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3.お願い、話を聞いて?②

Author: 鷹槻れん
last update Last Updated: 2025-12-11 04:44:00

「――うん。つわりも大分落ち着いて来たから平気。律顕りつあきも……その、お仕事……頑張ってね」

一瞬だけ顔を伏せてからニコッと笑顔を作ると、美千花みちかは何でもない事の様にな言葉を口にした。

今までちゃんと律顕に気持ちをぶつけてこなかったのが今の事態を招いたのだと分かっていても尚、美千花は本心を律顕にぶつけることが出来ない。

「――それで、もし……」

その事に思い至った美千花は「それで、もし時間が出来たら少しだけでも顔を出して欲しい」と続けようとして。

「ん?」

律顕に見つめられた途端、そんなワガママを言って彼を困らせるのはよくないと思って。「ごめん。忘れちゃった」と誤魔化した。

「美千花……僕は……」

そんな美千花に律顕も何か言いたげに口を開きかけたけれど、美千花が小首を傾げて彼を見上げたら「あ、いや、えっと……無理しないでね」と語尾を濁す。

(本当は何を言おうとしたの?)

美千花はそう疑問に思ったけれど、結局お互い本音が言えないままになってしまった。

***

「永田さん、貧血が酷いですね。身体がだるかったりしませんか? あと、体重が前回より物凄く減ってるけど……ちゃんとご飯食べられてます?」

「えっと……しんどいのはずっとなのでだるさはよく分からないんです。食事もすみません。つわりが酷かったので実はあんまり」

担当医の伊藤いとう昭二しょうじに問われて、美千花はオロオロと視線を揺らせる。

美千花の血液検査の結果を眺めながら、眉根を寄せる伊藤医師を見ていると、お腹の中の赤ちゃんは大丈夫だろうかと不安になる。

「十三週と五日か。つわりはまだしんどい?」

カルテから視線を上げて美千花を見つめてくる伊藤に、フルフルと首を横に振る。

「ピークは過ぎたと思います。大分楽になってきたので」

「それは良かった。じゃあこれからは少しずつでもいいから栄養のあるものを食べるよう心がけて? 血液検査の数値が良くないから鉄剤を処方しておきますね」

コクっと頷いた美千花に、「便秘とかある?」と伊藤が何でもないことのように付け加える。

医者なのだからそう言うのはサラリと問うものだと分かっていても、美千花は異性にそんなことを話さなければならない事にちょっぴり羞恥心を覚えて。

「少し……」

小さな声でボソリと告げたら、

「もし便通がなくてしんどくなったら遠慮なく言ってね。あと、副作用でまた気持ち悪いのきちゃうかもだけど、しばらく飲み続けてたら落ち着くはずだからそこは様子を見てね」

優しく微笑まれて、美千花は肩の力がふっと抜ける。

「じゃあ、エコーで赤ちゃんの様子を見てみようか」

伊藤医師が言って。

また下着を脱いで下を晒さないといけないのかと思ってギュッと身構えたら、

「今日はお腹からのエコーだよ」

言われて、美千花はホッと胸を撫で下ろす。

お腹を出すのも恥ずかしいことではあるけれど、カーテン越し、あられもなく脚を開いて下腹部を明け渡すよりはよっぽどいい。

前の健診の時に、経腹エコーに切り替わったら律顕にも動いている赤ちゃんの姿を見せてあげられるかなと思ったのを思い出して、美千花は胸の奥がキュッと締め付けられた。

「ちょっと冷やっとするよ〜」

伊藤医師の言葉に、美千花はコクッと頷いた。

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