この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――

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last updateLast Updated : 2026-09-16
By:  なつめOngoing
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八年前。 高校の心霊研究会に所属していた雨宮澪たちは、動画撮影のため、取り壊し直前の〈七刻女学校〉へ不法侵入した。 その夜、部員の椎名澄花が姿を消した。 校舎からは大量の血痕が発見されたものの、遺体は見つからなかった。 残された六人は事件について口を閉ざし、それぞれ別の人生を送っていた。 ところが八年後の午前零時。 死亡扱いとなっている澄花の電話番号から、六人全員へ同じチェーンメールが届く。

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Chapter 1

主要人物

거울 앞에 선 남자가 코트를 걸치며 옷매무새를 확인했다.

윤기가 나는 코트는 한 눈에 봐도 평범하지 않은 고급스러움이 묻어 났다.

코트 안으로 단단한 몸을 잘 감싼 수트 역시 그랬다.

남자만을 위해 만들어진 것처럼 반듯한 어깨선이나 자연스러운 허리선, 구김 하나 없는 바지는 완벽 그 자체였다.

적당한 근육이 있는 몸은 큰 키를 더욱 두드러져 보이게 했다.

옷차림에 어울리는 판이 큰 시계를 차는 것으로 외출 준비는 끝났다.

차도혁.

호텔 체인과 카지노, 고급 프라이빗 라운지를 운영하는 태원 그룹의 서열 1위.

음지에서 시작한 사업체를 양지로 끌어 올린 입지적인 인물.

그가 조직원이자 오랜 친구 이민석의 결혼식에 참석하기 위해 차에 올랐다.

주말, 결혼식이 있을 호텔 주변은 온통 차로 꽉꽉 들어차 있었다.

태원 그룹 소유의 호텔에서는 당연한 주말 풍경이었다.

예비 신부와 신랑이 1순위로 꼽는 예식홀이 바로 태원 호텔이었다.

이 호텔의 회장인 도혁을 제치고 부회장인 민석이 먼저 결혼을 한다.

다른 건 몰라도 결혼만큼은 도혁을 이겼다며 놀리던 민석이었다.

타인의 결혼에 부럽다는 생각을 한 적은 단연코 한 번도 없었는데 친구의 결혼이라 마음 가짐이 달랐다.

부쩍 외롭고 쓸쓸한 기분이 들었다.

도혁을 닮은 큰 덩치의 SUV가 등장하자 나란히 서 있던 차들이 슬금슬금 움직여 길을 만들었다.

태원 소속이라면 누구나 알아야 하는 도혁의 차.

그의 차가 웅장한 엔진음을 도로에 남기며 호텔로 진입했다.

정문에는 고급 세단이 쉬지 않고 사람들을 내려 주고 떠났다.

그 세단에서는 수트를 잘 갖춰 입은 남자들이 내렸다.

태원 그룹의 수장, 차도혁이 도착했다.

주차장 입구에서부터 조직원들이 한 치의 흐트러짐 없이 도열했다.

도혁이 차에서 내리자 절도 있는 동작으로 일제히 상체를 깊이 접었다.

우두 머리 늑대의 등장에 모두 숨을 죽이며.

예식홀까지는 조직원들이 길을 만들었다고 해도 과장이 아니었다.

그들 사이에서 평범하지 않은 아우라를 내뿜는 도혁이 홀에 도착해 자리로 모셔졌다.

예식홀은 화려함의 극치를 보여 주었다.

조명을 받아 고급스러운 빛을 반사하는 샹들리에, 홀 곳곳의 생화 장식, 벽면과 천장은 크리스탈이 고운 소금가루처럼 뿌려져 눈이 부실만큼 반짝거렸다.

조도를 낮춘 홀의 내부에서는 새하얀 웨딩 드레스를 입은 신부가 돋보일 수 밖에 없었다.

결혼식의 주인공인 신부를 위해 모든 것을 계산해서 장식한 것이었다.

더군다나 오늘은 가족보다 조직원들이 더 많은 것도 이유 중 하나가 되겠다.

