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この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――
この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――
مؤلف: なつめ

主要人物

مؤلف: なつめ
last update تاريخ النشر: 2026-08-03 20:45:11

登場人物プロフィール

雨宮 澪(あまみや・みお)

年齢:二十四歳

職業:怪談・事故物件を扱うウェブライター

立場:主人公/元・七刻高校心霊研究会部員

容姿

肩へ触れる程度の黒髪を、普段は無造作に下ろしている。前髪はやや長く、考え込むと指先で触れる癖がある。

色白で、整った顔立ちをしているものの、慢性的な不眠のため目の下には薄い隈が残っている。華やかさよりも静かな印象が強く、人混みの中では目立たないが、一度視線を向けると忘れにくい顔をしている。

服装は灰色や紺、黒など落ち着いた色のシャツやパーカーが中心。取材用のスマートフォン、録音機、手帳を常に持ち歩いている。

慎重で警戒心が強く、物事を感情だけで判断しない。怪談を仕事にしていながら、霊の存在を無条件には信じず、まず記録や証言を確認しようとする。

一方で、見捨てられた人間や、誰にも信じてもらえない被害者へ強く感情移入する。自分が傷つくことには無頓着だが、他人が苦しむ場面では危険を承知で動いてしまう。

八年前の事件について曖昧な記憶があり、仲間たちの証言と自分の記憶が食い違うたび、強い不安に襲われる。

臆病であることを隠そうとはしない。しかし恐怖を感じながらも、真実から目をそらさない芯の強さを持つ。

人物紹介

八年前、七刻高校心霊研究会の仲間たちと廃校へ入り、椎名澄花の失踪事件に巻き込まれた。

事件後は故郷を離れ、怪談記事を書くウェブライターとなった。皮肉にも、最も忘れたい夜を思わせる仕事を続けている。

死亡したはずの澄花の番号からチェーンメールが届いたことで、八年ぶりに仲間たちと再会する。


神代 朔(かみしろ・さく)

年齢:二十五歳

職業:映像制作会社勤務/編集・撮影担当

立場:澪の幼馴染/元・心霊研究会撮影担当

容姿

身長は百八十センチ前後。細身だが、撮影機材を運ぶ仕事をしているため肩や腕には適度に筋肉がついている。

黒に近い焦げ茶色の髪を短く整え、前髪を自然に流している。涼しげな目元と穏やかな口元を持ち、初対面の相手にも警戒心を抱かせにくい。

普段は黒いシャツやジャケットを好み、腕時計と小型カメラを身につけている。暗闇でも冷静に機材を扱う姿には、場慣れした落ち着きがある。

性格

温厚で理性的。感情的になった仲間をなだめ、混乱した状況でも次に何をするべきかを判断できる。

面倒見がよく、特に幼馴染である澪の変化には敏感。澪が無理をしていると、本人より先に気づくことが多い。

幽霊や呪いに対しては否定的で、映像、音響、照明、心理誘導など、人間による仕掛けの可能性を優先する。

ただし、冷静すぎるために何を考えているのか分からないことがあり、自分の過去や感情をほとんど語ろうとしない。

高校時代から澪のそばにいた幼馴染。

心霊研究会では撮影と映像編集を担当し、八年前の廃校探索でもカメラを回していた。

現在は映像制作会社でドキュメンタリーや配信番組の編集に携わっている。

仲間の中で最も機材に詳しく、怪異が人為的なものかを検証する役目を担う。危険な場所では常に先頭へ立ち、澪を守ろうとする。


椎名 澄花(しいな・すみか)

