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恋が終わっても、君だけは残った

恋が終わっても、君だけは残った

By:  青の波Completed
Language: Japanese
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私は若松日菜(わかまつ ひな)。 親友の吉田綾香(よしだ あやか)とは、結婚を考える相手ができたら必ずお互いに会わせ、2人とも納得した人としか結婚しないと約束していた。 西園渉(にしぞの わたる)と付き合い始めたその日、私はさっそく彼を綾香に会わせた。 綾香は渉を上から下まで見て、あからさまに品定めした。 「背、高すぎない?年も離れてるし、職場だって日菜の会社から遠いじゃん。 別れなよ。日菜には合わないって」 2人の間に挟まれた私は、気まずくて手のひらに汗がにじんだ。 ところが渉は、むしろ負けん気に火がついたらしく、綾香をまっすぐ見返した。 「背が高いなら、俺がかがめばいいだろ。 年上なのが気になるなら、老け込まないようにする。 職場が遠いなら――」 渉はそう言って私の手を握った。 「結婚したら、日菜の会社の近くに家を買う。 俺なら日菜を任せられるって、絶対認めてもらう」 あの日、2人はテーブルを挟んでにらみ合っていた。 綾香は冷ややかな目を向け、渉も一歩も引こうとしなかった。 あまりの険悪さに、私も口を挟めなかった。 それからも、2人は顔を合わせるたびに何かと張り合っていた。 でも、そんなやり取りにも、私はいつの間にか慣れていた。 そんなある日、綾香の誕生日プレゼントがなかなか決まらず、何かヒントがないかと彼女の通販アプリにログインして、カートの中をのぞいてみた。 そこで偶然、綾香と「W」という相手のやり取りを見つけた。 メッセージは1000件を超えていた。 2人はお気に入りのシャンプーやスキンケア用品を教え合い、季節の変わり目にはお互いの服を選び、私へのプレゼントまで2人で相談して決めていた。 最新のメッセージは、綾香からだった。 【私たち、こんなことしてちゃだめだよ。日菜は私のいちばんの親友なんだから】 Wからは、すぐに返事が来た。 【綾香は悪くない。悪いのは俺だ】 【俺が綾香を好きになったのが悪い。こんなふうに困らせたくなかった】 【やり直せるなら、あのとき日菜とは絶対に付き合わなかった】 その瞬間、画面を見つめたまま、さっと血の気が引いた。 そのとき、ようやくわかった。 綾香をこんなにも想っている「W」は―― 私の恋人、西園渉だった。

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松坂 美枝
松坂 美枝
えっ?というラストだった… 不要な男はさっさと処理(笑) 主人公が子供引き取るのかとヒヤヒヤしたけどお人好しエンドとしか言いようがない あらら…まあ本人が納得してるなら…
2026-10-19 09:34:08
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haya
haya
全然、羨ましいと思えない友情だった。 ヒロイン…どうかしてるよ。。。 彼氏と友達は自分達に酔って、グダグダ…グダグダ…好き同士のくせにヒロインを裏切るわけにはいかないとか正義感振り回すくせに、酔って関係持ったとかで子供が出来る…なんじゃそりゃって感じで読んでて最後まで気分が悪かった。。?
