「やあ!カナタ、よく眠れたかな?」
「はい、ベッドもふかふかでよく眠れました。ありがとうございます」
気付けば寝落ちしていたみたいで、朝起きた時にはアカリは既に部屋から居なくなっていた。
まあ目を覚まして真横で寝ていたら気まずかったし結果的には良かったよ。
一番大きい広間に集まると、みな準備万端なのか装備はしっかりと装着されていた。
「使徒との戦いかぁ。流石にボクも初めてだからね、どれだけ善戦できるか」
「儂とて長年生きてはおるが使徒との戦闘は初じゃ。魔導の真髄を極めたつもりじゃがそれがどこまで通用するかのぉ」
アレンさんとクロウリーさんがいれば心強いが、相手はアレンさんをも一蹴したペトロさんが恐れる使徒。
あまり楽観視はできなかった。
「人間にあまり期待はしていないけど、あまりに無様な戦いをするようだったら、許可は貰えないと思ってくれよ。私としてはカナタ君が気に入っているからなんとかしてあげたい気持ちはあるが、君達が無様すぎればヨハネも首を縦に振らないだろうから」
要はペトロさん達に頼り切りにならないようある程度戦ってみせろということか。
正直僕はギガドラさん頼りになるが、これも僕の力としてカウントしてもらえるのだろうか。
「ああ、それと。カナタ君、そのギガドラの爪は君の力として扱うといい。彼が君にそれを託した時点でそれは君の力なんだからね」
「分かりました。いざという時は使います」
ペトロさんがそう言ってくれたお陰で少し気が楽になった。
「緊張してきたわね……アカリ、カナタ君を絶対に死なせてはだめよ」
「大丈夫フェリス。片時も目を離すつもりはない」
アカリが僕を守ってくれるようだが、一度僕は使徒同士の戦いを目にしている。
だからたとえアカリが守ってくれていたとしても意味を成さないであろう事は分かっていた。
<リヴァルさんの馬車に乗り込むのは比較的容易だった。というのもリヴァルさんが近づく魔物や魔族を寄せ付けなかったのだ。結界魔法というのは便利だなとつくづく思う。しかしアカリから聞いた話では、移動しながら結界を維持するのは並大抵の魔力量では不可能だそうだ。それに移動しながら結界を維持するのは相当な魔法操作技術がいるらしく、少なくともアカリは無理だと言っていた。高位魔族であるリヴァルさんだからこそできた芸当だったようだ。「さっさと乗れ」「ありがとうございます!」僕と姉さん、アカリが乗り込むとリヴァルさんも一緒に乗り込んできた。この馬車を操作する御者はどうするのかと質問しようとすると、リヴァルさんが先に口を開く。「俺が魔法で操作する。どうせ神域の結界まで辿り着けばそれ以上俺の役割はなくなるだろう。だから魔力をどれだけ使っても問題はない」そんな事が可能なのか。自動運転の車みたいな感じだと思えばいいか。僕らは再度お礼をすると、馬車が動き出した。神域はここからだとかなりの距離がある。数日を要するのは間違いない。食料とか一切積んでいないが、その辺はあまり心配しなくてもいいとのこと。まあ冒険者であるアカリが言うのだから本当に心配する必要はないのだろう。――――――馬車の中では姉さんからの質問が止まらなかった。どうやって魔神を倒したのか、魔法が使えるなんてズルいだとか、世界樹って何?だとか。理解してもらうにはそれなりの時間が掛かったが、数日の旅で姉さんにも理解して貰うことができた。一応邪法に関しては一切話していない。そ
