この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――

この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――

last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-10
โดย:  なつめอัปเดตเมื่อครู่นี้
ภาษา: Japanese
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八年前。 高校の心霊研究会に所属していた雨宮澪たちは、動画撮影のため、取り壊し直前の〈七刻女学校〉へ不法侵入した。 その夜、部員の椎名澄花が姿を消した。 校舎からは大量の血痕が発見されたものの、遺体は見つからなかった。 残された六人は事件について口を閉ざし、それぞれ別の人生を送っていた。 ところが八年後の午前零時。 死亡扱いとなっている澄花の電話番号から、六人全員へ同じチェーンメールが届く。

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บทที่ 1

主要人物

登場人物プロフィール

雨宮 澪(あまみや・みお)

年齢:二十四歳

職業:怪談・事故物件を扱うウェブライター

立場:主人公/元・七刻高校心霊研究会部員

容姿

肩へ触れる程度の黒髪を、普段は無造作に下ろしている。前髪はやや長く、考え込むと指先で触れる癖がある。

色白で、整った顔立ちをしているものの、慢性的な不眠のため目の下には薄い隈が残っている。華やかさよりも静かな印象が強く、人混みの中では目立たないが、一度視線を向けると忘れにくい顔をしている。

服装は灰色や紺、黒など落ち着いた色のシャツやパーカーが中心。取材用のスマートフォン、録音機、手帳を常に持ち歩いている。

慎重で警戒心が強く、物事を感情だけで判断しない。怪談を仕事にしていながら、霊の存在を無条件には信じず、まず記録や証言を確認しようとする。

一方で、見捨てられた人間や、誰にも信じてもらえない被害者へ強く感情移入する。自分が傷つくことには無頓着だが、他人が苦しむ場面では危険を承知で動いてしまう。

八年前の事件について曖昧な記憶があり、仲間たちの証言と自分の記憶が食い違うたび、強い不安に襲われる。

臆病であることを隠そうとはしない。しかし恐怖を感じながらも、真実から目をそらさない芯の強さを持つ。

人物紹介

八年前、七刻高校心霊研究会の仲間たちと廃校へ入り、椎名澄花の失踪事件に巻き込まれた。

事件後は故郷を離れ、怪談記事を書くウェブライターとなった。皮肉にも、最も忘れたい夜を思わせる仕事を続けている。

死亡したはずの澄花の番号からチェーンメールが届いたことで、八年ぶりに仲間たちと再会する。


神代 朔(かみしろ・さく)

年齢:二十五歳

職業:映像制作会社勤務/編集・撮影担当

立場:澪の幼馴染/元・心霊研究会撮影担当

容姿

身長は百八十センチ前後。細身だが、撮影機材を運ぶ仕事をしているため肩や腕には適度に筋肉がついている。

黒に近い焦げ茶色の髪を短く整え、前髪を自然に流している。涼しげな目元と穏やかな口元を持ち、初対面の相手にも警戒心を抱かせにくい。

普段は黒いシャツやジャケットを好み、腕時計と小型カメラを身につけている。暗闇でも冷静に機材を扱う姿には、場慣れした落ち着きがある。

性格

温厚で理性的。感情的になった仲間をなだめ、混乱した状況でも次に何をするべきかを判断できる。

面倒見がよく、特に幼馴染である澪の変化には敏感。澪が無理をしていると、本人より先に気づくことが多い。

幽霊や呪いに対しては否定的で、映像、音響、照明、心理誘導など、人間による仕掛けの可能性を優先する。

ただし、冷静すぎるために何を考えているのか分からないことがあり、自分の過去や感情をほとんど語ろうとしない。

高校時代から澪のそばにいた幼馴染。

心霊研究会では撮影と映像編集を担当し、八年前の廃校探索でもカメラを回していた。

現在は映像制作会社でドキュメンタリーや配信番組の編集に携わっている。

仲間の中で最も機材に詳しく、怪異が人為的なものかを検証する役目を担う。危険な場所では常に先頭へ立ち、澪を守ろうとする。


椎名 澄花(しいな・すみか)

