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第69話

last update Dernière mise à jour: 2025-05-18 19:58:25

「”私は可愛いです”」

「わ、私は可愛いです……」

「”私は皇羽さんの物です”」

「私は皇羽さんの物です……」

 ん⁉

「違います!」

「……ちっ」

 思わず机を叩いて否定する。すると皇羽さんは「騙されなかったか」と舌打ちをかまし、のっそりと身支度を始めた。

――最悪な夜が明けて、朝。

 目を覚ますと、既に起きていた皇羽さんが隣にいて「おはよ」と甘い声で挨拶してくれた。そしてお姫様抱っこで私をリビングに運び、私の好物・ココアを出してくれる。

 この甘い一日のスタートはなに? 夢?

 まだ寝ぼけているのかと、自分の頬を軽くつねる。

 すると半ば夢うつつな私の目に、紐で縛られた五円玉が写る。長い糸で吊り下げられ、私の前でゆらりと揺れ始めた。

 そうして冒頭の催眠術が開始する。

「新たな嫌がらせですか?」

「バカ言え。俺は真剣だ」

 どうやら皇羽さんは、いくら口で言っても危機感を覚えない私に、催眠術という手を思いついたらしい。私の脳に直接、教えを叩き込もうとしているのだ……いや怖すぎ! ホラーだよ!

「さすがの私も学びましたから! 私が可愛いにしろそうでないにしろ、夜道は危険ということがわかりました。二度目はないので安心してください!」

 ドンと胸を叩く。すると皇羽さんは「へぇ」と、まるで審査するように私をあらゆる角度からジロジロと見つめる。

 何をするかと思えば、指を這わせて体や顔のあちこちをタッチ。

 ちょ、ちょっと!

 審査対象物に、おさわりは禁止です……!

「俺が思うに〝華奢な体をした可愛いが大売り出しの萌々〟に、短時間で世の中のいろはが身につくとは思えないけどな?」

「可愛いが大売出しって……なんですか、それ。初めて聞きました」

「ほんとの事だろ」

 今日の皇羽さんは変だ。変すぎる。厳戒態勢Maxって感じだ。

 昨日のことがあるから警戒するのは分かる。分かるけど……

「今日は学校休め」とか言うし、そのくせに自分はレオをしてくるから家を出ると言うし。その話を聞いた時に私が寂しそうな顔をしたら、いつの間にか催眠術が始まっているし!

 誰か皇羽さんに「落ち着き」をあげてください……!

「皇羽さん、心配しすぎですよ。私は本当に大丈夫ですから。皇羽さんが戻ってくるまで、大人しく家にいますから。ね?」

「萌々……悪いな」

 気丈に振る舞う私を見て、皇羽さんは眉を下げる
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