった。「君たちの計画は失敗した。それと、君があまりにも無防備に倒れていたからね。放っておくのも忍びなかった。敵意を持たれているのは分かっているけど、怪我人を見捨てるのは性に合わないんだ」 その言葉に、無性に腹が立った。 貴族のくせに、善人ぶりやがって。「何が性に合わないだ。貴族のお前が平民を助けるなんて、裏があるに決まってるだろ」「裏か……裏があったのは君の方じゃないかな? リベルタス・オルビス」「っ!?」 どうして、こいつがその名を知っている? 俺たちは秘密裏に動いていた。構成員が誰なの
《sideバクザン》 学園都市最大の注目を集める《グラディエーター・アリーナ》の決勝戦。 そこに立つ俺、鬼人族のバクザンは、全身の血が熱く滾るのを感じていた。対する相手は、獣人王国の王子、《獅子王》ロガン・ゴルドフェングだ。 観客席からは歓声が渦巻き、アリーナ全体が震えるような熱気に包まれている。 そんな中、ロガンが悠然と姿を現した。金色のたてがみが光を受けて輝き、その堂々とした立ち姿には威厳がある。だが、俺も負けてはいない。 筋骨隆々とした鬼人の体格で、観客席の視線を一身に集めていた。「やっとお前と戦えるな、バクザン。お前が裏の者であることは分かってんだよ。だけど、今日は純粋な戦いだ。そうだろ?」 ロガンが静かに口を開いた。その声には自信が満ちている。「おう、そうだ。本来なら、俺の目的は決勝戦に出場することだけだった。だが、俺にも優勝しなくちゃいけない事情ができてな。ロガン王子様よ。勝つのは俺だ」「いいだろう。その言葉、最後まで守れるか確かめてやる」 俺たちの視線が交差した瞬間、鐘の音が響き渡り、決勝戦の幕が上がった。 ロガンが一気に間合いを詰めてきた。その動きは獣人らしく俊敏で、鋭い爪が俺の胸元を狙う。「ほぅ、速ぇな!」 だが、俺の拳も負けちゃいない。爪をかわしつつ、一発を叩き込む。拳と爪がぶつかり合い、火花が散った。「お前、ただの鬼人じゃねぇな。戦場でどれだけ腕を振るってきた?」「そういうお前も、ただの王子様じゃねぇようだ。これなら楽しめそうだ!」 一進一退の攻防が続く。 ロガンの動きはまるで獣そのものだ。 爪で斬り裂き、鋭い蹴りを繰り出してくる。一方で俺は、その全てをギリギリで受け流し、反撃の拳を放つ。 どちらも一撃で勝負を決められる自信がある。だが、それを許さない相手同士だ。「お前の動き、キレッキレだな。だが、まだ甘い!」 俺は間合いを詰めると、強烈なアッパーをロガンの腹に叩き込む。だが、奴はそれを耐え抜き、逆
怯えるミミに剣を向け続ける彼らを許せるはずがないよね。「ねぇ、彼女は怯えているんだ。武器を下ろしてくれないかい?」「黙れ! 貴様らは目撃したことを不運に思うんだな!」「そうか、交渉は決裂だね」 重力魔法を発動し、目の前の武装した集団を押さえ込む。「頭が高い! 僕に牙を向けるな」 僕は軽く笑いながら、周囲を見渡す。武装集団は、一斉に床に押さえつけられ、動きを封じられていた。彼らの表情には動揺と恐怖が見て取れる。「フライ様、すごいです……! 本当に一瞬で……!」 ミミが驚きと尊敬の入り混じった声を漏らす。僕は彼女に目配せしながら続けた。「ミミ、少し離れていなさい。ここからは僕一人で大丈夫だから」 彼女が頷き、一歩引くと、僕は床に押さえつけられた男たちに近づいた。「さて、君たちがリベルタス・オルビスだと聞いたけど、それで間違いないかな?」 僕の問いに答える者はおらず、沈黙だけが場を支配する。しかし、その一人の肩が微かに震えているのを見逃さなかった。