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第97話

Author: レイシ大好き
林檎は会社から放り出された。

ちょうど会社の入り口前、警備員に突き飛ばされるようにして。

フロントの受付たちは首を伸ばして様子をうかがい、何が起こったのかと興味津々だ。

こんな光景、初めて見る。

次の瞬間、警備員たちは林檎の持ち物まで投げつけるように彼女の体にぶつけた。

「さっさと消えろ。二度と会社の周りに顔を出すな」

そう言い捨てると、警備員は手を払うようにして、軽やかにその場を去っていった。

これはすべて、マネージャーからの指示通り。完璧にやり遂げたと満足げだ。

長年この仕事をしてきたが、こんなみっともない形で会社を去る人間は初めて見る。ある意味、珍しいことだ。

林檎は目の前に立つフロントの二人を見た。

彼女たちの視線には、嘲笑と好奇心が入り混じっている。

林檎は唇を強く噛み、拳を握りしめると、心の中で復讐を誓った。

今日の屈辱、決して忘れない。

受付の一人が彼女の表情に気づき、軽くため息をついた。

「こんなザマになっても、まだあんな目をするんだね」

もう一人は呆れたように肩をすくめた。

「ずっとそういう人だったじゃん。地味な格好してたから目立たなかっただけで」

「私もさっき聞いたけど、今回の件、パクリが原因らしいよ。それに、前田なんかと関わってたんだって」

「なるほどね」

二人はひとしきり感想を述べると、外にいる林檎のことなんてどうでもいい様子だった。

どうせ会社を去る人間。何を言われようと気にする必要はない。

その分、二人の態度はますます遠慮がなくなった。

もし以前なら、林檎は何かしら言い返していたかもしれない。

だが今の彼女にそんな気力はない。

反論することもできず、地面に散らばった荷物を拾い集めると、足取りも重く去っていった。

車の行き交う大通りに立ち尽くす。

一瞬、何をすべきかわからなくなる。

だが、ダメだ。林檎は奥歯を噛み締めた。

「二川紗雪……あんただけは絶対に許さない」

タクシーを止めると、彼女は俊介の家へ向かった。

俊介は会社をクビになって以来、新しい仕事を探すこともなく、時折加津也と連絡を取りながら、紗雪を潰す機会をうかがっていた。

そんな彼のもとへ、突然林檎が飛び込んできた。

予想外のことに、彼は少し驚いた。

「林檎?どうしたんだ?この時間なら、会社にいるはずだろ?」

その
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