예식홀을 꽉 채운 수트차림의 남자들.

모두 태원의 조직원들이었다.

그 안에서 순백의 웨딩드레스를 입은 신부는 유난히 눈에 띄었다.

축가가 끝나자 하객들이 하나둘 자리에서 일어 났다.

예식홀을 나가는 하객들을 보며 도혁은 생각에 잠겼다.

결혼.

도혁의 평생에 있을 수 있는 이벤트일까.

오늘, 신랑인 이민석이 오랜 친구가 아니었다면, 그룹의 서열 2위가 아니었다면 참석이나 했을까.

비혼 주의자는 아니지만 기회를 갖지 못 하고 나이를 먹어가는 것이 유달리 외롭다 느껴졌다.

"회장님. 이동하시죠."

지인 피로연에 참석 예정인 도혁을 모시기 위해 비서 실장인 강태오가 다가 왔다.

신랑인 이민석, 비서 실장 강태오 그리고, 차도혁.

형제나 다름없는 오랜 친구 사이였다.

그래서 도혁과 함께 조직에 들어와 태원 그룹에서 일을 하게 된 것도 자연스러웠다.

비서 실장인 태오를 따라 자리에서 일어 난 순간, 도혁의 시선이 한 곳에 고정됐다.

태오의 시선이 도혁을 따라 갔다.

"아, 신부 후배라고 들었어. 오늘은 신부 들러리로 . 왜. 마음에 들어?"

신부의 후배.

도혁의 시선이 움직이는 여자를 따라 갔다.

큰 키에 가는 몸선은 모델같고 동글한 얼굴은 강아지같이 귀여웠다.

뛰어난 미인은 아닌데 눈을 끄는 묘한 매력이 있었다.

여자가 신부를 보며 환하게 웃는 순간, 도혁을 둘러싼 공기가 진공 상태가 됐다.

쿵.

어떤 여자를 봐도 감흥이 없던 도혁의 마음에 거대한 울림이 울렸다.

지금껏 경험하지 못 한 생경한 감각이었다.

도혁은 눈을 감았다 천천히 뜨며 정신을 차렸다.

"아니."

그저 예쁜 여자에 대한 수컷의 호기심, 그 정도로 치부하며 낯선 감각을 부정했다.

신랑, 신부가 도착하지 않은 피로연장에는 신부의 친구들 주위로 과하다 싶은 남자들의 웃음 소리가 에워 쌌다.

매일을 수염이 난 거친 남자들끼리 부대끼는 도혁의 수하 조직원들.

그 틈에 선이 고운 여자들이 있으니 어찌할 줄을 모르고 다들 말 한마디라도 더 붙여 보려 애를 쓰는게 눈에 보였다.

여자 조심하라는 말을 수 천,수 만번 해도 소용이 없는 순간이었다.

도혁은 제일 앞쪽 테이블로 모셔졌다.

신랑, 신부가 오기 전에 피로연장에서 간단하게 식사를 하며 테이블끼리 스몰톡이 이어 졌다.

주인공이 오기도 전에 분위기는 달아 오를 대로 달아 올랐다.

하지만 도혁과 태오가 앉은 테이블만 싸늘했다.

결혼식 피로연인만큼 도혁의 눈치를 보지 않아도 된다는 말에 조직원들의 텐션은 오를대로 올라 있었다.

“오늘의 주인공, 입장하십니다!”

누군가의 큰 목소리에 모두의 시선이 한 곳으로 쏠렸다.

피로연 장소인 호텔 연회장으로 신랑, 신부가 등장했다.

주인공들 뒤로 신부의 후배라는 여자가 거리를 두고 따랐다.

쿵.

평생을 고요했던 도혁의 가슴에 엄청난 해일이 닥쳤다.

그 여자에게서 눈을 뗄 수 없었다.

신부의 뒤를 따라 오던 여자와 눈이 마주쳤다.

순간이지만 도혁은 직감했다.