失踪当時:十七歳

立場:八年前に失踪した心霊研究会部員

容姿

艶のある長い黒髪と、透き通るような白い肌を持つ少女。

大きな黒い瞳が印象的で、無表情でいると人形のように見えるが、笑うと年齢相応の幼さが現れる。

高校時代は制服をきちんと着ており、赤い髪紐を手首へ巻いていた。古い物を集める趣味があり、小さな巾着袋や傷のついた人形を持ち歩くことがあった。

現在、映像や鏡の中に現れる彼女は、失踪当夜の制服姿をしている。

性格

好奇心旺盛で行動力がある一方、周囲の空気を読むことが苦手。気になるものを見つけると、危険を忘れて調べずにはいられない。

怪談や呪物に詳しいが、噂をそのまま信じるのではなく、怪談が生まれた背景や、忘れられた死者の記録に興味を持っていた。

思ったことを率直に口にするため、仲間と衝突することも多かった。しかし弱い者を笑いものにする行為を嫌い、誰かが傷つけられていると一人でも反論する。

八年前、七刻女学校跡で行われた心霊撮影の最中に姿を消した少女。

校舎には大量の血痕が残されていたが、遺体は発見されていない。

死亡扱いとなった現在も、彼女のスマートフォンは見つかっていない。

八年後、かつての仲間たちへ届いたチェーンメールは、澄花が失踪時に所持していた電話番号から送信されていた。


早乙女 美月(さおとめ・みづき)

年齢:二十五歳

職業:救命救急センター勤務の看護師

立場:元・心霊研究会副部長

容姿

背筋の伸びた長身の女性。黒髪を低い位置で一つに結び、化粧は必要最低限に抑えている。

切れ長の目と薄い唇を持ち、黙っていると近寄りがたい印象を与える。私服も機能性を重視し、動きやすいパンツやスニーカーを選ぶことが多い。

高校時代からほとんど外見が変わっておらず、緊張すると右耳の銀色のピアスへ触れる癖がある。

性格

現実的で責任感が強く、混乱した場面でも負傷者の確認を最優先する。

迷信や感情論を嫌い、怪異を病気、錯覚、集団心理として説明しようとする。しかし自分の理解を超えた現象を目の前にすると、否定することへ執着しすぎる傾向がある。

他人へ厳しいが、自分にはさらに厳しい。八年前に仲間を守れなかったという思いを抱えており、再び犠牲者を出すことを何より恐れている。

高校時代の心霊研究会で副部長を務めていた。

当時から冷静で、危険な探索へ反対することが多かったが、最終的には仲間を止めきれず廃校へ同行した。

現在は看護師として働き、怪異によるものとされる死についても、必ず医学的な原因を探そうとする。


黒瀬 悠斗(くろせ・ゆうと)

年齢:二十五歳

職業:不動産管理会社勤務

立場:元・心霊研究会部長

容姿

身長は百七十六センチほど。髪は明るい茶色に染め、仕事では細身のスーツを着ている。

学生時代は人目を引く快活な少年だったが、現在は頬が痩せ、目元に疲労がにじんでいる。

表情は豊かで愛想もよいものの、追い詰められると爪を噛み、早口になる。

性格

社交的で話術に長け、初対面の相手ともすぐ打ち解ける。高校時代は好奇心と勢いで部員を引っ張り、数多くの心霊スポットへ仲間を連れ出した。

一方で、責任を負う場面では言い訳が先に出る弱さがある。自分が悪者になることを極端に恐れ、都合の悪い事実を曖昧にしようとする。

普段は明るく振る舞っているが、八年前の話題になると態度が変わり、澄花の名を口にすることさえ避けようとする。

かつて心霊研究会の部長として、七刻女学校跡への探索を企画した人物。

現在は事故物件を含む賃貸物件の管理を担当しており、建物の構造、鍵、契約履歴、過去の入居者情報に詳しい。

最初のチェーンメールを悪質な嫌がらせだと主張し、警察へ相談することを提案する。


白石 奈々香(しらいし・ななか)

年齢:二十四歳

職業:美容系動画配信者

立場:元・心霊研究会部員

容姿

ゆるく巻いた栗色の髪と、華やかな化粧が特徴。大きな瞳と愛らしい顔立ちを持ち、画面越しでは常に自信に満ちて見える。

服装にも強いこだわりがあり、心霊スポットへ向かう際にも高価なコートやアクセサリーを身につけている。

左の鎖骨付近に、小さな椿の刺青がある。恐怖を感じると笑ってしまう癖があり、その笑顔がかえって不自然に見えることがある。

性格

明るく人懐こいが、他人からどう見られているかを常に気にしている。

注目されることを好み、高校時代は心霊研究会の活動を面白おかしく周囲へ話していた。一方、孤立することへの恐怖が強く、多数派へ合わせるためなら自分の意見を曲げることもある。

