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第2話

Auteur: 桜庭 しおり(さくらば しおり)
激しい痛みが、叶音の身体を突き抜けた。

彼女は、遠ざかっていく陵の背中に向かって、必死に叫んだ。

「陵……行かないで……お腹が……!」

陵は一瞬足を止めた。

だが、その瞳に宿るのは、冷たい無関心だった。

「叶音、俺は君の茶番に付き合っている暇なんてない。小夜は芸能人なんだ。もし手に傷でも残ったらどうする?君って、本当に、最低だな」

そう吐き捨てると、陵は小夜を抱き寄せたまま、振り返ることなく立ち去った。

遠ざかっていく彼の背中を、叶音は静かに見送った。

胸の奥で、何かが音もなく崩れ落ちる。

激しい痛みを堪えながら、彼女は掠れた声で周囲に助けを求めた。

「たすけて……お願い……私の赤ちゃんを……!」

脚の間から、熱い液体が流れ落ちる。

鉄錆のような生臭い匂いが、空気に満ちる。

視線を落とすと、そこには鮮やかな血の海が広がっていた。

「いや……」

絶望が波のように押し寄せ、涙が止めどなく溢れる。

まだ守りたい。まだ、失いたくない。

「お嬢さん、大丈夫ですか!?今すぐ救急車を呼びます!」

誰かが駆け寄る声が聞こえた。

救急車の中、叶音は意識が遠のく痛みに耐えながら、必死に医師にすがった。

「先生、お願い……赤ちゃんを、助けて……三ヶ月なんです……まだ小さいんです……」

「大丈夫です。必ず最善を尽くします。ご主人にもすぐ連絡を取ります!」

医師は内心、胎児の救命は難しいと悟りつつも、目の前の彼女を傷つけまいと、優しく言葉を選んだ。

電話をかけると、応答したのは女の声だった。

「はい、なんですか?」

「こちら救急隊です。高瀬叶音さんのご主人でしょうか?高瀬さんが大量出血されています。すぐに病院へ……!」

しかし、返ってきたのは、冷えきった小夜の声だった。

その頃、陵は小夜を病院に送り届け、支払い手続きをしている最中だった。携帯は小夜のバッグの中にあった。

「ふふ……氷川叶音、あんたも必死ね。

子供を使って、陵さんを取り戻そうなんて——無駄なことよ。

三年前、私が留学していなければ、彼の妻は今ごろ私だったわ。最初から、彼が愛していたのは私よ。あんたなんか、勝負にすらならない」

「お願いです、人命がかかっているんです!ご主人を……!」

救急隊員の必死の声を背に、叶音は震える声でか懸命に呼びかけた。

「早見さん……お願い……争いたいわけじゃない……お願い……陵を呼んで……赤ちゃんが……」

「信じられないけど……いいわ。

今日、あなたのお腹の赤ちゃんと、私、どちらが陵さんにとって大切か、はっきりさせましょう」

小夜は小さく笑い、陵に向かって声をかけた。

「陵さん、叶音さんから電話。赤ちゃんが危ないって、戻ってきてほしいって」

陵は眉一つ動かさず、冷たく言い放った。

「無視しろ。どうせまた嘘だ。

今はお前の手のほうが大事だ。すぐ医者が来る。心配するな」

その言葉は、鋭く叶音の胸を突き刺した。

——あぁ、本当に。私たちは、何もかも、最初から違ったんだ。

涙が頬を伝い、視界がぼやける。意識が、音もなく遠ざかっていく。

救急隊員が続けて話す間もなく、向こうはすでに電話を切った。再びかけ直しても、陵の携帯はすでに電源が切られていた。

「なんてことだ……!高瀬さん、安心してください!必ず助けます!」

医師が彼女の手を握り、励ました。

だが、全身を貫く痛みと、流れ続ける血の感触に、叶音はもう、悟っていた。

——赤ちゃんは、もう、いない。

目を覚ましたとき、鼻をつく消毒薬の匂いが漂っていた。

目も鼻もツンと痛く、自然と涙がにじむ。

そばに立っていた医師が、気の毒そうに微笑んだ。

「大丈夫ですよ。まだお若いですし……きっとまた授かれます」

叶音は天井を見つめながら、そっと手を伸ばし、自分の腹に触れた。もう、そこには、何もなかった。

堪えきれずに、涙がぽろぽろとこぼれる。

この子を授かるまでに、どれだけの苦しみがあったか。彼女だけが知っている。

高瀬家の人間たちは、心から彼女を歓迎したわけではなかった。

それでも、妊娠がわかったときだけは——皆、本当に喜んでくれたのに。

なのに。命は、父親である男の手によって、奪われた。

高瀬家の人たちも、これでもう彼女を必要としなくなるだろう。
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Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
亜矢
この後の展開が気になります。
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