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5話

مؤلف: Amy
last update تاريخ النشر: 2026-10-09 16:34:04

ひかりが退院した翌日、相馬家では晩餐会が開かれた。

相馬グループの創立記念と新規事業発表の会だ。

出席しないと伝えると、須美子が子ども部屋まで来た。

「御影さんが来るのよ。あなたの元婚約者なんだから、少しくらい役に立ちなさい」

「篠宮家と絶縁した私は、役に立たない嫁じゃなかったんですか?」

須美子の顔がこわばる。

「共同事業が決まれば、相馬家のためになるの。あなたからも取りなして」

「私はひかりのそばにいます」

「看護師をつけると言ってるでしょう。妻として挨拶くらいなさい」

寝かけていた娘が目を開けた。

私は須美子を促して廊下へ出て、扉を閉めた。

彰人には、私からもお礼を言いたい。同じ家の中なら、すぐ戻れる。

「挨拶をしたらすぐ戻ります」

須美子の返事を待たず、部屋へ戻った。

ひかりは絵本を抱えて、また目を閉じていた。

病院から来た看護師に、何かあればすぐ携帯へ連絡してほしいと頼み、私は階下へ向かった。

吹き抜けの大ホールには白い花が飾られ、グラスの触れ合う音が響いていた。

取引先へ挨拶する郁也の隣に、白いドレスの柚香がいる。

私が近づいても、郁也は場所を空けなかった。

妻として来いと言われたのに、その隣に立つ余地もない。

「ひかりちゃん、大丈夫?」

柚香が笑顔を向けた。

「今は寝てる」

「よかった。私も心配してたの」

返事をする前に、御影社長がお見えになりました、という声がした。

須美子と郁也が玄関へ急ぐ。

黒いスーツの彰人は、村瀬を伴って入ってきた。

出迎える客たちの向こうでも、背の高い彼の姿はすぐに見つかった。

須美子に呼ばれ、私も近づいた。

彰人に軽く会釈すると、頭の上から声が落ちてきた。

「俺に過去の非礼を詫びたいらしいな」

「……何の話?私は、そんなこと言ってないわ」

「そうか」

彼の視線が須美子へ移った。

須美子は笑みを崩さず、近くの客に会釈した。

そのとき、すぐ横から、妙に明るい声がした。

「美晴さん、今夜も売る物を探しにいらしたんですか?」

近くで歓談していた客が、こちらを振り向く。

麗奈はワイングラスを手に、にこにこと私を見ていた。

耳元で、あの大きな真珠が揺れる。

「ここなら、高く売れそうな物がたくさんありますものね」

近くで小さな笑い声がした。

須美子が客のひとりへ話しかけると、周囲の顔もそちらへ向いた。

麗奈が私の前へ一歩寄った。

客たちに背を向け、私との間へグラスを持つ手を入れる。

その口元が笑った。

次の瞬間、手首が返り、冷たいワインが胸元へ流れ込んだ。

「あっ、ごめんなさい!」

声に振り向いた客たちの前で、麗奈は空いた手を口元へ当てた。

「そんなところに立っているから……」

冷たいワインが胸元から染み込んでくる。

私は麗奈を見た。

「なんてことするの」

「怖い。少しかかっただけなのに」

「美晴さん、大丈夫?」

柚香が横からナプキンを押し当て、胸元をこすった。

赤い染みがさらに広がっていく。

「いい。自分でやる」

その手を押し戻すと、柚香が顔をしかめた。

「私、拭いてあげようとしただけなのに」

郁也が私の手を見て、眉を吊り上げた。

「そんなふうに手を払うことないだろ」

「わざとワインをかけられたのよ」

「ちょっとこぼしただけだろ。柚香にまで嫌な態度を取るな」

柚香はナプキンを握り、郁也の隣へ下がった。

「お兄ちゃん、私は大丈夫だから」

郁也は柚香を隣に置いたまま、私へ顎を向けた。

「客の前だぞ。着替えてくれば済む話だろ」

私は胸元を押さえた。

