Partager

連れておいで

Auteur: 夏目碧央
last update Date de publication: 2026-06-26 15:40:24

 「仁さん、最近週末に出かける事が多いわよね。それってつまり……彼女が出来たって事かしら?」

家に帰った途端、玄関先で待ち構えていたかのような母に言われた。

「え、いや違うよ。会社の部下だよ。気が合うやつがいて。」

ちょっと、まごついてしまったかもしれない。何と言えばいいのか。彼女ではないが、ただの部下ではないという成海の存在を。

「部下?女の子?」

母はまだ目をキラキラさせて聞いてくる。

「男だよ。」

俺は逃げるように水道場へ行って、手を洗った。それでも母はまだ追いかけてくる。

「なんだ、男の子か。あ、もしかしてあの子?前に言ってたじゃない、ほら。」

ドキッとした。俺、成海の事を話した事があったか?

「すごく仕事が出来る部下が入ったって。」

そんな昔の事を!

「よく覚えてるね。」

「その子なのね?ねえ、今度うちに連れてきなさいよ。凛がいる時がいいわぁ。」

「は?」

何を言ってるのだ?

 後日、母から予定を聞かれた。

「今週の土曜日、出かける?」

「うん。」

成海と約束をしていた。

「どこ行くの?」

「えっと、都内の美術館。」

隠す事もあるまい。

「そう。それじゃあ、帰りに連れてきな
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • イケメン上司とボク   連れておいで

     「仁さん、最近週末に出かける事が多いわよね。それってつまり……彼女が出来たって事かしら?」家に帰った途端、玄関先で待ち構えていたかのような母に言われた。「え、いや違うよ。会社の部下だよ。気が合うやつがいて。」ちょっと、まごついてしまったかもしれない。何と言えばいいのか。彼女ではないが、ただの部下ではないという成海の存在を。「部下?女の子?」母はまだ目をキラキラさせて聞いてくる。「男だよ。」俺は逃げるように水道場へ行って、手を洗った。それでも母はまだ追いかけてくる。「なんだ、男の子か。あ、もしかしてあの子?前に言ってたじゃない、ほら。」ドキッとした。俺、成海の事を話した事があったか?「すごく仕事が出来る部下が入ったって。」そんな昔の事を!「よく覚えてるね。」「その子なのね?ねえ、今度うちに連れてきなさいよ。凛がいる時がいいわぁ。」「は?」何を言ってるのだ? 後日、母から予定を聞かれた。「今週の土曜日、出かける?」「うん。」成海と約束をしていた。「どこ行くの?」「えっと、都内の美術館。」隠す事もあるまい。「そう。それじゃあ、帰りに連れてきなさい。」「え、成海を?」「成海さんて言うの?その、部下の男の子。」「うん。」「じゃあ、成海さんを連れてきて、うちで夕飯食べて行ってもらいましょうよ。お母さん、ご馳走作るから。」「あー、成海に聞いてみるよ。」「絶対よー。」まだ諦めてなかったのか。 成海には予め言っておいた方がいいだろうか。いや、母には断られたと言って、成海には言わずにおこうか。しかし、後でバッタリ会ってしまうかもしれないのに、成海の印象を悪くしては良くないか。別に俺たちが結婚するわけではないが、やはりいつも一緒にいれば会う可能性も高い。『成海、明日の美術館の後、うちで夕飯食べるってのはどうだ?母が家に成海を連れてこいって言ってるんだけど』メッセージを送ると、しばらくして返って来た。『喜んで!あ、でもちょっと緊張するっす(笑)』そして、また少ししてから、『ご両親にご挨拶、なんか照れますね。俺、がんばります!』とも。照れる?ああ、恋人の両親に挨拶って事は、結婚を前提に、みたいな?でも、俺たちは結婚なんてできないし、考える必要もないだろうに。いや、でももしかしたらもうすぐ同性婚も認められるかもしれな

