送ってもらった日から一ヶ月ぐらいが経った。
いつもは十七時くらいにお迎えに行けるんだけど、いつもよりも遅くなってしまって十八時になっていた。保育園の門の前で久しぶりに彼とばったり会う。
「この前、あ、もう一ヶ月前になりますけど……。あの時は送ってくださり、ありがとうございました」 「いえいえ、こちらこそ、トイレを貸してくれて、ありがとうございました」お互いに深々とお辞儀をする。
教室まで行き、いつものように帰る準備をして玄関へ。
「柚希ちゃんの家にまた行きたい!」
斗和ちゃんが玄関で突然言いだす。 「斗和、もう夜ご飯の時間だから、また今度ね」 と、彼が穏やかな口調で言った。――えっ? また今度?
その言葉に敏感に反応してしまったけれど、ただとりあえず、娘を帰る気持ちにさせるためだけに言ったのかな?
「柚希ちゃんと遊びたい!」 「私も斗和ちゃんうちに来て欲しい!」 子供たちが一致団結して口々に言う。しばらく続きそう。「江川さん!」
「はい!」 不意に彼に名前を呼ばれ、私はドキッとした。 「お時間あればなんですけど、すぐ近くにある公園に行きませんか?」 「……そうですね、ちょっとでも遊べば本人たち満足しそうですしね」日が落ちてきて、少し寒いから本当にちょっとだけ遊ぶ感じかな?
二十分後。何度も子供たちに声をかけたけれど、彼女たちは、ジャングルジム、ブランコ、滑り台、シーソーを何回も順番に繰り返し、ずっと「あともうちょっとだけ遊ぶ!」と言い、遊び終わる様子がない。
あぁ、これ、ご飯作る時間なくなるやつだ。今冷凍のおかずのストックもない。この後適当にお惣菜買って今日はやり過ごそうかな? そろそろ半額シール貼られる時間だろうし。
「江川さん!」
「はい!」 本日名前を呼ばれるのは二回目。 二回目だけど呼ばれた時にドキッとするのは変わらず。「ご飯、準備されてたりします?」
「いえ、今日はもうお惣菜買って過ごそうかなと」 「じゃあ、どこか食べに行きませんか?」 「えっ?」――何これ、夢?
お誘いにのった。「とりあえず、自転車をうちに置いてきますね!」
「いや、車に乗せますよ!」そんなこと、イケメン人気俳優に、二度もしてもらうだなんて。
頑なに拒否をして、娘を後ろに乗せ自転車を漕いだ。
自転車を走らせていると、彼の車が横を通り過ぎていく。
家に着くと、すでに彼の車が停まっていたから、自転車から降りるとすぐに乗り込んだ。「何か食べたいものありますか?」
「食べたいもの……。柚希、何か食べたいおかずある?」 「ハンバーグと、スパゲティと、オムライスと、あとね、お肉!」 「分かりました! じゃあいっぱい食べられる場所に行きましょう! 場所は、僕が選んで大丈夫ですか?」 「はい、むしろお願いします!」どこに行くのかがとても気になった。
すごい稼いでそうだし、高級なレストランだろうか。そういうの慣れていないから、場違い感が凄くて、その場から浮いちゃったら、どうしよう。
そそくさと帰るわけにも行かないだろうし。そんな不安を抱いていたけれど、たどり着いた場所は、想像していない場所だった。
着いたのは『ファミリーレストラン FUWARI』。ここは、お手頃な価格でメニューが豊富。
駐車場に車を停め、外に出た。
柚希と斗和ちゃんが仲良く手を繋ぎ、とてもはしゃいでいる。
「子供たち、楽しそうですね」
彼は優しい眼差しで子供たちを見つめている。 「そうですね!」 私も一緒に子供たちを見つめていた。店内に入ると、肉を焼いたような匂いが充満していて、お腹がすく。夕食の時間だから結構混んでいたけれど、空席がちょうどあり、すぐにウェイトレスさんが案内してくれた。
ボックス席。私と柚希、彼と斗和ちゃんがそれぞれ隣同士に座る。
「先に選んでください」
彼からメニューが載っているタブレットを受け取り、私は柚希と画面を覗き込んだ。柚希はすぐに「これが良い!」と、お子様ランチを指さした。
私はどうしようかな?