2026-10-19 11:56:20
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リッキー
リッキー
うーん...こんな親友ならいらないかな。なにが言いたいのかよく分からなかった。
2026-10-19 11:12:38
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10 Chapters
第1話
私はその場にへたり込み、指先が震えて、スマホさえまともに持てなかった。それでも、まだ信じたくなかった。もっと前まで遡れば、何かの間違いだったとわかるかもしれない。そんな思いにすがるように、私は過去のやり取りを辿っていった。そのとき、「W」から新しいメッセージが届いた。【昨日、俺が抑えきれなくなってキスした。でも、綾香は拒まなかったよな。……それって、綾香も俺のこと、好きってことだよな?】スマホが手から落ち、そのまま床に転がった。胸が締めつけられるようで、うまく息ができなかった。どうして、こんなことになったんだろう。私も綾香も、親のいない子どもだった。15歳の頃、暮らしていた児童養護施設の閉所が決まり、私たちもそこを出なければならなくなった。これからどうすればいいのかわからなくて、私は泣いてばかりいた。そんな私の手を取って、綾香は一緒に施設を出てくれた。「大丈夫だよ、日菜。これからは私が働くから。日菜のことは私がなんとかする」でも、綾香だってまだ15歳だった。それどころか、私より3か月も年下だった。その後、綾香は本当に高校を辞め、昼は飲食店、夕方からはコンビニで働くようになった。きついときには、1日4時間しか眠れないこともあった。それでも、私にお金を渡すときはいつも、何でもないことみたいに笑っていた。「私、もともと勉強は苦手だったし。学校辞めて働くくらい、別に平気だよ。でも、日菜は違うでしょ。日菜は勉強できるんだから、絶対いい大学に行って、今みたいな生活から抜け出すんだよ」学費も生活費も、全部綾香が1人で出してくれた。私にとって、綾香は姉でもあり、母親代わりでもあった。自分のことはいつも後回しにして、ずっと私を支えてくれた。そんな綾香のおかげで、私は大学に進むことができた。そして、そこで渉と出会った。渉は、私がどうしてあんなに必死に勉強していたのかも、休む暇もなくバイトを掛け持ちしていた苦しさもわかってくれた。人には見せたくなかった劣等感や不安にも、何も言わなくても気づいてくれた。それでも決して踏み込みすぎず、私の自尊心を傷つけないようにそっと寄り添ってくれた。渉といると安心できたし、少しずつ自分にも自信が持てるようになった。綾香以外で、こんなふうに私を大切にしてくれたのは
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第2話
そのとき、また渉からメッセージが届いた。【熱が出てつらいって言うから、すぐ会いに行った。夜眠れないって言われたら、朝までずっと話してた】【俺の気持ち、気づいてないわけないよな】【この先どうにもならなくてもいい。綾香がどう思ってるのか、それだけ聞かせてほしい】【綾香、頼むから無視しないでくれ。何も返してくれないのは、さすがにきつい】しばらくして、ようやく綾香から返事が来た。【私が悪い。自分の気持ちに気づいたときに、ちゃんと線を引くべきだった】【でも、日菜だけは裏切れない。あの子にだけは、絶対そんなことできない】【どうすればいいのか、自分でもわからない】【でも、日菜だけは絶対に失いたくない。今はそれしかわからない】メッセージを読み終えた途端、涙がこぼれた。私が何より大切にしている2人が、互いへの気持ちに苦しんでいる。でも、そのやり取りを見ている私も、苦しくてたまらなかった。2人がどうすればいいのかわからないように、私にもどうすればいいのかわからなかった。綾香の27歳の誕生日は、もう1週間後に迫っていた。私は2週間も前から、その日のために準備していた。