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第2話

Author: 木憐青
静雄は芽衣の手を見つめながら、心が少しずつ沈んでいった。そしてこう言った。

「それなら一ヶ月だ。だが、余計な真似をするな。もし何か企んでいたら、ただではすまない」

深雪は淡く微笑んだ。

「わかった。あなたが寧々に付き添ってくれるなら、何でも協力するわ。

じゃあ、父親として、寧々に誕生日プレゼントをあげるべきじゃない?」

寧々は深雪の腕の中に抱かれていた。

今、車は松原家へと向かっている。

「ママ、本当にパパ来たの?」

寧々はよく抑えてはいたが、その瞳には抑えきれない期待があったため、声が少し震えていた。

深雪は優しく背中を撫でながら、静かに言った。

「もちろんよ」

寧々の目が少し輝いた。

「じゃあママ、私が病気のこと、パパに言わないで。パパが悲しむのが嫌なの」

その瞬間、深雪は目頭が少し熱くなり、鼻の奥がツンとした。彼女は寧々の細かい髪を撫でた。

「わかった。ママ、言わないよ」

寧々は小指を差し出した。深雪はその意味を理解し、小指を絡めた。

「嘘ついたらハリセンボンね……」

寧々は甘く微笑んだ。

しかし、そのすべてが、深雪の目にはぼやけて映った。

彼女の子どもはこの世で唯一の血の繋がった家族だ。

なのに、もうすぐ、離れなければならない。

でも去る前に、せめて最後の夢を見せてあげたかった。

松原家に着くと、執事が進んで二人の荷物を受け取った。

深雪は尋ねた。

「静雄は中にいるか?」

執事はうなずいた。

「はい」

その返事を聞いて、深雪は少し安心した。結婚後、静雄がこの家に泊まるのは数えるほどで、寧々が父に会えるのはもっぱらテレビの中だった。

深雪は寧々の手を引いて別荘の中へ入った。

遠くに静雄がソファに座っているのが見えた。

寧々の目が輝いた。

深雪は彼女の手を放し、肩を軽く叩いた。

「行っておいで」

寧々はようやく、おそるおそる前に進んだ。

その不器用で小さな体つきは、どこか怯えているようにも見えた。

そして、ソファからかなり離れたところまで来ると、彼女は弱々しく一言、呼びかけた。

「パパ……」

静雄の目がわずかに動いた。彼は実は深雪が来たことにすでに気づいていた。

だが迎えに行く気はなかった。

寧々に「パパ」と呼ばれた瞬間、なぜか、ほんの僅かに動揺した。

しかし、そのあどけないながらも深雪にそっくりな顔を見たら、思わず嫌悪感が湧いてきた。

彼は喉を鳴らし、淡々と「うん」と答えた。

そして横に置かれていたラッピングされた贈り物を手に取った。

「誕生日プレゼントだ」

寧々は信じられないという顔で、「ありがとう……」と小さな声で照れたように言った。

深雪の目は冷たくなった。静雄の態度に満足できなかった。

彼女は寧々の頭を撫でた。

「寧々、開けてみて。パパが何をくれたのか見てごらん」

寧々は微笑んで、プレゼントを開け始めた。

中身を見た瞬間、寧々の笑顔が一瞬固まったが、すぐにまたにこっと笑った。

「ありがとう、パパ、大好き」

深雪はそのダイヤのイヤリングを見て、胸が詰まるような思いに襲われた。

彼女は怒りを押し殺した。

「寧々、早く寝るって、おじさんと約束したでしょ?今日はもう遅いから、早く寝なきゃね。明日、パパが遊びに連れてってくれるから」

静雄は「おじさん」という言葉を聞いて、目が動いた。

寧々は素直にうなずいた。

このプレゼントは好きじゃなかったが、パパとママが一緒にいるのを見られて、すごく嬉しかった。

ママが言った。

もしパパにお医者さんのことを知られたくないなら、お医者さんをおじさんと呼ぶ、と。

