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第13話
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クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第406話
彼女に悪気がないことは分かっていた。だが、今の彼女は自責の念に囚われていて、誰の言葉も耳に入らない。日向も紗雪の傍に寄り添っていた。こんな彼女の姿を見るのは、彼にとって初めてだった。「さっちゃん、君のせいじゃないよ。君に悪気なんてあるわけがないし、わざとじゃないに決まってる」京弥は声を抑え、根気強く紗雪を宥め続けた。だが、紗雪は自分の感情に沈み込み、京弥の言葉には反応しなかった。それでも彼女の美しい瞳は、病室のドアにある小さなガラス窓越しに、ベッドに横たわる母親をじっと見つめていた。あんなに強気だった母が、まるで壊れた人形のように静かにベッドに横たわっているなんて。母さんはいつも強かったじゃない。起きて、また説教してよ。大丈夫、今回は口答えなんてしないから。紗雪は心の中でそう呟きながら、目尻を真っ赤に染めていた。何を言っても通じないと察した京弥は、そっと紗雪の手を握った。その手をしっかりと、離さないように。ときに、言葉よりも行動のほうが、ずっと大きな力になる。手から伝わる温もりを感じながら、紗雪は感謝の気持ちを込めて京弥を見つめた。「ありがとう。でも大丈夫。私、もう平気」「こんなの、全然大したことじゃない。ただ、母さんのことが心配で......苦しいだけ」紗雪の口元に微かな笑みが浮かぶと、京弥の気分も少し晴れた。「きっとお義母さんは運の強い人だよ。これからは俺たちでちゃんと支えてあげよう」紗雪は頷きながら、京弥の腕に身を預けた。二人はまるで他人の目なんて気にしないかのように、ぴったりと寄り添っていた。その光景は、日向の目に深く突き刺さった。背を向けようと思った。見ないふりをしようとした。けれど、それはまるで棘のあるバラのようだった。刺されると分かっていても、その香りを求めてしまう。それが「愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来る」という意味なのか。あるいは、それ以上の思惑があるのか。日向は何度か深呼吸をし、気持ちを整えると、微笑を浮かべて言った。「お二人とも、そろそろ帰ろっか？」「ここは一応、病院なんだから......もう少し配慮したほうが.....」紗雪はバツが悪そうに顔を上げ、日向に申し訳なさそうに言った。「えっ。あ、ごめん......
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第405話
どうやら、あの子も最近は少しは考えを改めたらしい。それならそれで、悪くない。一つの可能性にしがみつく必要もないし。でなければ、安心して会社を加津也に任せるなんてできない。こういうことは、一つ一つちゃんと見極めていかないと分からない。そうでなければ、加津也が「優秀な後継者」だなんて言えない。室内。加津也はスマホを手に取り、見つめたまままた置いて、初芽に電話をかけるかどうかずっと迷っていた。彼は初芽からの電話も期待していた。あんなに長い時間外に出ているのに、まったく連絡がないなんて。それはさておき、今の彼は本当に心配だった。しばらく悩んだ末に、加津也は初芽にメッセージを送った。【初芽、今日は俺が悪かった。考えが足りなかった。もう二度と同じことはしないから、もう安心して】【今どこにいる？俺の別荘の暗証番号は知ってるよね。そこで泊まっていいから】【初芽、無視しないで。俺、本当に怖いんだ。何もなければいいけど、俺を心配させないでくれ......】......ちょうどシャワーを終えた初芽は、それらのメッセージを目にした。彼女は、どうせ電話しても出なければ諦めるだろうと思っていた。でもまさか、加津也がこんなにもしつこく、何度も何度もメッセージを送ってくるなんて思いもしなかった。その様子を見ていると、初芽の目元に自然と笑みが浮かんだ。やっぱり男ってのは、少し冷たくした方がいいのよね。加津也なんて、まさにその典型じゃない？初芽はスマホに表示された56件の未読メッセージを見て、気分が晴れやかになった。しばらく考えた後、画面を何度かタップして、そのままスマホをベッドに放り投げ、自分の用事を続けた。画面には、こうはっきりと表示されていた。【私、加津也のことを愛してるよ。でも一緒にはなれないの......だからもう連絡してこないで】その後、初芽は加津也をブロックした。初芽からの返事を見た瞬間、加津也は喜びと切なさが入り混じった感情に襲われた。やっぱり、初芽はまだ自分を見捨てきれなかったんだ。あんなに愛し合っていたのに、簡単に終わらせるはずがない。彼は舞い上がる気持ちのまま、急いで返信を打った。【俺も初芽を愛してる。外のことに惑わされないでくれ。君が無事ならそれだけでいい
