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父と母の画策

Author: 夏目碧央
last update publish date: 2026-06-27 14:29:51

 結局ステッカーとネックレスを買った俺たち。ネックレスはそれぞれ違うアーティストの作品のものを買って、同じ物ではないが、何となくお揃い気分を味わう。ステッカーも違う作品のものを買ったが、お互いに買ったステッカーをスマホケースに入れた。

「なんか、いいっすね。」

成海が隣でニッコリ笑うのを見て、俺もすごく嬉しくなる。が、ほっこりしているところ申し訳なくなるが、この後は俺の実家、というか家に成海を連れて行かねばならない。どうしてこんなにプレッシャーを感じるのだろうか。

「じゃあ、うちに行こうか。」

俺がさりげなく言うと、

「は、はい!」

成海が急に緊張した声で言った。

「なんか、ごめん。」

「どうして謝るんですか、大丈夫です。俺、すごく楽しみです。」

無理してるなあ、と思いながらも仕方がない。とにかく一度母に紹介して、その後はなあなあにして……と俺は考えていた。

 「ただいまー。」

家の玄関に入り、そう言ったか言わないかの内に母が台所から出てきた。

「仁さんお帰りなさい、まあ、まあ、良くいらっしゃいました。成海さんよね?」

母は満面の笑みだ。

「あ、はい!本日は、お招きありがとうございま
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  • イケメン上司とボク   繰り返すキス

     成海を連れて階段を上がり、自分の部屋のドアを開けた。電気を点け、成海を先に中へ入れ、自分も入ってドアを閉めた。成海は部屋の真ん中に突っ立って、こちらを見ている。ちょっと複雑な表情で。「あの、仁さん、何か怒ってます?」成海が言った。俺は真顔で成海を見つめた。俺は怒っているのだろうか。誰に?「いや、怒ってない。」そう言って、成海に抱き着いた。「仁さん?」俺が黙っていると、成海はそのまま背中に腕を回してくれた。そして、そっと頭を撫でてくれる。そうしていると、だんだん心がほどけて行った。「なんであんなに、凛のこと見てたんだよ。」思わず言った。俺、やっぱり成海に怒っていたみたいだ。「え、そんなに見てました?」「見てたよ。」「それは、仁さんと似てるなーと思って、つい。」「それは、そうだろうけど。」そうだろうけど、それでも気に食わない。「怒らないでください。もう仁さんの事しか見ませんから。」成海が言う。「そんなの……」無理だ、と言おうとして顔を上げると、成海が顔を近づけてきて、キスをした。黙るしかない。すると、もう一度キス。顔の向きを変えてまたキス。キス、キス、キス……キスの嵐。何度も唇を重ね、だんだんと唇を吸われるようになり、それと同時に成海が俺の背中を撫でさする。俺も夢中になって成海の背中をさすった。チュッ、チュッとリップ音だけが響く。胸がドキドキする。こんな感覚は初めてだ。これが、恋、なのだろうか。これが愛のあるキス、なのか。 気づけば、成海は俺の唇から頬に、そして首筋にまでキスを繰り返している。クラクラする。もうダメだ。倒れそう。そう思ったら、成海がギュッと俺の腰を引き寄せた。「ちょ、ちょっと待った……。」と俺が言ったその時、部屋のドアがトントンとノックされた。ビックリ。「あ、はい。」急いで成海から離れ、ドアを開けに行く。だが、俺が開ける前にドアがガチャっと開いた。「よお!」そこに立っていたのは兄貴。「仁、お前男連れ込んでんだって?どんな男だ?」いきなりそう言って首を伸ばし、後ろを見ようとする。「ちょっと、その言い方!」だが、兄貴は俺の言葉を無視し、部屋に入って来る。「何か楽しい事やってたらしいんじゃん。知らせてくれないんだもんなー。知ってたらもう少し早く帰って来たのに。」そして成海の前に立ち、「どうも。成

