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第320話
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クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第338話
紗雪はにっこりと微笑み、手を上げて髪をかき上げた。「この件については、ご安心を」「ジョンとはきちんと話をつけておきます」彼女は顎を軽く上げて、自信満々に言った。「向こうが私を踏み台にしようとしているのに、私が協力を続ける必要がどこにあるんです？」「それに、今はもうランドさんがいる。あなたが私を裏切らない限り、きっと毎年いい関係を築いていけると信じています」その言葉の意味は、少しでも頭が回る人ならすぐに分かるはずだった。彼女が何を言わんとしているかは明白だ。紗雪は持ってきた契約書をランドに差し出した。「これは作成させた契約書です。問題がなければ、署名していただければと思います」ランドはそばにいる秘書に目配せした。秘書は空気を読んで契約書を受け取り、丁寧にページをめくりながら確認を始めた。そして最終的に、問題ないという意志を込めた目つきでランドに頷いてみせた。紗雪も少し姿勢を正した。ジョンの老いぼれ、値段を吊り上げるような真似をしておいて、自分がこのプロジェクトを諦めきれないと思い込んでいた。だが、彼は忘れていた。自分は手を引くこともできる、と。しかも次の相手もそう悪くない。そう思うと、紗雪の笑顔はさらに明るくなり、頬がふんわりと緩んだ。やはり、今目の前にいるランドこそが最良の選択だった。余計なことを考える必要なんてなかったのだ。ランドも重ねて口を開いた。「二川さん、あなたも私も賢い人間です。今回の協力関係を結ぶ以上、ジョンとの関係はきっぱり断ち切ってもらわないと困ります」「それから、外部には我々が新たな協力を結び、二川グループを次なる高みに押し上げようとしている、という方向で発信しておいてください」紗雪は軽く頷いた。「はい。問題ありません」「ランドさんのおっしゃること、すべて理解していますし、必ず約束通りに動きます」紗雪の返答に、ランドの表情もほぐれた。彼はすぐに契約書を手に取り、ためらいなく署名を済ませた。そのあと、ランドは紗雪に手を差し出した。「では、我々の協力関係がうまくいくことを祈って」「こちらこそ、よろしくお願いいたします」紗雪は微笑みながら手を伸ばし、二人の手が重なった瞬間、照明の光に照らされて、まるで強者同士の共闘のような雰囲気
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第337話
紗雪は検索ページを開き、LCの内部事情について改めて詳しく調べようとした。調べてみると、どうやらこのランドという人物は、ジョンとLC社の常務の座を争っているところだった。そのせいで、二人の関係は社内でも良くなく、経営陣も基本的には彼らを一緒にしないようにしているらしい。なぜなら、二人は時に本当に手がつけられないほど対立するからだ。会社内にとどまらず、ほんの些細なことでも大喧嘩になることがあるという。これを思い出して、紗雪は思わず可笑しくなった。あのジョンのことは自分も見たことがあるが、まさか社内ではそんなイメージだったとは。どうやら局面を打破するには、ランドとの協力関係を築くのが正解のようだ。ちょうど二人は犬猿の仲だし、ランドを味方につけられれば、あのジョンに一発かますことができる。紗雪は顎を少し上げ、ようやく状況が理解できた。今後もう一緒にやっていけないのなら、相手に顔を立ててやる必要もない。そもそも、相手のやり方は、彼女の顔をまったく立てていなかったのだ。そう考えると、紗雪の瞳に鋭い光が宿る。彼女は明日の面談が楽しみになってきた。今度こそ、自分の目でジョンという老害の本性を確かめてやろう。翌日午後。紗雪は秘書を連れて、約束の場所に向かった。ランドの姿を見たその瞬間、紗雪はジョンよりはるかに好印象だと感じた。二人はまるで正反対のような容姿だった。一方はずる賢そうで、もう一方は人当たりがよく、話す声もとても穏やかだった。そのため、紗雪はランドに対して非常に良い印象を持った。そう、ランドは優しく穏やかなタイプの人間だ。だからこそ、会ってすぐに紗雪は彼と話せることを嬉しく思った。こういう人となら、ジョンのような揉め事にはならないだろう。紗雪は軽く握手を交わし、二人は席についた。それぞれの秘書たちは後ろに立っていたが、紗雪は明るく言った。「座ってください。そんなに気を使わなくていいですよ。立っていると疲れるでしょう？」ランドの秘書は驚いた様子で戸惑いながら言った。「え、ええっ、私も......座っていいんですか？」紗雪は優しく頷いた。「もちろんです。みんなで食事をするだけですし、普通のことですよ」紗雪がさらに促す前に、彼女の秘書は待ちきれない様子
