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「この間、酒屋の奥さんと長く話し込んでいたでしょ。あなたのことを信じたいけれど、私は私だけを見てくれる人じゃないとダメなの」
精一杯の苦痛の表情と嘘泣き。
どう、こんな面倒な女と結婚生活なんて続けられないでしょ。さあ、あなたから離婚を言い出すのよ。
「いや、あのオススメの酒を聞いていただけで⋯⋯」
私と9年の結婚生活を続けていると信じているミゲルな眠気まなこをこすりながら言ってくる。 今日、彼は大事な仕事があるのに、私は彼を困らせるため一睡もさせずに彼を責め続けている。「酒も、女もやめられないのね。私はもういらないのね」
早く離婚を切り出して欲しい。 ミゲルと私は実は結婚をしていない。 なぜなら、私は彼と結婚する前にマラス子爵と結婚し彼の第3夫人となっている。子供のためにも子爵とは離婚しておきたい。
こちらはしっかりと戸籍上の夫婦になっている。ミゲルと別れなければならないのは身辺整理をするためだ。
そして、彼から手切れ金と彼自身から別れを切り出したという事実が欲しかった。独裁国家として他国から危険視され鎖国状態だった我がエスパル王国が先月めでたく帝国領となった。
我々エスパルの人間はみんな水色の髪に、水色の瞳をしている。
その髪色と瞳の色はエスパルの人間特有のもので、見ただけで出身がバレてしまう。奴隷扱いされるのではと震えがるエスパル国民の不安をよそに、皇帝陛下は私たちを帝国民と同様に扱うことを宣言した。
皇位に就いたばかりのアラン・レオハード皇帝陛下はなかなかの男だ。 この度、帝国の要職を総入れ替えすると発表した。その試験は私たちエスパル国民にも受験資格があるらしい。
要職につければ、帝国の首都で豪邸を与えられ一流の生活ができるという。それだけの条件では私は住み慣れたエスパルの地を捨てる覚悟はできなかった。
しかし、家族の教育費まで面倒見てくれると発表されたのだ。私には12歳になるダンテと10歳になるレオという2人の息子がいる。
2人に最高の教育を受けさせたいという思いと、今の環境が2人の息子にとって必ずしもベストではないということ。 2人の子供の未来のために私は帝国に試験を受けに行くことにしたのだ。 しかし、私は帝国の調査能力というのを甘く見ていない。この度帝国がなぜ、戦争を起こすこともなくエスパルを手中におさめたかを考えると万全を期すべきだと思った。
鎖国状態にあったエスパル王国だが、独裁者と呼ばれるクリス・エスパルは実は力を持っていない。それは、国王がコロコロ変わることで国民も薄々気がついていた。
エスパル王国を私物化していたのは王国の宰相であるヴィラン公爵だ。この度、ヴィラン公爵の数々の悪事が帝国により世界中に明らかにされた。
エスパルの機密情報がなぜ帝国に漏れていたのかもわからなかったが、ヴィラン公爵は断罪された。 そして、情報統制が解かれ自分達の国が他国からいかに危険視されているかを知った。帝国にとって危険国家と呼ばれるエスパルを手にいれることに得を感じなかった。
それゆえに私たちは震え上がったがアラン・レオハード皇帝の宣言で一気に私たちは歓喜した。「エスパル王国民は優秀な方が多いと聞いています。帝国をさらなる発展に導くため皆さんの力をお貸しください」
そう、皇帝陛下は私たちを危険視などしていなく期待していると言ってくれたのだ。(この男、人の心のくすぐり方を知っている⋯⋯)
彼は弱冠12歳の皇帝だが、危険民族と呼ばれる我々を受け入れる器のデカさと恐れを知らない男気がある。 相当な美少年らしいし、12歳にして帝国中の女を抱きつくして世界進出してきたのだろう。そして、クリス・エスパル国王陛下はエスパルを帝国の統治下に置く条約をアラン・レオハード皇帝と締結。
正直、うん、その方が良いよと思った。クリス・エスパルは国王の器じゃないんだよ、男気満点アラン皇帝陛下に面倒みてもらうのが良い。