久しぶりの外食だし、とても迷ってしまう。 お子様ランチには柚希が食べたいって言ってた、ハンバーグとオムライスがちょうど両方ある。確かさっき、スパゲティも食べたいって言ってたっけ? ちょっと分けてあげようかな? 私はスパゲティナポリタンにした。肉も食べたいって言ってたけれど、ハンバーグって肉だよね?斗和ちゃんもお子様ランチにして、彼はチーズハンバーグセットを選んだ。
全てが揃い、みんなそれぞれ食べ始める。
子供たちは終始機嫌がよくて、平和なご飯タイムになり、安堵した。
でもご飯中、少し気になることもあった。 近くに座っていた家族がコソコソ話しながら、ちらちらとこっちを見ていた。――あ、そっか。
私はすぐにその理由が分かった。
きっとあの人たちは、彼、『生田蓮』を見ている。食事中はマスクを外しているから、彼の正体がはっきり分かる。彼は、子育てで仕事の量を減らしているとはいえ、それでもメディアへの露出は多く、人気は衰えない。
それどころか、最近、彼が出ている映画が公開された。それが今、あちこちで宣伝されている。私はプロモーションの予告動画しか見てないけれど。
大人気漫画が実写化されたもので、アクションシーンが豊富な時代物の映画。その中で彼が演じた役は、爽やか系な俳優が演じるヒーロー役と対峙する、ブラックすぎる俺様系の悪役だった。すらっとして高い身長と、クールな顔つきがその役を一層引き立てていた。彼は演技が上手いから、リアルな彼も、そんなふうにブラックな性格ではないのか?と思える雰囲気だった。
けれどリアルはとても謙虚で礼儀正しい。
そのギャップがより好印象。私は家に送ってもらった日から、彼に詳しくなり、隠れファンのようになっている。
「気になります? すみません」
「えっ?」 彼は、ちらちら見てくる家族に視線を一瞬だけ移し、目配せした。 ――私があの家族の視線を気にしていること、気がついてくれたんだ。「生田さんこそ、大丈夫ですか? 私といるせいで、変な噂が立ったりしません?」
「いや、僕はこういうの慣れてますし、大丈夫ですよ! それに、噂なんて気にしないですし。別に悪いことしてるわけじゃないので」
私がもしも彼の立場だったら、すごく気にすると思う。小さな噂も俳優として人前でお仕事をしている彼にとっては、時には致命的。下手したら仕事がなくなってしまう原因にもなりかねないし。
「気にしない」って言葉は気を遣って言ってくれたのかもしれないし、本音なのかもしれなくて、分からない。けれどなんだか一緒にいると、優しさと共に彼の強さも感じる。
こっちを見てくる家族は先に帰った。
心が軽くなった。自分の分を食べ終えてから、柚希が食べきれなかったお子様ランチのおかずも全て食べきる。
最後は、四人で声を合わせて「ごちそうさまでした!」と言った。
子供たちは満足した様子。彼が先にレジへ行き、全ての支払いを済ませる。
私は財布をだし、自分たちが食べた分のお金を彼に渡そうとした。「いや、お金出さなくていいよ!」
「いや、出します!」出さないといけない。
だって、私と彼はそんなに親しいわけではないし。「出さなくてもいいよ!」
「受け取ってください!」言葉は平行線のまま。
「じゃあ、僕が支払った見返り?として、ひとつ、お願いしてもいいですか?」
「はい、是非! 私に出来ることなら」 「また、一緒にこうやってご飯食べに行くの、お願いしても良いですか?」――えっ? えーっ!!