친구의 결혼식에서, 제 인생을 흔들어 버릴 존재를 만났다는 것을.

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第1話 死亡した番号
 排水管の奥で、女が泣いていた。 細く、長く、息を殺すような声だった。泣き疲れた子どもが、誰にも見つからない場所で喉だけを震わせている。そんな音が、雨の降りしきる窓の外から、古びたワンルームの壁を伝って響いてくる。 雨宮澪はキーボードの上に指を置いたまま、しばらく耳を澄ませていた。 すすり泣きに聞こえるのは、詰まりかけた排水管を雨水が流れる音にすぎない。そう分かっている。二年前にこの部屋へ越してきてから、強い雨の夜には何度も聞いた。壁の薄い賃貸住宅では、配管の軋みも、上階の椅子を引く音も、隣人の咳も、眠れない者には別の何かに聞こえる。 澪は息を吐き、画面へ視線を戻した。 白い文書画面の右下には、午前零時十四分と表示されている。締切を三時間も過ぎていた。 机には、半分ほど残ったコーヒーが冷えている。表面には薄い油膜が張り、蛍光灯の光を鈍く映していた。隣には取材用の小型録音機と、角の欠けた黒いスマートフォン。録音機の赤いランプは消えているのに、ときおり内部で何かが擦れるような音がした。 書きかけの記事の題材は、都内の外れに建つ木造アパート〈常世荘〉だった。 築五十六年。二階建て。六世帯。 過去十五年のあいだに、同じ二〇三号室から三人の住人が失踪している。最初は独身の会社員、次は離婚したばかりの女性、最後は地方から上京した女子学生。いずれも玄関には鍵がかかり、財布も携帯電話も衣類も残されていた。争った跡はない。窓も内側から施錠されていた。 管理会社は偶然だと答え、所轄署は事件性を認めていない。 けれど、近隣の住民は口を揃えて言った。 二〇三号室の壁から、夜ごと女の声がする、と。 澪は何度か文章を読み返した。取材で聞いた話はひどく曖昧で、証拠と呼べるものはなかった。音声データも、壁紙の染みを撮った写真も、恐怖を求める者が好き勝手に意味を与えられる程度のものだ。 それでも記事は、何かを断定する言葉を求めていた。 指先が冷えていた。暖房はつけていない。八月の夜は蒸し暑く、窓ガラスには湿気がまとわりついている。なのに、右手の人差し指だけが、氷水に浸したように感覚を失っていた。 澪はその指で、最後の一文を打った。 ――真相は現在も明らかになっていない。 句点を入力した瞬間、机の上でスマートフォンが震えた。 短く一度。 少し間を置いて、もう一
last updateLast Updated : 2026-08-03
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第2話 撮られた背中
第2話 撮られた背中 背後で落ちた水滴の音は、一度きりだった。 澪は机の端を掴んだまま、振り返れずにいた。指先へ力を込めるほど、爪の下が白くなる。スマートフォンの青白い光が、倒れた椅子と床へこぼれたコーヒーを照らし、その向こうの暗闇だけを避けているように見えた。 濡れた靴で歩く音は止んでいる。 それがかえって怖かった。 廊下の途中で立ち止まり、こちらを見ているのかもしれない。あるいは、もう背後まで来ているのかもしれない。 澪は息を吸った。喉の奥が狭くなり、空気がかすかな音を立てた。「朔……」 声にすると、名前だけが頼りなく暗闇へ落ちた。 画面には先ほどの通知が残っている。 二人目、既読。 その下で、神代朔の連絡先が淡く光っていた。 澪は震える親指で通話ボタンを押した。 一回。 二回。 三回目の呼び出し音が鳴り始めたところで、回線がつながった。『メールを開いたのか』 挨拶より早く、朔の低い声が耳へ届いた。 澪は返事を忘れた。 