第366話

そう思った瞬間、紗雪は瞳を伏せ、どこか物悲しげな表情を浮かべた。

それでも、このところ彼女は京弥に対してとてもよくしていた。

スープまで自分で煮込んだほどだ。

最初の頃、京弥はあまり気づかなかったが、最近になってようやく、紗雪の自分への態度が以前とは明らかに違うと感じるようになった。

以前と比べれば、それこそ天と地の差がある。

当初、京弥は「紗雪が自分のことを好きだから優しくしてくれている」と単純に思っていた。

しかし、後になって、それだけではないのではと感じ始めた。

ある日、京弥が帰宅すると、キッチンで忙しく立ち働く紗雪の姿が目に入った。

京弥は思わず早足で近づき、少し心配そうな口調で言った。

「紗雪？なんでこんなことしてるんだ？」

エプロン姿の紗雪は顔を上げずに答える。

「京弥さんのために栄養のある料理を作ってるの。体にいいものを食べてほしくて」

「体にいいって......？急に、どうして？」

京弥は疑問を口にする。

「別に具合が悪いわけでもないのに、なんでそんなに気を遣うの？」

「別に深い意味はないのよ。ただ、少しでも栄養を取ってほしいと思っただけ」

紗雪はそう言いながらも、手を止めずに作業を続けていた。

だが京弥は、彼女をじっと見つめながら、何かがおかしいと感じ始めていた。

「最近の紗雪は......俺に対して優しすぎないか？」

男は思わず口にした。

その言葉を聞いた紗雪は、手に持ったおたまの動きを止め、少し笑いながら答えた。

「なに言ってるの。私たちはれっきとした夫婦よ？少し優しくするくらい、普通じゃない」

「それとも、私が優しくすると、嫌なの？」

もちろん、京弥は嫌ではなかった。

だが、彼の中ではどこか引っかかるものがあった。

以前の紗雪も決して冷たかったわけではない。

だが、こんなふうに料理を自分で作ってくれるような人ではなかった。

今の彼女には、どこか違和感を覚える。

嬉しいのは確かだが、それと同時に、何かを隠しているのではないかという思いが拭えなかった。

京弥はガスの火を止め、紗雪の体をくるりと自分の方へ向け、真剣な表情で言った。

「無理にやらなくてもいいんだよ」

「こんなこと、家政婦に任せれば済む話だ。君がやる必要はない」

だが、紗雪はその言葉に首を横に振った。

「でも......