レストランも自分で選び、飾りつけは3回も練り直した。店内で流すBGMも、夜中まで何度も聞き比べた。忘れられない誕生日にしてあげたかった。なのに今は、綾香の顔をまともに見ることさえできそうになかった。私はもう1度、綾香の通販アプリを開いた。お気に入りには、最近追加されたばかりのワンピースがあった。アイボリーの上品なデザインで、ウエストには小さなパールボタンが並んでいた。いつもの綾香なら、まず選ばないような服だった。それでも、綾香が気に入っていることは、なんとなくわかった。昔から、綾香は何かいいものがあると、決まって私に譲ってくれた。かわいいワンピースを買うのもいつも私のためで、自分はTシャツに長ズボンという、飾り気のない格好ばかりしていた。「学校って、結局見た目で判断する子も多いからさ。日菜はちゃんとした服着てたほうが、変に目をつけられなくて済むよ。私は今ので十分。仕事するなら、そのほうが楽だし」そのうち私も働くようになり、私の収入だけでも2人で暮らしていけるようになった。もう綾香には、好きなものを買って、好きなように暮らしてほしか
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第3話
あのときの私は、渉がちゃんとプレゼントを選んでくれたのか、まだそんなことを気にしていた。今となっては、そんな心配をしていたこと自体が皮肉だった。渉が綾香へのプレゼントを適当に選ぶはずなんてなかった。綾香が少し緊張したように見守る中、私と渉はほとんど同時にプレゼントを差し出した。よく似た紙袋が並んだのを見て、胸がざわついた。そして、それぞれ箱を開けた瞬間、3人とも固まった。中に入っていたのは、まったく同じワンピースだった。私がこのワンピースを選んだのは、綾香のカートをこっそり見たからだ。じゃあ、渉は?思わず渉を見ると、明らかに動揺していた。「たまたま見かけて、綾香に似合いそうだと思って買っただけだよ」嘘だとわかった。それでも、何も聞けなかった。沈黙を破ったのは綾香だった。私の腕にそっと絡みながら、明るい声を出した。「さすが恋人同士だね。考えることまで一緒なんだ。まさかプレゼントまでかぶるなんて。大丈夫だよ。2着あるなら、その日の気分で着ればいいじゃん。せっかく2人が選んでくれたんだし、どっちも着るよ」私はなんとか笑って、小さくうなずいた。それを見て、2人とも少しほっとしたようだった。席に着くと、渉と綾香が私を挟むように座った。今日は綾香の誕生日なのに、食事が始まると、綾香はいつものように私のことばかり気にかけていた。辛いものは食べすぎないようにと念を押し、魚の骨まで丁寧に取ってくれた。渉も、エビの殻をむいたり、私の苦手な食材をさりげなくよけたりと、いつもと変わらず世話を焼いてくれた。2人とも、いつもと何も変わらないように見えた。それが、かえって苦しかった。こらえようとしたけれど、気づいたときには涙がこぼれていた。渉はすぐに私の顔をのぞき込んだ。「どうした?大丈夫か?」綾香も心配そうにこちらを見た。私は急いで涙を拭い、なんとか笑ってみせた。「何でもないよ。ちょっと感動しちゃっただけ」そう言ってグラスを持ち上げ、綾香に向けた。「綾香、乾杯しよ。今日は誕生日だし、私たちが出会って20年になる日でもあるんだから。ちゃんとお祝いしよう」綾香もすぐにグラスを上げた。笑ってはいたけれど、その目だけはどこか揺れていた。「日菜、施設にいた頃、2人でずっと一
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第4話