確かに私に出来ることですけど。
そうして私たちは、子供たちのお迎え時間を合わせ、そのまま一緒にご飯を食べに行くようになっていった。
そして、彼と連絡先の交換もした。
あれから三年が経った。 子供たちは小学三年生に。「はい、OKです!」と、監督さんの声。 今日はうちのリビングで、とある空気清浄機のCM撮影をしている。出演者はパパと、一歳になった私の娘、羽花(うか)。撮影が始まる前に、一日の流れの説明と共に見せてもらった絵コンテの通り、順番にひとつひとつのシーンを撮り終えていく。ちなみに撮影現場を見るのは初めてで、子供たちと私は、興味津々。 邪魔にならないように、荷物置き場になっている寝室で「上手く行きますように!」と、ドキドキしながら撮影を見守っている。 今、監督さんと彼、スタッフさんで撮れたものをモニターで確認している。「大丈夫そうですね、これで全部撮り終えました。お疲れ様でした!」 撮影が終わった。羽花が出来るだけ普段通りでいられるようにと、本番中、外で待機していたスタッフさんたちが入ってきた。そして撮影に使った道具の片付けを始める。 私はリビングのふわふわした白い絨毯の上で眠っていた羽花を抱っこした。 監督さんに話しかけられる。「奥様、今日は素敵なお家を使わせていただき、撮影にご協力くださり、本当にありがとうございました」 「こちらこそ、貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」 「子供が遊べるスペースもあって、本当に綺麗で素敵なおうちですね」 「ありがとうございます。夫が、家建てる時に子供が過ごしやすいようにって考えた設計なんです」 「そうなのですね。生田さんらしいです。生田さん、いつも撮影現場でもひとりひとりに気を遣ってくださるし、羽花ちゃんが産まれたばかりの頃かな? 現場一緒になった時、奥様の寝不足や子供たちのことをとても心配されていたりもして、素敵なパパなんだろうなって、スタッフと話していましたよ」 噂の彼を見ると、スタッフさん達と一緒に撮影道具を片付けていた。 はい! 私の夫は世界一素敵です! 私は心の中で叫んだ。 皆がいなくなり家族だけになると、彼は大きなため息をついた。「こんなに撮影で緊張したの、初めてかも。羽花がきちんと笑ってくれるのかな?とか、眠ってくれるかな?って。そんな理由で撮影緊張するなんて、考えたことなかったな」 「私もすごく緊張した。無事終わって良かったね! 羽花とパパの共演、放送されるの楽しみ!」 私もほっとしながらそう言った。
しばらくまったりしていると、目の前に置いてあった私のスマホのバイブがなり『拓也』という名前が。 止まらないバイブ。スマホを眺めていると、彼が言う。 「出ないのですか?」 「……あの、何年も音信不通だった元旦那なんです。出たくなくて」 彼の顔色が変わる。 「代わりに出ますね! 良いですか?」 「はい、お願いします」 「あ、切れた」 出ようとしたら切れたけれど、再びかかってきた。 「出ます!」 そう言って、彼は私のスマホを手に取ると、玄関に行き、ドアを閉めた。 元旦那が何の用事だったのか、彼と元旦那が何を話すのか気になったけれど、何よりもこのタイミングで電話が来たのが不満だった。 ――せっかく良い雰囲気だったのに! なんなんだ、あの人。 彼が戻ってきた。 「どうでした?」 「なんか、江川さんと柚希ちゃんに突然会いたくなったそうです」 ――はっ?「それだけですか?」 「はい、なので、もしもどうしても会いたいのなら、僕たちはお付き合いしているので、僕も同伴することをお伝えしました。後は、江川さんは電話に出たくなくて、会いたくもなさそうでしたと伝えておきましたよ。そしたら電話が切れました」 「ありがとうございます」 何年も音信不通だった。養育費も結局三ヶ月しか払ってくれなかったし。他の女のところにいったのに、会いたくなったからって理由で、いきなり電話してきて。どこまであの人は自分勝手なんだろう。「江川さん!」 「はい!」 「あの人のところへは、戻らないでほしいです」 「戻るわけないです。だってあの人は――」 妊娠中に不倫された話から、別れるまでのことを全て彼に話した。 「そうだったのですね……僕、今電話が来た時、とても不安になったんです」 「不安、ですか?」 「はい、江川さんがその人と会い、寄りを戻して、僕から離れていってしまうのではないかと」 「生田さん、私から離れはしないです。離れるとすれば、生田さんから離れていくのだと、ずっと思っています。だって、生田さんはとても魅力的で……」 「ありえないです! 離れるだなんて、考えられないです。『もう会わない方が良い』って江川さんに言われて、実際、保育園でしか会えなくなった時は、しんどかったです」 「私もです。というか、あの時は一方的に電話切ったり、発言とか