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第336話
けれども、匠はやはり驚きを隠せず、オフィスの中を行ったり来たりしながら、信じられないという表情を浮かべていた。「本当に先見の明がありますね！」京弥は軽く笑い、「皆がお前みたいにバカだと思うな」と言った。匠の顔の笑みは一瞬こわばったが、すぐに反応を取り戻した。問題ない、これは自分が最も尊敬する社長様なのだ。少しぐらい罵られても構わない、社長が機嫌よければそれでいい。「そういえば......社長、どうして二川さんがランドに連絡を取るってわかったんですか？」「簡単なことだ。誰にでもライバルはいる。そいつの経歴を調べれば、そこから手をつければいい」この言葉を聞いて、匠は京弥の目をじっと見つめ、ますます尊敬の念を深めた。「社長に付いて行ける人は、前世で徳を積んでるに違いありません」その目をキラキラさせた匠の様子に、京弥は心底気味悪がり、思わず身震いした。「仕事に戻れ」京弥はさらに念を押した。「紗雪にバレないようにしろ。俺がランドに連絡を取らせたってことは、絶対に言うな」「向こうから自然に接触してきたように見せるんだ。わざとらしくするなよ」その言葉を聞いて、匠は何度も頷いた。「わかりました、社長！」これは夫婦の間の愛情表現ってやつか。お互いのことを思っているのに、それを相手には知られたくないなんて。そんなことを考えると、匠は内心くすくす笑ってしまった。これが、いわゆる夫婦の趣ってやつ？彼は首を何度も横に振った。まあいい、自分には関係ない。自分みたいな独り身には到底理解できるものではないのだ。とりあえず、ランドに絶対口を滑らせるなとだけ念を押しておこう。一方で、京弥は目の前の資料を開くこともせず、じっと見つめていた。彼はわかっていた。自分のさっちゃんは、誰よりも強くて自立した人間だと。そして、ランドという人物に目をつけるというこの展開。自分が思いつくのなら、紗雪も必ずそこに辿り着く。だからこそ、京弥は先に匠に連絡を取らせたのだ。紗雪の性格をよく理解しているからこそ、彼は彼女にすべてを任せようと決めた。自分のすべきことは、彼女の前に、広く明るい道を敷いてやることだけ。京弥は微笑み、携帯のメモを見ながら、口元で呟いた。「ほんと、冷たいヤツめ.....
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第335話
他のことはともかく、すでにプロジェクトは半分まで進んでいるが、残りの資金はどうしても支払うわけにはいかない。紗雪はオフィスに戻ると、すぐにLC社に関する資料の調査に取り掛かった。ここで黙って成り行きを見ているくらいなら、こちらから仕掛けた方がいい！会社の上層部があてにならないなら、なおさら自分で証明してみせるしかない。誰にも期待されていないとしても、自分の道は自分で切り開く。紗雪の目は固く決意に満ち、両手は素早くキーボードの上を走っていた。ちょうどその様子を見た秘書は、何も言わずにそっと部屋を出た。紗雪が忙しそうだったので、邪魔をしない方がいいと判断したのだ。資料を調べ終えた後、彼女の努力は無駄ではなかったことが分かった。彼女は思った通り、ジョンが急いでいたのには理由があるはずだった。実は、LC社の中で発言力を持っているのはジョンだけではなかった。彼らの内部にはいくつかの対立が存在しており、だからこそジョンは価格を上げてでも会社の上層部に自分をアピールしようとしていたのだ。紗雪はその意図を察知し、内心では呆れを隠しきれなかった。つまり、それがジョンの目的だったわけ？もしそれがプロジェクトの利益のためだとすれば、つまりLC社はこの案件を手放したくないということになる。そうでなければ、ジョンがあえて価格を釣り上げる必要なんてないはずだ。彼はきっと、紗雪がこの案件を諦めるはずがないと踏んで、あんな大胆な手に出たに違いない。紗雪はきゅっと赤い唇を引き結んだ。このジョン、まさか自分がいなければ誰も何もできないとでも思っているのか？そう考えた途端、紗雪は可笑しさを感じた。この世に、誰かがいなければ成り立たないことなんて、あるはずがない。彼女は、ジョンのその振る舞いが本当に滑稽だと思った。まさか彼、LC社と縁を切ったら自分が何もできなくなるとでも思っているの？そう思えば思うほど、紗雪はさらに可笑しくなった。今回は、彼女も迷うことなく、秘書に命じてLC社の別の幹部、ランドとの連絡を取るよう指示した。秘書は最初、少し戸惑っていた。「会長、ランドと連絡を取るって、どういう......？」彼はジョンの態度を思い出し、怒りをあらわにした。「まさか、あの会社との取引を続けるおつもり