セラさんが両手を前に突き出し結界を形成すると、リサさんは煙のように姿を消した。魔族からの魔法は結界で阻まれ僕まで届くことはない。「なっ!?これを真っ向から防ぐだと!?」魔族が驚愕している声が聞こえてくる。セラさんは中学生のような見た目をしているがれっきとした大人だ。攻撃能力こそないが防御に関して言えばアレンさんの一撃すらも防ぐ事ができる。その能力を買われて"黄金の旅団"に加入したとはアカリから教えてもらった情報だ。そんなセラさんの絶対防御を突破できず狼狽える魔族。しかし魔族が呆然としていれば当然隙だらけになる。「さよなら」「うぐぅぁッ――」いつの間にか魔族の背後をとっていたリサさんが核を破壊し魔族はそのまま息絶えた。「どこかに行かないといけないんですよね?行ってください!」「ありがとうセラさん!それと姿は見えないけどリサさんも助けてくれてありがとう!」僕はまた走り出す。ここまで来るのにかなり助けられているな。その後も何度か魔族が僕目掛けて魔法を放ってきたがその全てを仲間のフォローにより防いでくれていた。アカリも流石にそろそろ疲れてきているのか、一瞬姿を見せた時に顔を見たが額に汗が滲んでいた。みんなの助けを一身に受けリヴァルさんの所まで辿り着くと、姉さんが驚いた表情をしていた。「カナタ!なんで急にどっか行くの!?」「いや、その、ごめん姉さん。それよりもリヴァルさん――」「……リンドール様を倒したのか」僕の言葉に被せるようにしてリヴァ
「その男が言っていただろう。ここは任せておけ。お前には行かねばならん所があるのだろう?」僕が呆然としているとテスタロッサさんに肩を叩かれた。そうだ、ゆっくりしている暇はない。涙を拭うと僕は直ぐ側にいたアカリに声を掛ける。「行こう」「うん」長い言葉は交わさない。必要最低限の会話をすると僕らはリヴァルさんと姉さんの元へと急いだ。魔神がやられたとはいえ魔族や魔物は戦いを止めはしない。魔神の元へと向かった時と同じくアカリが僕らの阻む敵を斬り伏せていく。「貴様らァァッ!リンドール様を――」「うるさい」何か言いながら飛び掛かってきた魔族もアカリが瞬時に斬り伏せる。これだけ忙しなく動き回っているのに汗一つかいていない。ただそんなアカリもたった一人で全てに目を向けるのは難しい。「ガァァッッッ!」突如横から襲い掛かってきた魔物は僕が反応するよりも早く懐へと飛び込んでくる。「うわっ!」咄嗟に両手をクロスして心臓を守る体勢をとったが、その後すぐに突進してきた魔物は吹き飛んだ。何が起きたか理解できずにボケッと吹き飛んだ魔物を見つめていると何処からともなく檄が飛んできた。「何を立ち止まっているの!周りは気にせず先に進みなさい!」声のした方へと顔を向けると精密射撃で僕へと襲い掛かる魔物を狙撃したのであろう体勢のまま声を張り上げるレイさんの姿があった。僕はまた足を動かしレイさんに頭だけ下げて感謝の意を示し走り出した。時々飛んでくる魔法で創られた鋭利な刃は怖いが、その殆どはアカリが防い
春斗がやられた時とまったく同じ光景が目の前に広がっている。あの時は僕に何の力もなかったせいで、手を出すことすら出来なかった。でも今は違う。「邪法!次元破壊!」僕の目が金色に染まり視界に魔神を捉える。この邪法はクロウリーさんから聞いただけのものだ。効果は絶大であるが故に代償も大きい。たった一度の使用でも寿命を十年は削られてしまうだろう。それでも僕は躊躇わなかった。「何だこれは!?」アレンさんに突き刺さった剣を手放し、魔神は自分の両手をマジマジと見つめる。魔神の身体は少しずつ薄くなっていき光の粒子に変わっていく。僕の使った邪法、次元破壊は存在ごとこの世から抹消してしまう恐ろしいものだ。たとえ魔神のような格が違う存在であってもこの邪法の前ではみな等しく消滅する。