首都に遊びに行った時にマラス子爵に見初められた。
愛のない結婚などしたくなかったが、彼が実家への援助を約束してくれたのだ。私の家は貧しく体の弱い母の薬も買えないほどだった。
だから、私は彼との結婚を承諾した。 彼から一途に溺愛されれば、私もそのうち彼を愛せると期待した。その期待はすぐに裏切られた。
私が迎え入れられたのは第3夫人としてだった。 マラス子爵には他に2人の妻がいた。貴族出身の美人で気が強い第1夫人。
家柄の良い裕福な商人の家を実家とする第2夫人。彼は調子の良い時は第1夫人といて自分の心を満たし、お金に困ると第2夫人に擦り寄った。
自尊心が満たされない時は、貧乏で平民出身の私の側にきた。私は程なく妊娠したが、マラス子爵を愛することは難しく彼の血を引く子供を愛せるか不安だった。
しかし、生まれてきたダンテを見た時、私はこの子のためなら死ねると思うほど愛おしいく感じた。ダンテが2歳になった時、私のお腹にはもうすぐ生まれるレオがいた。
ダンテは生まれてきた時だけはマラス子爵家の跡取りとして丁重にお祝いされた。 第1夫人も第2夫人も娘が2人ずついたが、男の子がいなかった。法律上は女でも跡取りになれたが、男尊女卑のエスパルでは考えられなかった。
女が当主になった時点で家自体が軽んじられてしまうからだ。それなのに、ダンテが2歳になる時には何のお祝いもなかった。
実家への援助も1年ほどで、自分に割り当てられたわずかな予算からするように言われた。「ダンテはあなたの子じゃないのだから、お祝いなんてする必要ないわ」
着飾った第1夫人がマラス子爵にしなだれかかるようにして囁いていた。「やっぱり、そうなのかな。時期がおかしいんだよな⋯⋯」
マラス子爵が口元に手を当てながら考えている仕草をする。私は結婚してすぐ妊娠して、ダンテが早産だったため出産時期がおかしいと他2人の妻から嫌味を言われ続けていた。
でも、ダンテは100パーセント子爵の子だ。「2歳で言葉1つ話さないのよ、下賤な平民の男の種でしょ」
第1夫人のその言葉に、私は咄嗟に柱の影に隠れたが手の震えが止まらなかった。それでも、ダンテが生まれた時に喜んでくれた子爵の次の言葉を待った。
「そうだよな。俺の子なら賢いはずなんだよ。」気がつくと大きなお腹を抱えて、首都にある子爵邸を飛び出していた。
エスパルはとても閉鎖的な国だった。国自体も閉鎖的だが、隣の村に行けば誰も自分を知らない。
その代わり、村全体での結びつきは強く村の中では誰もが自分を知っている。私は、マラス子爵の元では子供を育てたくなかった。
だからダンテの手を取り、どこか暮らせるところはないかとエスパル中を大きなお腹で彷徨った。 実家に帰ろうと思ったが、心配をかけたくなかった。実家にとっては私は貴族に見初められ結婚した幸せで可愛い自慢の娘だ。
エスパル中を回ってたどり着いたのは、結婚前に1度だけ両親を連れてきたエスパルのリゾート地だった。
私は結婚前に1度だけ来た時に、ここでジルベールと会った。ジルベールはつかみどころのない男だった。
私が結婚するというのに、口説いてきた。 まあ、私は可愛くて村中の男が私を好きだったから、彼もつい口説いてしまったのだろう。両親が部屋で休んでいる間、過去に一度だけ訪れた彼の家をノックした。
「もしかして、リーザか?」 一瞬、驚いた彼だったが部屋に招き入れてくれた。「実は、親戚の子を連れて旅行に来ていたんだけどお金を盗まれちゃって一晩泊めてくれない?」
咄嗟についた嘘に自分でも驚いた。 ダンテが話さないからと言って言葉を理解してないとは限らない。 親戚の子扱いして傷つけてしまったらどうしようと動揺した。「もちろんだよ。会いたかったよ。リーザ!」
ここ2日ほとんど何も食べず彷徨ってしまっていた。ダンテとお腹の子をお腹いっぱいにする必要もあるし、しっかりと休ませなければならない。