「彼氏、大事にしなよ。性格もいいし、見た目もいいし。誰かに取られないようにね」私は軽くうなずいただけで、何も言わなかった。帰りの車の中は、妙に静かだった。渉は何度か口を開きかけたものの、そのたびに言葉を飲み込んでいた。何か話そうとしているのはわかった。もしかして、全部打ち明けるつもりなんだろうか。もしそうなったら、私はどうすればいいんだろう。泣いて責めるのか、それとも何も知らないふりをして受け入れるのか。どちらも、できる気がしなかった。結局、家に着くまで、ほとんど会話はなかった。玄関を開けた瞬間、思わず足が止まった。部屋の中は、いつの間にかきれいに飾りつけられていた。壁にはやわらかな灯りがともり、私の好きな花がところどころに飾られていた。まだ状況を飲み込めずにいるうちに、渉が私の前まで来て、その場で片膝をつき、まっすぐ私を見上げた。「日菜、俺と結婚してくれ」その声とほぼ同時に、綾香が花束を抱えて姿を見せた。目に涙を浮かべながら、嬉しそうに笑っていた。「日菜、渉ならもう文句なしだよ。私もちゃんと認めたんだから、早く返事してあげて」目の前に広がっていたのは、何度も夢見てきたはずの光景だった。それなのに、どうしても「うん」と言えなかった。私が返事をためらっていると、突然、壁の飾りパネルが外れてこちらへ落ちてきた。とっさに動けずにいる私の前へ、渉と綾香が同時に飛び込んできた。「日菜、危ない!」私はかすり傷ひとつなかった。代わりに、2人は落ちてきたパネルで腕を切り、そのまま病院で手当てを受けることになった。会計を済ませて2人のところへ戻ると、処置室にはもう看護師の姿がなかった。中から、2人が声を潜めて言い合うのが聞こえてきた。「綾香に言われた通り、日菜にプロポーズした。でも、あんなことが起きて、結局返事は聞けなかった」渉は思いつめたような低い声で続けた。「こんなときにあんなことまで起きるとさ……もうやめろって言われてる気がするんだ。日菜も、結局返事してくれなかったし。もしかしたら、もう俺とは結婚したくないのかもしれない」「そんなわけないでしょ!」綾香はすぐに言い返した。「日菜は、初めて渉を私に会わせた頃から、ずっと渉と結婚したいって思ってたんだよ。返事できなかっ
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第5話
処置室では、長く続いた言い争いもようやく収まり、渉も綾香もすっかり疲れ切っていた。2人ともまだ傷が痛み、ガーゼにはうっすら血がにじんでいた。綾香は頬に残った涙を拭うと、ふと時計に目をやった。「日菜、会計に行ってから結構経ってるよね。まだ戻ってこないけど……」その言葉に、渉もはっとした。さっきまで綾香のことで頭がいっぱいで、私がいつまでも戻ってこないことにさえ気づいていなかった。渉は痛む腕をかばいながら立ち上がった。「ちょっと看護師さんに聞いてくる」ナースステーションで看護師に声をかけると、すぐに答えてくれた。「若松さんでしたら、30分ほど前に会計を済ませて、もうお帰りになりましたよ」その瞬間、2人の顔からさっと血の気が引いた。綾香は一歩よろめき、壁に手をついた。「帰ったって……まさか、さっきの話、聞かれてたんじゃ……」渉は何も言わず、青ざめた顔でスマホを取り出し、すぐに私へ電話をかけた。けれど、何度かけてもつながらず、どうやら電源も切られているようだった。綾香もすぐに電話をかけたが、やはり応答はなかった。「家に戻ろう。日菜なら、もう帰ってるかもしれない」渉は上着をつかむと、傷の痛みも気にせず、綾香と一緒に病院を飛び出した。2人はそのまま車で私の家へ向かった。玄関を開けた瞬間、2人は足を止めた。部屋はしんと静まり返っていた。クローゼットは空っぽで、本棚にあった医学書も消えていた。ドレッサーもベッド脇の棚も、きれいに片づけられていた。私がここで暮らしていた痕跡は、ほとんど残っていなかった。ただ、渉からもらったものだけが、部屋のあちこちに残されていた。綾香はふらつき、ドア枠に手をついた。渉は何も言わず寝室へ入り、机の前で足を止めた。引き出しには、細身の銀のブレスレットが残っていた。去年の誕生日に、渉がくれたものだ。あの頃は手術が立て込んでいて、私はよく手首がつらいとこぼしていた。少しでも負担にならないようにと、渉が軽いものを選んでくれた。部屋の隅のガラス瓶には、白いトルコキキョウがドライフラワーになって残っていた。去年のバレンタインデーに、渉が病院まで届けてくれた花束だった。私は写真を撮ってSNSに載せ、優しい彼氏だと少し自慢していた。周りからもずいぶん