須美子が私の前へ出て、客たちに笑いかけた。

「お騒がせして申し訳ありません。どうぞ、お話を続けてください」

それから、彰人へ向き直る。

「御影社長、お席へご案内します。共同事業のお話も、そちらで」

彰人は動かなかった。

「村瀬。共同事業の資料は車に戻せ」

傍らの村瀬が、手にしていた書類入れを持ち直した。

「御影社長、何か失礼が――」

「今日は話す気がなくなった」

私は会場を離れ、2階の夫婦寝室で着替えた。

隣の子ども部屋を覗くと、ひかりは眠っていた。

このまま、娘のそばにいたかった。

「もう少しだけ、お願いします。挨拶を済ませたら戻ります」

看護師に頭を下げ、部屋を出た。

さっきの客たちの前を通りたくなくて、裏階段へ向かった。

1階の配膳室脇へ下りると、小サロンから郁也と柚香が出てきた。

「御影さん、美晴さんを庇ったみたいだったね」

こちらへ近づいてくるふたりを見て、足が止まった。

今は、ふたりに会いたくない。

引き返そうとした瞬間、背後から口元を手で覆われた。

驚いて身をよじると、耳元で低い声がした。

「俺だ」

彰人。

そう分かった途端、腰に腕が回り、すぐ脇の給湯室へ引き入れられた。

扉が閉まり、口元の手が離れる。

私は彼のほうへ向き直った。狭い棚との間で、肩が角にぶつかりかける。

彰人の手が、その間に入った。

「動くな」

外の足音が近づき、私は思わず彼の上着をつかんだ。

背後の棚を避けると、頬が彼の胸に触れた。

恥ずかしいのに、今はこうして身体を預けるしかなかった。

上着越しに体温が伝わってくる。

「私と美晴さん、本当にそんなに似てる?」

扉のすぐ向こうで、柚香の声がした。

私は顔を上げた。

「昔はもっと似てた」

「だから結婚したの?」

彰人の上着をつかむ手が緩んだ。

出ていって、何の話か聞けばいい。

けれど、私がいると分かったら、郁也は本当のことを言わないかもしれない。

私はその場で、扉の向こうへ耳を澄ませた。

「お前に似てなかったら、美晴とは結婚してない」

聞き間違いだと思いたかった。

彰人を見上げても、彼は黙っている。

郁也は私に好きだと言った。

家を出る時も、ふたりなら大丈夫だと手を握ってくれた。

父の反対も、泣いて引き止める母の声も振り切れたのは、あの手を信じたからだ。

それが、柚香に似ていたから?

私が捨ててきたものも、ふたりで生きてきたと思った時間も、郁也には別の意味だった。

膝から力が抜けた。

彰人が腕を支え、私は棚の縁をつかんだ。

「美晴さんに知られたら、どうするの?」

「美晴は俺から離れないよ」

郁也の声には、迷いがなかった。

「俺のために家族まで捨てた女だぞ。あいつには、俺しかいない」

足音が遠ざかっても、私は棚から手を離せなかった。

ふたりなら大丈夫だと、あの人は言った。

私だけが、ずっと信じていたの?

ひかりの顔が浮かんだ。

「ママがいるから、ひかり大丈夫」

娘に励まされながら、私は夫が来るのを待っていた。

あの時こらえた涙が、今になってあふれそうだった。

「……笑えば?」

彰人が顔を寄せた。

「何を」

「あなたを捨ててまで選んだ男が、こんな男だった。笑えるでしょう?」

言い終える前に、声が震えた。

彰人は目をそらさなかった。

「まず、ここを出るぞ」

私は動けなかった。

この扉を出て、着替えた服で客に頭を下げる。夜が終われば、また郁也と同じ部屋へ戻る。

もう、戻りたくない。

ひかりを連れて、この家を出たい。

「……待って」

扉へ向きかけた彰人の手をつかんだ。

「ひかりと私を、ここから連れ出してほしい」

彰人が振り返った。

「……愛人にでも、なるから」

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