ジルベールが私のお腹を見つめているのが分かった。「最近太っちゃって⋯⋯」
これから生まれてくる子の存在も否定してしまったようで私は苦しくなった。このお腹の子にも聞こえていたらどうしよう。
私は子爵邸で散々失われた女の自信を取り戻すことを優先してしまった。ジルベールならチヤホヤしてくれると思ったのだ。
彼はこの男尊女卑の国には珍しく、彼は女はもてなすものと思っている。 「実は結婚の話もなくなっちゃったんだ。」 私は彼の出してくれた食事をダンテと食べながら言った。「それで、ストレスを太り?なら、俺と結婚しよう」
なぜだか、引き出しから婚姻届が出てきた。「そうだね、結婚しよ」
私は、婚姻届にサインをした。 「他の欄は私が埋めて提出しておくよ。証人欄とか適当にお願いするね」私が笑顔で彼に言うと、彼も微笑んだ。
私の隣で人形のように座るダンテの瞳にジルベールの姿が映っていた。「あなたには帝国の宰相としての適性があるわ。帝国の宰相は代々、利己的で悪事を平気で働ける者が就く職なの。最低でも伯爵位はないと宰相職はできないわ」彼女はまた新たな書類の束をいくつか用意しながら告げて来る。私のどこが利己的だというのか、子供思いの良いお母さんではないか。悪事など生まれてこのかた働いたことはない。「あなたの9年に及ぶ結婚詐欺が露見しなかったのは、あなた自身が全く罪悪感を持ってなかったからよ」彼女は戸惑っている私を見て続けてきた。なぜ私が罪悪感を持たなければならないのか全く理解できなかった。自分にとって必要だからしたことだけだ。私は自分以上に子供たちを大事に思っているが、自分のことだって大事に決まっている。私が私を愛し続けるためにすることは悪事でもなんでもない。帝国の前の宰相はカルマン公爵だ。エスパル王国を私物化してきたヴィラン公爵をマイルドにしたような悪人。彼の悪事は現皇帝陛下アラン・レオハードによって明らかにされたという。カルマン公爵はアラン皇帝の母君のご実家であり、彼自身最大の後ろ盾だったはずだ。にもかかわらず、皇帝陛下はカルマン公爵家を粛清した。私が彼と会う前から彼を公平な方だと信頼している理由の1つだ。「待ってください。私、何か悪いことさせられるのですか? 悪事が露見したら粛清されるのではないのですか?」アーデン侯爵令嬢は私に悪事を働かせるつもりなのだろうか。万が一悪事が公になったらトカゲの尻尾切りのように捨てられ、子供達にも被害が及ぶに違いない。「あなたは自分の目的のためにすることを悪事と認識しない人間。他の人から見たら悪事に見えてしまうかもしれないわね。露見するようなことがあっても、子供達はアーデン侯爵家の養子にするから安全よ」アーデン侯爵令嬢がうっすら優しく微笑みながら言ってきた。思わず見惚れてしまうが、私のことは助けるつもりはないと言われた気がする。あまりに彼女のきつい言葉に晒されたせいか、子供の安全を保証されただけで少し感動されてしまっ
「あなたの9年に渡る2件の結婚詐欺について教えてくれる?」エレナ・アーデン侯爵令嬢がいかにも艶っぽい美女声で語りかけてくる。これ程、美しく優雅な人間を私は見たことがない。4回に渡る面接は、私はあまりに短い時間で終わってしまって落ちたのではないかとハラハラした。しかし、最終面接、今私は用意してきた自己アピールもできないまま難しい質問をされている。最終面接は皇帝陛下かエレナ・アーデン侯爵令嬢のいずれかが面接官になるらしい。私は面接官が皇帝陛下であることを期待した。そこで、見初められて仕舞えば目的の1つは達成できる。そして私は結婚詐欺などした覚えはない。9年ということはミゲルとジルベールとの関係を指しているのだろう。身辺調査される可能性を考え、縁を切ってきたのに行動を起こすのが遅かったかもしれない。「私は結婚詐欺などしていません。結婚詐欺というのは結婚を仄めかし金銭を搾取する行為ですよね。戸籍上、女は1人の男性としか結婚できない為、私は彼らと籍を入れられなかっただけです。」