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第6話
そうすれば、綾香は賠償金を払わずに済んで、前科もつかない。それでも私は怖くて、どうしてもその条件を受け入れられなかった。結局、休学して働く道を選んだ。昼も夜も働き続け、1年かけてようやく賠償金を払い終えた。そのことは、それから9年間、誰にも話していなかった。綾香への申し訳なさは、ずっと消えなかった。それでも、本当のことを打ち明ける勇気はなかった。だから、2人の気持ちに気づいてからも何も言えなかった。口にしてしまえば、3人の関係が壊れてしまいそうで怖かった。どうしたらいいのかわからないまま、最後は1人で逃げることを選んだ。その頃、渉と綾香は重い沈黙の中にいた。そこへ、2人のスマホがほとんど同時に震えた。画面には、私が出発前に送ったメッセージが表示されていた。【渉、綾香。2人で幸せになってね】そのメッセージを見て、2人はようやく確信した。処置室での話を、私は全部聞いていたのだと。2人は慌ててメッセージを送り始めた。事情を説明し、謝り、戻ってきてほしいと必死に呼びかけた。それでも一向に届かず、電話をかけてもつながらない。聞こえてくるのは、電源が切られていることを知らせるアナウンスだけだった。綾香はみるみる顔色を失っていった。「まさか日菜、変なこと考えてないよね……?昔から何でも1人で抱え込んで、つらくても誰にも言わないから……もし、思い詰めてたら……」言っているうちに、綾香の声は震え始めた。渉はうつむいたまま、かすれた声で言った。「……俺が悪かった。俺がこんな気持ちにならなければ、日菜をここまで傷つけずに済んだのに……」綾香は泣きはらした目を上げ、渉を見た。「もし日菜に何かあったら……私、渉のこと一生許さないから」渉は何も言い返せなかった。そのとき、渉は枕の下から白い封筒が少しのぞいているのに気づいた。宛名はなく、封筒の角には何度も触れたような跡が残っていた。私が残していった手紙だった。渉はすぐに封を開け、綾香と一緒に手紙を読み始めた。【綾香、渉へ。これを読んでいる頃には、私はもう飛行機の中にいると思う。実は、2人がやり取りしていた1000件以上のメッセージを見つけたあの日から、全部わかってた。それでも何も言えなかったのは、私が臆病だったから。大切な2人を、どちらも
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第7話
【私を捜さないで。2人とも、元気でね】最後まで読み終えたところで、綾香はとうとうその場に崩れ落ち、声を上げて泣いた。「私のせいだ……私が渉を好きになったりしなければ、こんなことにはならなかったのに……20年もそばにいてくれた日菜を、私が傷つけたんだよ。絶対に見つける。ちゃんと会って、話さなきゃ……このまま会えなくなるなんて嫌……!」綾香は涙を拭うこともなく立ち上がり、そのまま家を出ようとした。渉もすぐに後を追い、綾香の手首をつかんだ。「俺も行く。そんな状態で1人で行かせられない。傷だってまだ治ってないだろ」「来ないで」綾香は渉の手を振りほどいた。「渉がいなくても、今までずっと1人でやってきた。つらいことだって何度もあったけど、そのたびに何とかしてきたの。だから今は、1人で行かせて」綾香はそのまま家を飛び出し、タクシーで空港へ向かった。空港に着くと、綾香は航空会社のカウンターを次々と回り、私がどの便に乗ったのか尋ねて回った。けれど、どこで聞いても乗客の情報は教えてもらえなかった。研修先や詳しい日程も、関係者以外には知らされていなかった。何ひとつ手がかりはなかった。それでも綾香は出発ロビーを歩き回り、案内モニターに並ぶ便名を何度も確認した。けれど、私がどの便に乗ったのかは最後までわからなかった。やがて窓際で足を止め、次々と飛び立っていく飛行機をただ見送った。もうどこを探せばいいのかもわからなくなり、綾香は空港の隅にしゃがみ込んだ。