繊細で感情の振れ幅が大きく、強気な態度の裏に深い罪悪感を抱えている。

現在は多くの登録者を持つ動画配信者。

八年前の事件後、心霊関係の話題を避けてきたが、チェーンメールが届いた直後から、配信中の画面へ制服姿の少女が映り込むようになる。

事件を公表すれば注目を集められると考える一方、自分の過去が知られることを強く恐れている。


相馬 透(そうま・とおる)

年齢:二十五歳

職業:フリーの音響技師

立場:元・心霊研究会部員

容姿

痩せ型で、黒い癖毛が耳にかかっている。肌は青白く、眠そうに見える細い目をしている。

首には大型のヘッドフォンをかけ、複数の録音機やマイクを入れた鞄を持ち歩く。

物静かな印象だが、音に集中しているときだけ目つきが鋭く変わる。右手の人差し指に、古い火傷の痕がある。

性格

寡黙で観察力が高い。他人の会話へ割って入ることは少ないが、誰が何を言ったかを正確に覚えている。

映像よりも音を信用し、声の高さ、呼吸、足音、反響の違いから、録音された場所や人物を特定する技術を持つ。

集団行動を好まず、仲間に対しても一定の距離を置いている。秘密主義に見えるが、実際には言葉にすることが苦手で、誤解を解かないまま黙り込んでしまうことが多い。

高校時代は録音機材を担当し、廃校内で聞こえた音を記録していた。

事件後、仲間たちとの連絡をすべて断ち、音響技師として各地を転々としている。

チェーンメールに添付された音声を解析し、その中に八年前の廃校でしか録音されていないはずの音が混ざっていることを発見する。


宮部 理沙(みやべ・りさ)

年齢:二十四歳

職業:区役所職員

立場:元・心霊研究会部員

容姿

小柄で、肩より長い黒髪を一つに束ねている。丸い眼鏡をかけ、色の薄いカーディガンや膝丈のスカートを好む。

学生時代から大人しく目立たない存在だったが、近くで見ると端正な顔立ちをしている。

人と目を合わせることが苦手で、緊張すると鞄の持ち手を両手で強く握る。

性格

真面目で規則を重んじる。書類や数字の間違いによく気づき、記録を整理する能力に優れている。

争いを避けるため、自分の考えを飲み込むことが多い。しかし一度決めたことを曲げない頑固さも持つ。

高校時代は仲間の後ろについていくことが多く、誰かへ反対意見を言うことができなかった。そのことを現在も後悔している。

七刻女学校跡へ入った六人の一人。

現在は区役所で戸籍や住民記録に関わる仕事をしている。

チェーンメールに記された七つの場所を調べる中で、すでに取り壊されたはずの建物や、存在しない住所が公的記録へ残されていることに気づく。


御影 蓮司(みかげ・れんじ)