徐々に消滅していく自分の身体と僕を交互に見ながら魔神は歯を食いしばった。「貴様……このような力を使って無事で済むと思うなよ」「理解しているよ。僕の寿命でお前をこの世から消せるなら悔いはない」「グッ……ぬかったわ……まさかこのような力で負けるとは、な。次に生まれ変わったら、今度は貴様の世界を滅ぼしてやる」魔神の身体は下半身まで消え、残るのは胸から上だけ。僕を睨みながら魔神ヴァリオクルス・リンドールは完全に消滅した。魔神の消滅を確認するとすぐさま地面に横たわるアレンさんへと駆け寄った。「アレンさん!」「邪法を……使いこなしている
魔神が瓦礫を跳ね除けながら血に塗れたマントを翻しゆっくりと歩み寄ってくる。致命傷のはずなのに未だに闘志は消えていないようだ。「人間が邪法を使うだと……?有り得ん……貴様、向こうの世界の人間ではなかったのか」魔神も驚いていたが答えてやる義理などない。僕が黙っていると魔神は片手を持ち上げ僕へと向ける。「させはしないよ!ブラストルイン!」アレンさんが横から魔神に向けて複数の光線を放つと、魔神は咄嗟にそちらへと障壁を展開した。その隙を逃さず魔神の死角からテスタロッサさんが大剣を振るう。「こちらも忘れてもらっては困るぞ!」二方向から攻められれば負傷した状態の魔神でも対処に難航するのかアレンさんからの攻撃だけは防いだがテスタロッサさんの斬撃はモロに受けてしまいまたも古城へと吹き飛ばされた。一気に立場が逆転したみたいで、アカリから受けた核への一突きがかなり効いているようだった。「貴様ら……」「儂もおるぞ?メテオストライク」クロウリーさんが片手を頭上に掲げると何処からともなく熱を帯びた隕石が魔神へと降ってくる。「ヌゥ!この程度でやられると思うなよ人間!カオスブラスト!」かなり疲弊しているはずなのにそれでも迎え撃てるだけの魔力を残している。クロウリーさんの魔法を相殺すると、魔神の視線は僕へと向けられた。「ただの人間かと思っていれば……まさか邪法に手を染めているとは思わなかったぞ。その意気だけは認めてやる」「お前に認められても嬉しくも何ともない」「この我に認められるなどそうそうない事なのだがな……
一歩踏み込んだ僕は自分でも驚くほどの速さで魔神へと肉薄する。魔神も僕がいきなり接近したせいで目を見開いていた。僕には格闘技の経験なんて一切ない。だから見様見真似のパンチを魔神の障壁に向けて繰り出した。硝子の砕ける音と共に魔神を覆っていた薄く紫色の障壁は消え去る。「何だとッ!?」「後は頼む、アカリ!」「任された」背後にアカリの声が聞こえたと思うと、魔神の背中から刃が突き出てきた。即座に魔神の背後へと周り核のある場所を背中からぶっ刺したようだ。「ガハッ……なにが起きて、いる!」魔神は理解が追いついていないようで、自分の身体から血が吹き出ているのが不思議でならない表情をしていた。どうせならこのまま僕も一発喰らわしてやる。勢いづけてもう一発パンチをお見舞いしてやると、砲撃音のような激しい音と共に魔神は古城の壁へと吹き飛んだ。「え?」自分でも驚いてしまった。確かに力を込めて全身全霊の一撃だったとは思うが、そんなに吹き飛ぶとは思ってもいない。「アカリ、後で説明するから今は何も聞かないでくれ」「……分かった」どう考えても普通では考えられない力にアカリだけでなく、アレンさんやテスタロッサさんも目を見開いて驚きを隠せていなかった。「ほう……なかなかモノにしておるのぉ?」クロウリーさんが近寄ってくるとそんな事を呟く。邪法とはよく言ったものだ。多分今の数十秒だけで僕の寿命は数年縮んだに違いない。