遅れて駆けつけた渉が見つけたときには、泣き疲れて、もう動けなくなっていた。……飛行機は無事に到着し、私はそのまま研修先の病院へ向かった。そこからは、息をつく暇もないような毎日だった。手術室に入る日が続き、カンファレンスや勉強会、難しい症例の検討にも追われた。朝から晩まで仕事のことばかりで、余計なことを考えている暇はほとんどなかった。研修先には、重い希少疾患を抱え、治療を求めて各地からやってくる患者が多かった。中には、裕福な家庭の人も少なくなかった。どれだけお金をかけても、できる治療をすべて試しても、それでも救えない命があった。そんな場面を何度も目にするうちに、それまであれほど大きく思えていたことが、少しずつ違って見えるようになった。お金のことも、恋の
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第8話
私が海外にいる間、渉は何度も2人で撮った写真を見返していた。残業で帰りが遅くなった日は、いつも温かいご飯を用意して待っていてくれた。私が自信をなくして落ち込んだときも、何も急かさず、そばで話を聞いてくれた。いつか渉と家庭を持てることを楽しみにして、綾香も一緒に3人のこれからをあれこれ話していたこともあった。そんなことを思い出すたび、渉は胸が痛んだ。綾香もまた、私のことを思い出さずにはいられなかった。私が休学して働き、賠償金を工面したこと。いつも綾香のことを優先し、2人の気持ちに気づいてからも責めることなく、最後は何も言わずに離れていったこと。今になって、2人はようやく気づいた。臆病だと言っていた私が、2人のためなら何度も勇気を振り絞り、本当なら背負わなくてもよかったことまで抱えてきたのだと。それからも2人は、互いを責めながら離れられずにいた。会えば傷つけ合うのに、きっぱり終わらせることもできなかった。そんな日が続いたある夜、酒に酔った勢いで、2人は一線を越えた。それからしばらくして、綾香の妊娠がわかった。検査結果を受け取った日、綾香は渉に、子どもは産まないつもりだと告げた。渉はすぐに反対した。「駄目だ。俺たちの子だろ」「……この子は、産んじゃいけないの。私たちの関係は最初から間違ってた。この子がいたら、この先もずっと離れられなくなる。それに、これ以上日菜に顔向けできなくなるようなことはしたくない。だから、もうここで終わりにしないと」その一言をきっかけに、2人は激しく言い争った。これまで胸の内にため込んできた後悔も、やりきれなさも、互いへの不満も、全部ぶつけ合った。言い争いが終わる頃には、綾香の気持ちはもう決まっていた。渉とは、今度こそきっぱり別れるつもりだった。けれど、何日もまともに気持ちが休まらず、綾香は上の空のまま歩いていた。交差点に差しかかっても、近づいてくる車には気づかなかった。そのとき、1台の車が突然大きくふらつき、そのまま綾香のほうへ突っ込んできた。すぐ後ろにいた渉がとっさに駆け寄り、綾香を力いっぱい突き飛ばした。次の瞬間、渉は車にはねられ、そのまま路面に叩きつけられた。激しいブレーキ音が響き、倒れた渉の下に血が広がっていった。近くにいた人がすぐに救急車を呼び、2
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第9話
胸騒ぎがして、私は渉の両親を追うように病院へ入った。すると、廊下に倒れている綾香が目に入った。すぐに駆け寄り、近くの看護師に声をかけた。綾香はそのまま処置を受け、しばらくして出血も落ち着いた。お腹の子も、どうにか無事だった。けれど、渉は助からなかった。怪我があまりにも重く、懸命な救命処置もむなしく、息を引き取った。その知らせを聞いた綾香は、ベッドの上で泣き崩れた。「私が悪いんだよ……渉が死んだのも、日菜がいなくなったのも……私が全部めちゃくちゃにしたんだよ……」綾香が泣き続ける中、突然、病室のドアが開いた。渉の両親だった。渉の母はそのままベッドまで来ると、綾香に詰め寄った。