失踪当時:十七歳

立場:八年前に失踪した心霊研究会部員

容姿

艶のある長い黒髪と、透き通るような白い肌を持つ少女。

大きな黒い瞳が印象的で、無表情でいると人形のように見えるが、笑うと年齢相応の幼さが現れる。

高校時代は制服をきちんと着ており、赤い髪紐を手首へ巻いていた。古い物を集める趣味があり、小さな巾着袋や傷のついた人形を持ち歩くことがあった。

現在、映像や鏡の中に現れる彼女は、失踪当夜の制服姿をしている。

性格

好奇心旺盛で行動力がある一方、周囲の空気を読むことが苦手。気になるものを見つけると、危険を忘れて調べずにはいられない。

怪談や呪物に詳しいが、噂をそのまま信じるのではなく、怪談が生まれた背景や、忘れられた死者の記録に興味を持っていた。

思ったことを率直に口にするため、仲間と衝突することも多かった。しかし弱い者を笑いものにする行為を嫌い、誰かが傷つけられていると一人でも反論する。

八年前、七刻女学校跡で行われた心霊撮影の最中に姿を消した少女。

校舎には大量の血痕が残されていたが、遺体は発見されていない。

死亡扱いとなった現在も、彼女のスマートフォンは見つかっていない。

八年後、かつての仲間たちへ届いたチェーンメールは、澄花が失踪時に所持していた電話番号から送信されていた。


早乙女 美月(さおとめ・みづき)

年齢:二十五歳

職業:救命救急センター勤務の看護師

立場:元・心霊研究会副部長

容姿

背筋の伸びた長身の女性。黒髪を低い位置で一つに結び、化粧は必要最低限に抑えている。

切れ長の目と薄い唇を持ち、黙っていると近寄りがたい印象を与える。私服も機能性を重視し、動きやすいパンツやスニーカーを選ぶことが多い。

高校時代からほとんど外見が変わっておらず、緊張すると右耳の銀色のピアスへ触れる癖がある。

性格

現実的で責任感が強く、混乱した場面でも負傷者の確認を最優先する。

迷信や感情論を嫌い、怪異を病気、錯覚、集団心理として説明しようとする。しかし自分の理解を超えた現象を目の前にすると、否定することへ執着しすぎる傾向がある。

他人へ厳しいが、自分にはさらに厳しい。八年前に仲間を守れなかったという思いを抱えており、再び犠牲者を出すことを何より恐れている。

高校時代の心霊研究会で副部長を務めていた。

当時から冷静で、危険な探索へ反対することが多かったが、最終的には仲間を止めきれず廃校へ同行した。

現在は看護師として働き、怪異によるものとされる死についても、必ず医学的な原因を探そうとする。


黒瀬 悠斗(くろせ・ゆうと)

年齢:二十五歳

職業:不動産管理会社勤務

立場:元・心霊研究会部長

容姿

身長は百七十六センチほど。髪は明るい茶色に染め、仕事では細身のスーツを着ている。

学生時代は人目を引く快活な少年だったが、現在は頬が痩せ、目元に疲労がにじんでいる。

表情は豊かで愛想もよいものの、追い詰められると爪を噛み、早口になる。

性格

社交的で話術に長け、初対面の相手ともすぐ打ち解ける。高校時代は好奇心と勢いで部員を引っ張り、数多くの心霊スポットへ仲間を連れ出した。

一方で、責任を負う場面では言い訳が先に出る弱さがある。自分が悪者になることを極端に恐れ、都合の悪い事実を曖昧にしようとする。

普段は明るく振る舞っているが、八年前の話題になると態度が変わり、澄花の名を口にすることさえ避けようとする。

かつて心霊研究会の部長として、七刻女学校跡への探索を企画した人物。

現在は事故物件を含む賃貸物件の管理を担当しており、建物の構造、鍵、契約履歴、過去の入居者情報に詳しい。

最初のチェーンメールを悪質な嫌がらせだと主張し、警察へ相談することを提案する。


白石 奈々香(しらいし・ななか)

