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さようならは蜜の味
さようならは蜜の味
Author: 吉祥天

第1話

Author: 吉祥天
警察署。

久我一臣(くが かずおみ)の体に残るあざを見て、桐谷希和(きりたに きわ)は思わず眉をひそめ、心配な眼差しを向ける。

「またケンカ?もう衝動的にならないって、ちゃんと約束したよね?」

一臣が答える前に、隣の警察官がふっと笑って口を挟んだ。

「ふふ。彼、なかなかすごかったですよ。彼女が不良に絡まれてるのを見て、たった一人で五人に立ち向かってね。結果、その五人、全員病院送りです。一人はまだ意識が戻ってないらしくて……」

その話に、希和の体がピクリと強ばる。声には戸惑いがにじんでいた。

「……彼女?」

警察官が何か続きを言おうとした瞬間、一臣は希和の肩を抱き、彼女を署の外へ連れ出した。そして何事もなかったかのように話し出す。

「俺の彼女、綾瀬ひより。可愛いだろ?今度、希和にも紹介するよ」

突き出されるように見せられた写真を見つめながら、希和の喉の奥に、ぎゅっと締めつけられるような痛みが走った。

昨夜まで、二人は激しく抱き合っていた。ベッドにも、バスルームにも、ソファにも愛し合った痕跡が残るほどに。

しかしたった一日、顔を見なかっただけで……

希和の目が一瞬で赤く染まり、指先に力が入り、爪が掌に食い込む。

「その子があなたの彼女なら……私は何?」

一臣は肩から手を離し、顎を少し上げて希和を見下ろした。嘲るような視線が、真っ直ぐ彼女の胸を射抜く。

「セフレに決まってるだろ?

なあ、希和。俺たちはただの友達だ。まさか、本気だったわけじゃないよな?」

三年も夜を重ねてきたのに――「ただの友達」だと、その一言で切り捨てられた。

体の芯がどんどん冷えていく。それでも希和は諦めきれず、一臣の薄ら笑いを見つめながら問いかける。

「じゃ……どうして、その彼女に迎えに来てもらわなかったの?」

「ひよりは体が弱いし、怖がりなんだ。こんな大雨の中、来させたら可哀想だろ」

あまりにもあっさりとした口調に、希和の喉から苦いものが込み上げてくる。

「可哀想」だから、無理はさせられない。でも希和なら、当然のように呼びつけていい。

「怖がり」だから、嫌な思いはさせられない。でも希和は、こんな状況を何度も経験してきた……

今日、希和が食あたりで体調を崩していたことを、一臣は知っていた。それなのに、無理して迎えに来た彼女に、労いの言葉ひとつもなかった。

そんな彼女の絶望的な表情を見て、一臣は冷たい声で言った。

「もうすぐうちのじいさんの誕生日パーティーだ。ひよりを家族に紹介する予定だからさ……お前、余計なこと言うなよ?

万が一、誤解されるようなこと言ったら……絶交だからな」

その言葉は鋭く冷たい刃となって、希和の胸に深く突き刺さる。心の奥をえぐられ、息ができないほどの痛みに変わった。

久我家と桐谷家は代々の付き合いがあり、一臣と希和は幼なじみだった。子どもの頃から、両家のあいだでは「二人を将来結婚させる」という口約束もあった。

だから、大学の卒業パーティーの夜、酔った勢いで一臣と一線を越えたとき、希和は、きっと彼も自分を想ってくれているのだと、信じて疑わなかった。

けれど、その思いは無残に裏切られた。二人は恋人ではなく、ただの体の関係だと、そう突きつけられたのだった。

そのとき、一臣のスマホが鳴った。

画面に表示された名前を見た彼の顔が、ぱっと綻ぶ。

傘を差し直し、希和から少し離れたところで通話を始めた。

雨音に混じって、一臣の声が途切れ途切れに耳に届く。

「……心配するなって、もう大丈夫だよ。さっき友達が来てくれたから、もう釈放されたんだ……」

そのひとつひとつの言葉が、針のように希和の脳裏に刺さる。体の芯まで冷え込み、骨の髄まで痛みが走った。

そのとき突然、スマホの向こうから悲鳴が響く。一臣は顔色を変え、慌てた様子で叫んだ。

「ひより?どうした!今行くからな!」

次の瞬間、一臣は希和のもとへ駆け寄り、彼女の手から無理やり車の鍵を奪い取った。

「ひよりが足を捻ったらしいんだ、車貸してくれ。お前はタクシーで帰れ」

鍵を奪われた拍子に傘がひっくり返り、希和は雨の中に取り残された。

一臣は振り返ることなく、車を走らせて去っていった。

冷たい雨が容赦なく希和の体を濡らしていく。

顔を伝うのが雨なのか涙なのか、もうわからなかった。

季節はすでに晩秋。雨の夜道に人影はなく、タクシーも一台も通らない。

体調の悪い希和が、びしょ濡れのままようやく自宅にたどり着いたときには、すでに二時間近くが経っていた。

家に入ったその瞬間、一臣から電話がかかってきた。

「希和、もう家に着いたか?」

――一臣は、まだ私のことを気にしてくれてるんだ。

一瞬、そんな淡い期待が胸をよぎった。

しかし一臣の声は、容赦なく現実を突きつける。

「ひよりさ、俺を迎えに来たのがお前だって知って、ずっと不機嫌なんだ。薬も飲まないし、何言っても聞いてくれないんだよ。

それでさ、明日ひよりを友達に紹介しようと思うんだ。お前も来て、ちゃんと彼女に説明してやってくれない?」
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