本格的に寒くなってきた季節。
彼からLINEが来た。『ちょっとお聞きしたいのですが、柚希ちゃん、ピンクの可愛いジャンパー着ていましたよね? ボタンが花になってて、フリフリしたデザインの。あれってどこで買いました? 今日、去年着ていた斗和のジャンパーが小さいことに気がついて、駅前にある子供服のお店をまわってみたのですが、もう、あんまりサイズと種類がなくて』
『多分、もう売れちゃったのでしょうかね? 柚希が今着ているジャンパーは、ネットで買いました。一応サイトのURL貼っておきますね! そこ、女の子向けの服が売っているんですけど、手袋も靴も可愛いのが揃っています! しかもお値段もお手頃で、オススメです!』
『今サイト覗いてみましたが、可愛い服と手袋も見つけたので、一緒に注文しようと思います。ちなみに柚希ちゃんが着ていたジャンパーも見つけましたが、お揃いで買っても良いですか?』
お揃いで買うとか、自由で良いのに。そんな細かいところまで気にして訊いてくれる。
『お揃い、もちろん良いですよ! 子供たち喜びそうですね!』
『じゃあ、注文します。こんな時間にありがとうございました。では、おやすみなさい』
それから一週間ぐらい経った時、「斗和ちゃんね、私と同じジャンパー着ていたの!」って、柚希が教えてくれた。嬉しそうだった。
――私が教えたサイトで、柚希とお揃いのジャンパー。本当に買ってくれたんだ。
些細なことだけど、彼がしてくれたから、それは特別なことだった。
彼に対しての欲が出てきて、恋人同士になりたいなとも思ったけれども、彼は雲の上にいる、手の届かない人なのは変わりなくて。恋人になんてなれるはずがなかった。
ご飯を一緒に行くだけで幸せだった。
LINEで会話するだけで幸せだった。保育園の行事や、送り迎えの時間に会えた時も話せたし。
――私の心は、完全に浮かれていた。
その記事をネットで見たのは、 暖かくなってきた季節だった。いつも利用している検索サイトのトップにそれは書かれていた。
『生田蓮、元カノと復縁か?』
その文を読んだだけで、私の心臓がバクバクと大きくなりだし、目の前が一瞬真っ白になった。
その見出しをクリックすると、彼が昔付き合っていたらしい、とても美人な女優と、斗和ちゃん、そして彼の姿が載っていた。
この女優さんは斗和ちゃんを産んだ、斗和ちゃんのお母さんだ。つまり、この写真の風景は本来の家族。元彼女と言っても、恋愛していた仲だろうし、見出し通りに復縁することだってありえる。
彼女と、もしも彼を奪う争いなんてしても、一切勝てる要素なんてないし、そもそも同じ土俵にすら立てていない。
「はぁー……」
私は静かにスマホをテーブルの上に置いた。
ぬりえを終えた柚希が「抱っこ」と甘えてくる。私はギュッと抱きしめた。ニッコリ微笑む柚希を見ていたら、ちょっと元気が出た。
彼に対し、私は恋愛スイッチが入り、結構本気モードになってきている。けれど、ただ私が一方的にそうなっているだけ。現実は結ばれることなんて、本当にありえない。彼と距離を置くなら、今しかない。
――これ以上本気になったら引き返せなくなる。
彼と距離を置こう。
距離を置くと言っても、元々そんなに近い仲なわけではない。LINEで子供関係の話をしたり、ご飯を一緒に食べる程度。距離を置こうとしていた矢先、彼からLINEが来た。
そのLINEが来たのは、夜ご飯の準備をしている時だった。『いきなりですみませんが、明日、予定ありますか? もしお時間ありましたら、花宮遊園地に行きませんか?』と彼からLINEが来た。突然、遊園地のお誘い?