年齢:二十四歳

職業:美容系動画配信者

立場:元・心霊研究会部員

容姿

ゆるく巻いた栗色の髪と、華やかな化粧が特徴。大きな瞳と愛らしい顔立ちを持ち、画面越しでは常に自信に満ちて見える。

服装にも強いこだわりがあり、心霊スポットへ向かう際にも高価なコートやアクセサリーを身につけている。

左の鎖骨付近に、小さな椿の刺青がある。恐怖を感じると笑ってしまう癖があり、その笑顔がかえって不自然に見えることがある。

性格

明るく人懐こいが、他人からどう見られているかを常に気にしている。

注目されることを好み、高校時代は心霊研究会の活動を面白おかしく周囲へ話していた。一方、孤立することへの恐怖が強く、多数派へ合わせるためなら自分の意見を曲げることもある。

繊細で感情の振れ幅が大きく、強気な態度の裏に深い罪悪感を抱えている。

現在は多くの登録者を持つ動画配信者。

八年前の事件後、心霊関係の話題を避けてきたが、チェーンメールが届いた直後から、配信中の画面へ制服姿の少女が映り込むようになる。

事件を公表すれば注目を集められると考える一方、自分の過去が知られることを強く恐れている。


相馬 透(そうま・とおる)

年齢:二十五歳

職業:フリーの音響技師

立場:元・心霊研究会部員

容姿

痩せ型で、黒い癖毛が耳にかかっている。肌は青白く、眠そうに見える細い目をしている。

首には大型のヘッドフォンをかけ、複数の録音機やマイクを入れた鞄を持ち歩く。

物静かな印象だが、音に集中しているときだけ目つきが鋭く変わる。右手の人差し指に、古い火傷の痕がある。

性格

寡黙で観察力が高い。他人の会話へ割って入ることは少ないが、誰が何を言ったかを正確に覚えている。

映像よりも音を信用し、声の高さ、呼吸、足音、反響の違いから、録音された場所や人物を特定する技術を持つ。

集団行動を好まず、仲間に対しても一定の距離を置いている。秘密主義に見えるが、実際には言葉にすることが苦手で、誤解を解かないまま黙り込んでしまうことが多い。

高校時代は録音機材を担当し、廃校内で聞こえた音を記録していた。

事件後、仲間たちとの連絡をすべて断ち、音響技師として各地を転々としている。

チェーンメールに添付された音声を解析し、その中に八年前の廃校でしか録音されていないはずの音が混ざっていることを発見する。


宮部 理沙(みやべ・りさ)

年齢:二十四歳

職業:区役所職員

立場:元・心霊研究会部員

容姿

小柄で、肩より長い黒髪を一つに束ねている。丸い眼鏡をかけ、色の薄いカーディガンや膝丈のスカートを好む。

学生時代から大人しく目立たない存在だったが、近くで見ると端正な顔立ちをしている。

人と目を合わせることが苦手で、緊張すると鞄の持ち手を両手で強く握る。

性格

真面目で規則を重んじる。書類や数字の間違いによく気づき、記録を整理する能力に優れている。

争いを避けるため、自分の考えを飲み込むことが多い。しかし一度決めたことを曲げない頑固さも持つ。

高校時代は仲間の後ろについていくことが多く、誰かへ反対意見を言うことができなかった。そのことを現在も後悔している。

七刻女学校跡へ入った六人の一人。

現在は区役所で戸籍や住民記録に関わる仕事をしている。

チェーンメールに記された七つの場所を調べる中で、すでに取り壊されたはずの建物や、存在しない住所が公的記録へ残されていることに気づく。


御影 蓮司(みかげ・れんじ)

