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第1014話

作者: レイシ大好き
とくに緒莉のことになると、伊藤はどうにも引っかかる。

まるで何かを知っている人間のように感じられるのだ。

幼いころから、彼女の表情にはどこか年齢にそぐわない違和感があった。考えも妙に深く、大人でもそうそうできないようなことを平然とやってのける。

そのせいで伊藤はずっと不思議に思っていたが、その気持ちは胸の奥にしまい込んでいた。

すべての支度を整えたあと、伊藤は美月と緒莉が出ていくのを見送った。

今回の安東家への「討伐」が、正しい判断であることを願うばかりだ。

二小姐が家にいないと、どうにも落ち着かない――そんな気持ちもある。

だが結局、自分はただの管家にすぎない。言い過ぎれば煙たがられるだけだ。

伊藤はひとつため息をつき、黙って部屋へ戻り、別の仕事に取りかかった。

その様子を、緒莉はバックミラー越しに見ていた。

猫背の背中を見つめながら、唇の端をわずかに持ち上げる。

気づかれた?おもしろい、と心の中で呟き、ますます興味がわく。

美月は、急に緒莉の機嫌が良くなったのに気づき、不思議そうに尋ねた。

「どうしたの、緒莉?嬉しそうね」

緒莉はすぐに表情を引っ込め、母に答える。

「お母さんが自分の首を絞めるような相手と一緒にいなくて済むって考えたら、つい......」

そう言いながら、自分の喉元にそっと触れ、心配そうに目を伏せる。

「でも正直、私もう自分の声が嫌になってきたの。

お母さんたちもきっとそう思ってるんでしょ......私だって好きでこうなったわけじゃないのに」

美月は胸を痛め、緒莉をそっと抱きしめた。

「これは緒莉のせいじゃないのよ。緒莉が私にしてくれたこと、ずっと見てきたもの。

安心しなさい。必ずあんな連中を倒して見せるわ。嫁がせたりなんて絶対にしないから」

緒莉はようやく肩の力を抜き、美月に寄りかかった。

安心しきった笑みを浮かべ、尊敬のまなざしで母を見つめる。

「お母さんって本当にすごいよ。そばにいてくれるだけで心強い。もしお母さんがいなかったら、私これからどう生きていけばいいのか......」

「ばかね」

美月は軽く頭を撫でただけで、それ以上は何も言わなかった。

自分がいつまでもそばにいられるわけではない――

それは分かっている。

自分の立場のこともあるし、あの女が今どうしているのかも分からない。

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