受話口の向こうでは、キーボードを打つ乾いた音が続いている。朔は眠っていなかった。驚いた様子も、こちらの電話を不審に思う間もなかった。「どうして……」『開いたんだな』「うん。でも、どうして分かったの」『俺のところにも来た』 朔の声は平らだった。 平らすぎて、その下に何があるのか分からない。 澪はスマートフォンを強く耳へ押し当てた。誰かの呼吸が混ざっていないか確かめるように、音へ意識を集中する。「同じメール?」『差出人は椎名澄花。件名は返してください。七つの住所と、七刻女学校へ来いという文面』「写真も?」 キーボードの音が一瞬止まった。『写真もある』「澄花の顔が、黒くなってた?」『最初はな』 最初は。 その言い方に、澪の胃が重く縮んだ。「そのあと、変わった?」『お前の顔が消えた』 澪は唇を閉じた。舌の奥にまだ鉄の味が残っている。 同じものを見た。 自分だけではない。その事実に安堵するはずだった。けれど、誰かが二人の端末へ同じ瞬間に同じ異常を送りつけたことになる。 廊下の方で、小さく木が鳴った。 澪は肩を跳ねさせた。『何だ』「さっき、玄関の鍵が開く音がして……誰かが入ってきたみたいに、足音がした」『今もいるのか』「分からない。暗くて、見えない」『ブレーカーは
last updateLast Updated : 2026-08-03
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第3話 六人目の既読
 朝になっても、玄関の外には誰もいなかった。 澪が通報してから二十分ほどで警察官が二人訪れたが、共用廊下にも非常階段にも、濡れた靴跡ひとつ残っていなかった。防犯カメラは午前零時前から一時間だけ記録が途切れ、管理会社は雷による一時的な不具合だろうと答えた。 赤い組紐だけが、部屋の中に残った。 透明な食品保存袋へ入れ、さらにハンカチで包んでも、鞄の中から湿った絹の匂いがした。 午前九時を少し過ぎた駅前は、昨夜の雨を引きずっていた。歩道のくぼみには濁った水が溜まり、通勤客の靴がそこを踏むたび、細かな飛沫が跳ねる。雲は低く、ガラス張りのビルの上層を灰色に曇らせていた。 澪は喫茶店の窓際で、両手を膝の上に重ねていた。 眠れなかった。瞼の裏には、扉の向こうから自分を呼んだ少女の口元が、見てもいないのに焼きついている。 澪ちゃん。開けて。 声が耳の近くで蘇るたび、首筋の産毛が立った。 入口の鈴が鳴った。 神代朔は、外の湿気をほとんど連れ込まずに店へ入ってきた。 黒いシャツの上に薄手の濃紺のジャケットを羽織り、肩から仕事用の小型カメラを下げている。雨上がりの光を受けても、顔色は普段と変わらない。目の下にわずかな影はあったが、足取りも姿勢も崩れていなかった。「待たせた」「ううん。私も今来たところ」 嘘だった。三十分前から同じ席にいる。 朔は指摘せず、向かいの椅子を引いた。脚が床を擦る音に、澪の肩が小さく揺れる。その反応を見て、朔の視線が一度だけ玄関へ向いた。「昨夜、あのあと何かあったか」「警察が来るまで、声はしなかった。チャイムも鳴ってない。外には誰もいなかったって」「防犯カメラは」「その時間だけ映ってなかった」 朔は表情を変えなかった。 店員が水とおしぼりを置く。朔は珈琲を、澪は注文していた紅茶のお代わりを頼んだ。店員が離れるまで、二人とも黙っていた。 窓の外を傘を閉じた人々が流れていく。カップの触れ合う音、ミルクを泡立てる蒸気、低く流れる古い洋楽。明るい店内にいれば、昨夜の暗闇だけが別の世界の出来事だったように思えた。 澪は鞄を開いた。「これ」 ハンカチをほどき、保存袋をテーブルへ置く。 赤い組紐は乾いていた。 昨夜は水を吸い、指へ絡みつくほど柔らかかった。今は細く硬くなり、黒ずんだ赤が古い傷のように見える。 朔はジャケッ
last updateLast Updated : 2026-08-03