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第404話
彼は直接、西山父に向かって言った。「何もしてないし、どこにも行くつもりなんかないよ。ただ立ってるのに疲れただけだ」「そうか？」西山父はゆっくりと話しながらも、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。最終的に、加津也は屈服し、うなずいた。「ああ。今すぐ自分の部屋に戻るから、安心して」「それならいい。加津也、お前も分かっているだろう。俺たちはお前のためを思っているんだ。女性のことに関しては、お前が成功すれば、将来は初芽のような女性以上の人がいくらでも手に入る。選びきれないほどになるだろう」加津也は何も言わず、西山父の顔に浮かぶ明らかな浮気の笑みを見ないふりをした。仕方がない、これは両親の問題であり、自分には関係ない。今回、加津也はなぜ母親が彼に会社を継がせたがっていたのか、ようやく理解した。どうやら、父親は外で多くの女性と関係を持っているようだ。そうでなければ、こんなことを言うはずがない。しかし、これだけの時間が経っても、母親が気づいていないとは、加津也は不思議に思った。彼はずっと、自分の家庭は他の家庭とは違うと思っていた。たとえ裕福でも、両親は仲が良く、子供に悪影響を与えることはなかった。それだけでも、加津也は十分に満足していた。彼は階段を上り、三階へ向かった。振り返ると、父親がそこに立って何かを見ていた。その瞬間、加津也は父親の頭に白髪があることに気づいた。彼は心の中でドキッとした。ずっと、父親は頼りになる存在で、永遠に自分のそばにいてくれると思っていた。しかし、今見ると、父親は自分の想像とは少し違っていた。浮気の可能性だけでなく、白髪も気になった。もしかすると、最近何か悩み事があるのかもしれない。この瞬間、加津也は深く実感した。これまで親の庇護の下にいた子供が、今や本当に成長し、自立しなければならないと。もう、親に心配をかけるわけにはいかない。ただ......父親の頭の白髪が......加津也は唇を引き結び、結局何も言わずに部屋に戻った。今の彼には何もできない。唯一できるのは、従うことだけだ。親の言う通りにし、彼らが敷いた道を進むしかない。そうすれば、世界は少しは良くなるのだろうか......加津也がドアを閉めるとき、彼の頭に最後に浮かん
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第403話
西山家を出たあと、初芽は少しだけ迷ったものの、すぐにタクシーを呼び、運転手に「一番いいホテルへ」と伝えた。目の前にそびえ立つホテルを見つめると、初芽は一切迷わずフロントへ向かい、十日間のプレジデンシャルスイートを予約した。どうせ金を払うのは加津也なのだから、彼女は一銭も惜しくない。ホテルでの滞在がちょうど終わるころには、加津也も必ず追ってくるはず。そのタイミングは、彼女の頭の中で完璧に計算されていた。「二川紗雪も......加津也も、絶対に許さないわ」初芽の目つきは徐々に冷たく、そして鋭くなっていく。加津也が手を出せないというのなら、彼女が動くまでのこと。彼女には方法も手段もいくらでもある。金もあるし、加津也さえも今や自分の味方。紗雪は一体何を考えているんだか。最初こそ、確かに加津也は優しかった。だが、今となっては、あれはただの「一時の新鮮さ」だったに過ぎない。「やっぱりね、男ってみんなそう。新しいものにしか興味ない」そう思うと、初芽は心の底から可笑しくなった。けれど、今の彼女にとっての加津也なんて、手のひらの上の駒にすぎない。かつてはあんなに偉そうにしていたのに、実際はただの脳なし御曹司だった。少し持ち上げてやれば、どこまでも喜ぶ単純な男。初芽はスイートルームに入り、のんびりとバスタブに浸かった。スマホが鳴り続けても、電源を切るつもりも、出るつもりもない。男というものは、こちらが冷たくすればするほど、ますます夢中になる。だからこそ、男に甘い顔を見せちゃいけない。そうでないと、自分がどれほどの価値かも分からないような連中なのだから。一方で。ずっと通話中と表示される画面を見て、加津也の目には怒りが滲み出ていた。初芽は一体何をしている？なぜ電話に出ない？文句の一つでも言おうかと口を開きかけたが、ふと別の不安が頭をよぎった。彼の初芽は、こんな無視をするような人間じゃない。まさか、何かあったんじゃ......？その考えがよぎった瞬間、男の心臓がぎゅっと締め付けられるようになり、思わず立ち上がった。「どこに行くつもりだ」そのとき、二階から西山父の声が落ちてきた。ちょうど「ガタッ」と立ち上がった直後のことで、加津也の体はその場でピタリと硬直した。
