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第287話

Author: レイシ大好き
この光景を見て、紗雪は確信した。この人物は確実に自分を尾行している。

彼女は眉をひそめ、なぜ自分が尾行されているのか分からなかった。

何かのビジネス上のライバルにでも狙われている?

この車、どこかで見た覚えがある。

見れば見るほど見覚えがある気がした。

しかし、すぐには思い出せなかった。

紗雪は何度か道を曲がって様子を見たが、相手はずっとついてきた。

彼女の目つきは次第に鋭くなっていった。

これは明らかに尾行している。

少し考えたあと、彼女は家に帰るのをやめることにした。

誰かに自宅を知られるのはまずいと思ったのだ。

そう思った瞬間、紗雪はある仮説に思い至った。

まさか相手の目的は彼女の自宅の場所なのでは?

だとしたら、なおさら帰るわけにはいかない。

今後ずっと狙われる羽目になるかもしれないからだ。

紗雪はわざと複数のルートを通り、最後には相手の車を完全に振り切った。

後ろに車の影がまったく見えなくなった時、ようやく心の中で一息ついた。

その後、彼女は秘書に電話をかけて、この人物が誰なのか調べるよう依頼した。

秘書は最初少し困惑していた。

もう仕事が終わる時間なのに、なぜ上司が電話を?

電話がつながった瞬間、秘書は自分が何かミスでもしたのかと焦った。

このところ何かやらかしただろうか、と心の中で思い返し始めていた。

しかし紗雪はすぐに切り出した。

「車のナンバーを調べてほしい」

「車種は最新型のベントレー。時間はさっき、会社を出たあたり」

その一言を聞いて、秘書は一気に背筋を伸ばした。

まさか紗雪に何かあったのでは?

「会長、大丈夫ですか?」

この上司には普段からよくしてもらっている。

だからこそ、彼は紗雪に何かあったとは思いたくなかった。

紗雪は電話口で首を振るように言った。

「まだ大丈夫よ。ただ、この人物が誰なのか知りたい。夜ずっと車で私を尾行してた」

「わかりました。すぐに調べてみます」

紗雪は「お願いね」と一言だけ返し、何も言わずに電話を切った。

前方の道を見つめながら、彼女はしばし考え込んだ。

この人物の目的は何なのか。

ただ単に自宅の住所を知りたかっただけなのか、あるいは別の意図があったのか。

最近のビジネスで敵を作ったのは確かだ。

あの二つの案件を取るために、綺麗ごとでは済まな
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