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第4話 八年ぶりの集合
第4話 八年ぶりの集合 午後十一時を回った山道の入口には、雨を遮るものがなかった。 街道から一本外れた先で舗装は途切れ、黒い土が靴底へ重くまとわりつく。街灯はなく、杉林の奥で濡れた枝が擦れ合っていた。 澪は傘の柄を両手で握ったまま、道の先を見上げていた。 闇の向こうに、七刻女学校の門がある。 まだ姿は見えない。それでも雨の匂いに、古い木材と錆の臭いが混じっている気がした。 八年前の夜も雨だった。澄花は傘を差さず、濡れた手首へ赤い組紐を巻いて笑っていた。 帰る道を忘れないため。 その言葉が蘇るたび、澪のコートのポケットが重くなる。 透明な証拠袋へ入れた組紐は、コートの内側にある。脅しへ従う必要はないと言った朔も、仕掛けた者の目的を探るため、今夜だけ持参すべきだと判断した。 背後で車のドアが閉まった。 澪が振り返ると、黒い車の脇から朔が歩いてきた。黒いシャツに薄手のジャケット。肩には昨朝と同じ小型カメラを下げ、片手に防水の機材鞄を持っている。 傘は差さず、短い髪から雨粒を落としていた。「早いな」「眠れなかったから」「俺もだ」 そう言う顔には疲労がほとんど出ていない。 朔は澪の足元から道の左右へ視線を走らせた。「組紐は」「持ってる」「出すな。門までそのままにしろ」「分かった」 朔は澪の傘を少し持ち上げ、彼女の肩が濡れない位置へ傾けた。自分の右肩はすぐに雨を吸い、濃い色へ変わっていく。 澪が傘を戻そうとすると、朔は柄を押し返した。「足元を見ろ。滑る」 遠くから、車のエンジン音が近づいてきた。 白い乗用車が街道の端へ停まり、運転席から早乙女美月が降りる。紺色の防水上着に細身のパンツ。髪は後ろで一つに束ね、肩へ大きな医療用の鞄を掛けていた。 澪と目が合う。 美月の足が一瞬だけ止まった。「久しぶり」 澪が言うと、美月は口元を固くした。「そうね」 八年ぶりの挨拶は、それだけだった。 美月は朔へ短く頷き、救急用品を詰めた鞄の留め具を確認した。「病院から持ち出したの?」「私物。山へ入るなら最低限は必要でしょう」「廃校の中まで行くと決めたわけじゃない」 朔が言う。「でも、行かないつもりでもないんでしょう」 美月の目は朔ではなく、澪のポケットへ向いていた。 組紐のことを、オンライン通話で伝えてある。 また車
last updateLast Updated : 2026-08-04
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第5話 電気のない放送
 消えた三階の窓を、六人はしばらく見上げていた。 雨は弱まる気配を見せず、門へ絡みついた鎖を銀色に濡らしている。校舎の輪郭は闇の中へ沈み、窓だけが幾つもの黒い眼窩のように並んでいた。先ほど制服姿の少女が立っていた場所には、もう何もない。 澪の耳には、硝子を爪で掻いた高い音が残っていた。「今の、見たよね」 奈々香が囁いた。 声が震えている。配信用の小型カメラを鞄から取り出していたが、構えた手は定まらず、映像には校舎と地面が交互に映っているだろう。「人影は見た」 朔が答えた。「人影って……あれ、澄花だった」「顔は確認できてない」「でも、赤い紐を――」「決めつけるな」 朔は短く言い、閉じた門へ近づいた。鎖と南京錠を一度ずつ引き、工具を持ってきた悠斗へ視線を送る。 悠斗は工具箱から大型の切断具を出し、鎖へ刃を噛ませた。両腕へ力を込める。金属が軋み、雨に濡れた持ち手が滑る。「切れない」「さっきまで地面に落ちてた鎖でしょう」 美月が懐中電灯で照らす。「錆びてるのは表面だけだ。中は新しい」 悠斗は息を切らしながら刃を外した。「誰かが交換したんだ。