  • イケメン上司とボク   父と母の画策

     結局ステッカーとネックレスを買った俺たち。ネックレスはそれぞれ違うアーティストの作品のものを買って、同じ物ではないが、何となくお揃い気分を味わう。ステッカーも違う作品のものを買ったが、お互いに買ったステッカーをスマホケースに入れた。「なんか、いいっすね。」成海が隣でニッコリ笑うのを見て、俺もすごく嬉しくなる。が、ほっこりしているところ申し訳なくなるが、この後は俺の実家、というか家に成海を連れて行かねばならない。どうしてこんなにプレッシャーを感じるのだろうか。「じゃあ、うちに行こうか。」俺がさりげなく言うと、「は、はい!」成海が急に緊張した声で言った。「なんか、ごめん。」「どうして謝るんですか、大丈夫です。俺、すごく楽しみです。」無理してるなあ、と思いながらも仕方がない。とにかく一度母に紹介して、その後はなあなあにして……と俺は考えていた。 「ただいまー。」家の玄関に入り、そう言ったか言わないかの内に母が台所から出てきた。「仁さんお帰りなさい、まあ、まあ、良くいらっしゃいました。成海さんよね?」母は満面の笑みだ。「あ、はい!本日は、お招きありがとうございます。」成海は元気よく言って、思い切り頭を下げた。「どうぞ上がって~。あ、スリッパをどうぞ。」母はスリッパを成海の為に揃えると、リビングの方へと入って行った。「お邪魔します。」成海はそう言って靴を脱ぎ、スリッパを履いた。何だか俺まで緊張する。 リビングに入ると、父が既にテーブルに着いていて、俺たちが入って行くとやあ、と片手を挙げた。「お父さん、こちら成海準一君。」「どうも初めまして。さあ、座って。」父は上機嫌で言った。「初めまして。ありがとうございます!」成海はやはり深々と頭を下げ、椅子を引いて座った。俺も成海の隣に座る。「りーんー!ご飯だから、下りてらっしゃい。」母が階段の下から妹の凛を呼んだ。「あ、凛というのは妹なんだ。」俺は隣の成海に説明した。「ああ、そうですか。」成海は緊張しているようで顔が硬い。 母がリビングに入ってきて、続いて凛が入って来た。凛の顔を見ると、成海の事を見てハッとしている。来ることを知らなかったのだろうか。「あ、こちら成海準一君。」凛にも成海を紹介した。そして、「妹の凛。」と、改めて成海にも妹を紹介した。「初めまして

  • イケメン上司とボク   美術館デート

     デートと言っても、美術館巡りは俺の日課のようなもので、言ってみれば仕事の延長だ。それに成海をつき合わせてしまうのだ。少し罪悪感がある。 俺たちは、ミュージアムショップで売られるグッズを発案する仕事をしているので、新しいアート展が始まると通える範囲で足を運び、グッズを視察するのだった。美術館巡りは元々好きだし、休日にはよくやっている事だった。「成海!」待ち合わせた上野駅前で、成海を見つけた。相変わらず、スーツ姿とはがらりと印象の変わるやつだ。ガタイの大きさが際立つというのだろうか。半袖のTシャツの下にタンクトップを重ね着して、わざとずらしてタンクトップが見えるようにしているようだ。それは色のコントラストからの推測だが。Tシャツがカーキ色で、タンクトップが白。Tシャツには白い英文字が流れるような筆致で書いてあり、タンクトップもその白い文字に合わせて選んだに違いない。 いつもは上が白、下がジーンズという服ばかり着る俺だが、今日は白い半そでパーカーの下に水色のTシャツを着て、下はくすんだ黒のデニムだった。ちょっとしゃれてみたつもりだが、俺に似合っているのかどうかは分からん。「仁さん、今日は一段とオシャレですね。」成海がそう言って微笑んだ。思わず赤面。「あ、今日は俺につき合わせて悪いな。」照れ隠しもあって、そんな風に言って歩き出した。「とんでもない。俺もこのアート展には行きたかったので。」成海も一緒に歩き出しながら言った。たとえ仕事の延長でも、成海と一緒に歩けたら楽しい。 アート展を観終えてミュージアムショップに入ると、俺たちは真剣に品定めを始めた。「これはステッカーですね!ステッカーってお手頃価格で買いやすいし、スマホケースの中に入れられるし、すごくいいと思うんですけど、意外と売ってるミュージアムショップが少ないんですよね。」成海が展示されていた絵のステッカー、つまりシールを手に取って言った。「そうだな、確かにそれほど多くない。絵葉書や付箋は必ずあるのに。」俺はそう答えながら、物色して歩く。「お、ネックレスがある。こういうの、俺はいいと思うんだよなー。」俺が手に取ったのはアート展の作品にちなんだ形のネックレスだった。高価な物ではないが、他にはないオリジナリティーがある。「ネックレスか。同じようにブレスレットや指輪もあるといいですよね。