  • イケメン上司とボク   スイッチ~仁の苦悩

     成海と手を振って別れ、帰宅の途に就いた。東急線に揺られながら、どうしてこんな事になったのか、を考えていた。何故俺が、男とキスをする事になったのか。 小さい頃から、「仁君は、女の子みたいに可愛い顔をしているわね。」と言われて育った。兄と妹がいるが、兄よりも妹とそっくりで、よく知らない人から「お姉ちゃん」と言われた。だからと言って、大きくなれば女の子と間違われる事もなくなり、酒を飲む年齢になってからは女性と付き合った事もある。こっちから付き合いたいと思った事はなかったが、「夕べ、俺たち付き合おうって言ったよね?」と言われ、覚えていなかったが、自分の言動には責任を持とうと思い、実際に付き合ってみたのだ。 しかし、気持ちが入らないので長続きはしなかった。社会人になってからも同じような事があり、もう女性と飲みに行くのは辞めようと思ったほどだ。どうしてすぐに「付き合おう」などと言ってしまうのか。それとも、相手の女性がウソを言ったのだろうか。そう言うように誘導されたとか? 成海が俺の部署に配属された時、正直何とも思っていなかった。成海は俺の事をポカンと眺め、笑いかけると赤くなって目を反らすような男だった。初対面の男性にはそういう態度を取られる事が多いので、“よくある事”だったのだ。 それでも、大抵の人は俺を「男だ」と認識してゆき、初対面の時のような態度は取らなくなるものだ。ところが、成海はそうではなかった。確かに初対面の時のようにあからさまに見つめる事はなくなったが、ふと気づけば目が合うし、目が合うと急いで反らす。お前は初恋の中学生か!と突っ込みたくなる。 いつまでも、何年もそれが続いた。何とも思っていなかったのに、つい気にしてしまう。おっちょこちょいで物をよく落とすし壊すし、何だか不器用だが、実は頭脳明晰で知識も豊富。調べ方も上手くて、とにかく役に立つ部下だった。何を頼んでも快く引き受けてくれるし、プレゼンがまた上手い。こんなに仕事の出来るやつは珍しい。が、やっぱり抜けていて面白い。もう目が離せなくなっていた。 そして、やっぱり俺は「付き合おう」と言ったらしい。男に向かって無意識に出る言葉ではないだろう。もしかすると、潜在意識の下では成海の事が好きなのかもしれない。最初はちょっとからかうだけのつもりだったが、本当に付き合ってみる事にした。あいつはやっぱり

  • イケメン上司とボク   バックハグからのー

     近くのスーパーで食材を買った。仁さんとスーパーを回りながらあれこれカゴに入れる行為は、なんだか新婚さんみたいでくすぐったくて、すごく恥ずかしかった。でも嬉しい。 家に帰ってきて、買ったものをダイニングテーブルの上に置くと、俺は仁さんを後ろから抱きしめた。実はこうするタイミングを見計らっていた。前を向いているとしにくいので、後ろから狙えるタイミングを待っていたのだ。「な、成海?」「はい。」返事をしても、仁さんは何も言わなかった。その代わり、ちょっと体を動かしてくるりとこちらを向いた。そして両腕を俺の首に絡ませた。見つめ合うと、仁さんが俺の顎に手を掛けた。そして自然に……ごく自然に二人は唇を合わせた。 心臓が大きな音を立てた。唇が離れると、俺は仁さんをギュッと抱きしめた。仁さんも腕を背中に回してぎゅっとしてくれた。念願のハグ。ドキドキが止まらないけれど、とっても心地よい。一生このままでいたい。 だが、立ちっぱなしは疲れる。「あ、座りますか?」俺が体を放して聞くと、仁さんはくすっと笑った。「成海がそういう人で良かった。」仁さんが言った。「え?どういう……」「何でもない。」意味が分からなかったが、それ以上答えてもらえなかった。肉などの食材を冷蔵庫に入れ、短めのドラマを観ることにした。「なあ、BLドラマって見た事あるか?」仁さんが言った。「え、ないです。」俺が首を振ると、「検索してみようぜ。」仁さんがいたずらっぽく笑った。そして見つけたタイのBLドラマを数話分観た。何だか自分たちを見せられているみたいで、平常心では観られなかった。けど、ラブラブなシーンがあると、仁さんが画面を見ながら腕を組んできて、ギュッとするのが嬉しくてたまらなかった。 いい時間になったので、料理を始めた。俺は仁さんの指示の元、ジャガイモの皮を剥いたり、肉を冷蔵庫から出したり、水の分量を測ったりした。それだけ。そして、後は仁さんが切ったり炒めたり煮たりしてくれて、めでたくカレーが出来上がった。美味しそうな香りが漂う。「いっただきまーす!」カレーはものすごく美味くて、熱くて、辛くて、甘かった。「成海、落ち着いて食え。」仁さんが笑いながらそう言った。「ふぁい。はほはほ。すごい、美味いっす!」「良かった、気に入ってくれて。」仁さんはニッコリして、やっと自分