年齢:二十九歳

職業:建物調査会社代表/不動産鑑定士

立場:澄花の異母兄

容姿

百八十三センチほどの長身。黒髪を短く整え、彫りの深い端正な顔立ちをしている。

鋭い目と無駄のない動作から冷たい印象を与えるが、服装は飾り気のないシャツや作業用ジャケットが中心。

左手首には古い腕時計をつけている。それは、失踪前の澄花から贈られたもの。

性格

無口で疑り深く、他人の証言を簡単には信用しない。

感情を表へ出さないが、妹の失踪事件について独自に調査を続けており、真相を知るためなら危険な場所へも踏み込む。

幽霊の存在には懐疑的で、建物の構造、土地の履歴、所有者のつながりから事件を追う。

澪を含む元部員全員が何かを隠していると考えており、当初は彼らを守るよりも監視する立場を取る。

澄花と父親を同じくする異母兄。

家庭の事情により澄花とは離れて育ったが、妹が失踪する直前まで密かに連絡を取り合っていた。

警察が捜査を終えた後も事件を諦めず、七刻女学校跡と複数の事故物件に同じ所有者が関係していたことを突き止める。

澪とは対立しながらも、七つの呪地を調査する協力関係を築いていく。

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第1話 死亡した番号
 排水管の奥で、女が泣いていた。 細く、長く、息を殺すような声だった。泣き疲れた子どもが、誰にも見つからない場所で喉だけを震わせている。そんな音が、雨の降りしきる窓の外から、古びたワンルームの壁を伝って響いてくる。 雨宮澪はキーボードの上に指を置いたまま、しばらく耳を澄ませていた。 すすり泣きに聞こえるのは、詰まりかけた排水管を雨水が流れる音にすぎない。そう分かっている。二年前にこの部屋へ越してきてから、強い雨の夜には何度も聞いた。壁の薄い賃貸住宅では、配管の軋みも、上階の椅子を引く音も、隣人の咳も、眠れない者には別の何かに聞こえる。 澪は息を吐き、画面へ視線を戻した。 白い文書画面の右下には、午前零時十四分と表示されている。締切を三時間も過ぎていた。 机には、半分ほど残ったコーヒーが冷えている。表面には薄い油膜が張り、蛍光灯の光を鈍く映していた。隣には取材用の小型録音機と、角の欠けた黒いスマートフォン。録音機の赤いランプは消えているのに、ときおり内部で何かが擦れるような音がした。 書きかけの記事の題材は、都内の外れに建つ木造アパート〈常世荘〉だった。 築五十六年。二階建て。六世帯。 過去十五年のあいだに、同じ二〇三号室から三人の住人が失踪している。最初は独身の会社員、次は離婚したばかりの女性、最後は地方から上京した女子学生。いずれも玄関には鍵がかかり、財布も携帯電話も衣類も残されていた。争った跡はない。窓も内側から施錠されていた。 管理会社は偶然だと答え、所轄署は事件性を認めていない。 けれど、近隣の住民は口を揃えて言った。 二〇三号室の壁から、夜ごと女の声がする、と。 澪は何度か文章を読み返した。取材で聞いた話はひどく曖昧で、証拠と呼べるものはなかった。音声データも、壁紙の染みを撮った写真も、恐怖を求める者が好き勝手に意味を与えられる程度のものだ。 それでも記事は、何かを断定する言葉を求めていた。 指先が冷えていた。暖房はつけていない。八月の夜は蒸し暑く、窓ガラスには湿気がまとわりついている。なのに、右手の人差し指だけが、氷水に浸したように感覚を失っていた。 澪はその指で、最後の一文を打った。 ――真相は現在も明らかになっていない。 句点を入力した瞬間、机の上でスマートフォンが震えた。 短く一度。 少し間を置いて、もう一
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-03
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第2話 撮られた背中
第2話 撮られた背中 背後で落ちた水滴の音は、一度きりだった。 澪は机の端を掴んだまま、振り返れずにいた。指先へ力を込めるほど、爪の下が白くなる。スマートフォンの青白い光が、倒れた椅子と床へこぼれたコーヒーを照らし、その向こうの暗闇だけを避けているように見えた。 濡れた靴で歩く音は止んでいる。 それがかえって怖かった。 廊下の途中で立ち止まり、こちらを見ているのかもしれない。あるいは、もう背後まで来ているのかもしれない。 澪は息を吸った。喉の奥が狭くなり、空気がかすかな音を立てた。「朔……」 声にすると、名前だけが頼りなく暗闇へ落ちた。 画面には先ほどの通知が残っている。 二人目、既読。 その下で、神代朔の連絡先が淡く光っていた。 澪は震える親指で通話ボタンを押した。 