遠隔で巻き上げる仕掛けも作れる。南京錠だって、俺たちが見てない間に――」「地面から勝手に跳ねたように見えたけど」 奈々香の言葉に、悠斗は口を閉じた。 朔が校舎へ光を向ける。「外へ出る方法を探すにしても、中へ入らないと道具も通信手段もない。全員で動く。離れるな」「本当に入るの?」「門の内側で朝を待つよりはましだ」 美月が救急鞄を肩へ掛け直した。「少なくとも、屋根はある」 誰も賛成とは言わなかった。 それでも六人は、濡れた石畳を校舎へ向かって歩き始めた。 正面玄関のガラス戸は、中央から大きく割れていた。鋭い破片が枠へ残り、懐中電灯の光を受けて濡れた歯のように光る。足元には古い硝子片と枯れ葉が重なり、雨水が細い筋を作って内部へ流れ込んでいた。 朔が先に身を屈め、割れた箇所から中を照らした。「段差がある。足を上げろ」 澪は言われた通りに脚を上げた。跨ぐ瞬間、コートの裾が硝子へ触れ、乾いた音を立てる。朔の手が肘の下へ添えられ、身体がふらつく前に支えられた。 玄関の内側には、腐った木と湿った土の匂いがこもっていた。 左右へ並ぶ下駄箱は扉が外れ、内部に泥と枯れ葉が積もっている。蜘蛛
last updateLast Updated : 2026-08-04
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第6話 七つの席
 扉の向こうには、八年前の教室が残っていた。 廊下の床は腐り、壁は雨水に黒く侵されていたのに、二年七組の中だけは時間の流れ方が違って見えた。剥がれかけた掲示物も、傾いた黒板も、窓際に吊られた薄いカーテンも、澪の記憶にある形を保っている。 教室の中央には、七つの机が円を描いて並べられていた。 朔の懐中電灯が一脚ずつを照らす。 机は互いの正面が見えるよう、わずかに内側へ向けられている。天板には傷も落書きもなく、椅子はすべて引かれた状態だった。誰かが七人の到着を待ち、座る位置まで整えたようだった。 それぞれの机の上に、白い封筒が置かれている。 雨宮澪。 神代朔。 早乙女美月。 黒瀬悠斗。 白石奈々香。 相馬透。 墨で書かれた六人の名が、湿った空気の中で鮮明に浮かんでいた。 七つ目の封筒には、椎名澄花。 その机だけが、ほかと違っていた。 六脚の机は表面が灰色に乾き、金属の脚に赤錆が浮いている。澄花の席だけは木目が明るく、磨かれたばかりのように淡い艶があった。椅子の背には傷一つなく、天板の右端に、小さな花の形をした赤い髪留めが置かれている。 奈々香が息を呑んだ。 門の箱に入っていた、割れた髪留めと同じ形だった。「どうして……」 奈々香の声が掠れた。 誰も答えない。 透は録音機を胸元まで持ち上げ、教室の音を拾っている。赤い表示灯が、鼓動のように明滅していた。「入る前に確認する」 朔は扉の脇へしゃがみ込み、床と蝶番へ光を当てた。「扉に罠らしいものはない。窓は全部閉まってる。天井の照明は配線が切れてる」「じゃあ、さっき明かりがついたのは何なの」 美月が問う。「外から投光した可能性はある」「三階の窓へ、あの角度で?」「可能性の話だ」 朔は教室の奥を見た。 その横顔に迷いはなかったが、懐中電灯を握る指だけが僅かに強張っている。 悠斗が先に中へ入った。「立って見ていても何も分からない。仕掛けた奴は、俺たちにこれを開けさせたいんだろ」「勝手に触らないで」 美月が止める。「触らなきゃ帰れないなら、同じだ」 悠斗は自分の名が書かれた封筒を持ち上げた。 糊付けはされていない。指を入れると、封は簡単に開いた。 中から二つ折りの白い紙が出てくる。 悠斗は一行目を見た瞬間、口元を引き結んだ。「何が書いてあるの」 澪が
last updateLast Updated : 2026-08-04