だから、寧々はお医者さんの言うことを聞いて、早く寝ると決めた。

「おやすみ」

深雪は微笑み、寧々が使用人に連れられて二階へ上がるのを見送った。

そして彼女は手にそのダイヤのイヤリングを持ったまま言った。

「松原社長が忙しいのは分かる。でも、いい加減にプレゼントを選んだとしても、四歳の子にダイヤのイヤリングはないでしょう」

静雄は松原社長と呼ばれたことに、なぜか冷たく感じた。

そして言った。

「この時間じゃ、どこもプレゼントを買えないんだ。それは芽衣から借りたんだ……

今回はミスったけど、次はない」

深雪は心の中で、次なんてないと思った。

寧々の次の誕生日は、永遠に迎えることはないから。

深雪は心に湧く痛みを押し殺し、事前に用意していた絵本を手に取った。

「良い父親として、今夜、私と一緒に寧々に絵本を読んであげて」

「俺には無理だ」

静雄は冷たく言った。

深雪はまるで予想していたかのように答えた。

「大丈夫、私が読むから、あなたは一緒にいてくれるだけでいい」

静雄は不満を抑え、「ああ」と返事をした。

深雪は言った。

「あなたが私に会いたくないのはわかってる。だから、寧々が寝たら、芽衣さんのところへ行っていい。

明日の朝、寧々が幼稚園に行く前に戻ってくれれば、それでいい」

静雄はその言葉を聞いた瞬間、少し驚いた。

かつての深雪は、彼を引き留めようとあらゆる手を使った。

例えば、彼を帰らせるために、彼女は仮病を使って、祖父に懇願したこともあった。

今回もまたそんな策略だと思った彼は、冷たくなった目で言った。

「いや、今夜は客室に泊まる」

深雪は何の反応も見せずに、「じゃ、行きましょう」と言った。

そして二人は、初めて一緒に寧々の部屋へ向かった。

皮肉にも、深雪と静雄は結婚して五年になるのに、静雄が寧々の部屋に入ったのは、これが初めてだった。

静雄は、深雪がベッドに腰を下ろし、絵本を手にしながら、古臭い人魚姫の物語を読み始めるのを見た。

おそらく静雄が自分の部屋に来るのは初めてだから、寧々はあまりにも嬉しくて、思わず静雄に視線をちらちらと送ってしまった。

この雰囲気、そしてこの視線……

すべてが静雄にとっては見知らぬものだった。

彼は何度もこの部屋を出ようとしたが、芽衣のことを思い出し、ぐっと我慢した。

たった一ヶ月のことだ。

「そして、人魚姫は泡となって海に還った……」

その優しい声は、小川のせせらぎのように穏やかだった。

静雄はベッドランプの光の中で深雪を見た。

淡い光が彼女のほっそりとした体を美しく浮かび上がらせている。編んだ髪は胸の右側に優しく垂れている。

彼女の目はただただ寧々を見つめていた。

静雄の目つきがわずかに変わった。

すると突然、寧々が口を開いた。

「ママ、牛乳飲みたい」

深雪は、父と娘だけの時間を作るのも悪くないと考えた。

「いいわ。ママが作ってくるね」

そう言って、深雪は立ち上がった。

静雄も無意識に立ち上がろうとした。

深雪の目が彼に向けられた。

静雄はその意味を察し、唇を引き結んだ後、座り直した。

ドアが閉まる。

小さな部屋は静寂に包まれた。

静雄は寧々の強い視線を感じて、目を動かした。

「どうした?」

パパが自分に話しかけてくれた……寧々の胸は何かで満たされたようだった。

「パパ、今日来てくれて、寧々は本当に嬉しかった」

不器用な寧々は、不安そうにしながらも一生懸命に気持ちを伝えようとしていた。

静雄は、その期待を浮かべた目を見て、一瞬言葉を失った。

「どうして?」

たった数回しか会ったことがないのに。
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