今年も寒い季節がやってきた。 たしか去年の今頃は、斗和ちゃんのジャンパーが小さくなったってLINEが彼から来て、服のおすすめサイト教えてたっけ? そして、彼がそのサイトを使ってくれて、柚希とお揃いのジャンパーを買ってた。 どんな些細なことでも、彼と関われるのが嬉しかったな。今もだけど。 ちなみに今は、一緒にそのサイトを見ながら選んだり、お店に買いに行ったりもしている。 あの時よりも進展している。 今年もそのお揃いのジャンパーをふたりは着ていた。 進展といえば、お付き合いを始めてから、彼の家で過ごすことが多くなっていった。「ねぇ、パパ! 今日、柚希ちゃんと一緒に寝たい!」 いつものように、ご飯を彼の家で食べていた時、斗和ちゃんが言った。 私は彼と目を合わせる。 彼の家に泊まったことは、まだない。「斗和、柚希ちゃんたち、もうすぐ帰らないといけないんだよ! また今度きちんとお約束してからにしようね」 「私も斗和ちゃんと一緒に寝たいな」 柚希も言い出した。 「柚希、もう少ししたら帰ろうね?」 「私、帰らないよ!」 「じゃあ、ママひとりで帰るの?」 「うん」 帰ろうって柚希に言ってるのに、私はその言葉に反比例して、泊まりたいという気持ちがふつふつと湧いてきた。「生田さん、明日は土曜日ですが、お仕事ですか?」 「いえ、休みです」 「私もお休みです」 ここで私は言葉を止める。 「……じゃあ、江川さんがご迷惑でなければ、泊まっていきますか?」 素直に泊まりたいって言えばいいのに、明らかに今、この言葉、察して?みたいなところで私は言葉を止め、彼に気をつかわせてしまった。申しわけない気持ちになった。 ――彼の家でお泊まり。心がそわそわする。 「柚希ちゃんも斗和と一緒にお風呂入れちゃって、大丈夫ですか?」 「あ、はい。ありがとうございます」 「もうお風呂沸くんで、三人で入っちゃいますね!」 「じゃあ、私、その後のことするので、子供たちが上がった後は、ゆっくりお風呂に入ってください」 「ありがとうございます! じゃあ、子供たち上がる時、お風呂から呼び出し音ならしますね! 僕たちの後は、江川さんもゆっくりお風呂入ってくださいね!」 「ありがとうございます!」 柚希が着るパジャマ、下着は斗和ち
お迎えの時間に間に合った。 さっき、彼と付き合い始めたけれど、この保育園での様子は、特に何も変わらずにいつもの光景。 これからもずっと変わらずにこんな感じなのかな? そう思っていたのに――。「今日は、うちでご飯食べませんか?」 「えっ? 生田さんの家でですか?」 「はい、そうです」 どうしよう。いきなりおうちご飯に誘われる展開がきた。「柚希ちゃん、うちに来てー」と斗和ちゃんが言うと「ママ、行こっか!」って、柚希はすでに行く気満々な様子だった。 断る理由、もう何もないよね?「じゃあ、よろしくお願いします」 私の家を通り過ぎ、十分ぐらい更に進んだ場所に、生田さんの住んでいる家があった。 白くて大きな家。大きな庭もあって、モデルハウスみたいにとても綺麗! 一軒家かぁ、憧れる。 立ち止まり、彼の家を眺めながら私は言った。「ちょっと偏見かもしれないですけど、生田さんは駅前にある豪華なマンションに住んでいるイメージでした。しかも最上階」「はは、そんなイメージでした? 江川さんすごいです。実は昔、そのマンションに住んでいました!」 なんと、正解だった。「この家、斗和が産まれてから建てたんです。子供が過ごしやすい家になるように、一緒に笑い合いながら過ごしている場面を想像しながら。工務店の人に何回も相談に乗っていただいて完成しました。ここは今、一番大切な僕の居場所です」 彼は本当に子供のことを一番に考えているんだな。 それにしても、子供が産まれてから家を建てるって忙しそう。家全体を考えたり、ひとつひとつの部屋の壁とか床とか、考えること沢山あるよね? 育児しながら俳優のお仕事もして、彼は他にも色々やってそうで。 私は柚希が生まれた頃は、彼のように考える余裕なんてなかったな。 玄関のドアを開けた瞬間、新築の香りと花のような?いい香りもしてきた。 リビングへ行く。私の家みたいにおもちゃが散らかっていたりしないで、とても綺麗だった。斗和ちゃんがトイレに行きたくなって家に来た時、散らかった部屋を見られてしまったことを思い出し、ちょっと恥ずかしくなる。「見学しても良いですか?」 「はい、どんどんしてください」 「私、お部屋教えてあげる!」 「斗和、二階も全部教えてあげてね! 僕はささっと何かご飯作ってますね!」 「すみません! ありがとう