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第7話 七人目の呼吸
 奈々香の悲鳴が、青白い教室を裂いた。 手から投げ出されたスマートフォンは机の脚へ当たり、乾いた音を立てて床を滑った。二度、三度と跳ね、澄花の席の前で止まる。画面の右端から蜘蛛の巣のような亀裂が走り、配信映像が細かな破片へ分かれた。「いや……いや、いる、そこにいる!」 奈々香は椅子を蹴るように後退した。膝裏が別の机へぶつかり、身体が傾く。美月が腕を掴み、倒れる寸前で支えた。 六人の視線が、同時に七つ目の席へ向いた。 椅子は空だった。 木目の明るい机。右端に置かれた赤い髪留め。引かれたままの椅子。その座面には、誰かが座っていた跡も、濡れた制服から落ちた水滴もない。 それでも澪には、空席の上だけ空気が沈んで見えた。 教室の湿気とは違う。人ひとり分の冷たさが、そこへ形を持って留まっている。「触るな」 床へ手を伸ばしかけた悠斗を制し、朔がスマートフォンを拾った。 割れた硝子が掌へ食い込まないよう、手袋の指先で端を挟む。液晶は明滅していたが、配信はまだ切れていなかった。視聴者数は七人のまま。コメント欄だけが止まり、〈SUMIKA〉の名が亀裂の下で歪んでいる。 朔は機内モードへ切り替え、外部との接続を遮断した。それでも配信中の赤い印は消えない。「どうして止まらないの」 奈々香の声は息に近かった。「通信を切ってるのに」「端末上の表示だけ残ってる可能性がある」 朔は画面を操作し、直前の映像を端末内へ保存した。指の動きは落ち着いていたが、再生画面を開いた瞬間、瞳の奥が僅かに狭くなる。 六人が映っている。 その背後、澄花の机には制服姿の少女が座っていた。 長い髪が顔を覆い、頬の輪郭すらほとんど見えない。右手首の赤いものだけが鮮明だった。映像が進むにつれ、少女はゆっくり顔を上げる。けれど、目元が現れる直前で画面が激しく乱れ、黒い横線に飲み込まれた。「澄花なの?」 澪は朔の肩越しに覗き込んだ。「判別できない」「髪も、制服も同じだった」「似せることはできる」 朔は映像を数秒戻した。 少女の輪郭の周囲に、僅かな揺らぎがある。明るさの違う映像を重ねたときに生じる境界にも見えた。 悠斗がそれを指した。「合成だ。最初から撮っておいた女の映像を重ねてる」「どうやってリアルタイムで?」 美月が問う。「奈々香の配信機材に細工すればできる。使
last updateLast Updated : 2026-08-04
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第8話 消された八分十三秒
 朔のすぐ背後で聞こえた呼吸は、振り返ったときには消えていた。 教室の隅まで懐中電灯を向けても、揺れる光の中に人影はない。七つの机、濡れた黒板、口を開けた教師用の引き出し。そこにあるのは、古い校舎の湿気と、六人分の浅い息だけだった。 それでも、澪の耳には少女の喉が震える音が残っていた。 ひゅう、と細く吸い込む息。 泣くことを堪えたまま、誰かの背中へ顔を寄せていたような近さだった。 朔は何も言わず、引き出しから小型ビデオテープを取り出した。白いラベルには、七刻女学校、八年前、未編集とある。黒い文字は乾いているのに、指で触れれば滲みそうなほど濃かった。「本当に、お前の字じゃないのか」 悠斗が訊いた。 朔はラベルを光へ傾ける。「似ている」「似てるじゃなくて」「俺が書くなら、年号を入れる。八年前とは書かない」 淡々とした返答だった。 だが、テープを持つ指先は動かなかった。爪の横へ力が入り、手袋の薄い布が僅かに引きつれている。 澪はその手を見つめた。 八年前、朔は撮影機材のすべてへ自分の字で番号を書いていた。細く右上がりで、角のある文字。ラベルの筆跡は、記憶の中にあるそれとよく似ている。「再生できるの?」 