彼からLINEが来ても、ちょっと素っ気なくしてそのままやり取りしなくなれば距離が置けるとか考えていたのに。
どうしようかな……。
お誘い受けようかな? 断ろうかな?自分では決められずにいたから、柚希に質問してみた。
「柚希、斗和ちゃんと明日、遊びたい?」
柚希は迷わずに「うん、遊ぶ!」と答え、テンションまで上がっている。
「だよね、遊びたいよね」
「ねぇ、ママ、どこで遊ぶの?」遊園地、そういえば柚希は行ったことないな。だから言っても分からないかな? そう考えた私はスマホで花宮遊園地のサイトを開き、乗り物が紹介されているページを柚希に見せた。説明すると興味津々だった。
柚希も斗和ちゃんも毎回、四人でご飯を食べる時は本当に楽しそうだった。
せっかく子供たちが楽しめる機会だし、誘われるのも今だけかもしれないし。
断るの、勿体ないよね。LINEの返事をする時、彼にあの女優さんと、現在どんな関係なのか、復縁したのか訊きたかった。
世間では別れたとか言われていたけれど、裏では一回も別れずにずっと付き合ったままだったのかもしれないし。もしも明日訊けそうな雰囲気だったら、さりげなく恋の相手がいるのか、彼に質問してみようかな。
『予定あいてます! ぜひよろしくお願いします!』そう明るめの返事をした。けれど返事をした後、私は考えた。私たちが遊園地で遊んでいる時、こっそり写真を撮られ、ネットや週刊誌に彼が不快になるような見出しと共にその写真が載ったりしないかな?って。それが気がかり……。
すぐにもうひとつLINEを送る。
『遊園地、私たちと一緒に行っても大丈夫ですか? 写真こっそり撮られてネットに載ってしまうとか……』
『大丈夫です! その辺は対策きちんと考えてありますので、任せてください。ちょっと遠いから、お迎え時間、早めの朝七時になってしまうけれど、大丈夫ですか?』
対策が気になったけれど、その確認は明日で良いかな?
『大丈夫です! 明日はよろしくお願いします!』
彼から、『よろしくお願いします!』と書いてある可愛い猫のスタンプが来てLINEを終えた。
ん? 待って? 彼からLINEスタンプ来るのって初めてだよね?
思わず私はスクショ保存した。
私の心の中は、彼と距離を置こうだとか、そんなのでモヤモヤなのに、こうやって遊園地に誘ってきたり、LINEスタンプを送ってきたり。距離が縮まりそうなことをしてくる。
――なんか、複雑な気持ち。
LINEのやりとりを終えた後は、いつも何回も読み返し、余韻に浸る。
もちろん今日も。
読み返して、感じる。強く思う。
距離なんて本当は置きたくないし、本当は、もっともっと近くにいたい――。あれから三年が経った。 子供たちは小学三年生に。「はい、OKです!」と、監督さんの声。 今日はうちのリビングで、とある空気清浄機のCM撮影をしている。出演者はパパと、一歳になった私の娘、羽花(うか)。撮影が始まる前に、一日の流れの説明と共に見せてもらった絵コンテの通り、順番にひとつひとつのシーンを撮り終えていく。ちなみに撮影現場を見るのは初めてで、子供たちと私は、興味津々。 邪魔にならないように、荷物置き場になっている寝室で「上手く行きますように!」と、ドキドキしながら撮影を見守っている。 今、監督さんと彼、スタッフさんで撮れたものをモニターで確認している。「大丈夫そうですね、これで全部撮り終えました。お疲れ様でした!」 撮影が終わった。羽花が出来るだけ普段通りでいられるようにと、本番中、外で待機していたスタッフさんたちが入ってきた。そして撮影に使った道具の片付けを始める。 私はリビングのふわふわした白い絨毯の上で眠っていた羽花を抱っこした。 監督さんに話しかけられる。「奥様、今日は素敵なお家を使わせていただき、撮影にご協力くださり、本当にありがとうございました」 「こちらこそ、貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」 「子供が遊べるスペースもあって、本当に綺麗で素敵なおうちですね」 「ありがとうございます。