詐欺などと言われると心外だ。私は金銭を搾取した覚えはない。ジルベールからは私の自尊心を得るための愛を搾取した。ミゲルからは金銭を受け取っていたが、それは生活費として彼が渡してきたから受け取ってただけだ。「ふっ⋯⋯」アーデン侯爵令嬢は鼻で笑っているのが分かった。優雅に扇子で表情を隠しているが、バカにされている気がする。こんな面接とは関係ない質問をするのはおかしい。もっと、帝国のために何ができるかなど自己アピールをさせて欲しい。4回の面接で散々語ってきて、最終では私がどういう人間が知りたいならそういう質問をして欲しい。彼女の質問が興味本位のもので、私を受からせる気など最初からない気がして腹が立った。「興味本位の質問は不愉快です。私の帝国へ貢献できる能力ではなく私についてご興味がおありなら趣味でも語りましょうか」アーデン侯爵令嬢は私を合格させる気などないのだ。それならば、言
「タイムアップ!」私の聞いたことのないようなキツイ口調にミゲルが驚いた顔をしている。一晩粘って、彼が別れを切り出すようにしたかったけれど私はこのあと本丸に挑まなければならない。マラス子爵との離婚だ。子爵邸に2人の子供を置いてきてしまっているのも気掛かりだ。私がいない間、2人の夫人に手を出されないか心配だ。「私があなたと結婚したのはお金目当てよ。昔から自分の理想を私に押し付けてるあなたの好意がうざかった」偽らざる本音だ。私は彼のことだけは好きにならない確信があった。彼は一度だって私を本当に見ようとはしていない。私の可愛らしい見た目から勝手に可愛らしい性格を想像し押し付けているだけだ。今、絶望顔で私を見てくる彼を見ても全く心が動かない。「分かった、別れよう⋯⋯」彼が虫の鳴くような声で言ってきた。私は持ってきた離婚届を出し、彼にサインを書くように促した。「後の空欄はこっちで埋めて出すから」私はそう言いながら、彼がサインした離婚届を取り上げた。「リーザ、変わったな」部屋を出ていく私にかけた彼の言葉に私は永遠に彼に罪悪感を持つことがないことに安堵した。彼は本当に私を見ていなかった。私の性格は全く変わっていない、この9年は彼の理想を演じてあげたのだから感謝されても良いくらいだ。そして、この離婚届が提出されることもない。そもそも結婚してはいないのだから。「一晩もまたどこに行ってたんだ」マラス子爵邸に着くなり機嫌が悪そうにマラス元子爵が言ってきた。後ろにいるダンテとレオが無事なことを確認してホッとする。「今日はあなたにお話があります。私と離婚してください」私の申し出にマラス元子爵が怒りを感じているのがわかる。「不倫してますよね。あそこのメイドと。不貞行為は離婚できる正当な事由です。」後ろのメイドが驚いた顔をしている、マラス元子爵が表情を変えずに返してきた。「私は彼女を第4夫人として迎えるつもりだ」思わず私はため息を吐いた。女性の不貞は一発で咎められるのに、男性は妻にして仕舞えば不貞に当たらない。「4人の妻を養えるのですか? もう、エスパル王国が帝国領になった今あなたは貴族でもないのに」そう、彼はもう貴族ではない。それでも彼を心でマラス子爵と呼んでしまうのは私が彼の名前を忘れてしまったからだ。私のバカにしたよう
翌日、ジルベールの家を出てマラス子爵邸に向かった。ジルベールは私が困らないようにお金を渡してくれて、たくさんチヤホヤしてくれた。もちろん婚姻届が出される日など来ない、私はすでに結婚しているのだ。結婚前リゾート地に来た時、私は子爵に他に妻が2人いると知りショックを受けていた。その時も私の心を回復してくれたのは彼だった。彼は本当に存在するのか、追い詰められた私が生み出した妖精なのかと思うこともあった。ミゲルとの別れが難しかったのに対し、ジルベールは私が別れを望んでいると悟るとあっさり別れてくれた。別れるよう圧力をかけても、私に執着するミゲルとは違った。