年齢:二十九歳

職業:建物調査会社代表/不動産鑑定士

立場:澄花の異母兄

容姿

百八十三センチほどの長身。黒髪を短く整え、彫りの深い端正な顔立ちをしている。

鋭い目と無駄のない動作から冷たい印象を与えるが、服装は飾り気のないシャツや作業用ジャケットが中心。

左手首には古い腕時計をつけている。それは、失踪前の澄花から贈られたもの。

性格

無口で疑り深く、他人の証言を簡単には信用しない。

感情を表へ出さないが、妹の失踪事件について独自に調査を続けており、真相を知るためなら危険な場所へも踏み込む。

幽霊の存在には懐疑的で、建物の構造、土地の履歴、所有者のつながりから事件を追う。

澪を含む元部員全員が何かを隠していると考えており、当初は彼らを守るよりも監視する立場を取る。

澄花と父親を同じくする異母兄。

家庭の事情により澄花とは離れて育ったが、妹が失踪する直前まで密かに連絡を取り合っていた。

警察が捜査を終えた後も事件を諦めず、七刻女学校跡と複数の事故物件に同じ所有者が関係していたことを突き止める。

澪とは対立しながらも、七つの呪地を調査する協力関係を築いていく。

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أحدث فصل

  • この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――   第22話 階段の下の少女

    「……上げて」 掠れた声は、階段下の暗闇から聞こえた。 男とも女とも判別できない。喉を潰した人間が、長いあいだ声を出さずにいたあと、無理に息を押し出したような音だった。 五人は動かなかった。 朔が十二段目へ膝をつき、懐中電灯を空洞へ向ける。 白い光が、壁面をゆっくり滑った。 深さは五メートルほど。 底には使われなくなった机や椅子が乱雑に積まれていた。錆びた金属脚が絡み合い、崩れた木製の天板が斜めに立っている。古い配管が壁に沿って下り、底には雨水らしい黒い水が薄く溜まっていた。 人影はない。「誰かいるのか!」 悠斗が叫んだ。 返事はなかった。 先ほどまで聞こえていた爪の音さえ消えている。「空耳……?」 奈々香が美月の腕を掴んだ。「五人とも聞いた」 美月は空洞から目を離さない。「少なくとも、私には聞こえた」 澪も頷きかけた。 そのとき。 朽ちた椅子の隙間で、白いものが動いた。 細い指。 血の気のない小さな手が、折れた机の陰から一瞬だけ伸びたように見えた。「待って」 澪が一歩前へ出る。「今、手が」「何?」「下に誰かいる」 朔が光を戻す。 椅子の隙間。 何もない。「澪、離れて」 美月が肩へ触れた。「人がいるなら救助が必要。でも、まず安全を確認する。五メートルはある。下の床が抜けている可能性も――」「私が下りる」「駄目」「誰かがいるかもしれない」「だからこそ一人では下りない」 美月は強く言った。「さっき悠斗が落ちかけたばかりでしょう」 澪は空洞を見下ろした。 声。 白い手。 そして、耳の奥に蘇る八年前の澄花。『澪ちゃん。開けて』 助けを求める声を聞いた。 それなのに逃げた。 今度も同じことをしたら。「途中まででいい」 澪は朔を見る。「ロープをつけて。何かあったらすぐ引き上げて」「俺が行く」「朔じゃ駄目」「理由は」「私が見たから」 澪の声が僅かに震えた。「白い手を見たのは私。もしまた、私にしか見えてないものなら……私が確かめる」 朔は数秒黙った。 反対したのは美月だった。「危険すぎる」「でも、人がいるなら」「救助する側まで落ちたら意味がない」「分かってる」 澪は自分の腰へ手を当てた。「だからロープを使う」 朔は空洞と澪を交互に見た。 やがて、悠斗

