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これからは月は堕ちない
これからは月は堕ちない
Author: ブリジュジュ

第1話

Author: ブリジュジュ
「院長先生、今回の蔵原市の研究プロジェクトに参加することに決めました」

入江月乃(いりえ つきの)の声は揺るぎなく、眼差しには一片の迷いもなかった。

物理研究院の院長は顔を上げ、鋭い視線で彼女を見つめた。

「本当に決めたのか?行けば、少なくとも十年は戻ってこられないかもしれんぞ」

月乃は一度目を伏せ、そしてゆっくりと顔を上げた。その手には、すでに準備された申請書が握られており、迷うことなくそれを差し出した。

院長はしばし沈黙し、熟考の末、印を押した。

「七日後、手続きが完了したら、迎えを手配しよう」

背を向けて立ち去ろうとしたその瞬間、月乃はスタッフたちがひそひそと話している声を微かに耳にした。

「ねえ、あれって東条奥さんじゃない?研究基地って、すごく辺鄙な場所らしいよ。十年は戻れないかもしれないって……東条社長がそんなの許すと思う?」

「一桐市じゃ有名な理想の夫婦だもんね。東条社長は昔、理科のトップだったけど、月乃さんのために一年間浪人生までしたって聞いたよ」

「そうそう、三年前に月乃さんが重病になった時も、東条社長は迷わず腎臓を一つ提供したんだよ。

それに今、二人をモデルにした映画まで公開されるってのに、彼女が蔵原市に行くなんて……東条社長、きっと発狂するんじゃない?」

月乃が部屋を出た時、その瞳には、自嘲と哀しみが滲んでいた。

一桐市では誰もが知っていた……東条優成(とうじょう ゆうせい)は入江月乃を深く愛していたと。彼は命を賭けてでも、彼女を守ろうとしていた。

二人は若い頃に出会い、互いに支え合いながら歩んできた。優成の愛は時を経るごとに深まっていった。

この十年間、月乃はまるでお姫様のように優成に甘やかされてきた。彼女は一度もキッチンに立ったことがなく、下着ですら優成が手洗いしてくれていた。

プロポーズの年、月乃は肺炎で入院し、なかなか快方に向かわなかった。

優成は焦り、ついには寺の前で一ヶ月間も膝をついて祈り続け、頭を地面に打ちつけてでもお守りを求めた。

膝が立たなくなるまで跪きながら、彼はこう言い続けていた。

「神様、どうか俺の月乃を守ってください。もし彼女が無事でいられるのなら、この世の病気も痛みも、すべて俺に与えてください。彼女さえ健康でいてくれれば、俺の身体が動かなくなっても、死んでもかまいません」

病床の月乃はその言葉を聞いて、涙を流しながら思った……彼に出会えたこと、それこそが孤児である自分にとって最大の幸運だと。

だから彼女は決めた。残りの人生を、彼と共に歩もうと。

けれど……

一ヶ月前、月乃は思いもよらぬ事実を知ってしまった。

「愛してる」と口にしていたその男が、かつて彼女の教え子だった女と関係を持っていたことを。

彼は月乃が何も知らないと思い込み、次第に大胆になっていった。車の中、寝室、ソファ、そしてバルコニーにまで、二人の痕跡を残していた。

その真実を知った瞬間、月乃は崩れ落ちる寸前だった。そして最終的に、その残酷な現実を受け入れるしかなかった。

月乃は決断した。離れるのだと。

物理学の教授である彼女は、自ら蔵原市の研究プロジェクトへの参加を申し出た。

十年か、それ以上かもしれない。彼女は優成にもう二度と見たくない。

家の前に車を停め、月乃が暗証番号を入力しようとしたその時、聞くに堪えない声が家の中から聞こえてきた。

「優成、私と奥さん、どっちが優しいと思う?」

「もちろん、君が一番優しいよ。でも、心愛ちゃん、覚えておいて。もし妻にバレたら……絶対に許さないからな」

胸を引き裂かれるような痛みの中、月乃は涙を堪え、暗闇に身を隠し、夜が訪れるまで家に入ることなく静かに外で待った。

家の中は、料理の香りで満ちていた。優成がスープを持ってキッチンから出てくると、彼女の姿を見て目を輝かせた。

「月乃、帰ってきたんだね!今日は遅かったね。一人で家にいると、君が恋しくてたまらなかったよ」

彼は急いで駆け寄り、彼女の手を取ってにっこりと笑った。

「ほら、こっちに来て。君をびっくりさせたいんだ」

月乃は嫌悪感をなんとか抑えながら、ようやくテーブルに近づいた。そして目は自然と、精巧な箱に引き寄せられた。

だが視線はどうしても、ゴミ箱に向かってしまう。その中には、くしゃくしゃになったティッシュが見え、彼女の胃は再び強烈な吐き気に襲われた。

「これは俺が手作業でデザインしたネックレスなんだ。名前は『明月』。世界でただ一つだけ。だって君は、俺の心の中で唯一無二の存在だから」

優成は優しく語りながら、ネックレスを取り出して、彼女の首にかけようとした。

月乃は冷ややかな目で彼を見つめるばかりで、込み上げる不快感を抑えることができなかった。

どうしてこの男は、「愛してる」と言いながら、別の女と寝られるのだろう……彼女はそう思った。

「月乃、これ、つけてあげるよ。月乃は俺のたった一つの月だ。これからも、ずっと一緒にいよう。月乃がいなくなったら、俺、生きていけないよ」

優成は、まるで彼女が突然消えてしまうのを恐れているかのように、ネックレスを彼女の首元へと近づけた。

月乃はその場に立ち尽くし、一歩も動かず、ただその姿を見守った。

その瞬間、本気で思った……

もし本当に彼の元を離れたなら、この男は言った通り、生きていけないだろうか……と。

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