夫が、家建てる時に子供が過ごしやすいようにって考えた設計なんです」 「そうなのですね。生田さんらしいです。生田さん、いつも撮影現場でもひとりひとりに気を遣ってくださるし、羽花ちゃんが産まれたばかりの頃かな? 現場一緒になった時、奥様の寝不足や子供たちのことをとても心配されていたりもして、素敵なパパなんだろうなって、スタッフと話していましたよ」 噂の彼を見ると、スタッフさん達と一緒に撮影道具を片付けていた。 はい! 私の夫は世界一素敵です! 私は心の中で叫んだ。 皆がいなくなり家族だけになると、彼は大きなため息をついた。「こんなに撮影で緊張したの、初めてかも。羽花がきちんと笑ってくれるのかな?とか、眠ってくれるかな?って。そんな理由で撮影緊張するなんて、考えたことなかったな」 「私もすごく緊張した。無事終わって良かったね! 羽花とパパの共演、放送されるの楽しみ!」 私もほっとしながらそう言った。
しばらくまったりしていると、目の前に置いてあった私のスマホのバイブがなり『拓也』という名前が。 止まらないバイブ。スマホを眺めていると、彼が言う。 「出ないのですか?」 「……あの、何年も音信不通だった元旦那なんです。出たくなくて」 彼の顔色が変わる。 「代わりに出ますね! 良いですか?」 「はい、お願いします」 「あ、切れた」 出ようとしたら切れたけれど、再びかかってきた。 「出ます!」 そう言って、彼は私のスマホを手に取ると、玄関に行き、ドアを閉めた。 元旦那が何の用事だったのか、彼と元旦那が何を話すのか気になったけれど、何よりもこのタイミングで電話が来たのが不満だった。 ――せっかく良い雰囲気だったのに! なんなんだ、あの人。 彼が戻ってきた。 「どうでした?」 「なんか、江川さんと柚希ちゃんに突然会いたくなったそうです」 ――はっ?「それだけですか?」 「はい、なので、もしもどうしても会いたいのなら、僕たちはお付き合いしているので、僕も同伴することをお伝えしました。後は、江川さんは電話に出たくなくて、会いたくもなさそうでしたと伝えておきましたよ。そしたら電話が切れました」 「ありがとうございます」 何年も音信不通だった。養育費も結局三ヶ月しか払ってくれなかったし。他の女のところにいったのに、会いたくなったからって理由で、いきなり電話してきて。どこまであの人は自分勝手なんだろう。「江川さん!」 「はい!」 「あの人のところへは、戻らないでほしいです」 「戻るわけないです。だってあの人は――」 妊娠中に不倫された話から、別れるまでのことを全て彼に話した。 「そうだったのですね……僕、今電話が来た時、とても不安になったんです」 「不安、ですか?」 「はい、江川さんがその人と会い、寄りを戻して、僕から離れていってしまうのではないかと」 「生田さん、私から離れはしないです。離れるとすれば、生田さんから離れていくのだと、ずっと思っています。だって、生田さんはとても魅力的で……」 「ありえないです! 離れるだなんて、考えられないです。『もう会わない方が良い』って江川さんに言われて、実際、保育園でしか会えなくなった時は、しんどかったです」 「私もです。というか、あの時は一方的に電話切ったり、発言とか
今年も寒い季節がやってきた。 たしか去年の今頃は、斗和ちゃんのジャンパーが小さくなったってLINEが彼から来て、服のおすすめサイト教えてたっけ? そして、彼がそのサイトを使ってくれて、柚希とお揃いのジャンパーを買ってた。 どんな些細なことでも、彼と関われるのが嬉しかったな。今もだけど。 ちなみに今は、一緒にそのサイトを見ながら選んだり、お店に買いに行ったりもしている。 あの時よりも進展している。 今年もそのお揃いのジャンパーをふたりは着ていた。 進展といえば、お付き合いを始めてから、彼の家で過ごすことが多くなっていった。「ねぇ、パパ! 今日、柚希ちゃんと一緒に寝たい!」 いつものように、ご飯を彼の家で食べていた時、斗和ちゃんが言った。 私は彼と目を合わせる。 彼の家に泊まったことは、まだない。