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第325話

Author: レイシ大好き
「頼んだよ。この件、君に任せておけばきっと大丈夫」

紗雪は微笑みながら、去っていく秘書の背中を見送った。

秘書も、紗雪の意図をしっかりと理解していた。

彼女の分析を聞いたことで、自分自身が冷静になり、頭も冴えてきたように感じた。

一見、彼女はこの事態に無関心のように見えるが、実際はすでに策を練っているのだ。

そう思えばこそ、彼女の落ち着いた様子も納得できた。

彼女の器の大きさに、秘書の尊敬の念はさらに深まった。

もし許されるなら、これからも彼女にずっとついていきたい。

そう強く思った。

外に出た秘書は、自分のデスク近くで社員たちが集まって、あれこれ噂話をしているのを見かけた。

その声は次第に大きくなり、彼の耳にも内容が届いてくる。

彼は机をバンッと叩き、苛立ちをあらわにした。

「今は勤務時間中だぞ。君たちは何をやっているんだ」

「そんなに仕事をしたくないのか?だからこんな風に堂々と話してるのか?」

その一言で、その場の空気は一変した。

社員たちは一斉に黙り込み、秘書を見つめた。

彼の言っていることが的を射ていることは、皆理解していた。

しかし。

事が実際に起こった以上、話題にするなというのも無理があるのでは?と感じる者もいた。

そんな中、勇気を出して一人が声を上げた。

「それなら教えてください。噂は、本当なんですか?」

「つまり、ジョンさんは本当に、うちと協力したくないってことなんですか?」

その質問に、秘書は思わず苦笑した。

この人たちは、自分を何様だと思っているんだろうか。

二川グループの社員であることが、全てをコントロールできる立場だとでも?

「知ったところで、どうなるというのだ」

そう言われて、質問した社員は言葉を失った。

口をもごもごと動かし、やっとの思いで言った。

「でも......ただ、事実を知りたいんです。それが、私たち全員にとってもフェアだと思いますし......」

秘書は鼻で笑いながら言った。

「真実を知って、それから?」

「ジョンさんは君のことを知ってるのか?それとも、君が会長の代わりに交渉しに行くのか?」

その言葉を聞いて、質問者は自然と視線を下げた。

何も言い返せなかった。

確かに、言い方はキツいかもしれない。

だが、彼の言っていることは間違っていない。

真実を知ったと
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