  • イケメン上司とボク   連れておいで

     「仁さん、最近週末に出かける事が多いわよね。それってつまり……彼女が出来たって事かしら?」家に帰った途端、玄関先で待ち構えていたかのような母に言われた。「え、いや違うよ。会社の部下だよ。気が合うやつがいて。」ちょっと、まごついてしまったかもしれない。何と言えばいいのか。彼女ではないが、ただの部下ではないという成海の存在を。「部下?女の子?」母はまだ目をキラキラさせて聞いてくる。「男だよ。」俺は逃げるように水道場へ行って、手を洗った。それでも母はまだ追いかけてくる。「なんだ、男の子か。あ、もしかしてあの子?前に言ってたじゃない、ほら。」ドキッとした。俺、成海の事を話した事があったか?「すごく仕事が出来る部下が入ったって。」そんな昔の事を!「よく覚えてるね。」「その子なのね?ねえ、今度うちに連れてきなさいよ。凛がいる時がいいわぁ。」「は?」何を言ってるのだ? 後日、母から予定を聞かれた。「今週の土曜日、出かける?」「うん。」成海と約束をしていた。「どこ行くの?」「えっと、都内の美術館。」隠す事もあるまい。「そう。それじゃあ、帰りに連れてきなさい。」「え、成海を?」「成海さんて言うの?その、部下の男の子。」「うん。」「じゃあ、成海さんを連れてきて、うちで夕飯食べて行ってもらいましょうよ。お母さん、ご馳走作るから。」「あー、成海に聞いてみるよ。」「絶対よー。」まだ諦めてなかったのか。 成海には予め言っておいた方がいいだろうか。いや、母には断られたと言って、成海には言わずにおこうか。しかし、後でバッタリ会ってしまうかもしれないのに、成海の印象を悪くしては良くないか。別に俺たちが結婚するわけではないが、やはりいつも一緒にいれば会う可能性も高い。『成海、明日の美術館の後、うちで夕飯食べるってのはどうだ?母が家に成海を連れてこいって言ってるんだけど』メッセージを送ると、しばらくして返って来た。『喜んで!あ、でもちょっと緊張するっす(笑)』そして、また少ししてから、『ご両親にご挨拶、なんか照れますね。俺、がんばります!』とも。照れる?ああ、恋人の両親に挨拶って事は、結婚を前提に、みたいな?でも、俺たちは結婚なんてできないし、考える必要もないだろうに。いや、でももしかしたらもうすぐ同性婚も認められるかもしれな

