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episode.6

Author: 甘寧
last update publish date: 2026-02-28 07:00:00

「……お邪魔します……」

「はい。どうぞ」

収録が終り、気配を消して気づかれぬ内に帰ろうとしたが、しっかり仲佐さんに捕まり、あれよあれよと言う間に私のアパートへ。必要な荷物だけ詰め込み、仲佐さんのマンションへ来てしまった。

「この部屋を使って」

通された部屋は客間として使われている部屋だった。

本当にシンプルな部屋で、ソファーとベッドが置いてあるだけ。

「必要なものがあったら言ってね」

パタンとドアが閉められ、一人部屋に残された。

ここまでの記憶がほとんどなく、茫然としたまま仲佐さんのなすがままになっていた。

一旦、気持ちを落ち着かせようと深呼吸をするが、何度息を吸っても落ち着かない。

これから先、仲佐さんの気配を感じながら生活しなければならない。別に嫌だと言っている訳じゃなくて、私の気配も向こうは感じていると思うと、緊張と戸惑いで気が狂いそう。

──とはいえ、今更帰るとも言えない。

「はぁぁ~……」

盛大に溜息を吐くと、持ってきた荷物を片付け始めた。

***

荷物をあらかた片づけ終え部屋を出ると、リビングにいい匂いが広がっていた。

「あ、片付け終わった?お腹すいたでしょ」

「え!?これ、仲佐さんが作ったんですか!?」

「あははは、そんな大したものじゃないけどね」

テーブルの上には出来立ての魚介の入ったトマトのパスタとサラダ。小鉢にはお洒落にオリーブが生ハムと一緒にピックに刺さっている。それにワインもしっかり置かれてる。

(こんなのレストランでも食べたことないよ……)

このレベルを大したことないと言われてしまったら次元が違い過ぎて何も言えない。

「さあ、温かいうちに食べよう。口に会えばいいんだけどね」

恐縮しながら席につくと、手慣れた手つきでワインを開けてグラスに注いでくれる。もはや高級レストランにいるようだった。

「いただきます」

「はいどうぞ」

仲佐さんに見つめられたままパスタを一口口にした。

「んッ!!美味しい!!」

あまりの美味しさに目を輝かせた。お世辞抜きにそこら辺の店より全然美味しい。

「仲佐さん!これ、お店開けますよ!」

「そう?それじゃあ、声優を辞めてパスタやでも開業してみようか」

「え!?」

「冗談だよ」

涼しい顔をしながらクスクス笑ってワインを口に運ぶ仲佐さん。また揶揄われたことに気が付き、ムゥと顔を顰めていると、仲佐さんが私の口の前にオリーブを運んできた。

「ごめんごめん。ほら機嫌直して?」

肩肘を付きながら「口開けて」と言わんばかりに微笑んでくる。いつもなら恥ずかしくてとても出来ないが、この時は酒も入っていて少し大胆になる事が出来た。

「パクッ」と食べると、どや顔で仲佐さんを見返してやった。

まさか本当に私が食べると思っていなかったのか、仲佐さんは一瞬だけ目を見開いた。だが、すぐに「ふはっ!」と吹き出した。

「あははははは!!いいね!ちょっとゾクッとしちゃったよ」

「え?」

「君は本当に知れば知るほど面白い。俺に君をもっと教えてよ」

そう言いながら見つめる視線は獲物を狙う猛獣のようで、少し怖いと思った。この視線に捕らわれたら、もう逃げられなくなりそうだと。

紗千香は誤魔化すようにワインのグラスを手に取り一気に呷った。気まずくなるのを避けたくて、グラスに注がれる度に飲み干していた。

まあ、そんな感じで自分のペースを無視して飲んだ結果……

「大丈夫?」

「大丈夫れすが?」

「いや、それ、大丈夫じゃない人間が言う言葉だからね?」

目が据わり、完全に出来上がった状態で仲佐に絡んでいた。

「ほら、いい子だからもう終わりにしよう?」

「嫌れす!まだ飲みます!」

既に一本空け、二本目を脇に抱えながら止めようとする仲佐を威嚇している。

「参ったなぁ。調子に乗って飲ませ過ぎたか……」

流石の仲佐も手を焼いているようで頭を抱えながら反省していた。

「そうやって言う事聞かない悪い子はお仕置きしちゃうよ?」

「良いですよぉ。仲佐さんは優しいですからねぇ。私の嫌がる事しないですもんねぇ」

「……へぇ?」

仲佐の雰囲気が変わった事に気付かない紗千香。ヘラヘラしながらワインを口に運んでいたが、その手を勢いよく引かれた。体勢を崩し、そのままソファーに倒れ込んだ。床にはワインがこぼれ赤く染まっている。

「何するんですか!?」

「黙れよ」

「!」

紗千香はすぐに怒りを露わにするが、覆いかぶさっている仲佐の威圧に言葉を飲み込んだ。

「言ったろ?君は俺を買いかぶり過ぎだって」

「仲佐さ……」

「ん?どうした?ようやく自分の置かれた状況が分かった?……残念。悪い子にはお仕置きだって言ったよね?」

首筋を指でなぞられ、そのまま唇を押し当て強く吸われた。

「んッ」

思わず声が漏れる。

チュッと音を立てて唇を離すと、白い肌に赤いしるしが付けられていた。満足気にその痕をなぞり、紗千香に視線を移した。

「──あれ?」

そこには、規則正しい寝息を立てた紗千香がいた。

「嘘だろ……この状況で……?」

あ然としながら呟くが、幸せそうに自分の手に頬を擦り付ける紗千香を見ると何も言えず、頭を抱えた。

「まったく……このまま襲ってもいいんだぞ?」

「こら、起きろ?」と優しく頬を突くが、本気で起こす気はない。困ったようにクスッと微笑み「おやすみ」と言って額に軽くキスをした。

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