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第402話
だからこそ、彼は初芽にちゃんと謝ろうと思った。一度だけでもチャンスをくれれば、必ず償う。金でも他のことでも、なんだって構わない。しかし、どれだけ電話をかけても、相手は一向に出ようとしなかった。その瞬間、加津也は完全に混乱し始めた。最初はただの演技だと思っていた。初芽が自分から「出ていく」なんてことのも、ただのポーズだと。だが、時間が経つにつれて、何かがおかしいと気づき始めた。初芽は......本気で自分と別れるつもりなのか？そうでなければ、なぜずっと電話を無視する？一体どういうことだ。加津也の額には、じわじわと汗が浮かんでいた。このとき彼は、本当の意味で焦り始めた。この時間一緒に過ごしてきて、彼ははっきりと自覚した。初芽なしでは、生きていけない体になっていた。彼女を失うことは、命を取られるのと同じだ。これまでのことを思えば、今や初芽の存在は、紗雪以上の重みを持っていた。加津也は拳をぎゅっと握りしめた。何があっても、絶対に初芽を手放さない。絶対に、自分の手のひらの中から逃げさせない！......初芽が西山家を出たとき、一瞬だけ、どこへ行こうかと迷った。だがすぐに思い直した。自分の手元には十分なお金がある、どこにでも行ける。ここ数日、加津也はなぜか異常に優しかった。暇さえあればお金を振り込んできた。そのことを思い出すと、初芽は心の中で笑いが止まらなかった。西山家を出るのも、最初から計画のうち。今の加津也は、彼女に夢中だ。彼女には確信があった。加津也は必ず自分を探しに来る。今日の出来事も、すべてはそのため。この男はただ、会社と女の間で迷っていただけ。どちらを選ぶべきか決めかねていた。だったら、彼女が背中を押してやる。どうせ最終的には、彼は戻ってくる。初芽には、それだけの自信があった。ブーッ、ブーッ......案の定、加津也から電話がかかってきた。初芽は赤い唇を吊り上げ、加津也という名前が画面で何度も点滅しているのを見つめた。スマホのバイブは止まる気配を見せない。だが、彼女にそれを取るつもりはなかった。今は、あの男に罪悪感を感じさせる時だ。天下と女、どちらを取るか。この問題には、昔から完璧な答えなんて
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第401話
実は、初芽が彼の代わりに決断したわけじゃない。決めたのは、彼自身だった。初芽が去った後、加津也もようやく自分の本心に気づいた。「ふん。家柄も後ろ盾もない女なんて、何をそんなに気にする必要があるというのだ」そう吐き捨てると、西山父は加津也を無視してそのまま書斎に戻っていった。西山母の顔にも、いつものような美しさと気品が戻り、まるで何事もなかったかのように軽やかな様子を見せていた。「ほら、もう行っちゃったんだから、いつまでそこに突っ立ってるつもり？」西山母は呆れたように目を回した。この子、一体誰に似たのかしら。少なくとも自分には似てない。何かあるとすぐに引いてしまう、その性格が情けない。たしかに自分は、会社を選んでほしいとは思っていたけど、さっきの彼の煮え切らない態度は、どちらも手に入れようとしているのが見え見えだった。そんな優柔不断な男、たとえ我が子でも好きになれない。むしろ、もし本気で一つに決めていたら、少しは見直していたかもしれない。加津也は母の言葉を聞いて、さらに胸が苦しくなった。初芽を追いかけたい衝動を必死に押さえ込みながら、西山母を見つめ、歯を食いしばって言った。「全部......全部お前らのせいだ」「無理やり決断を迫らなければ、俺と初芽が別れることなんてなかった！」「へえ、じゃあ追いかけてきたら？」西山母は腕を組み、じっと息子を見据えた。「会社を捨てる覚悟があるなら、お父さんには私から話してあげる」「その代わり、今後あなたが何をしようが、西山家とは一切関係ない」「外で西山家の若様なんて名前を使って偉そうにすることも、もう許さないわ」喜ぶ暇もなく、加津也の退路はその言葉ですべて断たれた。今の目標は、ただ一つ。西山家を継ぐこと。会社さえ手に入れれば、初芽のことなんて......そのときになれば誰も口出しできない。「わかったよ、母さん......」加津也は頭を下げ、屈服したような声でそう言った。けれど西山母は、その態度の裏にある思惑をしっかりと見抜いていた。自分の腹を痛めて産んだ子だ。何を考えているかなんて、母親にはすぐにわかる。「もういいから。仕事に戻りなさい。そこに立ってるだけで邪魔」そう言って、西山母は立ち上がり、息子の脇を通