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第334話
「どうやって解決するつもりだ？言っておくが、うちには君が好きに使えるほどの現金はないってこと、わかってるだろうな」幹部は突然立ち上がった。「それに、このジョンってやつ。もともと君のクライアントだったんだぞ？それが急に手のひら返した。自分に何か問題があったとは思わないのか？」紗雪の瞳が鋭くなった。「......では、どう反省すべきだと思われますか？」今の会社の状況は、彼女が望んでいたものじゃない。なのに、みんなが次々と詰め寄ってきて、まるで値上げを仕掛けたのが自分であるかのように言ってくる。「もちろん、このプロジェクトを元に戻すことよ。価格も以前の水準に」美月が幹部の言葉に乗っかって口を開く。視線で紗雪に圧をかけ、少しは態度を和らげなさい、と暗に示してくる。紗雪はようやく気づいた。この二人、最初から組んでいたのだ。今日のこの場は、最初から彼女を攻めるための舞台だった。「先程すでに言いました。LC社の件は私が解決します。あなたたちが口を挟む必要はありません」その言葉を聞いた幹部は、またもや不満げな顔になる。手に持っていた杖で床をコツコツと叩きながら、怒りを露わにした。「口を挟むだと？忘れるなよ、今君が持っているものは、すべて二川家が与えたものだ。君は二川家の人間であり、会長代理の肩書を持っているんだ！」幹部はどんどんヒートアップしていく。「たとえ代理の立場にあろうと、外に出れば、それは会社を代表することになるんだ！」紗雪はその意味をちゃんと理解していた。彼女はこの会社から逃げるつもりなんて一度もなかった。「もう一度言います。私が責任を持って処理し、解決します。他のことは心配無用です」そう言うと、これ以上話す気もなかった。多くを語るより、一つの行動を見せるほうがよっぽど意味がある時もある。紗雪の頑なな態度に、幹部も最後は何も言わずに黙ってしまった。「いいだろう。そこまで言うなら、我々みたいな年寄りがとやかく言っても無駄だな」紗雪は小さく首を振った。「会長、堀川（ほろかわ）さん。みんなの不安も理解しています。ご安心してください、私は会社の利益を損ねるようなことは絶対にしません」「二川家には育ててもらった恩があります。そんな会社を危険に晒すようなこと、私がするわけな
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第333話
この男は、今では彼女のベッドに寝るのがすっかり気に入ってしまっていた。毎回、彼女のことをぎゅっと抱きしめて眠りたがる。最初は紗雪も少し戸惑っていたけれど、次第に慣れてしまい、特に気にしなくなった。ちょうど季節の変わり目で涼しくなってきたところだし、天然のヒーター代わりになるなら、むしろありがたいくらいだ。紗雪が出勤しようとすると、京弥は最初送っていくと言い出したが、紗雪にきっぱり断られた。仕方なく、彼女を一人で会社へ行かせることにしたのだった。紗雪が一度頑固になると、誰にも止められない。何を言っても無駄なのだ。京弥もそのことはもう十分わかっていて、今では余計なことは言わないようになっている。彼も、紗雪が人に指図されるのを嫌うタイプだとよく理解していた。だったら細かいことにこだわるよりも、彼女の体を気遣ってあげる方がよほど意味がある。「今夜帰ってきたら、俺が夕飯作ってあげるよ」紗雪は一瞬きょとんとしたが、結局うなずいた。よく考えてみれば、二人で一緒に食事をするのも久しぶりだ。こんなにも長い時間、離れたり忙しくしていたりして、結局誰を苦しめていたのだろう。紗雪が会社に着くと、頭の中には京弥の端正な顔がずっと残っていて、どうしても消えてくれなかった。はあ、とため息をつく。働きに来ているのに、こんなことで頭をいっぱいにしてどうするのか。ようやく席に着こうとしたそのとき、秘書が近づいてきて、彼女に告げた。「紗雪さん、美月会長がお呼びです」紗雪の手が止まり、思わずこめかみに鈍い痛みを感じた。「......わかった。すぐに行くわ」疲れた表情を浮かべる紗雪に、秘書も胸を痛めた様子だった。このところ彼女がまともに休めていないのを、ずっと見てきたからだ。また会長に呼ばれるなんて、どうせ文句を言われるに決まっている。「必要であれば何でもお手伝いしますので、遠慮なくおっしゃってください」「ありがとう。でも大丈夫よ。心配しないで」そう言って、紗雪は立ち上がり、会長室へ向かった。逃げ続けても仕方がない。そう思ったのだった。会長室の前に着くと、ノックをして、中から声が聞こえたのを確認してから扉を開けた。中に入ってすぐ、紗雪は気づいた。部屋には美月だけではなく、会社の幹部
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