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第364話

Author: 雪八千
玲は愛する男と産んだ子ではなかったので、雪乃は彼女に対してずっと冷たかった。それでも、子供の頃の玲は、涙をこらえきれないときや怪我をしたとき、いつだって母親に抱きしめてもらおうと駆け寄っていた。

けれど、雪乃が茂と結婚できる可能性が見え、玲の父、睦月正弘(むつき まさひろ)を死に追いやり、玲を連れて再婚した頃から、親子の関係は急速に変わっていった。

雪乃は高瀬家のことを何より大切に思い、玲の存在をただの「荷物」としか思わなくなった。家政婦たちが陰で彼女の再婚を噂したときも、その苛立ちをすべて玲にぶつけ、冷たい言葉で責め、時には手を上げることさえあった。

かつては母にべったりだった玲も、いつの間にか口数が減り、少しずつ距離を置くようになっていった。雪乃はそれを「成長しただけ」と都合よく解釈していたが──本当は違った。

玲の「誰かに甘える」一面は、今もちゃんと残っている。ただ、それを向ける相手が、もう雪乃ではなくなっただけだ。

その事実に気づいた雪乃は、取り繕うために言おうとしていた言葉を飲み込み、代わりに棘だらけの嘲りを口にした。

「玲、あんたさ……身内と他人の区別もつかなくなったの?ただの友達の前で母親の悪口なんて言って……恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいのはどっちだよ!」

玲が返すより早く、雨音が勢いよく噛みついた。ついさっきまで玲を必死に慰めていたせいで、雪乃の存在を半ば忘れていたほどだ。

「どの口が玲ちゃんの『母親』なんて言えるわけ?玲ちゃんみたいに優しくて可愛い子に、あなたみたいな母親を持ってるなんて、本当にかわいそう!

それにね、私はただの友達じゃないよ。玲ちゃんの姉で、家族で、一番の味方なの。あなたみたいに男に媚びて生きてるおばさんは、こっちの世界に口を挟まないでくれる?

これ以上玲ちゃんに絡んで、意味不明な価値観押しつけて傷つけるなら──私、本気であんたをぶっ飛ばすよ」

玲を守るのは秀一だけじゃない。雨音だって、同じ強さで玲を守る。

……

そしてその日──雨音が直接、高瀬グループに痛烈な一撃を加えたことで、雪乃の玲いびりはそのまま茂の耳に入ることになった。

首都でトップ四と呼ばれる名家、遠藤家の令嬢。雨音は普段、実家の権力を振りかざすような真似は絶対にしないが、だからといって嫌いな相手を懲らしめられないわけではない。

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