  • イケメン上司とボク   家で一緒に映画を観る

     『今度の週末もどっか行く?それとも家で映画とか観るか?』水曜日の退社後、仁さんからメッセージが届いた。俺はそれを見て、電車の中であろうとも、思いっきりにやけた。『うちでアマプラの映画でも観ますか?ネトフリでもいいですよ。仁さんの為なら何だって契約します!』そう返したら、仁さんが大笑いのスタンプを送ってきた。『じゃあ、成海んちで映画って事で!』俺は木曜と金曜の夜、家の大掃除をしたのだった。 土曜日の昼、うちの最寄り駅で仁さんを待った。東急線の小さな駅。駅前には数える程しか店がない。東京都から神奈川県に入ると、急に駅前が寂れるのは何故だろう。 電車が駅に着いたようで、人がまばらに改札から出てきた。目を凝らして仁さんを探すと、まばゆい程の美貌で仁さんが現れた。俺を見るとニヤッとして、軽く片手を挙げた。「おはよ。」「おはようございます。」何だかお互いに照れながら挨拶をした。毎日会社で同じ言葉を発しているのに、会社ではない場所で、ラフな服装で交わす挨拶は、なんだかとても特別な感じがした。「ご飯食べます?」「うん。」つぼ八に入って軽く食事をし、俺の家に向かった。うちに人が来る事自体がとても珍しいのに、この憧れの人が家の中に入るかと思うと、何だか急に緊張してきた。「あ、俺手土産も持って来てないや。何かおやつでも買って行くか。」仁さんが思い出したように言って、途中のコンビニに寄った。仁さんがお菓子を買い、俺はペットボトルのジンジャーエールとお茶を買った。 「お邪魔します。」仁さんがそう言って、家に上がった。「狭い所ですみません。」まだ緊張している俺。「成海、独り暮らしだったんだ。実家はどこなの?」仁さんにソファーを勧めると、キョロキョロしながら座った。「群馬の山奥ですよ。」「へえ。じゃあ冬には雪がたくさん降るのか?」「はい。そりゃあもう。」「スキーとか上手い?」「まあ、ちゃんと習った事はないですが、滑れますね。」そんな話をしながら、俺はグラスを2つ出してきた。「どっちがいいですか?」「じゃあ、ジンジャーエールで。」ジンジャーエールを二人分注いでテーブルに置いた。仁さんがスナック菓子と箱に入ったチョコレート菓子を開けて、やはりテーブルに置いた。「それじゃあ、何か観ましょうか。」テレビをつけ、アマゾンプライムビデオの画

