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クズ夫を捨てた天才妻は、新たな時代を創り出す
クズ夫を捨てた天才妻は、新たな時代を創り出す
Author: 匿名

第1話

Author: 匿名
東は気まずそうに表情をこわばらせ、咄嗟に弁解した。

「麗奈は長旅を終えて帰ってきたばかりで疲れているんだ。足を洗ってやっただけだから、勘違いするなよ」

朱音は頷き、量り売りの塩が入った袋を提げてキッチンへ向かった。

勘違いなどしていない。

二人が不倫関係にあることなど、誰の目にも明らかだった。

それなのに前世の朱音は自分を欺き、何十年もの歳月を虚しく過ごしてしまったのだ。

死の間際、麗奈は心にもない見舞いにやって来た。

朱音が何十年も育てた息子は、麗奈の前に土下座をした。

「麗奈おばさん、父さんから聞いたよ。本当の母さんはあなただって。父さんとは何十年も一緒になれなかったけど、もう邪魔する人はいない。これからは三人で幸せに暮らそう」

その手に握られていたのは、朱音の年金が入った預金通帳だった。

東は病床の朱音を冷ややかに見下ろし、悪びれる様子もなく言い放った。

「朱音、あの時、お前と麗奈は同じ日に子供を産んだ。俺が病院から連れ帰ったのは麗奈の子だったが、俺も何十年もお前に付き合ってやったんだ。これで十分義理は果たしただろう」

これほど恥知らずな人間がいるのかと、朱音は耳を疑った。

だが、今はそんなことに構っている場合ではない。

東が連れ帰ったのが妹の子なら、自分の子はどこへ行ったのか。今も生きているのか。どんな暮らしをしているのか。

朱音は声を振り絞って問い詰めたかった。

しかし、あまりにも衰弱していて、目を開けることさえできなかった。

東がどうしても離婚に応じなかったのは、心のどこかで自分を愛しているからだ――ずっとそう信じてきた。もう、そんなふうに自分を欺くことはできなかった。

真実は鋭い刃となって、朱音の心をずたずたに切り裂いた。

かろうじて胸に残っていた最後の息が途切れ、朱音は無念を抱いたまま息を引き取った。

だから、人生をやり直した朱音が真っ先にしたのは、国の研究機関の責任者として復帰した恩師へ手紙を書くことだった。

そこには、最先端の科学研究に関するいくつかの展望を記した。

前世の朱音は、それらの分野に何十年も打ち込んでいた。東に足を引っ張られ、研究者としての黄金期を逃したものの、最後には一定の成果を残している。

この時代の誰よりも先を見通せる自分なら、必ず第一人者になれる。

手紙を投函したのは数日前だった。

先ほど母の結城桂子(ゆうき けいこ)に塩を買ってくるよう言いつけられ、そのついでに郵便局へ寄ったところ、早くも返事が届いていたのだ。

ポケットの中にある封書の重みを感じ、どうやら望みは叶いそうだと悟った朱音は、思わず笑みを浮かべた。

その瞬間、ピシャリと甲高い音が響いた。

「何をニヤニヤ笑ってるんだい?

東に何か不満でもあるってのかい。妹を気遣ってやって何が悪いっていうんだ。

それより、この疫病神!塩を買うだけでいつまで油を売ってるんだい。外でくたばったのかと思ったよ!」

桂子からの容赦ない平手打ちだった。彼女は朱音の頬を打っただけでは飽き足らず、口汚く罵り続けた。

もともと足を怪我している朱音は、うまく踏ん張れない。長年の農作業で鍛え上げられた桂子の腕力は強く、朱音はたちまち床へ倒れ込んだ。

手にしていた袋から塩がこぼれ、その一部がまだ塞がっていない足の傷口にパラパラと降りかかった。

焼け付くような痛みに襲われ、朱音は堪えきれず低く呻いた。

塩がこぼれたのを見てますます逆上した桂子は、近くの木の棒を掴み、朱音に振り下ろそうとした。

そこへ、足を洗った後のお湯が入った洗面器を持って出てきた東が、ようやく口を挟んだ。

「結城のおばさん、朱音は俺を庇って怪我をしたんだ。足が不自由なうえ、外は寒い。もともと体も弱いんだから、本人だってつらいはずだ」

東が珍しく庇ってくれたことに、朱音はわずかに驚いた。

婿の言葉を聞き、桂子の表情が和らいだ。東はすでに組織の要職に就いている大物で、桂子にとっては何よりの自慢だった。

それでも不満は収まらず、桂子はぶつぶつと悪態をついた。

「東、あんたは人が良すぎるんだよ。こんな金食い虫の疫病神なんか捨てて、麗奈を嫁にもらえばいいじゃないか。あの子はれっきとしたエリートなんだから」

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