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第70話

last update Last Updated: 2025-05-19 09:00:49

「皇羽の奴、すごい買ってきてくれてるね! よかったー。俺、少ししか買ってこなかったんだよー」

 そう言いながら、いつの日かと同じように、玲央さんはビニール袋からグミと唐揚げを取り出した。

 むしろ、それだけでどうやって今日を乗り切ろうと思ったのか。小食なのかな、不思議だ。

「調子……良さそうですね、玲央さん」

「うん、おかげさまでね」

 キッチンで、一つのテーブルを囲んで座る。最初こそ一つしかイスがなかったけど、皇羽さんが「萌々の分」と言って、早い段階から買え揃えてくれたのだ。

「せっかくだから何かつまみながら話そうよ」

「えっと、じゃあココアがいいです」

「好きなんだね。冷蔵庫に溢れんばかりに入っている。皇羽の仕業だね」

 ケラケラと笑う玲央さんを見つめる。見るというか観察だ。

 顔色は良さそうだ。いつもと同じようにアイドルスマイルを浮かべている。昨日は本当にしんどそうだったけど、本当にもう大丈夫なのかな?

 すると私の思っていることを悟ったのか。玲央さんは「心配かけたね」と眉を下げた。

「ビックリしたでしょ、いきなり咳きこんでさ。ごめんね、みっともない姿を見せちゃってさ」

「みっともないなんて、そんな事ないです! むしろカッコよくて……。助けて下さり、ありがとうございました。そしてすみませんでした」

「なんで謝るの?」

 キョトンとした顔をした玲央さんに「玲央さんを危険な目に遭わせてしまいました」と再び謝罪する。

 すると、

「俺はね、萌々ちゃんを助ける事が出来て本当に良かったって。そう思っているんだよ」

 玲央さんはすごく真剣な顔をして、一切笑うことなく私を見つめた。昨日、自分がしんどい思いをしているというのに、この人は……。

「……っ」

「ねぇ萌々ちゃん」

 キュッ

 知らないうちに、カタカタと震えていたらしい私の手。それを玲央さんが優しく握る。まるで「大丈夫」と言わんばかりの、そんな手つきだ。

「俺が怪我することよりも、萌々ちゃんが襲われなかった事の方がいいに決まっている。だから謝るのはやめてほしいな。それに萌々ちゃんは、俺を守ってくれたでしょ?」

「守る? 私が玲央さんを……?」

「そう。男から俺を逃がそうとしてくれた。自分が囮になってまで」

――わ、たしの事は……いい、ですから……っ。玲央さんは、早く……逃げて……っ

「あの時は状況が状況だからア
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