LOGINビリビリッ!「む……、胸がぁぁぁッ!!」「陛下、声がでかいです!」 *** フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!
View Moreビリッビリビリッ
嫌な音がすぐそばでする。
私、聖騎士アルヴァロ・ズッキーニはハラハラしながら周囲に視線をやるが、幸い誰からも注目されていないことにホッとした。
(どうかこのまま事態が納まってくれますように……)
けれど、世の中そんなに甘くない。
王家主催の茶会をぶち壊しにやって来た国際指名手配中の黒魔術師は、黒髪金眼の若き国王フェルナン・フォン・イフリートに禍々しい魔力のこもった杖先を向けて叫ぶ。
「国王フェルナン! 貴様を呪い殺してやる! 我が最大の術、受けてみよ!」
「よし! 受けて立つ!」
(受けて立たんでいい! こんの体育会系国王……ッ! )
黒魔術師の前に仁王立ちするフェルナン陛下の姿を見て、私は目玉が飛び出そうになった。
「陛下! 危ない!」
いくら本人が望んだとしても、従者としては主君が呪われるなんてもっての外。黒魔術師の禍々しい術をフェルナン陛下に浴びせるわけにはいかないと、私は無我夢中でフェルナン陛下の前に飛び出し――。
ビリリィッ!!
「うわぁぁぁっ!」
呪いの黒光を身に受けた私は、大きな悲鳴をあげた。
ちぎれてしまったのだ。
手足じゃない。そんなグロい展開じゃない。
ばい〜〜んっっっ!!
サラシがちぎれてしまい、隠していた私のたわわな胸が騎士装束のインナーのボタンを弾き飛ばしたのだ。
くっきりとした胸の谷間がインナーの隙間から覗き、それを見た王族の皆さん――とくにフェルナン陛下は絶叫した。
「アルヴァローーーーッ! むむむ、胸がーーーーーッ!」
声がでかい。ってかめっちゃ見てくる。
「陛下、み、見ないで……っ」
私が大慌てで胸元を手で隠そうとしても、この大ボリュームをどうにかするのは不可能だった。
(もうダメだ……。女ってバレた……。擦り切れるまで使いまくってたサラシの寿命、完全に見誤ったじゃん……)
私はもうどうしたら良いのか分からず、半泣きでフェルナン陛下を見つめることしかできない。
そう、私は女。
アルヴァロ・ズッキーニ、なんてふざけた名前の聖騎士は仮の姿。その正体は、没落貴族アルヴァローズ・ツー・シルフィード18歳であり、女嫌いで有名な国王フェルナンに十年越しの片想いをしている、恋する乙女だ。
(今まで男のフリをして騙してたって分かったら、女嫌いのフェルナン陛下に嫌われるどころじゃすまない……。最悪、処刑の可能性だって……)
結ばれることは無理でも、せめて陛下のそばにいたいと願い、必死の思いで聖騎士にまで上り詰めたというのに。
血と涙の滲む十年が、サラシがちぎれたせいでパーになってしまうなんて。
「アルヴァロ!」
フェルナン陛下の鋭い視線に射抜かれ、私はぶるりと震え上がる。
「陛下! ももも申し訳ございません。私は……、私は……」
カタカタと震えが止まらないまま俯く私の肩に、ポンと大きな手のひらが乗った。
私の大好きな大きな手。
生まれ変わったら、この手を堂々と握れるような人間になりたい――……と私が来世に思いを馳せていると。
「俺を庇ってくれたこと、感謝する。しかし、まさかお前が【女体化の呪い】を受けてしまうとはな」
「へ……?」
(にょたいか?)
フェルナン陛下の言葉に目が点になったのは、私だけではなかった。
「【女体化の呪い】だと?!」
黒魔術師が衝撃を受けた表情を浮かべている。そりゃそうだ。
今さら、彼が何の呪いを放ったのかは分からない。申し訳ないが、聖騎士である私にはまぁまぁ強い呪いを無効化するくらいの呪術耐性があったため、まったくもって無傷なのである。
(うーん、なんかごめん。謎の黒魔術師の人!)