「お腹の子、渉の子なんでしょう?だったら絶対に産みなさい。渉はもういないのよ。せめてこの子だけは、ちゃんと産んであげなさいよ!」渉の父も厳しい顔で口を挟んだ。「渉が残した子なんだ。勝手に堕ろすなんて、認められるわけがない。そんなことをしたら、この先ずっと後悔するぞ。よく考えてから決めろ」2人がなおも綾香を責め続けるのを見て、私はベッドの前に出た。昔、綾香が私を守ってくれたように、今度は私が綾香を守る番だった。「もうやめてください。綾香はさっきまで出血してたんです。今はとにかく休ませてあげてください。この子をどうするかは、綾香が自分で決めることです。誰かが無理に決めていいことじゃありません。渉の子だからって、産むことまで押しつけないでください。まして、それを償いみたいに言うのはやめてください。綾香は今だって十分自分を責めています。これ以上追い詰めないでください」私は2人を見たまま、続けた。「これ以上ここで綾香を責めるなら、病院にも事情を話します。必要なら、面会も断ってもらいます」そこまで言うと、渉の両親も、それ以上は言い返してこなかった。それからしばらく、私はできる限り綾香のそばにいた。入院中は面会できる時間ぎりぎりまで付き添い、退院してからも、眠れない夜には話し相手になった。食欲がない日は、少しでも口にできそうなものを用意した。妊婦健診にも付き添った。綾香が何か話したくなったときは、無理に励ましたりせず、ただ黙って話を聞いた。そうして過ごすうちに、綾香も少しずつ元気を取り戻していった。
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第10話
綾香は苦しそうに息をしながら、それでもかすかに笑った。「みんな、私がずっと日菜を守ってきたって思ってるよね。でもね、本当は逆だったんだよ。私がここまで生きてこられたのは、日菜がいてくれたから。私は親に捨てられて、何度か別の家庭に引き取られても、そのたび施設に戻されて……嫌われたり、いじめられたりするのが当たり前だった。だから、ずっと強いふりをしてた。そうでもしないと、やっていけなかったから。初めて日菜を見たとき、1人で泣いてる姿が昔の自分みたいで、ただ放っておけなかった。それだけだったの。なのに日菜は、あのときから20年もずっと私のそばにいてくれた。何があっても私のことを大事にして、ずっと頼ってくれて……」綾香の目から、また涙がこぼれた。「日菜がいてくれたから、私、今まで何とかやってこられたんだよ。ずっとそばにいてくれたこと、それだけで何度も救われた」涙が次々とこぼれ、声を出そうとしてもうまく出なかった。それでも私は、わざときつい口調で言った。「もういいから、しゃべらないで!そんなことより、ちゃんと生きてよ!もし綾香に何かあったら、私、その子のことなんて絶対育てないからね」綾香は苦しそうに息をしながら、それでも少しだけ笑った。「それなら……渉のご両親にお願いすればいいよ。日菜にはもう、何にも縛られずに、自分のために生きてほしい。それが私の一番の願いだから」私は何度も首を振った。「違うよ。そんなの、私が望んでることじゃない。私が医者になろうって決めたのは、今度こそ私が綾香を助けられるようになりたかったからだよ。あのときみたいに、何もできないまま綾香が苦しんでるのを見るなんて、もう嫌なの」私は綾香の手を強く握った。「だからお願い、綾香。生きて。綾香までいなくなったら、私、一生自分を許せないよ」それから数時間、懸命な処置が続いた。幸い、綾香は無事に女の子を産んだ。ただ、出産の際に大量出血したため、体はかなり弱っていた。医師からは、今後の妊娠は難しく、体に負担のかかる仕事も避けるように言われた。これから先も、無理をせず、体調に気をつけながら暮らしていかなければならなかった。それでも、今の私には、綾香とこの子を支えていけるだけの力があった。……それから、数年が過ぎた。
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