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episode.4

Author: 甘寧
last update publish date: 2026-02-27 07:00:00

「大丈夫?」

「重ね重ね申し訳ありません」

再び目を覚ました時には夜が明け、外は明るくなっており、既に陽は真上に差し掛かっている。

紗千香は寝起き早々にベッドの上で土下座で頭を下げながら謝罪した。

初めましてのお宅でベッドを占領した挙句、昼近くまで呑気に寝てるなんて無神経にも程がある。自分が自分で信じられない。

仲佐さんは私が起きるまで仕事をしていたらしく、テーブルの上には台本と資料が置いてある。

人気声優ともなれば台本は一つじゃない。それに、声優以外の仕事も受け持っていて、目が回るように忙しいはず。

「すみません。貴重な時間を潰してしまって……」

「全然。俺としては、紗千香ちゃんの寝顔を横目で見ながら仕事ができたから役得だと思ってるよ」

申し訳なさそうに口にするが、返ってきたのはこちらが恥ずかしくなるような言葉。

落ち着いた所で、気を失う前に聞いた言葉の真意を聞くことにした。

「あの……初めての男って……その、そういう……?」

「ん?」

顔を赤らめ恐る恐る聞くと、仲佐さんの口角が吊り上がるのが見えた。

「そうだね。まずはキスから始めようか?」

唇に指を当て、ゆっくりとなぞられた。その瞬間、全身に電流が走ったように体が跳ねる。

完全に言葉を失い口をパクパクさせていると、仲佐さんが「ふはっ」と吹き出した。

「あははは!本当に君はいい反応してくれるね」

また揶揄われたと思ったのと同時に、この人は案外意地が悪い人なのだと知った。

「何か誤解している様だけど、君に手を出すつもりはないから安心していいよ」

「え?」

「ん?出して欲しいの?」

「いや、だって……」

『初めての男』なんてフレーズに思い浮かぶのは一つしかない。他に何があるのか逆に教えて欲しい。

「紗千香ちゃんはさ、俺の色気がどうのとか言ってるけど、単に男を知らなすぎるんだよ。男に免疫がないとも言えるね。だから、俺を使って免疫力を上げればいい」

あ、そういう意味の初めて……なんて紛らわしいと思いつつ、少し残念がる自分がいることに驚く。

「紗千香ちゃんが迫って来てくれたら、喜んで相手するけど?」

私の顔を覗き込み、ほくそ笑みながら言ってくる。そんな事が出来るはずない。例え出来たとしても、この人なら上手くはぐらかしそう。

「さて、そろそろ送ってくよ。ついでだからどこかで飯でも食って行こうか?」

「い、いえ!電車で帰るんで大丈夫です!」

「いいからいいから」

これ以上迷惑かけれないと断るが、仲佐さんは車の鍵を手にすると私の肩を抱いたまま外へ出た。

問答無用で車に詰め込まれ、私を乗せたまま車は発進してしまった。流れる景色を眺めながら、時折運転席に目をやる。窓に肘を置き、片手で運転する姿は眼福以外のなにものでもない。

「そんなに見つめられると恥ずかしいな」

「す、すみません!」

困ったように苦笑いを浮かべたので、慌てて目を逸らした。運転中にじろじろ見られたら、そりゃ気が散って当然だ。

また失敗したと、小さくなって助手席に座る紗千香を見た仲佐は「ふっ」と微笑んだ。

「そう言えば、紗千香ちゃんは俺に憧れてこの世界に入ったって言ってたけど、何かきっかけがあったの?」

「あ、それは」

そこで紗千香は人生に疲れていた時に仲佐の言葉に救われたことを話して聞かせた。

当時の私がどれだけ精神的に苦しかったか、仲佐さんの言葉がどれだけ胸に響いたのかを熱く語ってやった。

「今の私がいるのは仲佐さんのお陰なんです」

そう締めくくると、キーと道の端に寄せて車が停まった。辺りには何もない。あれ?おかしいと思い運転席を見ると、顔を埋めるようにハンドルにもたれる仲佐さんがいた。

「仲佐さん!?大丈夫ですか!?」

肩をゆすって問いかけるが返事はなく、顔も見せてくれない。

「大変……」

これは只事じゃない。具合が悪いのかと思い、誰か助けを呼ぶために車を降りようと、シートベルトを外した。助手席のドアに手を掛けたところで、その手が掴まれた。

「ごめん。大丈夫」

「でも……」

そうは言っているが、顔は俯いたまま。心なしか掴まれた手が熱い気がする。

「やっぱり、人を呼んできます!」

「大丈夫だから!」

大声を出され、手が止まった。

「大きな声出してごめん。本当、大丈夫だから……少しだけ待って」

そう言われたら待つしかない。ドアから手を離し、深く座り直すと仲佐さんから小さな溜息が聞こえた。よく見ると、耳が真っ赤に染まってる。なんなら首まで真っ赤だ。

(あれ?)

「……あの、間違ってたらごめんなさい」

ちゃんと前振りしたところで確信を突く言葉を放つ。

「もしかして、照れてます?」

「……」

黙ったままだと言うのは、肯定しているのと同義。

「え、仲佐さんでも照れる事あるんですか!?」

口をついて出てきた言葉。

「……君さぁ、俺を何だと思ってるの?」

のっそり顔を上げて言い返す仲佐の顔はほんのり赤く染まっている。

「だって、いつも飄々としてるから」

「俺だって人間だよ?恥ずかしくなることだってあるさ」

髪を掻き上げ、恥ずかしそうに顔を歪める姿はかっこいいと言うより可愛いくて、そのギャップにキュンが止まらない。

(これがギャップ萌え!)

なんか自分の開けてはいけない扉を開けてしまいそうになる。流石にそこは自重するが、もう少し見ていたい気もする。

「そうか。紗千香ちゃんの原動力になったのか」

「はい。その節は大変お世話になりました」

頭を下げて伝えると「あははは!」と仲佐さんの笑い声が車内に響く。

「参ったな……思った以上に嬉しい」

柔らかな笑みを浮かべながら呟いた。

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