一回。 二回。 三回目の呼び出し音が鳴り始めたところで、回線がつながった。『メールを開いたのか』 挨拶より早く、朔の低い声が耳へ届いた。 澪は返事を忘れた。 受話口の向こうでは、キーボードを打つ乾いた音が続いている。朔は眠っていなかった。驚いた様子も、こちらの電話を不審に思う間もなかった。「どうして……」『開いたんだな』「うん。でも、どうして分かったの」『俺のところにも来た』 朔の声は平らだった。 平らすぎて、その下に何があるのか分からない。 澪はスマートフォンを強く耳へ押し当てた。誰かの呼吸が混ざっていないか確かめるように、音へ意識を集中する。「同じメール?」『差出人は椎名澄花。件名は返してください。七つの住所と、七刻女学校へ来いという文面』「写真も?」 キーボードの音が一瞬止まった。『写真もある』「澄花の顔が、黒くなってた?」『最初はな』 最初は。 その言い方に、澪の胃が重く縮んだ。「そのあと、変わった?」『お前の顔が消えた』 澪は唇を閉じた。舌の奥にまだ鉄の味が残っている。 同じものを見た。 自分だけではない。その事実に安堵するはずだった。けれど、誰かが二人の端末へ同じ瞬間に同じ異常を送りつけたことになる。 廊下の方で、小さく木が鳴った。 澪は肩を跳ねさせた。『何だ』「さっき、玄関の鍵が開く音がして……誰かが入ってきたみたいに、足音がした」『今もいるのか』「分からない。暗くて、見えない」『ブレーカーは
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-03
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第3話 六人目の既読
 朝になっても、玄関の外には誰もいなかった。 澪が通報してから二十分ほどで警察官が二人訪れたが、共用廊下にも非常階段にも、濡れた靴跡ひとつ残っていなかった。防犯カメラは午前零時前から一時間だけ記録が途切れ、管理会社は雷による一時的な不具合だろうと答えた。 赤い組紐だけが、部屋の中に残った。 透明な食品保存袋へ入れ、さらにハンカチで包んでも、鞄の中から湿った絹の匂いがした。 午前九時を少し過ぎた駅前は、昨夜の雨を引きずっていた。歩道のくぼみには濁った水が溜まり、通勤客の靴がそこを踏むたび、細かな飛沫が跳ねる。雲は低く、ガラス張りのビルの上層を灰色に曇らせていた。 澪は喫茶店の窓際で、両手を膝の上に重ねていた。 眠れなかった。瞼の裏には、扉の向こうから自分を呼んだ少女の口元が、見てもいないのに焼きついている。 澪ちゃん。開けて。 声が耳の近くで蘇るたび、首筋の産毛が立った。 入口の鈴が鳴った。 神代朔は、外の湿気をほとんど連れ込まずに店へ入ってきた。 黒いシャツの上に薄手の濃紺のジャケットを羽織り、肩から仕事用の小型カメラを下げている。雨上がりの光を受けても、顔色は普段と変わらない。目の下にわずかな影はあったが、足取りも姿勢も崩れていなかった。「待たせた」「ううん。私も今来たところ」 嘘だった。三十分前から同じ席にいる。 朔は指摘せず、向かいの椅子を引いた。脚が床を擦る音に、澪の肩が小さく揺れる。その反応を見て、朔の視線が一度だけ玄関へ向いた。「昨夜、あのあと何かあったか」「警察が来るまで、声はしなかった。チャイムも鳴ってない。外には誰もいなかったって」「防犯カメラは」「その時間だけ映ってなかった」 朔は表情を変えなかった。 店員が水とおしぼりを置く。朔は珈琲を、澪は注文していた紅茶のお代わりを頼んだ。店員が離れるまで、二人とも黙っていた。 窓の外を傘を閉じた人々が流れていく。カップの触れ合う音、ミルクを泡立てる蒸気、低く流れる古い洋楽。明るい店内にいれば、昨夜の暗闇だけが別の世界の出来事だったように思えた。 澪は鞄を開いた。「これ」 ハンカチをほどき、保存袋をテーブルへ置く。 赤い組紐は乾いていた。 昨夜は水を吸い、指へ絡みつくほど柔らかかった。今は細く硬くなり、黒ずんだ赤が古い傷のように見える。 朔はジャケッ
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第4話 八年ぶりの集合
