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第3話

Penulis: ぱくちーだめ丸
「そんなこと、僕は一度も言ってないよ。アヒルを数えろって言ったのはお姉ちゃんのほうじゃないか。

ちゃんと数えられたら、お父さんが抱っこしてくれるって、お姉ちゃんが言ったんだよ」

お姉ちゃんには僕の姿が見えない。彼女はアイスの最後のひと口を食べ終えると、満足そうに唇をぺろりとなめて、甘ったるい笑みを浮かべた。

「お父さん、もう心配しなくていいよ。慧ももう子どもじゃないんだから、そのうち帰ってくるって」

お父さんはうなずき、上着を脱いでお姉ちゃんの肩にかけた。仕草はひどくやさしかった。

「やっぱり菜々ちゃんは聞き分けがいいな。さあ、戻ってケーキを切ろう」

三人は背を向け、そのままあたたかな船室へ入っていった。

楽しそうな笑い声が、また中から聞こえてきた。

分厚いガラス越しのその声は、あまりにも遠かった。

僕だけが、扉の外に取り残されていた。

ガラス越しに、三段重ねの大きなケーキが切り分けられるのが見えた。

お姉ちゃんは最初のひと切れをお母さんに食べさせ、二つ目をお父さんに食べさせた。

三人はあんなにも幸せそうに笑っていた。まぶしすぎて、目が痛かった。

一家団欒の光景の中に、最初から僕の居場所なんてなかったんだ。

僕は振り向いて、果てしない海を見た。

遠くの海面に、何かが波に揺られながら浮かんでいるように見えた。

あれは僕の体だった。たったひとりで波に流され、深い闇の底へ沈んでいきながら、魚に食われていた。

「慧は海の中にいるよ。真っ暗で、冷たくて……誰か、慧をおうちに連れて帰って」

僕は船室に向かって叫んだ。声が枯れても、血がにじむほど叫んでも、誰ひとり答えてくれなかった。

返ってくるのは、波が船体を打つ音だけだった。

お父さんはとうとう苛立ちを隠さなくなった。

「ヨットを戻せ!あいつがどこへ行けるのか、見てやる!」

ヨットは向きを変え、全速力で引き返した。

僕は船尾の手すりにしがみつきながら、自分の体がある場所がどんどん遠ざかっていくのを見ていた。

行かないで。

お父さん、お母さん、行かないで。

僕はまだ、そこにいるんだ。

あなたたちのすぐ後ろの海の中にいるんだよ。

ただ一度振り返ってくれれば、僕が見えるのに。

お願いだから、一度でいいから振り返って。

ヨットは岸に着いた。

埠頭はひっそりとしていて、薄暗い街灯がいくつか灯っているだけだった。

そこに僕の姿はなかった。

お父さんはまだ諦めきれず、ボディガードに命じて埠頭近くの監視カメラ映像を出させた。

映像には、ヨットが出ていってから今に至るまで、誰ひとり上陸した記録がなかった。

「あのガキ、まさかまだ海に浸かってるのか?」

お父さんはようやく、かすかな異変を感じ始めた。その根拠のない自信が揺らぎ始めていた。

それでもなお、僕に何かあったとは信じようとしなかった。

お父さんの目には、僕は頭が悪くても妙にしぶといやつとして映っていたからだ。

どれだけ殴っても死なないし、どれだけ罵ってもいなくならない、そんな存在として。

お母さんはスマホを取り出し、位置情報アプリを開いた。

僕が勝手にいなくならないように、二人は僕の腕時計に追跡機能をつけていた。

それが、二人が僕に向けた唯一の関心だった。

「どこにいるか見て、連れ戻して足をへし折ってやるわ」

お母さんはそう言いながら、僕を示す赤い点をタップした。

画面に地図が表示される。

その赤い点は、ぽつんとひとつ、沖合の海上に止まっていた。

埠頭から二十海里も離れた場所だった。

しかも赤い点の横には、高度の表示が絶えず下がり続けていた。

マイナス十メートル、マイナス二十メートル、マイナス五十メートル。

お母さんの手が震え、スマホを落としかけた。

「どういうこと?どうして腕時計が海の底にあるの?」

お父さんも身を寄せて画面を見た。顔が一瞬で真っ青になる。

けれどすぐに平静を取り戻し、むしろ冷たく笑ってみせた。

心の底に湧いた恐怖を、無理やり押さえつけるみたいに。

「あのガキ、腕時計を捨てたんだ。こっちが位置情報で追うのをわかってたんだろう。

わざと海に投げ捨てて、俺たちを慌てさせようとしてるんだ。普段から、どうやって俺たちに反抗するかばかり考えてたんだな」

お父さんの説明を聞いて、お母さんはほっと息をついた。

顔に浮かんでいた動揺は、すぐさま怒りに変わった。愚弄されたと思い込んだ人間の、みっともない逆上だった。

「ほんっとにふざけてるわ!

あの時計、限定モデルなのよ。一つ何百万もするのに、簡単に捨てるなんて!」

僕は二人のあいだに漂いながら、その沈み続ける赤い点を見つめていた。

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