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なぜ恋人の私があなたの旧知に我慢すべきなの?
なぜ恋人の私があなたの旧知に我慢すべきなの?
Author: 狐坂

第1話

Author: 狐坂
遥の住むマンションの駐車場は、外部の車の夜間駐車が禁止されている。

だが、蓮はそのまま車を乗り入れた。事前に登録を済ませてあったのは明らかだった。

「蓮、うちのリビングの電気が切れちゃったみたい」

遥は車から降りようとせず、例のプレートを抱えながら、甘えた声でこぼした。

「管理会社には明日じゃないと修理に行けないって言われちゃって。一人だと、ちょっと怖くて」

蓮はシートベルトを外した。

「少し見てくる」

ドアノブに手をかけた瞬間、蓮はバックミラー越しにようやく私に気づいたようだった。

「柚羽。ここで待っていてくれ。10分で戻る」

車内は十分に暖房が効いていた。

それでも、蓮は車を降りる際、マフラーを私の膝の上に放り投げた。

「窓は開けるなよ。お前、冷たい風に当たるとすぐ頭痛がするだろ」

蓮はいつもそうだった。

私の細かな習慣をすべて覚えているくせに、私を車内に置き去りにして、平気で他の女の世話を焼きに行く。

自分は愛されている――そう思いかけるたびに、遥の存在が現実を突きつけてくる。

彼のあの細やかな優しさは、私だけの特別なものではないのだと。

10分が過ぎても、見上げた部屋の窓に明かりは灯らず、蓮も戻ってこなかった。

うつむいてロンドン行きのフライト情報を確認していると、運転席のドアが開いた。

蓮は遅くなった理由を説明することなく、温かいカフェラテを私の手に握らせてきた。

「そこの店で買ってきた。砂糖は入れてない」

すでに飲み口のフタまで開けられていて、温度も私の好みにぴったりな、少しぬるめの絶妙な温かさだった。

私はスマホのチケット購入画面を見つめたまま、私はそのカフェラテに手を伸ばそうとはしなかった。

蓮は数秒待ち、不思議そうにこちらを振り返った。

「何をそんなに熱心に見ているんだ」

私ははっと我に返り、慌てて画面を消してカップを受け取った。

「何でもない。仕事のメール」

蓮はわずかに目を細め、スマホを握りしめている私の右手に視線を落とした。

「嘘だな」

静かに紡がれたその二言が、車内の空気を一瞬で凍りつかせる。

蓮は後部座席に向けて手を伸ばし、手のひらを上に向けた。

「スマホを見せてくれ」

彼は誰よりも私のことを知っている。

緊張すると、私の右手は無意識にスマホの縁をさすってしまうのだ。

動かない私に引きずられるようにして、彼が身を乗り出そうとしたその瞬間、助手席のドアが勢いよく開いた。

遥が再び乗り込んできて、寒さで鼻の頭を赤く染めて言った。

「蓮、うちのブレーカーが落ちちゃって。冷蔵庫にある薬、冷やしておかないとだめなのに」

そこまで一気にまくしたてると、遥はようやく私の方を振り返った。

「ゆず、今夜そっちの家に泊まらせてもらってもいい?」

遥は私の小指にそっと指を絡めてきた。

大学時代、彼女が私の家に泊まりたがるときは、いつもこうして私の手を揺らしながら、頷くのを待っていた。

けれど今回は、私が口を開くより早く、蓮が助手席のシートヒーターのスイッチを入れた。

「部屋はいくらでもある。あいつの許可なんて必要ないだろ」

私はカフェラテを握りしめた。カップの側面がみしりと音を立てて歪む。

二人で暮らすあの家において、決定権のない余所者は私の方だったのだ。

蓮はようやく私に目を向けた。

「主寝室の隣のゲストルームを遥に使わせてやってくれ。遥は眠りが浅いから、今夜はドライヤーを使うなよ」

「あそこはだめ」

新居に引っ越したとき、ゲストルームの鍵を自ら交換したのは蓮だった。

亡き父の遺品がすべてそこに保管されている。

あのとき、私にたった一つの鍵を手渡し、ここには誰も入れないと言ってくれたはずだった。

しかし今、蓮の眉根が不機嫌そうに歪み、その表情は冷たく静まり返っていた。

その様子を察した遥は、目を潤ませてうつむき、蚊の鳴くような声で言った。

「……やっぱりいい。ホテルに泊まるわ。ゆずがおじ様の遺品を誰にも触られたくない気持ち、よく分かるから」

遥が物分かりの良さを示すほど、私が薄情で、心の狭い人間に見えていく。

蓮は冷徹な顔でエンジンをかけた。

「遥は身内も同然だ」

ふっと短い沈黙を挟み、彼はバックミラー越しに私を鋭く射すくめた。

「柚羽。記念日に、これ以上俺の我慢を試すな」

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