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第102話

Author: 雪八千
「そうね。もし私がもっと早く、秀一さんと結婚したことを伝えてたら――茂さんは、私を見下すのではなく、利用し始めていたんでしょうね」

玲は淡々と雪乃の言葉を遮り、静かに箸を置いた。「残念だけど――『高瀬家との縁を切る』と明記された協議書は、もう手に入れてあるの。これから高瀬家が誰にすがろうと、私にはもう関係ないわ」

その一言で、雪乃の表情がみるみる強張った。あの協議書が存在する今、これ以上玲を利用しようとすれば、高瀬家の体面が地に落ちる。

雪乃の喉がひゅっと鳴り、顔色が青ざめていく。彼女はようやく気づいたのだ――玲がここまで計算して動いていたことに。

「……あんた、結婚のことを隠して、茂さんに協議書まで書かせたのは、正々堂々と高瀬家を切り離すためだったのね?……玲、茂さんのこと、誤解してるんじゃないの?」

感情を抑えきれず、雪乃の声が震える。「今日はね、茂さんとは関係なく、私自身の意思で来たの。あの人はあんたを利用するなんて考えてない!あんたが疑いすぎなのよ!」

その「正義」を振りかざすような口ぶりに、玲は小さく息を吐いた。冷めかけたうどんを見下ろしながら、低く呟く。

「疑いすぎ?お母さんこそ、茂さんのことを優しく見すぎよ。今日お母さんがここに来たのは、茂さんの指示じゃないのかもしれない――でも、明日は?明後日は?

あの人はね、私が養女だった頃から、力のない私を搾り取れるだけ搾り取ってきた。そんな人が、藤原家の妻になった私を簡単に見逃すと思う?」

玲の言葉には怒りも悲しみもなく、ただ事実だけが冷たく滲んでいた――彼女は知っているのだ。茂という男の本性を、誰よりも。

だからこそ、あの協議書を書かせるしかなかったのだ。

玲は雪乃に目を向け、淡く笑った。

「でもね、お母さん。本当はあなたも気づいているはずよ。長年、あの人と暮らしてきたんだもの。彼がどれほど偽善的で、どれほど自己中心的か――見抜けないはずがない。

それでもあなたは、あの人の優しい言葉に縛られていた。『家のため、みんなのためよく頑張ってくれた』って言われるたびに、自分が誰かの役に立っているって思い込んで、目をつぶってきたのよ。

お母さんがどう生きようと、私には関係ない。でも――見えているのに見ないふりをするような生き方は、私にはできない」

唇の端に、玲は薄く笑みを浮かべた。その笑み
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