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第8話

Author: レイシ大好き
これは抑えのきかないキスだった。

深く、激しく。

紗雪は軽く息をついたが、その吐息さえもすべて唇の隙間から奪われた。

思わず彼の服の裾を握りしめる。

脚が力を失いそうになった頃、ようやく京弥が動きを止めた。

彼は紗雪を見下ろしながら、低く囁く。

「体目当てのわりには、まだまだ手練れとは言えないな、椎名奥様」

紗雪の負けず嫌いな性格が顔を出す。

彼女は薄く微笑むと、突如として京弥の喉仏に唇を寄せた。

微かに震える彼の体を感じ取りながら、すぐに身を引く。

唇に浮かべたのは、気だるげでありながら、どこか挑発的な笑み。

「椎名旦那様も、大したことないわね」

京弥の目の色がわずかに暗くなる。

だが、紗雪はそれ以上の挑発はせず、あっさりと引き下がった。

紗雪は京弥と連絡先を交換した後、彼の新居へと引っ越した。

京弥の新居は、立地が非常に優れていた。

引っ越しの前に、紗雪は二川母に結婚したことを伝えたが、京弥の名は伏せた。

二川母は彼女が思っていたよりも驚いた様子だったが、特に咎めることはなく、ただ淡々と告げた。

「二川家には離婚の習慣はない。自分で選んだ相手なら、ちゃんと覚悟を持ちなさい。結婚した以上は、会社に集中することね」

紗雪は自分の心に湧いた感情をうまく言葉にできなかった。

いつも通りと言えばいつも通りだ。

二川母は基本的に、紗雪が自らの意思に逆らわない限り、細かいことには干渉しない。

だからこそ、ほんの一瞬、言いようのない寂しさが胸をかすめた。

彼女はそんな感情を振り払うように、笑顔で返した。

「分かった」

電話を切る直前、二川母はぽつりと付け加えた。

「今度、その人を連れて帰りなさい」

その日の午後、紗雪は二川グループに正式に入社した。

二川母は彼女の身分を隠さずに明かしていた。

目的は、紗雪を早く会社に馴染ませるためだ。

そのため、会社のマネージャーたちは紗雪に対して非常に丁寧な態度を取った。

「お嬢様、こちらが今月の重点プロジェクトです。椎名は養生温泉リゾートの開発を進めていますが、現在、我々を含む数社が入札に参加しています。このプロジェクトを獲得できれば、グループにとって大きな利益になります」

マネージャーはそう言いながら、資料を彼女に手渡した。

紗雪はファイルを開き、ざっと目を通す。

椎名はこの業界のトップ企業であり、数年前に資産の再編が行われ、新しいオーナーへと変わったらしい。

近年、積極的に動いており、その利益率は業界の中でも群を抜いていた。

「椎名と手を組めれば、たとえ端くれの利益でも、他社にとっては喉から手が出るほど欲しいものになる」

以前、二川母もこのプロジェクトの重要性について言及していた。

彼女の視線は競合企業のリストへと移り、そこにある名前を見つけると、思わず片眉を上げる。

西山。

......西山家も、このプロジェクトを狙っているのか。

「プロジェクトの詳細と、椎名の情報を送ってちょうだい」

紗雪がそう指示すると、マネージャーは頷いた。

「椎名の社長は再編後、謎めいた存在となっています。ただ、近日開催されるビジネスパーティーには出席するはずです」

紗雪はそれを聞き、軽く指で机を叩いた。

もしこのプロジェクトを手に入れたいのなら、そのパーティーがチャンスとなるだろう。

同じ頃、西山家。

加津也は祖父から競争相手の資料を手渡された。

「加津也、これが今回の入札に参加する競争相手だ。二川グループが最大のライバルになるだろう。聞いた話では、二川家の次女も今回のプロジェクトに関わるらしい。何があっても、この案件は勝ち取るんだ」

「二川家の次女?」

加津也は眉をひそめた。

彼はそんな人物について聞いたことがない。

だが、女が一人参戦したところで、大した問題ではないだろう。

「分かりました。期待を裏切りません」

「それと、初芽との話も早く決めなさい。以前付き合っていた大学生、別れた後もまだ騒いでいると聞いたが?」

祖父は渋い顔で言った。

「今の時期、余計な問題を起こすな」

「安心してください、きちんと処理します」

加津也は紗雪のことを思い浮かべ、心底うんざりした気分になった。

未練がましく付きまとう女ほど、面倒なものはない。

どうせ、彼女も他の女と同じだ。

彼は目を細め、ふと何かを思いつくと、秘書を呼びつけて指示を出した。

「ちょっとした用事を頼みたい」

その夜、紗雪は会社の仕事に追われ、遅くまで残っていた。

不動産業界は競争が激しく、ましてや彼女はまだ半人前だ。

短期間で戦力になるためには、人一倍努力するしかない。

ようやく仕事を終えた頃、スマホの画面にメッセージが届いた。

送信者は加津也だった。

【紗雪、もう別れたんだから、きちんと清算させてもらうよ。今まで贈ったプレゼントを全部返せ】

メッセージの下には、贈り物のリストが添付されていた。

ネックレスからスリッパに至るまで、果てはミルクティーまで含まれていた。

彼女が返信しないのを見て、加津也はさらにもう一通送ってきた。

【三日以内に返せ。それとも、あれは口先だけのプライドか?俺を失望させるなよ】

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Comments (1)
goodnovel comment avatar
長野美智代
加津也はクズですね。「今までのプレゼントを返せ」ですか残念です。 紗雪さんは自分の大切な人生を加津也にかけてきたのです。安いプレゼントから消耗品まで返せというのですからクズ男ですね。いい勉強になりましたね。
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