  • この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――   第21話 十三段目

     少女が「十三」と数えた直後、東棟の照明がすべて消えた。 暗闇は一瞬だった。 それでも澪には、その短いあいだに誰かが階段を一段上ったように聞こえた。 こつ。 硬い上履きの底が、木の踏み板へ触れる音。 続いて蛍光灯が白く明滅した。 十二段しかないはずの階段の最上部に、もう一段増えていた。「……何、あれ」 奈々香が美月の袖を握る。 誰も答えなかった。 澪は階段を見上げた。 一階から踊り場まで、十二段。 八年前にも上った。今夜も何度も通った。幅の狭い古い階段で、七段目だけ踏むと軋む。十一段目には大きな欠けがあり、十二段目を越えれば踊り場へ出る。 その十二段目の上に、見覚えのない黒い踏み板があった。 十三段目。 しかも、その先に廊下が続いている。 三階へ上がる階段ではない。 踊り場の壁がなくなり、さらに上の階へ向かう長い廊下が伸びていた。 薄暗い窓。 左右へ並ぶ教室の扉。 天井から垂れる蛍光灯。 突き当たりの壁だけが、霧の中へ溶けるように見えない。「四階……?」 美月が呟く。「ない」 悠斗が即座に否定した。 声がひどく乾いている。「この校舎は三階建てだ」「図面にも?」 澪が訊く。「ない。屋上の設備室ならあるが、人が歩ける階じゃない」 朔は階段へ近づかず、小型カメラを構えた。「全員、その場から動くな」 液晶に十三段目と四階らしき廊下が映っている。 今度は、カメラにも存在していた。 朔は角度を変えた。 正面から。 壁際から。 床近くから。 どの角度でも、十三段目はある。 突然、照明が消えた。「動かないで!」 美月の声。 数秒後、明かりが戻る。 十三段目は消えていた。 その先の四階もない。 十二段目の先には、いつもの踊り場の壁がある。 奈々香が息を呑む。「今、なかった」「ああ」 朔はカメラを確認する。「映像からも消えてる」 また照明が瞬いた。 一度暗くなる。 白い光が戻る。 十三段目。 四階。 存在する。 照明の明滅に合わせ、建物そのものが形を変えているようだった。 澪のスマートフォンが震えた。 続いて四人の端末も同時に鳴る。 七つの学校章。 赤く塗られているのは三つ。 七人目の出席。 校歌。 姿見。 その下へ新しい文章が表示された。 十三段目に

  • この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――   第20話 先に振り返った澄花

     東棟の階段から響いた重い音は、十三度目で止まった。 どん、と最後の一音が校舎の底へ沈み、そのあとには非常ベルだけが残った。 赤い警告灯が明滅するたび、割れた鏡の破片が床の上で光る。つい先ほどまで、その一枚には透の姿が映っていた。 階段へ行くな。 死んだ透の唇は、確かにそう動いていた。「行かない」 澪が言った。 自分でも驚くほど強い声だった。 悠斗が東棟へ続く扉を見た。「でも、今の音を確認しないと――」「透が行くなって言った」「鏡に映ったものを信用するのか?」「今は、何も確認できてないまま近づく方が危ない」 美月も澪の隣へ立った。「賛成。さっきのは人が階段から落ちた音にも聞こえた。でも、本当に人なら声くらい出てもおかしくない。先にここで分かることを調べる」 奈々香は返事もしなかった。左耳に当てたガーゼを押さえ、割れた鏡を見ないよう俯いている。 朔だけは非常ベルの周期を数えていた。 やがて胸元へ固定した小型カメラを外す。「舞踊室の映像を見る」 悠斗が苛立ったように振り返った。「今?」「今だからだ。俺たちが見たものと、記録されたものが一致してるか確認する」 その言葉に、澪の胸元で手帳が重くなった。 中には、澄花の字で書かれた楽譜が挟まれている。 朔が撮っているものと、私たちが見ているものは同じじゃない。 その一文を、澪はまだ誰にも見せていない。 朔は床へ膝をつき、カメラの液晶を開いた。 五人が横一列に並ぶところから映像を戻す。 一往復目。 五人。 二往復目。 五人。 澪たちの記憶では、鏡の中の悠斗だけが半歩遅れた。 だが保存映像では、悠斗もほかの四人と同じ速さで動いている。「違う」 澪が画面へ顔を近づけた。「ここ。悠斗が遅れたはず」「遅れてないな」 美月も確認する。 三往復目。 現実では、鏡の中の奈々香が一人だけ立ち止まった。 映像の中では、五人全員が同じ歩調で端まで進んでいる。「私、止まってたよね」 奈々香が掠れた声を出した。「鏡の中の私だけ。みんな見たよね」「見た」 澪が答える。 美月も頷いた。 四往復目。 澪の呼吸が浅くなる。 このとき、鏡の中には六人いた。 五人の後ろを、制服姿の少女が歩いていた。 右手首には赤い組紐。 けれど、小型カメラの映像には五人しか