お腹の子の予定日も過ぎていたし、子爵邸で主治医の元で産むのが安全だと思い子爵邸に戻った。3日間留守にしていた私を診察に主治医がきた時、陣痛が始まった。生まれるタイミングから母思いで、周りからも好かれるレオの誕生だった。ミゲルと私は村で幼馴染だった。村一番可愛い私はモテモテで12歳から村のいろいろな男と付き合った。来るもの拒まず、去る者追わずな私が唯一付き合うことを拒んだのがミゲルだった。幼馴染で昔から私に一途な彼は私には重かったのだ。私は付き合った相手の誰のことも好きにならなかった。ミゲルと付き合ったところで当然彼のことを好きになることはないだろうと予想ができた。だけど、付き合ってしまうと別れるのが大変になることは目に見えていた。ミゲルがなぜ私と結婚していると思い込んでいるかと言えばレオを産んですぐの時に再会したのだ。彼とだけは付き合いたくなかったのに、私は彼が必要になってしまった。貴族は妻ではなく乳母に子育てをさせるのが基本だ。ダンテの時にもそうしたので、私はレオの時も乳母に預けていた。マラス子爵が男の子が生まれたことに喜び、明らかにダンテとは違う早い成長を見せていたレオは跡取りと考えられていた。ダンテは首座りから、成長が何から何まで遅かった。その上、生まれた時期が早かったせいで常に子爵の子か疑う声があった。しかし、レオは何から何まで他の子よりも成長が早く、赤子にも関わらず目つきから聡明さが漂っていた。そのことが2人の夫人は今後自分たちが男の子を出産してもレオが跡取りになるという危機感を持ってしまった。最初にレオが命の危機に晒されたのは生後4ヶ月の時だった。乳母が
「この間、酒屋の奥さんと長く話し込んでいたでしょ。あなたのことを信じたいけれど、私は私だけを見てくれる人じゃないとダメなの」精一杯の苦痛の表情と嘘泣き。どう、こんな面倒な女と結婚生活なんて続けられないでしょ。さあ、あなたから離婚を言い出すのよ。「いや、あのオススメの酒を聞いていただけで⋯⋯」私と9年の結婚生活を続けていると信じているミゲルな眠気まなこをこすりながら言ってくる。今日、彼は大事な仕事があるのに、私は彼を困らせるため一睡もさせずに彼を責め続けている。「酒も、女もやめられないのね。私はもういらないのね」早く離婚を切り出して欲しい。ミゲルと私は実は結婚をしていない。なぜなら、私は彼と結婚する前にマラス子爵と結婚し彼の第3夫人となっている。子供のためにも子爵とは離婚しておきたい。こちらはしっかりと戸籍上の夫婦になっている。ミゲルと別れなければならないのは身辺整理をするためだ。そして、彼から手切れ金と彼自身から別れを切り出したという事実が欲しかった。独裁国家として他国から危険視され鎖国状態だった我がエスパル王国が先月めでたく帝国領となった。我々エスパルの人間はみんな水色の髪に、水色の瞳をしている。その髪色と瞳の色はエスパルの人間特有のもので、見ただけで出身がバレてしまう。奴隷扱いされるのではと震えがるエスパル国民の不安をよそに、皇帝陛下は私たちを帝国民と同様に扱うことを宣言した。皇位に就いたばかりのアラン・レオハード皇帝陛下はなかなかの男だ。この度、帝国の要職を総入れ替えすると発表した。その試験は私たちエスパル国民にも受験資格があるらしい。要職につければ、帝国の首都で豪邸を与えられ一流の生活ができるという。それだけの条件では私は住み慣れたエスパルの地を捨てる覚悟はできなかった。しかし、家族の教育費まで面倒見てくれると発表されたのだ。私には12歳になるダンテと10歳になるレオという2人の息子がいる。2人に最高の教育を受けさせたいという思いと、今の環境が2人の息子にとって必ずしもベストではないということ。2人の子供の未来のために私は帝国に試験を受けに行くことにしたのだ。しかし、私は帝国の調査能力というのを甘く見ていない。この度帝国がなぜ、戦争を起こすこともなくエスパルを手中におさめたかを考えると万全を期すべき







