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第70話

last update publish date: 2025-05-19 09:00:49

「皇羽の奴、すごい買ってきてくれてるね! よかったー。俺、少ししか買ってこなかったんだよー」

 そう言いながら、いつの日かと同じように、玲央さんはビニール袋からグミと唐揚げを取り出した。

 むしろ、それだけでどうやって今日を乗り切ろうと思ったのか。小食なのかな、不思議だ。

「調子……良さそうですね、玲央さん」

「うん、おかげさまでね」

 キッチンで、一つのテーブルを囲んで座る。最初こそ一つしかイスがなかったけど、皇羽さんが「萌々の分」と言って、早い段階から買え揃えてくれたのだ。

「せっかくだから何かつまみながら話そうよ」

「えっと、じゃあココアがいいです」

「好きなんだね。冷蔵庫に溢れんばかりに入っている。皇羽の仕業だね」

 ケラケラと笑う玲央さんを見つめる。見るというか観察だ。

 顔色は良さそうだ。いつもと同じようにアイドルスマイルを浮かべている。昨日は本当にしんどそうだったけど、本当にもう大丈夫なのかな?

 すると私の思っていることを悟ったのか。玲央さんは「心配かけたね」と眉を下げた。

「ビックリしたでしょ、いきなり咳きこんでさ。ごめんね、みっともない姿を見せちゃってさ」

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