「斗和、柚希ちゃんたち、もうすぐ帰らないといけないんだよ! また今度きちんとお約束してからにしようね」 「私も斗和ちゃんと一緒に寝たいな」 柚希も言い出した。 「柚希、もう少ししたら帰ろうね?」 「私、帰らないよ!」 「じゃあ、ママひとりで帰るの?」 「うん」 帰ろうって柚希に言ってるのに、私はその言葉に反比例して、泊まりたいという気持ちがふつふつと湧いてきた。「生田さん、明日は土曜日ですが、お仕事ですか?」 「いえ、休みです」 「私もお休みです」 ここで私は言葉を止める。 「……じゃあ、江川さんがご迷惑でなければ、泊まっていきますか?」 素直に泊まりたいって言えばいいのに、明らかに今、この言葉、察して?みたいなところで私は言葉を止め、彼に気をつかわせてしまった。申しわけない気持ちになった。 ――彼の家でお泊まり。心がそわそわする。 「柚希ちゃんも斗和と一緒にお風呂入れちゃって、大丈夫ですか?」 「あ、はい。ありがとうございます」 「もうお風呂沸くんで、三人で入っちゃいますね!」 「じゃあ、私、その後のことするので、子供たちが上がった後は、ゆっくりお風呂に入ってください」 「ありがとうございます! じゃあ、子供たち上がる時、お風呂から呼び出し音ならしますね! 僕たちの後は、江川さんもゆっくりお風呂入ってくださいね!」 「ありがとうございます!」 柚希が着るパジャマ、下着は斗和ち
お迎えの時間に間に合った。 さっき、彼と付き合い始めたけれど、この保育園での様子は、特に何も変わらずにいつもの光景。 これからもずっと変わらずにこんな感じなのかな? そう思っていたのに――。「今日は、うちでご飯食べませんか?」 「えっ? 生田さんの家でですか?」 「はい、そうです」 どうしよう。いきなりおうちご飯に誘われる展開がきた。「柚希ちゃん、うちに来てー」と斗和ちゃんが言うと「ママ、行こっか!」って、柚希はすでに行く気満々な様子だった。 断る理由、もう何もないよね?「じゃあ、よろしくお願いします」 私の家を通り過ぎ、十分ぐらい更に進んだ場所に、生田さんの住んでいる家があった。 白くて大きな家。大きな庭もあって、モデルハウスみたいにとても綺麗! 一軒家かぁ、憧れる。 立ち止まり、彼の家を眺めながら私は言った。「ちょっと偏見かもしれないですけど、生田さんは駅前にある豪華なマンションに住んでいるイメージでした。しかも最上階」「はは、そんなイメージでした? 江川さんすごいです。実は昔、そのマンションに住んでいました!」 なんと、正解だった。「この家、斗和が産まれてから建てたんです。子供が過ごしやすい家になるように、一緒に笑い合いながら過ごしている場面を想像しながら。工務店の人に何回も相談に乗っていただいて完成しました。ここは今、一番大切な僕の居場所です」 彼は本当に子供のことを一番に考えているんだな。 それにしても、子供が産まれてから家を建てるって忙しそう。家全体を考えたり、ひとつひとつの部屋の壁とか床とか、考えること沢山あるよね? 育児しながら俳優のお仕事もして、彼は他にも色々やってそうで。 私は柚希が生まれた頃は、彼のように考える余裕なんてなかったな。 玄関のドアを開けた瞬間、新築の香りと花のような?いい香りもしてきた。 リビングへ行く。私の家みたいにおもちゃが散らかっていたりしないで、とても綺麗だった。斗和ちゃんがトイレに行きたくなって家に来た時、散らかった部屋を見られてしまったことを思い出し、ちょっと恥ずかしくなる。「見学しても良いですか?」 「はい、どんどんしてください」 「私、お部屋教えてあげる!」 「斗和、二階も全部教えてあげてね! 僕はささっと何かご飯作ってますね!」 「すみません! ありがとう