第4話 八年ぶりの集合 午後十一時を回った山道の入口には、雨を遮るものがなかった。 街道から一本外れた先で舗装は途切れ、黒い土が靴底へ重くまとわりつく。街灯はなく、杉林の奥で濡れた枝が擦れ合っていた。 澪は傘の柄を両手で握ったまま、道の先を見上げていた。 闇の向こうに、七刻女学校の門がある。 まだ姿は見えない。それでも雨の匂いに、古い木材と錆の臭いが混じっている気がした。 八年前の夜も雨だった。澄花は傘を差さず、濡れた手首へ赤い組紐を巻いて笑っていた。 帰る道を忘れないため。 その言葉が蘇るたび、澪のコートのポケットが重くなる。 透明な証拠袋へ入れた組紐は、コートの内側にある。脅しへ従う必要はないと言った朔も、仕掛けた者の目的を探るため、今夜だけ持参すべきだと判断した。 背後で車のドアが閉まった。 澪が振り返ると、黒い車の脇から朔が歩いてきた。黒いシャツに薄手のジャケット。肩には昨朝と同じ小型カメラを下げ、片手に防水の機材鞄を持っている。 傘は差さず、短い髪から雨粒を落としていた。「早いな」「眠れなかったから」「俺もだ」 そう言う顔には疲労がほとんど出ていない。 朔は澪の足元から道の左右へ視線を走らせた。「組紐は」「持ってる」「出すな。門までそのままにしろ」「分かった」 朔は澪の傘を少し持ち上げ、彼女の肩が濡れない位置へ傾けた。自分の右肩はすぐに雨を吸い、濃い色へ変わっていく。 澪が傘を戻そうとすると、朔は柄を押し返した。「足元を見ろ。滑る」 遠くから、車のエンジン音が近づいてきた。 白い乗用車が街道の端へ停まり、運転席から早乙女美月が降りる。紺色の防水上着に細身のパンツ。髪は後ろで一つに束ね、肩へ大きな医療用の鞄を掛けていた。 澪と目が合う。 美月の足が一瞬だけ止まった。「久しぶり」 澪が言うと、美月は口元を固くした。「そうね」 八年ぶりの挨拶は、それだけだった。 美月は朔へ短く頷き、救急用品を詰めた鞄の留め具を確認した。「病院から持ち出したの?」「私物。山へ入るなら最低限は必要でしょう」「廃校の中まで行くと決めたわけじゃない」 朔が言う。「でも、行かないつもりでもないんでしょう」 美月の目は朔ではなく、澪のポケットへ向いていた。 組紐のことを、オンライン通話で伝えてある。 また車
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-04
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第5話 電気のない放送
 消えた三階の窓を、六人はしばらく見上げていた。 雨は弱まる気配を見せず、門へ絡みついた鎖を銀色に濡らしている。校舎の輪郭は闇の中へ沈み、窓だけが幾つもの黒い眼窩のように並んでいた。先ほど制服姿の少女が立っていた場所には、もう何もない。 澪の耳には、硝子を爪で掻いた高い音が残っていた。「今の、見たよね」 奈々香が囁いた。 声が震えている。配信用の小型カメラを鞄から取り出していたが、構えた手は定まらず、映像には校舎と地面が交互に映っているだろう。「人影は見た」 朔が答えた。「人影って……あれ、澄花だった」「顔は確認できてない」「でも、赤い紐を――」「決めつけるな」 朔は短く言い、閉じた門へ近づいた。鎖と南京錠を一度ずつ引き、工具を持ってきた悠斗へ視線を送る。 悠斗は工具箱から大型の切断具を出し、鎖へ刃を噛ませた。両腕へ力を込める。金属が軋み、雨に濡れた持ち手が滑る。「切れない」「さっきまで地面に落ちてた鎖でしょう」 美月が懐中電灯で照らす。「錆びてるのは表面だけだ。中は新しい」 悠斗は息を切らしながら刃を外した。「誰かが交換したんだ。遠隔で巻き上げる仕掛けも作れる。南京錠だって、俺たちが見てない間に――」「地面から勝手に跳ねたように見えたけど」 奈々香の言葉に、悠斗は口を閉じた。 朔が校舎へ光を向ける。「外へ出る方法を探すにしても、中へ入らないと道具も通信手段もない。全員で動く。離れるな」「本当に入るの?」「門の内側で朝を待つよりはましだ」 美月が救急鞄を肩へ掛け直した。「少なくとも、屋根はある」 誰も賛成とは言わなかった。 それでも六人は、濡れた石畳を校舎へ向かって歩き始めた。 正面玄関のガラス戸は、中央から大きく割れていた。鋭い破片が枠へ残り、懐中電灯の光を受けて濡れた歯のように光る。足元には古い硝子片と枯れ葉が重なり、雨水が細い筋を作って内部へ流れ込んでいた。 朔が先に身を屈め、割れた箇所から中を照らした。「段差がある。足を上げろ」 澪は言われた通りに脚を上げた。跨ぐ瞬間、コートの裾が硝子へ触れ、乾いた音を立てる。朔の手が肘の下へ添えられ、身体がふらつく前に支えられた。 玄関の内側には、腐った木と湿った土の匂いがこもっていた。 左右へ並ぶ下駄箱は扉が外れ、内部に泥と枯れ葉が積もっている。蜘蛛
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第6話 七つの席