暑い季節がやってきた。 斗和ちゃんのパパが『生田 蓮』だと知ってからちょうど一年くらいが経つ。 彼と距離を置いてから、LINEをすることもなくなり、ご飯も一緒に行かなくなった。 でも保育園で会うといつも彼から話しかけてくれる。挨拶や子供の話をしたりする程度だけど。 最近は彼への気持ちが少し落ち着いてきた気がする。無理やり自分自身でそう思うようにしているだけかもしれないけれど。 いつものように保育園へ迎えに行き、家に帰ると、柚希が私に言った。「ねぇ、斗和ちゃんのパパがね、ママと一緒にいたいんだって!」 柚希にどういうことか訊ねると、今日保育園で斗和ちゃんが柚希にそう言っていたらしい。まさか彼がそんなこと言うわけがない。最近柚希は妄想話もよくしてくるから、そのたぐいかなと思っていた。 柚希からその話を聞いてから、三日が経った。 朝、保育園の門の前で、彼と会う。「おはようございます」 「おはようございます」 いつものように、彼から挨拶をしてくれて私も挨拶を返す。 四人で玄関に入った時、斗和ちゃんが私に言った。「ねぇ、柚希ちゃんのママー、パパがね、一緒に遊びたがってるよ!」 「えっ?」 「斗和、そういうこと言わなくていいの!」 「えー、だってパパ、泣きそうだったからね、柚希ちゃんのママに教えてあげたの!」 「斗和! すみません。今の斗和の発言、本当に気にしないでください」 無理。 気にしないなんて、絶対に無理! 斗和ちゃんの言葉を聞いてから、気まずい。そんな気持ちと共に淡い期待も心の中でフワフワしてる。 私は年長さんの『きりん組』の教室まで、柚希と一緒に向かう。斗和ちゃんも同じクラスで、しかも柚希と仲が良いから一緒に向かうことになる。親同士は微妙な雰囲気。いつものように先生に挨拶して、柚希とハグをする。なんとなく教室から彼が出ていくのを確認してから、私も教室を出る。彼に追いつかないように、ゆっくりと玄関に向かって歩いた。それから、外に出て、彼が車を走らせたのを確認。私も自転車の鍵を開け、乗ろうとした。 その時、彼の車が戻ってきた。 ――なんで? 彼は駐車場に車を停めて、降りてきた。 私は自転車にまたがった状態で、彼の行動に目を離せずにいた。「江川さん、あの!」 強めに彼は私の名前を呼んできた。その一声で私は
その日の夜、柚希を寝かした後、彼からLINEが来た。『今日はお付き合いくださり、本当にありがとうございました』 返事どうしようかな?って画面を眺めながら考えている最中、再び彼からLINEが来る。『遊園地で江川さんの様子がいつもと違ったこと、やっぱり気になってしまいます。今日、もしも無理やり遊園地に付き合わせてしまっていたり、本当に僕が何かやらかしてしまっていたら、ごめんなさい。何か言いたいことがあれば遠慮なく言ってください。いえ、無理して言わなくてもいいのですが。とにかく気になってしまいました。今日はお疲れ様でした。おやすみなさい』 やらかすだなんて……。 彼が私との関係を、適当な間柄だと思っていたのならこんなLINE、送って来ないよね? 自分の気持ちを伝えるのが得意ではないけれど、今思っていることを素直に伝えてみることにした。『実は私、生田さんと元カノさんが一緒のところを撮られていた記事を見たのですが、生田さんと彼女さんは、現在お付き合いしていらっしゃるのかな?って気になっていまして。プライベートに踏み込むなって感じですよね。すみません。今日はありがとうございました。おやすみなさい』 こんな内容、迷惑だろうなって、送るのをためらってしまったけれど、勢いで送信を押した。送ってから後悔。返事、来ないだろうな。っていうか、今、生田さん、彼女さんと一緒にいそう。 そして、斗和ちゃんも。三人で楽しく過ごしているのかも。 想像なんてしたくないのに、勝手に三人一緒にいる映像が頭の中に流れてくる。復縁の記事を見てからずっと。そして私は今、その頭の中に流れてくる映像に、嫉妬してる。 ――こんなの、私ひとりだけが辛いやつじゃん。 送ってから、一分もしないうちにスマホの画面に『着信 生田さん』の文字が。 彼からの着信は予想外。 心臓が跳ね上がり、鼓動が速くなる。 マナーモードにしてあったから幸い音は出ず、そばで寝ていた柚希を起こさずにすんだ。 私は話し声で柚希を起こさないように、寝室から離れた。そしてトイレへ行き、ドアを閉めた。 震えながら、電話に出るマークを押した。「もしもし」 トイレのドアは閉めたけれど、一応声が漏れないように、ささやくような声で私は電話に出た。「もしもし、あの、柚希ちゃん寝かせてる途中だったとか、忙しい時間にか