暑い季節がやってきた。 斗和ちゃんのパパが『生田 蓮』だと知ってからちょうど一年くらいが経つ。 彼と距離を置いてから、LINEをすることもなくなり、ご飯も一緒に行かなくなった。 でも保育園で会うといつも彼から話しかけてくれる。挨拶や子供の話をしたりする程度だけど。 最近は彼への気持ちが少し落ち着いてきた気がする。無理やり自分自身でそう思うようにしているだけかもしれないけれど。 いつものように保育園へ迎えに行き、家に帰ると、柚希が私に言った。「ねぇ、斗和ちゃんのパパがね、ママと一緒にいたいんだって!」 柚希にどういうことか訊ねると、今日保育園で斗和ちゃんが柚希にそう言っていたらしい。まさか彼がそんなこと言うわけがない。最近柚希は妄想話もよくしてくるから、そのたぐいかなと思っていた。 柚希からその話を聞いてから、三日が経った。 朝、保育園の門の前で、彼と会う。「おはようございます」 「おはようございます」 いつものように、彼から挨拶をしてくれて私も挨拶を返す。 四人で玄関に入った時、斗和ちゃんが私に言った。「ねぇ、柚希ちゃんのママー、パパがね、一緒に遊びたがってるよ!」 「えっ?」 「斗和、そういうこと言わなくていいの!」 「えー、だってパパ、泣きそうだったからね、柚希ちゃんのママに教えてあげたの!」 「斗和! すみません。今の斗和の発言、本当に気にしないでください」 無理。 気にしないなんて、絶対に無理! 斗和ちゃんの言葉を聞いてから、気まずい。そんな気持ちと共に淡い期待も心の中でフワフワしてる。 私は年長さんの『きりん組』の教室まで、柚希と一緒に向かう。斗和ちゃんも同じクラスで、しかも柚希と仲が良いから一緒に向かうことになる。親同士は微妙な雰囲気。いつものように先生に挨拶して、柚希とハグをする。なんとなく教室から彼が出ていくのを確認してから、私も教室を出る。彼に追いつかないように、ゆっくりと玄関に向かって歩いた。それから、外に出て、彼が車を走らせたのを確認。私も自転車の鍵を開け、乗ろうとした。 その時、彼の車が戻ってきた。 ――なんで? 彼は駐車場に車を停めて、降りてきた。 私は自転車にまたがった状態で、彼の行動に目を離せずにいた。「江川さん、あの!」 強めに彼は私の名前を呼んできた。その一声で私は
その日の夜、柚希を寝かした後、彼からLINEが来た。『今日はお付き合いくださり、本当にありがとうございました』 返事どうしようかな?って画面を眺めながら考えている最中、再び彼からLINEが来る。『遊園地で江川さんの様子がいつもと違ったこと、やっぱり気になってしまいます。今日、もしも無理やり遊園地に付き合わせてしまっていたり、本当に僕が何かやらかしてしまっていたら、ごめんなさい。何か言いたいことがあれば遠慮なく言ってください。いえ、無理して言わなくてもいいのですが。とにかく気になってしまいました。今日はお疲れ様でした。おやすみなさい』 やらかすだなんて……。 彼が私との関係を、適当な間柄だと思っていたのならこんなLINE、送って来ないよね? 自分の気持ちを伝えるのが得意ではないけれど、今思っていることを素直に伝えてみることにした。『実は私、生田さんと元カノさんが一緒のところを撮られていた記事を見たのですが、生田さんと彼女さんは、現在お付き合いしていらっしゃるのかな?って気になっていまして。プライベートに踏み込むなって感じですよね。すみません。今日はありがとうございました。おやすみなさい』 こんな内容、迷惑だろうなって、送るのをためらってしまったけれど、勢いで送信を押した。送ってから後悔。返事、来ないだろうな。っていうか、今、生田さん、彼女さんと一緒にいそう。 そして、斗和ちゃんも。三人で楽しく過ごしているのかも。 想像なんてしたくないのに、勝手に三人一緒にいる映像が頭の中に流れてくる。復縁の記事を見てからずっと。そして私は今、その頭の中に流れてくる映像に、嫉妬してる。 ――こんなの、私ひとりだけが辛いやつじゃん。 送ってから、一分もしないうちにスマホの画面に『着信 生田さん』の文字が。 彼からの着信は予想外。 心臓が跳ね上がり、鼓動が速くなる。 マナーモードにしてあったから幸い音は出ず、そばで寝ていた柚希を起こさずにすんだ。 私は話し声で柚希を起こさないように、寝室から離れた。そしてトイレへ行き、ドアを閉めた。 震えながら、電話に出るマークを押した。「もしもし」 トイレのドアは閉めたけれど、一応声が漏れないように、ささやくような声で私は電話に出た。「もしもし、あの、柚希ちゃん寝かせてる途中だったとか、忙しい時間にか