  • イケメン上司とボク   スイッチ~仁の苦悩

     成海と手を振って別れ、帰宅の途に就いた。東急線に揺られながら、どうしてこんな事になったのか、を考えていた。何故俺が、男とキスをする事になったのか。 小さい頃から、「仁君は、女の子みたいに可愛い顔をしているわね。」と言われて育った。兄と妹がいるが、兄よりも妹とそっくりで、よく知らない人から「お姉ちゃん」と言われた。だからと言って、大きくなれば女の子と間違われる事もなくなり、酒を飲む年齢になってからは女性と付き合った事もある。こっちから付き合いたいと思った事はなかったが、「夕べ、俺たち付き合おうって言ったよね?」と言われ、覚えていなかったが、自分の言動には責任を持とうと思い、実際に付き合ってみたのだ。 しかし、気持ちが入らないので長続きはしなかった。社会人になってからも同じような事があり、もう女性と飲みに行くのは辞めようと思ったほどだ。どうしてすぐに「付き合おう」などと言ってしまうのか。それとも、相手の女性がウソを言ったのだろうか。そう言うように誘導されたとか? 成海が俺の部署に配属された時、正直何とも思っていなかった。成海は俺の事をポカンと眺め、笑いかけると赤くなって目を反らすような男だった。初対面の男性にはそういう態度を取られる事が多いので、“よくある事”だったのだ。 それでも、大抵の人は俺を「男だ」と認識してゆき、初対面の時のような態度は取らなくなるものだ。ところが、成海はそうではなかった。確かに初対面の時のようにあからさまに見つめる事はなくなったが、ふと気づけば目が合うし、目が合うと急いで反らす。お前は初恋の中学生か!と突っ込みたくなる。 いつまでも、何年もそれが続いた。何とも思っていなかったのに、つい気にしてしまう。おっちょこちょいで物をよく落とすし壊すし、何だか不器用だが、実は頭脳明晰で知識も豊富。調べ方も上手くて、とにかく役に立つ部下だった。何を頼んでも快く引き受けてくれるし、プレゼンがまた上手い。こんなに仕事の出来るやつは珍しい。が、やっぱり抜けていて面白い。もう目が離せなくなっていた。 そして、やっぱり俺は「付き合おう」と言ったらしい。男に向かって無意識に出る言葉ではないだろう。もしかすると、潜在意識の下では成海の事が好きなのかもしれない。最初はちょっとからかうだけのつもりだったが、本当に付き合ってみる事にした。あいつはやっぱり

  • イケメン上司とボク   バックハグからのー

     近くのスーパーで食材を買った。仁さんとスーパーを回りながらあれこれカゴに入れる行為は、なんだか新婚さんみたいでくすぐったくて、すごく恥ずかしかった。でも嬉しい。 家に帰ってきて、買ったものをダイニングテーブルの上に置くと、俺は仁さんを後ろから抱きしめた。実はこうするタイミングを見計らっていた。前を向いているとしにくいので、後ろから狙えるタイミングを待っていたのだ。「な、成海?」「はい。」返事をしても、仁さんは何も言わなかった。その代わり、ちょっと体を動かしてくるりとこちらを向いた。そして両腕を俺の首に絡ませた。見つめ合うと、仁さんが俺の顎に手を掛けた。そして自然に……ごく自然に二人は唇を合わせた。 心臓が大きな音を立てた。唇が離れると、俺は仁さんをギュッと抱きしめた。仁さんも腕を背中に回してぎゅっとしてくれた。念願のハグ。ドキドキが止まらないけれど、とっても心地よい。一生このままでいたい。 だが、立ちっぱなしは疲れる。「あ、座りますか?」俺が体を放して聞くと、仁さんはくすっと笑った。「成海がそういう人で良かった。」仁さんが言った。「え?どういう……」「何でもない。」意味が分からなかったが、それ以上答えてもらえなかった。肉などの食材を冷蔵庫に入れ、短めのドラマを観ることにした。「なあ、BLドラマって見た事あるか?」仁さんが言った。「え、ないです。」俺が首を振ると、「検索してみようぜ。」仁さんがいたずらっぽく笑った。そして見つけたタイのBLドラマを数話分観た。何だか自分たちを見せられているみたいで、平常心では観られなかった。けど、ラブラブなシーンがあると、仁さんが画面を見ながら腕を組んできて、ギュッとするのが嬉しくてたまらなかった。 いい時間になったので、料理を始めた。俺は仁さんの指示の元、ジャガイモの皮を剥いたり、肉を冷蔵庫から出したり、水の分量を測ったりした。それだけ。そして、後は仁さんが切ったり炒めたり煮たりしてくれて、めでたくカレーが出来上がった。美味しそうな香りが漂う。「いっただきまーす!」カレーはものすごく美味くて、熱くて、辛くて、甘かった。「成海、落ち着いて食え。」仁さんが笑いながらそう言った。「ふぁい。はほはほ。すごい、美味いっす!」「良かった、気に入ってくれて。」仁さんはニッコリして、やっと自分

