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第365話

Author: 雪八千
その夜、秀一は玲を寝かしつけるのに、いつもよりずっと長い時間を費やした。

というのも、病院で雪乃とぶつかったあの場では、結果として玲の勝ちだったとはいえ──これまでにないほどの衝撃が、彼女の心を深くえぐってしまったからだ。

雨音と友也に見送られ、素直に秀一の腕に抱かれて帰ってきたものの、玲の目元はずっと赤く、その涙を落とさないよう、必死に歯を食いしばっていた。

秀一の胸に顔を寄せながら、玲は何度も、何度も同じ言葉を繰り返す。

「秀一さん、私……雨音ちゃんとも話したんです。もう、あの人のことを『母さん』なんて呼ばない。名前に『さん』をつけるつもりもない。これから先、彼女を身内として扱う気もありません。

今まで一度だって、彼女は私を愛してくれなかった。私には価値がないって決めつけて、見下して、傷つけて……ずっとそうでした。

でも、もう黙っている気はないんです。これからは、私がどれだけ価値のある人間か、ちゃんと見せつけてやる。私だって輝いてるって。私を怒らせたらどうなるか、思い知らせてやるんです!」

強く握りしめた拳は小刻みに震えていた。それは強がりと、自分を保つための必死の言い聞かせが入り混じった震えだった。

秀一は返事をしなかった。ただ、氷のように冷え切った玲の背を抱きしめ、少しでも熱を分け与えるように腕に力を込める。

その温かさに触れたことで、張りつめていた玲の神経がようやく緩んでいき──三十分後、ようやく彼の胸の上で息をゆっくり落とし、深い眠りに落ちていった。

そっと玲を枕へ移し、毛布を直すと、秀一は音を立てないように部屋を出た。

雨音が雪乃に制裁を下してくれたとはいえ、それは雨音がしてくれたことであって、秀一とは無関係。だから、自分の手でケリをつけなければ、筋が通らない。そう思って動こうとした、その瞬間──

茂から電話が来たのだ。

出ると、彼の声は妙に誠実で、そして探りを含んでいた。

「秀一くん。今日の件はすべて聞いた。雪乃には、これから二度と玲に近づくなと命じてある。勝手に姿を見せるなんてもってのほかだ。だがな……私たちは男同士だろう?女の揉め事を理由に、私たちの関係まで悪くするのは賢明じゃないと思わないか?」

要するに──自分と秀一の関係まで壊したくない、ということらしい。

秀一は目を細めたが、表情には何の色も浮かばなかった。
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