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第3話

Author: NJマスター
風香が会社の面接を受けに来た日、面接の出来はひどいものだった。

竜也もその場では、採るつもりがないことを隠そうともしなかった。

経歴も能力も物足りない応募者を、私も特に気に留めなかった。

それなのに、どういうわけか彼女はそのまま採用が決まり、インターンとして会社に入ってきた。

私が本当におかしいと思ったのは、私と竜也だけのものだったはずのペアリングが、風香の指にはまっているのを見たときだった。

最初のうちは、私が問い詰めても、竜也はまだきちんと説明してくれた。声をやわらげて、私をなだめようともした。

けれど、いつからか返ってくるのは苛立ちばかりになった。

私が何度も言葉を飲み込み、結局は許してしまったせいで、竜也は風香を特別扱いすることに、少しもためらわなくなっていった。

会社の食事会のメニューは、いつも風香の好みに合わせて決められた。

彼女は週に半日だけ顔を出し、それ以外の時間は竜也に付き添って、あちこち出かけていた。

本来ならインターンの彼女に任せるはずの雑用まで、竜也は当然のように私へ振ってきた。

竜也が私の前で風香の話をすることも、日に日に増えていった。

最初は、ただ「風香は気が利く」とか、「素直で可愛い」とか、その程度だった。

それがいつの間にか、私への不満に変わっていった。

私はロマンがわからない。

言い方が可愛くない。

そういう言葉を、彼は平気で口にするようになった。

ある日の休憩時間、竜也が頼んだミルクティーをひと口飲んで、「これ、うまいな」と言った。

すると風香がそばに寄ってきて、「私も少し飲んでみたいです」と言った。

竜也は何のためらいもなく、そのまま彼女へ差し出した。

ストローも替えなかった。

風香は彼の使ったストローに口をつけ、大きくひと口飲んだ。

それだけでも胸の奥がざわついたのに、竜也はすぐにそれを受け取り、何事もなかったように続きを飲んだ。

その瞬間、心臓を見えない手でぎゅっと掴まれたようで、息が苦しくなった。

それから、風香はますます遠慮をなくしていった。

竜也のスキンケアに付き合い、自分の手でクリームやアフターシェーブローションを塗る。

竜也が足をひねったときは、すぐそばにいた私には目もくれず、ほとんど抱きかかえるようにして医務室まで連れていった。

竜也が約束してくれていた私の誕生日祝いも、風香が少し風邪を引いただけで取りやめになった。

私が不満を口にするたび、竜也は決まって面倒くさそうな顔をした。

「朔乃、お前がそういう目で見るから、何でもそう見えるだけだろ。風香はただのインターンだ。俺と何かあるわけないだろ。勝手にいやらしい想像をするな」

ただ、そう言い張るたびに、彼の言葉は少しずつ言い訳じみて聞こえるようになっていった。

一番こたえたのは、業界関係者が集まる大事なパーティーのときだった。

招待状には、同伴者はパートナーに限ると明記されていた。それなのに竜也は私に黙って、風香を連れていった。

あとになって何人もの人から「別れたの?」と聞かれ、私はそこで初めてそのことを知った。

問い詰めに行くと、怒っていたのは竜也のほうだった。

「風香を連れて行ったくらいで、何がそんなに気に入らないんだ?インターンに経験を積ませるのも仕事のうちだろ。お前も女なら、少しは余裕を持てよ」

そのあと、私たちは長い間まともに口をきかなかった。

このまま本当に終わるのかもしれない。

そう思い始めたころ、深夜に竜也からメッセージが届いた。

【朔乃、腹痛い……助けて】

張り詰めていたものが、その一言であっけなく切れた。

そして、うんざりするほど繰り返してきた流れに戻っていった。

私が責める。竜也が怒る。

最後は私が折れて、彼が許したような顔をする。

私はリングケースのふたを閉じ、そのままごみ箱へ放り込む。

引き出しの奥には、竜也が十八歳のときに書いた反省文がまだ残っていた。

私からのメッセージを一通返し忘れただけで、彼がわざわざ書いてきたものだ。

あのころの竜也は、本当に私を大切にしてくれていた。

けれど今、彼の目に映っているのは、あのインターンだけ。

私は黄ばんだ反省文を取り出し、少しずつ破って、ごみ箱へ落としていく。

長い年月をかけて溜め込んできたものを片づけ終えると、部屋がやけに広く感じられた。

胸の中まで、がらんと空いてしまったみたいだった。

社内チャットには、風香が竜也の誕生日を祝う写真が次々と流れてくる。

どの写真の竜也も、楽しそうに笑っていた。

竜也の機嫌を取るのがうまい同僚たちは、競うように二人を持ち上げている。

【社長と風香ちゃん、仲良すぎません?】

【彼女にするなら、やっぱり風香ちゃんみたいな子だよね。明るいし、気も利くし。有栖川部長みたいに、いつも近寄りがたい人はちょっときつい】

【インターンなのに、あそこまで社長のことを気にかけられるのすごいよね。ああいうのが本当の気遣いなんだと思う……】

それ以上見る気になれず、私はすぐに弁護士へ電話をかけた。

「稲富グループへの出資は、すべて引き揚げます。手続きをお願いします」

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