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第5話

Author: 鳳小安
その日は激しい雨が降っていた。穂波は地面から這い上がり、ふらつく足取りで門の外へと歩き出した。

健造は見かねて、傘を広げて彼女の頭上に差し掛けた。

「奥様、やはり屋敷にお戻りください。明日の朝になれば、車をお使いになれますから」

穂波は振り返ることも立ち止まることもなく、ただ前へと進み続けた。

深夜の高級住宅街には、車1台通っていなかった。

10キロもの道のりを歩き続け、ようやく1台のタクシーを見つけた。

だがその車は止まることなく、彼女の脇を通り過ぎる際に泥水を撥ねて走り去っていった。

病院に駆けつけた時、ちょうど医師が父親の顔に白い布を被せ、母親がその傍らで泣き崩れているところだった。

その光景を見た瞬間、穂波は全身から力が抜け落ちた。

彼女は床にへたり込み、大粒の涙をこぼした。

「嘘よ……お父さん……そんなはずないわ!死ぬはずない!」

「どこに行っていたの!」

彼女の姿を見た母親は、駆け寄るなり容赦なく穂波の頬を張り飛ばした。

「お父さん、死ぬ間際までずっとあなたの名前を呼んでいたのよ。あなたに会うために、3時間も耐え抜いたの!

3時間よ、それなのにあなたは病院に来なかった!穂波、あの冬凌に嫁いでから、あなたは私たちをすっかり見放してしまった!

普段ならそれでも構わないわ、母さんは一度もあなたを責めたりしなかった!でもお父さんが心臓発作で倒れたのよ……あんなにあなたを可愛がってくれたお父さんに、どうしてこんな残酷な真似ができるの!」

「お母さん、ごめんなさい!私が悪かったの!」

穂波は泣きながら母親の足にすがりつき、胸が張り裂けんばかりに号泣した。

「私が悪いの!冬凌なんかと結婚するべきじゃなかった。結婚さえしていなければ、お父さんの最期に立ち会えないなんてことにはならなかった!

私が間違っていたわ、本当に間違っていた!お父さん、許して!お母さん!ごめんなさい!」

冬凌に嫁いでからの数年間、穂波が実家に帰る回数は確かに減り続けていた。

冬凌の態度があまりに冷たかったため、彼女は毎日、どうすれば彼に喜んでもらえるかばかりを考えていたのだ。

彼が会社に行き、その日家に帰らないと聞けば、丁寧なお弁当を作り、会社まで届けた。

たとえ冬凌が気に入らず、毎回ゴミ箱へ直行させたとしても、彼女は諦めずに作り続けた。

冬凌が出張すればこっそり後を追い、突然彼の前に現れてサプライズを仕掛けようとした。だが彼にとって、彼女の出現はただの不愉快な驚きでしかなかった。

盆や正月、親戚回りに同行する時も、行きたくない気持ちを押し殺して1日中笑顔を作り続けた。

両親から帰省するように言われても、いつも時間がないと断っていた。

彼女の心は、すべて冬凌に向けられていたからだ。

強い意志を持って尽くし続ければ、どんな困難も乗り越えられ、いつかは思いが通じると信じていた。

どれほど冷酷な男でも、いつかは自分に心を開いてくれると。

だが彼女は間違っていた。今になってようやく、自分の愚かさを思い知ったのだ!

「穂波!母さんもわざと叩いたわけじゃないの、本当に……悲しくて!お父さんは、あなたに会えなくて……無念のまま逝ってしまったのよ!」

母親が彼女を抱きしめて泣き崩れる中、穂波の心はナイフで何度も抉られるように激しく痛んだ。

篠原家の親族が駆けつけ、母親を手伝って父親の遺体を霊安室へと運んでいく。周囲の者たちが葬儀の話し合いを始めた。

穂波は病院の廊下のベンチに座り、うつむいたままひと言も発しなかった。

涙はとうに枯れ果て、もう1滴も出なかった。

今の彼女に残されているのは、果てしない後悔と苦痛だけだ。幸いにも、あと6日経てば、彼女は冬凌と離婚できる。

呆然としていると、不意に遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「冬凌、大丈夫よ。ただの風邪なんだから、そんなに大げさにしないで。お医者様をあんなにたくさん呼んだら、大病だと思われちゃうわ」

「馬鹿言うな。お前の体は今弱っているんだ。ただの風邪でも心配に決まっているだろう」

穂波が顔を上げると、冬凌が瑶子を支えながらこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

穂波の姿に気づいた瞬間、冬凌の顔色は凍りついた。

「なぜここにいる?俺を尾行でもしたのか?」

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