  • この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――   第19話 一人遅れる鏡

     西棟一階へ近づくにつれ、雨音が遠くなった。 代わりに、五人の足音だけが長い廊下へ乾いて響く。 東棟よりも荒廃が進んでいるらしく、天井には幾つもの穴が開き、壁紙は湿気を吸って垂れ下がっていた。窓硝子の半分は割れ、黒い板で塞がれている。 それでも、突き当たりにある両開きの扉だけは、不自然なほど形を保っていた。 曇った金属板へ、かすれた文字が残っている。 舞踊室。「ここ……」 奈々香が足を止めた。「覚えてる」 声は小さい。 左耳には美月が当てた薄いガーゼが残っていた。出血は止まっているが、何度も耳へ指を伸ばしかけては、途中で思い直して腕を下ろしている。「八年前に来たよね」「来た」 悠斗が答えた。 迷いのない声だった。「ここの鏡が七不思議の一つだった」 朔は扉の前でしゃがみ、下部へ懐中電灯を向けた。 細い隙間から、埃の積もった床が見える。 糸や配線はない。「どんな噂だった?」 美月が悠斗へ尋ねる。 悠斗は扉の取っ手へ手を掛けながら言った。「午前零時を過ぎて、鏡の前を全員で歩く」 低い軋みとともに扉が開く。「最後の一人だけ、鏡の中に残される」 舞踊室の暗闇が現れた。「残った奴は、翌朝までに消える」 澪の背中を冷たいものが走った。 部屋は細長かった。 奥行きのある長方形で、床には古い木板が敷かれている。壁際には朽ちた手摺が残り、その上を白い黴が這っていた。 そして、左側の壁一面。 端から端まで、巨大な鏡で覆われている。 幾つもの鏡板を並べて作られたものだった。 表面はところどころ黒く曇り、細かなひびも入っている。それでも五人の姿を映すには十分だった。 澪。 朔。 美月。 悠斗。 奈々香。 五人。 鏡の中にも五人。 赤い組紐の入った袋が、澪のポケットの中で僅かに冷たくなった。「当時は何も起きなかった」 悠斗が部屋へ入りながら言った。「澄花がふざけて隠れただけだった」 澪は顔を上げた。「隠れた?」「ああ」「ここで?」「そうだ」 悠斗は当然のことのように答える。「七人で鏡の前を歩いて、最後に数えたら六人しかいなかった。奈々香が泣いて、美月が怒って。あとで澄花が裏から出てきた」「裏って、どこ」「カーテンの向こうか何かだっただろ」 澪は舞踊室を見回した。 壁際にカーテンはない