 扉の向こうには、八年前の教室が残っていた。 廊下の床は腐り、壁は雨水に黒く侵されていたのに、二年七組の中だけは時間の流れ方が違って見えた。剥がれかけた掲示物も、傾いた黒板も、窓際に吊られた薄いカーテンも、澪の記憶にある形を保っている。 教室の中央には、七つの机が円を描いて並べられていた。 朔の懐中電灯が一脚ずつを照らす。 机は互いの正面が見えるよう、わずかに内側へ向けられている。天板には傷も落書きもなく、椅子はすべて引かれた状態だった。誰かが七人の到着を待ち、座る位置まで整えたようだった。 それぞれの机の上に、白い封筒が置かれている。 雨宮澪。 神代朔。 早乙女美月。 黒瀬悠斗。 白石奈々香。 相馬透。 墨で書かれた六人の名が、湿った空気の中で鮮明に浮かんでいた。 七つ目の封筒には、椎名澄花。 その机だけが、ほかと違っていた。 六脚の机は表面が灰色に乾き、金属の脚に赤錆が浮いている。澄花の席だけは木目が明るく、磨かれたばかりのように淡い艶があった。椅子の背には傷一つなく、天板の右端に、小さな花の形をした赤い髪留めが置かれている。 奈々香が息を呑んだ。 門の箱に入っていた、割れた髪留めと同じ形だった。「どうして……」 奈々香の声が掠れた。 誰も答えない。 透は録音機を胸元まで持ち上げ、教室の音を拾っている。赤い表示灯が、鼓動のように明滅していた。「入る前に確認する」 朔は扉の脇へしゃがみ込み、床と蝶番へ光を当てた。「扉に罠らしいものはない。窓は全部閉まってる。天井の照明は配線が切れてる」「じゃあ、さっき明かりがついたのは何なの」 美月が問う。「外から投光した可能性はある」「三階の窓へ、あの角度で?」「可能性の話だ」 朔は教室の奥を見た。 その横顔に迷いはなかったが、懐中電灯を握る指だけが僅かに強張っている。 悠斗が先に中へ入った。「立って見ていても何も分からない。仕掛けた奴は、俺たちにこれを開けさせたいんだろ」「勝手に触らないで」 美月が止める。「触らなきゃ帰れないなら、同じだ」 悠斗は自分の名が書かれた封筒を持ち上げた。 糊付けはされていない。指を入れると、封は簡単に開いた。 中から二つ折りの白い紙が出てくる。 悠斗は一行目を見た瞬間、口元を引き結んだ。「何が書いてあるの」 澪が
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第7話 七人目の呼吸
 奈々香の悲鳴が、青白い教室を裂いた。 手から投げ出されたスマートフォンは机の脚へ当たり、乾いた音を立てて床を滑った。二度、三度と跳ね、澄花の席の前で止まる。画面の右端から蜘蛛の巣のような亀裂が走り、配信映像が細かな破片へ分かれた。「いや……いや、いる、そこにいる!」 奈々香は椅子を蹴るように後退した。膝裏が別の机へぶつかり、身体が傾く。美月が腕を掴み、倒れる寸前で支えた。 六人の視線が、同時に七つ目の席へ向いた。 椅子は空だった。 木目の明るい机。右端に置かれた赤い髪留め。引かれたままの椅子。その座面には、誰かが座っていた跡も、濡れた制服から落ちた水滴もない。 それでも澪には、空席の上だけ空気が沈んで見えた。 教室の湿気とは違う。人ひとり分の冷たさが、そこへ形を持って留まっている。「触るな」 床へ手を伸ばしかけた悠斗を制し、朔がスマートフォンを拾った。 割れた硝子が掌へ食い込まないよう、手袋の指先で端を挟む。液晶は明滅していたが、配信はまだ切れていなかった。視聴者数は七人のまま。コメント欄だけが止まり、〈SUMIKA〉の名が亀裂の下で歪んでいる。 朔は機内モードへ切り替え、外部との接続を遮断した。それでも配信中の赤い印は消えない。「どうして止まらないの」 奈々香の声は息に近かった。「通信を切ってるのに」「端末上の表示だけ残ってる可能性がある」 朔は画面を操作し、直前の映像を端末内へ保存した。指の動きは落ち着いていたが、再生画面を開いた瞬間、瞳の奥が僅かに狭くなる。 六人が映っている。 その背後、澄花の机には制服姿の少女が座っていた。 長い髪が顔を覆い、頬の輪郭すらほとんど見えない。右手首の赤いものだけが鮮明だった。映像が進むにつれ、少女はゆっくり顔を上げる。けれど、目元が現れる直前で画面が激しく乱れ、黒い横線に飲み込まれた。「澄花なの?」 澪は朔の肩越しに覗き込んだ。「判別できない」「髪も、制服も同じだった」「似せることはできる」 朔は映像を数秒戻した。 少女の輪郭の周囲に、僅かな揺らぎがある。明るさの違う映像を重ねたときに生じる境界にも見えた。 悠斗がそれを指した。「合成だ。最初から撮っておいた女の映像を重ねてる」「どうやってリアルタイムで?」 美月が問う。「奈々香の配信機材に細工すればできる。使
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第8話 消された八分十三秒