奈々香が扉から離れた場所で言った。「その形、朔が持ってるカメラのテープと違わない?」「違う」 朔は肩に下げていた小型カメラではなく、機材鞄を床へ置いた。 防水の留め具を外し、中から古いビデオカメラを取り出す。 角の擦れた黒い機体。側面には剥がれかけた白い番号札が残っている。八年前、朔が七刻女学校へ持ち込んだものだった。 澪は息を止めた。「まだ持ってたの」「警察から返却された」「いつ?」「事件の半年後」「どうして今日、持ってきた?」 美月の問いに、朔は一拍置いた。「同じ場所へ行くなら、当時の機材が必要になるかもしれないと思った」「何に必要なの」「比較だ。映像に仕掛けがあれば、機種の癖から分かる」 説明に無理はない。 だが、美月の視線は和らがなかった。 朔はカメラの蓋を開いた。内部の受け口と、手に持つテープを見比べる。「規格が違う」 透が近づき、低く言った。「こっちは幅も厚みも合わない」「入るはずがないってこと?」 澪が訊く。「普通なら途中で止まる」 朔はテープを差し込み口へ近づけた。「無理
last updateLast Updated : 2026-08-04
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第9話 原音を知る者
 放送室へ続く廊下は、二年七組の扉の向こうで黒く沈んでいた。 天井のスピーカーは沈黙している。それでも、少女の声が消えたあとの空気には、まだ薄い震えが残っているようだった。 次は、放送室です。 その言葉を聞いてから、誰も最初の一歩を踏み出さなかった。「行かない」 美月が最初に口を開いた。 救急鞄の持ち手を握りしめ、教室の中央に立つ。青白い照明が頬を照らし、疲労の影を深くしていた。「相手の指示へ従うたび、危険が増えてる。門では閉じ込められた。階段では澪が殺されかけた。この教室では、誰かの嘘を数えられた。次が放送室だからって、素直に行く理由はない」「ここへ残る理由もないだろ」 悠斗が工具箱を持ち直す。「扉はまた閉じるかもしれない。廊下へ出られるうちに移動した方がいい」「移動することと、指定された場所へ行くことは別よ」「じゃあ、どこへ行く。出口へ戻ろうとして三回ここへ戻された」「だからこそ、相手が望む方向へ進むべきじゃない」 美月の声には苛立ちより恐怖があった。 感情を押し殺すたび、言葉が鋭くなる。高校時代から変わらない。誰かが怪我をすれば真っ先に駆け寄り、そのあとで無茶をした本人を容赦なく叱った。 澪は朔の手にある古いビデオカメラを見た。 液晶は停止画面へ戻っている。制服姿の少女は消え、青い砂嵐だけが揺れていた。そこに映っていた指先の向きは、今も廊下の奥を示しているように思えた。「放送室なら、校内の設備が集まってる」 透が言った。 それまで壁際で録音機を操作していた彼は、画面から目を上げない。「スピーカーの配線も、校内の集音装置も、元はあそこへつながっていた。今流れてる音の出所を探すなら、放送室が一番近い」「今流れてる音?」 奈々香が眉を寄せる。「放送は止まってるでしょ」「止まってない」 透は録音機の小さなスピーカーを切り、ヘッドフォンの片側を外した。「聞こえないだけだ」 その言い方に、澪の皮膚が粟立つ。 透は再び八年前の映像を再生し、音声だけを自分の機器へ送った。画面には、理科準備室の前で揺れる光景が映っている。澄花が扉の内側へ押し込まれた直後、音が途切れる箇所。 透は波形を大きく広げた。「ここに低い信号が入ってる」 液晶の下端に、ほとんど平らな線が続いている。規則的に盛り上がる小さな山は、澪には機械の
last updateLast Updated : 2026-08-04
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