  • イケメン上司とボク   好きになる可能性はゼロじゃない

     ミュージアムグッズの企画を担当する俺たちは、社内プレゼンを行う事になった。会議室でプロジェクターを用い、部長や課長などを前に俺はプレゼンを行っていた。要所、要所で座っている仁さんの方を見ると、満足気に頷いてくれた。俺は安心して次々と提案していった。 一通りプレゼンが終わり、質問に答えたり、部長の要求を聞いたりして、お開きになった時の事だ。片づけようとした俺はプロジェクターにぶつかり、なんとプロジェクターが台から落ちてガシャンと大きな音を立てた。「あ!すみません!」と言って機材の方に手を伸ばそうとしたら、なぜか持っていたレーザーポインターがボキリと折れた。「何やってるんだお前は!」

  • イケメン上司とボク   仁の悪い癖

     付き合うってどうするのだろう。何をするのだろう。連休の間中、悶々と考えた。あのかっこよくて美しくて可愛らしい仁さんが、俺のこ、恋人になるなんて……。控えめに言って奇跡だ。 とりあえずプライベートな連絡先を聞かなくては。会社から支給されているスマホでもメールや電話は出来るが、それをプライベートな連絡(こ、恋人との会話)に使うわけにはいくまい。 翌営業日の火曜日、どんな顔で仁さんに会えばいいのかとソワソワしながら出社した。仁さんは相変わらず美しく、明るく元気だったが、いつもと同じだった。 俺の方に特に目線を送るでもなく、至って普段通り。まあ、仕事中だから当たり前かもしれないが……。とにか

  • イケメン上司とボク   居酒屋でフラフラ~からの「俺たち付き合わない?」

     会社近くの居酒屋に入った。「お疲れ~。」「お疲れさまっす。」カチンと杯を合わせた俺と仁さん。仁さんはお猪口で、俺はジョッキだが。俺たちはカウンター席の端に並んで座った。仁さんはひたすら日本酒を飲んだ。俺は最初生ビールを飲んだのだが、その後はお猪口をもう1つもらって仁さんと同じ日本酒を飲んだ。「いやー、飲み屋に来るのも久しぶりだな。」仁さんが言う。「そうなんすか?」「昔は金曜日と言ったら必ず飲み会だったけどな。あの感染爆発の後はパッタリで。」仁さんは手酌で日本酒を自分のお猪口に注ぎ、まだ少し酒が入っている俺のお猪口にも注いだ。「あ、すんません。」「感染が落ち着いてきたらさ

  • イケメン上司とボク   麗しい仁さん

     「成海、ちょっと。」顔を上げて声のする方に顔を巡らすと、仁さんがこちらを見て手招きをしていた。「はい。」係長の席へと向かう。心臓がドキドキする。叱られるかもしれない、などという理由ではない。麗しい仁さんに呼ばれたから。あの人の近くに行けるから。「なんでしょうか。」「これ、この間の資料。」仁さんは、俺がお願いしていた会社の資料が入っていると思われる、USBメモリを差し出した。「ありがとうございます。」小さなそれを、恭しく受け取った。もう用事は済んでしまった。後ろ髪を引かれながらも、俺は自分の席へと戻った。 うちはミュージアムグッズを作る会社だ。ここは企画部発案課。仁さんは入

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