 朔のすぐ背後で聞こえた呼吸は、振り返ったときには消えていた。 教室の隅まで懐中電灯を向けても、揺れる光の中に人影はない。七つの机、濡れた黒板、口を開けた教師用の引き出し。そこにあるのは、古い校舎の湿気と、六人分の浅い息だけだった。 それでも、澪の耳には少女の喉が震える音が残っていた。 ひゅう、と細く吸い込む息。 泣くことを堪えたまま、誰かの背中へ顔を寄せていたような近さだった。 朔は何も言わず、引き出しから小型ビデオテープを取り出した。白いラベルには、七刻女学校、八年前、未編集とある。黒い文字は乾いているのに、指で触れれば滲みそうなほど濃かった。「本当に、お前の字じゃないのか」 悠斗が訊いた。 朔はラベルを光へ傾ける。「似ている」「似てるじゃなくて」「俺が書くなら、年号を入れる。八年前とは書かない」 淡々とした返答だった。 だが、テープを持つ指先は動かなかった。爪の横へ力が入り、手袋の薄い布が僅かに引きつれている。 澪はその手を見つめた。 八年前、朔は撮影機材のすべてへ自分の字で番号を書いていた。細く右上がりで、角のある文字。ラベルの筆跡は、記憶の中にあるそれとよく似ている。「再生できるの?」 奈々香が扉から離れた場所で言った。「その形、朔が持ってるカメラのテープと違わない?」「違う」 朔は肩に下げていた小型カメラではなく、機材鞄を床へ置いた。 防水の留め具を外し、中から古いビデオカメラを取り出す。 角の擦れた黒い機体。側面には剥がれかけた白い番号札が残っている。八年前、朔が七刻女学校へ持ち込んだものだった。 澪は息を止めた。「まだ持ってたの」「警察から返却された」「いつ?」「事件の半年後」「どうして今日、持ってきた?」 美月の問いに、朔は一拍置いた。「同じ場所へ行くなら、当時の機材が必要になるかもしれないと思った」「何に必要なの」「比較だ。映像に仕掛けがあれば、機種の癖から分かる」 説明に無理はない。 だが、美月の視線は和らがなかった。 朔はカメラの蓋を開いた。内部の受け口と、手に持つテープを見比べる。「規格が違う」 透が近づき、低く言った。「こっちは幅も厚みも合わない」「入るはずがないってこと?」 澪が訊く。「普通なら途中で止まる」 朔はテープを差し込み口へ近づけた。「無理
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第9話 原音を知る者
 放送室へ続く廊下は、二年七組の扉の向こうで黒く沈んでいた。 天井のスピーカーは沈黙している。それでも、少女の声が消えたあとの空気には、まだ薄い震えが残っているようだった。 次は、放送室です。 その言葉を聞いてから、誰も最初の一歩を踏み出さなかった。「行かない」 美月が最初に口を開いた。 救急鞄の持ち手を握りしめ、教室の中央に立つ。青白い照明が頬を照らし、疲労の影を深くしていた。「相手の指示へ従うたび、危険が増えてる。門では閉じ込められた。階段では澪が殺されかけた。この教室では、誰かの嘘を数えられた。次が放送室だからって、素直に行く理由はない」「ここへ残る理由もないだろ」 悠斗が工具箱を持ち直す。「扉はまた閉じるかもしれない。廊下へ出られるうちに移動した方がいい」「移動することと、指定された場所へ行くことは別よ」「じゃあ、どこへ行く。出口へ戻ろうとして三回ここへ戻された」「だからこそ、相手が望む方向へ進むべきじゃない」 美月の声には苛立ちより恐怖があった。 感情を押し殺すたび、言葉が鋭くなる。高校時代から変わらない。誰かが怪我をすれば真っ先に駆け寄り、そのあとで無茶をした本人を容赦なく叱った。 澪は朔の手にある古いビデオカメラを見た。 液晶は停止画面へ戻っている。制服姿の少女は消え、青い砂嵐だけが揺れていた。そこに映っていた指先の向きは、今も廊下の奥を示しているように思えた。「放送室なら、校内の設備が集まってる」 透が言った。 それまで壁際で録音機を操作していた彼は、画面から目を上げない。「スピーカーの配線も、校内の集音装置も、元はあそこへつながっていた。今流れてる音の出所を探すなら、放送室が一番近い」「今流れてる音?」 奈々香が眉を寄せる。「放送は止まってるでしょ」「止まってない」 透は録音機の小さなスピーカーを切り、ヘッドフォンの片側を外した。「聞こえないだけだ」 その言い方に、澪の皮膚が粟立つ。 透は再び八年前の映像を再生し、音声だけを自分の機器へ送った。画面には、理科準備室の前で揺れる光景が映っている。澄花が扉の内側へ押し込まれた直後、音が途切れる箇所。 透は波形を大きく広げた。「ここに低い信号が入ってる」 液晶の下端に、ほとんど平らな線が続いている。規則的に盛り上がる小さな山は、澪には機械の
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