「なるほど、そういうことか」 僕は彼の近くに膝をつき、冷たい声で囁いた。「僕は君たちをここで捕まえて終わりにしたいだけなんだ。でも、それ以上のことを望むなら、そうなるかもしれないよ?」 その瞬間、遠くから駆け寄る足音が聞こえてきた。振り向くと、そこには剣を構えたノクスの姿があった。「どうして君が?」「何をした!?」 こちらの話を聞く気がないようだね。「……お前がやったのか?」「僕の質問には答えないのに、質問かい?」 ノクスの低い声が響き渡る。彼の目は怒りに燃え、その視線は僕を射抜いていた。「うるさい! 貴様は貴族だろ?! 俺たちの邪魔をしやがって!」 どうやら僕の見た目で貴族と判断した上で怒りを覚えたようだ。彼の沸点はよく分からないね。
アリーナでは試合が進むにつれ、熱気と興奮が最高潮に達していた。それぞれの戦いが繰り広げられる中、観客たちは次に訪れる試合の行方に息を呑む。 準決勝:ロガン vs ドラガ「次の試合は、獣人王国の《獅子王》ロガン・ゴルドフェング選手と、《鉄の竜槍》ドラガ・ヴォルケン選手の対決です! どちらも力と技を兼ね備えた猛者! 一瞬たりとも目が離せませんよ~!」 実況ちゃんの元気な声が響く。 ロガンとドラガがアリーナ中央で対峙した瞬間、観客席からどよめきが起こる。 ロガンは相変わらずの堂々たる姿勢で、ドラガはその豪槍を構えながら闘志をみなぎらせている。「おい、竜人族の兄ちゃん。お前も王族の血筋か?」「いや、ただの戦士だ。だが、勝利のために戦うのは俺たちの誇りだ!」 ドラガが槍を振りかざし、ロガンへと突撃する。その槍さばきは鋭く、獅子王ロガンの素早い動きを封じるような連続攻撃を繰り出した。「ドラガ選手、攻めて攻めて攻めまくる! ロガン選手、どう出るのか!?」「すごい! ドラガ選手、本当に強いっチュ!」 ミミが思わず声を上げる中、ロガンは槍をかわしながら距離を詰める。そして、一瞬の隙を突いてドラガの槍を掴み、全力で振り払った。 僕たちはアリーナの中を下へ下へと降りていた。アリーナの内部では、奥に入らない限りは試合の観戦ができてしまう。「これで終わりだ!」 ロガンの拳が炸裂し、ドラガは地面に叩きつけられる。観客席からは歓声が沸き起こった。「勝者、ロガン・ゴルドフェング選手!」「ロガン王子だな! 力も技も圧倒的だ」 僕は素直に勝利に感心した。 準決勝:ノクス vs バクザン「続いての試合は、《無名の剣士》ノクス選手と、《雷鳴の豪拳》バクザン選手。鬼人族の若き戦士で、豪快な拳闘スタイルを持つ、剣と拳の対決に注目です!」 ノクスは剣を構え、静かにバクザンを見つめる。一方でバクザンは余裕の笑みを浮かべながら、拳を打ちつけた。「小僧、鬼人族と戦うのは初めてか?」「ああ、だけど負けない」「くくく、いいねぇ、その目にそそられる。だが、兄貴からの依頼だ。お前に負けるわけにはいかないんだよ」 バクザンが放った拳がアリーナ会場の床を割る。だが、ノクスは冷静に一つ一つの拳を見極めて、その全てを紙一重でかわしていく。接近戦で繰り広げられる二人の戦いは、準決