  • イケメン上司とボク   初デート

     平日は以前と変わらない仁さんだった。つまり、俺との関係に進展はなし。でも、週末の約束があるから気にしなかった。周りに関係がバレたら困ると思い、昼ご飯も誘ったりしなかった。お互い一人で済ませて、今まで通りの会話をした。 それでも時々不安になった。やっぱり仁さんが忘れているのではないかと。だが、LINEで何か送ると、ちゃんと返してくれた。『今週末、楽しみですね。』と送れば、『どこの店に行くか決めたか?』と返ってきて、仁さんの方でも色々調べてくれて二人で行く場所を決めたりした。そのやりとりの先頭には、例の『俺たち、恋人同士になろう』の文字がある。大丈夫だ。多分。 土曜日の朝。待ち合わせ場所に現れた仁さんは、とてもシンプルな服装をしていた。白い長そでのシャツに紺色のジーンズ。だが、それが顔の良さを一層引き立てる気がした。俺は薄手のトレーナー(茶系色)に黒いダメージジーンズだった。けっこう頑張ったつもりだ。 俺が声を掛けると、おっ、という顔をした仁さん。「スーツとずいぶん印象が違うな。」と、言ったかと思うと、はた目にも分かるほど赤面した。そして目を反らす。手のひらを頬に当てる仁さん。そして咳払い。「どうしました?」「なんでもない。さ、行こう。」二人は電車に乗って三崎口駅を目指した。車を持っていれば二人きりになれたのだが、残念ながら俺は車を持っていない。仁さんが持っているかどうか知らないのだが、自分がないのに「車ありますか?」などと聞けないので、電車で行く事になったのだ。 お目当ての店に行き、まぐろをたっぷり注文した。そしてやっぱり、「日本酒!」と言う仁さん。そうか、車だったら酒が飲めなかったからいいのか。二人で2合だけ注文し、ゆっくり飲みながらまぐろを堪能した。「あー美味かった。ありがとな、成海。」店を出て歩き出した仁さんが、俺を振り返って言う。俺は嬉しくなって笑った。「こちらこそ。ほんと美味かったですね。」仁さんが少し前を歩き、俺が後ろから付いて行く。「ねえ、俺海が見たい。」突然仁さんが言った。しかし、ここは房総半島の真ん中。海は遠い。「電車で一駅行けば近くまで行けるっしょ。」仁さんが更に言う。なるほど。俺たちは再び京急線に乗り、隣の三浦海岸駅で降りた。 海岸まで歩いて行くと、手ごろなベンチがあった。「そこに座りますか?

  • イケメン上司とボク   どんな人が好き

     その夜、仁さんが日本酒のお店に連れて行ってくれた。「仁さんは日本酒がお好きなんですね。」俺がテーブル席に腰かけながら言うと、「まあ、日本酒が好きというより、日本酒に合うつまみが好きなんだよ。」と、仁さんがやはり座りながら言った。「そうなんですか?焼き魚とか、おでんとか?」「そうそう。お刺身とか、和食全般だな。」仁さんがメニューを見ながら言った。そして、刺身の盛り合わせやら煮込み料理やら焼き鳥やらを注文した。 お猪口に酒を互いに注ぎ合い、乾杯をした。“最初から日本酒”というのはほとんど経験がなかったが、空きっ腹で飲む日本酒は、甘くて辛くてカーッと体に熱を伝えた。今日は対面で座っているので、仁さんの顔が見えて幸せだ。ずっと見ていられる顔というのはこれだ。まさにこれだ。「仁さんって、どんな人が好みなんですか?……あ、これはセクハラじゃないですよね?」この会が何だったのかを俄かに思い出した。セクハラごめんねの会だった。「あはは、今は仕事じゃないからいいんじゃないか?えーと、好みのタイプ?そうだな。仕事が出来て、図体でかいけど、からかうと真っ赤になる人、かな。」仁さんは横を向いてそんな風に言った。ん?仕事はともかく、でかくて、からかうと真っ赤になる……って、俺じゃないか?「あ、仁さん、からかわないでくださいよー。」俺が苦情を申し立てると、仁さんは声を立てて笑った。「じゃあ、成海の好みのタイプは?」逆に聞かれた。「えーと、かっこよくて、明るくて……」俺が考えながら言うと、まだ言い終わらない内に仁さんが、「俺たち、付き合う?」と言った。ハッとして仁さんの顔を見る。仁さんはじっとこちらを見っている。「またですか?」思わず言うと、「え?前にも言った?」仁さんは驚いた顔をした。そうだった、言った事を仁さんは忘れていたのだった。「あ、はい。言いました。前に飲みに行ってカラオケに行った帰りに。」「あちゃー、ごめん。覚えてないや。」「また忘れちゃうんですよね?」これも思わず言ってしまった。「まだ酔ってないから忘れないよ。そうだ、証拠を残しておこう。」仁さんはそう言うと、スマホを取り出した。何やら打ち込んでいる。すると、俺のスマホがブブっと震えた。仁さんが俺の顔を見る。俺に送ったのか? スマホを見ると、仁さんからLINEが来てい