  • この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――   第18話 逆さに歌う少女

     最後の鍵盤が沈んだまま、戻らなかった。 音楽室の中には、逆向きに流れる少女たちの歌声だけが残っている。 声は天井のスピーカーから降っているはずなのに、澪には壁の内側や床の下、閉ざされた楽器棚の奥からも聞こえた。吸い込まれるような発音。終わった言葉から始まり、息継ぎまで逆へ流れていく。 五人は誰も耳を塞がなかった。 スマートフォンに届いた指示が頭から離れない。 途中で耳を塞いだ人は帰れません。 たとえ人間が作った脅しだとしても、透が死んだあとでは試す気になれなかった。 奈々香は両腕を身体の脇へ押しつけるようにして立っている。耳を塞がない代わりに、指先がレインコートの布を強く掴んでいた。「何か入ってる」 朔が言った。 胸元の小型カメラを外し、録音状態を確認している。「歌以外に?」 美月が問う。「低い声。普通に聞くと潰れてる」 朔はカメラから音声だけを端末へ送り、波形を表示した。 透ほど専門的な機材ではない。それでも映像制作の現場で使う程度の処理はできるらしく、朔は周波数を分け、歌声の高い帯域を少しずつ削っていく。 少女たちの声が薄くなる。 その下から、ざらついた息のようなものが現れた。「逆向きだから分かりにくい」 朔の指が画面を滑る。「戻す」 再生方向を反転させる。 さっきまで喉へ吸い込まれていた声が、今度は自然な歌になった。 古い校歌。 少女たちの合唱。 八年前に澪が廊下で聞いたものと同じだった。 胸の奥がざわつく。 窓の外では雨が降り続いている。楽譜の散らばる床を湿気が這い、腐りかけた木材の匂いへ、古いピアノの塗料と錆の臭いが混ざっていた。 歌声の下に、別の声があった。 小さい。 ひどく近い。『鏡を見て』 澪の肩が強張る。 朔が音量を上げる。『本当の人数は、鏡に映る』 音声が途切れた。 五人は同時に、音楽室の奥を見た。 壁際に、大きな姿見が立っていた。 澪は先ほどまで意識していなかった。 高さは一メートル半ほど。木製の枠は黒ずみ、上部の装飾が半分欠けている。鏡面には斜めへ大きな亀裂が走り、蜘蛛の巣状の細い割れが右下へ広がっていた。「こんなの、あった?」 奈々香が囁く。「最初からあった」 悠斗が答える。「入ったとき、壁際に見えた」「私は見てない」「見てないだけだろ」 奈々

  • この物語を最後まで読んではいけない ――七つの呪地と八人目の犯人――   第17話 誰もいない音楽室

     ピアノは、同じ四小節を繰り返していた。 低い音から始まり、少しずつ高くなる。 途中で一度だけ旋律が途切れ、また最初へ戻る。 廊下の奥。 音楽室の方角。 誰もいないはずの校舎で、一つの鍵盤を人の指が押し、その余韻が消える前に次の鍵盤が沈んでいる。「行かないと駄目なの?」 奈々香がスマートフォンを握ったまま言った。「二つ目は音楽室って書いてあるだけでしょ。無視して出口を探そうよ」「さっき無視しようとして、教室の前へ戻された」 悠斗が答える。「なら、また戻されるだけじゃん!」「声を落とせ」「無理だよ!」 奈々香の声が廊下へ響く。「透が死んでるんだよ。なのに今度は校歌を聞けって? そんなの従ってたら、次に誰が死ぬの?」 その言葉に、全員の視線が担架へ落ちた。 相馬透。 美月の上着を掛けられ、簡易担架に横たわっている。 教室の出席簿では欠席とされ、死んだあとで自分の声を使って返事をした男。 朔が担架の端を持ち直した。「先に透をどうするか決める」「どうするって、運ぶでしょう」 美月が即座に答えた。「さっき決めた」「このまま音楽室へ運ぶのは危険だ」 悠斗が反論する。「狭い防音扉もある。何か起きたとき、担架を持ってたら動けない」「ここへ放置する方が危険よ」「死んだ人間が、これ以上危険になるのか」 美月の視線が冷たくなる。「遺体は証拠よ」「証拠?」「首の傷。磁気テープ。手指に残った傷。衣服。誰かが触れば変わる。私たちが外へ出て警察へ引き渡すまで、できるだけ状態を残す必要がある」「じゃあ担架で連れ回して、階段から落としたらどうする」「置いていけば、誰かに動かされるかもしれない」「誰が」 悠斗が苛立ったように周囲を見回した。「この校舎にいる犯人が?」「そう」 美月は迷わなかった。「少なくとも、透を殺すための装置を作った人間はいる。誰かが透明な糸を使った。小型モーターを取りつけた。放送設備にも細工した。人間が触った痕跡がある」 朔が二年七組を振り返った。 机が七つ並ぶ教室。 扉は開いたままだ。「ここへ置く」 澪が彼を見る。「大丈夫なの?」「扉を内側から固定する。窓も確認する。侵入されたら分かるように痕跡を残す」「私たちが戻れなかったら」 奈々香が言う。 朔は一瞬黙った。「戻る」 断

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