グラディエーター・アリーナの決勝戦がついに幕を開けた。 アリーナ全体が異様な熱気に包まれ、観客席からは大歓声が湧き上がる。 僕はエリザベート、ジュリア、アイリーンと共に、特等席から試合を見守っていた。「いやぁ、ここまで来ると誰が優勝するか分からないね」 僕は目の前の広大なアリーナに視線を向けながら呟いた。それぞれの選手が入場してくるたびに、観客たちの声援がさらに大きくなる。「そうですわ。これだけの猛者たちが揃うと、どの試合も見応えがありますわね」 エリザベートが優雅に扇を揺らしながら答える。ジュリアは手を握りしめ、緊張した面持ちで選手たちの姿を見つめていた。「ご主人様……王子は強いのですか?」「王子? ロガン王子のことかな? うん、強いよ。でもね、決勝戦ともなると全員が全力を出すから、勝負は最後まで分からないさ。それに勝ち上がりのトーナメント方式だから、一回戦で当たる相手に消耗させられると、準決勝、決勝と勝ち進むうちに消耗してしまうからね」 僕はジュリアの肩を軽く叩いて微笑んだ。「さぁ、いよいよ第一試合の開始です! 最初の組み合わせは《獅子王》ロガン・ゴルドフェング選手対《蒼炎の魔剣士》セリーナ・シルヴァ選手! 王者の風格と精霊族の優雅さが激突する一戦です!」 実況ちゃんの声が響き渡り、観客たちが一斉に沸き立った。 第一試合:ロガン vs セリーナ アリーナ中央で対峙するロガンとセリーナ。 ロガンは獅子のような堂々とした姿勢で立ち、セリーナはその対角線上で剣を構え、冷静にロガンを見据えている。「一年次で優勝候補とは凄いのね。ロガン王子」「精霊族の戦士セリーナだな。本気で俺に勝つつもりか?」「当然よ。あなたが王子だろうと、ここでは全員平等ですもの」 セリーナが剣を振り上げると同時に、鮮やかな青い炎が剣先に宿る。その光景に観客席がどよめく。「きたな……ならば、全力で応じよう!」 ロガンが
もしも、誰かが悪いことをしようとするときには、常に後ろめたい感情がどこかで生まれてしまう。 僕はあまり人の感情を見ないようにしてきた。それは見ようとしても見えないものであり、それでいて見ようとすると間違うこともあるからです。 だけど、その気持ちを持たないように、たくさんの人たちの感情が介入して入り乱れ、わからないようにしているなら、逆にどんなものなのか見たくなってしまう。 その悪いと思う行動や感情が失われて、わからなくなってしまった答えを追い求める。 では、どうすれば、そのわからない感情を見つけることができるのか? そう考えたとき、一つ一つのピースを揃えて、パズルを組み上げるように、答えを見つけるしかない。 バクザンがもたらしてくれたリベルタス・オルビスという言葉、自分が知り得る小説の知識。そして、フィル爺さんの警戒する表と裏は同じだという思い。 それらのピースを合わせる作業が必要になる。 だから、久しぶりに地下迷宮を訪れました。 鼠人族の生活圏であるこの場所は、以前よりも活気づいているように見えます。 水脈が流れ、薄明るい光が迷宮全体を照らしている。フェスティバルの影響で、学園都市全体の人口が増えて、鼠人族たちが行き交い、仕事も忙しくなっています。 僕は、その中でミミを探しました。 彼女は実家に戻って、お仕事の手伝いをしているからです。 彼女は確かに僕のところに来て、外の世界を知るための努力をしています。ですが、それは迷宮を捨てたわけでも、迷宮の者たちを見捨てたわけでもない。 こうして、忙しいときには手伝いに来る。 そんな可愛らしいミミの姿を見つけるのに時間はかからなかった。「ミミ、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」 僕が声をかけると、ミミは驚いたように耳をピクピクと動かしながら振り返った。「フライ様? どうしてこちらに……また、迷宮を見学したいのですか?」 彼女は少し戸惑いながらも微笑む。以前と同じ控えめな様子だが、その目