  • イケメン上司とボク   仁の悪い癖

     付き合うってどうするのだろう。何をするのだろう。連休の間中、悶々と考えた。あのかっこよくて美しくて可愛らしい仁さんが、俺のこ、恋人になるなんて……。控えめに言って奇跡だ。 とりあえずプライベートな連絡先を聞かなくては。会社から支給されているスマホでもメールや電話は出来るが、それをプライベートな連絡(こ、恋人との会話)に使うわけにはいくまい。 翌営業日の火曜日、どんな顔で仁さんに会えばいいのかとソワソワしながら出社した。仁さんは相変わらず美しく、明るく元気だったが、いつもと同じだった。 俺の方に特に目線を送るでもなく、至って普段通り。まあ、仕事中だから当たり前かもしれないが……。とにか

  • イケメン上司とボク   好きになる可能性はゼロじゃない

     ミュージアムグッズの企画を担当する俺たちは、社内プレゼンを行う事になった。会議室でプロジェクターを用い、部長や課長などを前に俺はプレゼンを行っていた。要所、要所で座っている仁さんの方を見ると、満足気に頷いてくれた。俺は安心して次々と提案していった。 一通りプレゼンが終わり、質問に答えたり、部長の要求を聞いたりして、お開きになった時の事だ。片づけようとした俺はプロジェクターにぶつかり、なんとプロジェクターが台から落ちてガシャンと大きな音を立てた。「あ!すみません!」と言って機材の方に手を伸ばそうとしたら、なぜか持っていたレーザーポインターがボキリと折れた。「何やってるんだお前は!」

  • イケメン上司とボク   居酒屋でフラフラ~からの「俺たち付き合わない?」

     会社近くの居酒屋に入った。「お疲れ~。」「お疲れさまっす。」カチンと杯を合わせた俺と仁さん。仁さんはお猪口で、俺はジョッキだが。俺たちはカウンター席の端に並んで座った。仁さんはひたすら日本酒を飲んだ。俺は最初生ビールを飲んだのだが、その後はお猪口をもう1つもらって仁さんと同じ日本酒を飲んだ。「いやー、飲み屋に来るのも久しぶりだな。」仁さんが言う。「そうなんすか?」「昔は金曜日と言ったら必ず飲み会だったけどな。あの感染爆発の後はパッタリで。」仁さんは手酌で日本酒を自分のお猪口に注ぎ、まだ少し酒が入っている俺のお猪口にも注いだ。「あ、すんません。」「感染が落ち着いてきたらさ

  • イケメン上司とボク   麗しい仁さん

     「成海、ちょっと。」顔を上げて声のする方に顔を巡らすと、仁さんがこちらを見て手招きをしていた。「はい。」係長の席へと向かう。心臓がドキドキする。叱られるかもしれない、などという理由ではない。麗しい仁さんに呼ばれたから。あの人の近くに行けるから。「なんでしょうか。」「これ、この間の資料。」仁さんは、俺がお願いしていた会社の資料が入っていると思われる、USBメモリを差し出した。「ありがとうございます。」小さなそれを、恭しく受け取った。もう用事は済んでしまった。後ろ髪を引かれながらも、俺は自分の席へと戻った。 うちはミュージアムグッズを作る会社だ。ここは企画部発案課。仁さんは入

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status