「【女体化の呪い】などかけていないぞ! 私は――」
「えぇい! 人を騙す悪魔め! 俺の大切な従者を女体化させるなど、言語道断悪即斬んんんッ!」
人の話を聞かないことに定評のあるフェルナン陛下は、黒魔術師に向かって剣を抜き放つ。
そしてその剣は王様パワー的なもので眩く輝き、一呼吸で敵の喉元に差し迫った。
「女体化したアルヴァロを元に戻せ!」
「だから、女体化なんて知らねぇ!」
女体化女体化うるさい。
だか、黒魔術師は、私が女体化させられたと信じて疑わないフェルナン陛下の剣幕に押されたらしい。
彼は「せいぜい女体化した従者を楽しむがいい!」と、とんでもない発言を残して一目散に逃げ去って行った。
「アルヴァロ……。その……怪我はないか?!」
黒魔術師を追うことを諦め、剣を鞘に収めて駆け寄って来るフェルナン陛下の視線は、相変わらず私のはち切れそうな胸一直線。
それはこの際いいとして。
「私に怪我はありません。でも……、女体化してしまいました」
ありがとう、黒魔術師の人。
この場はとりあえず、【女体化の呪い】で凌がせてもらいます。
「私、陛下の従者を辞めてもいいでしょうか……」 震える声で言う。 脈絡のない突然の申し出に、フェルナン陛下は少し戸惑った表情を浮かべた――が、彼は首を縦に振った。「かまわない」(あぁ……。やっぱり陛下にとっての私なんて、その程度の従者なんだ) ほっとした気持ちと寂しい気持ちが入混じり、私の瞳に涙がじわりと溜まる。 泣くな、アルヴァロ男だろ! などと思っても、こぼれる涙を止めることはできなかった。 だって私は女の子だもの。「あ……う……、すみませ…………」「なぜ泣く? 再就職先は決まっているから安心しろ」 震える手で涙を拭おうとすると、先に陛下の人差し指がついと私の目元に触れた。すくいあげられた雫は、太陽の光を受けて煌めいていた。(再就職先? こんな時まで無駄に優しいなんて、この人は……) 口を開いたら泣き声が漏れてしまいそうなので、私が俯いてぎゅっと唇を噛んでいると――。「俺は十年前、日課の町の視察で、とある修道女を見かけたんだ」 唐突に過去の話を始めた陛下。 私はその内容に引っかかりを感じ、ハッと顔を上げた。「彼女は毎日のように町の子どもに喧嘩を吹っ掛けられていたが、何度殴られても立ち上がり、拳一つで己の意志を貫いていた。それは温室育ちだった俺にはない獣のような強さ。そんな彼女に俺は憧れたんだ」「え……」「ある日、喧嘩で劣勢に陥っていた彼女を助けたことをきっかけに、俺はついに彼女と話すことができた。嬉しかったよ。かっこつけることもできたし。……で、俺は自分
「陛下! 伏せて!」「ぐはァッ!?」 私は乱暴に陛下の頬を張り倒し、彼を地面に伏せさせた。陛下の痛そうな呻き声が耳に届くが、今はケアしている場合ではない。 私は頭上を通り過ぎた呪術の残影を見上げながら、ぐっと拳を握りしめる。 どうやら、チンピラ三人組の雇い主のお出ましらしい。「変装しているが、やはりな。護衛騎士の強さは変わらずのようだな。雑魚では相手にならぬか」 ゆっくりとこちらに近づいてくる黒衣に身を包んだ男。その怪しげな男には見覚えがあった。「お前は茶会に現れた黒魔術師! のこのこと現れるとはな!」 地面に伏していたフェルナン陛下が勇ましく吠え、私を庇うように素早く前に立つ。頬が真っ赤に腫れあがっていて、非常に痛々しい。(ごめん&かっこいい……‼ じゃなくて!) ついフェルナン陛下に胸キュンしてしまったが、この黒魔術師は多くの国の王族を呪って回っている国際指名手配犯。そして、例の茶会でフェルナン陛下を呪い損ね、私に【女体化の呪い】をかけた……ということになっている魔術師だ。(困る! 私が呪いの虚偽申告してることがバレたら、めちゃくちゃ困る!)「うわーーーっ! おのれ、黒魔術師! 陛下、ここは私にお任せいただいて、先に城にお帰りください!」「何を言う。従者をおいて逃げる王がいてたまるか!」 黒魔術師との邂逅を焦る私の気持ちなど、これっぽちも知らぬフェルナン陛下は、まったく立ち去る気配もないし、盾役だって譲ろうとしない。持ち前のヒーロー気質が私の邪魔をしてきて止まらないのだ。「あーーーっ! ダメ! ダメなんですってば! ここは私に任せて先に行ってください!」「俺が奴に後れを取ると? そんなことはない。俺だっ
時は少し戻り――。 私の日傘はチンピラ三人組の脅しの材料として、無惨にへし折られていた。「痛い目みたくなかったら、大人しくついてきな!」 チンピラに破損させられた日傘代は経費で請求できるのだろうか。 そんなことを考えながら、私は彼らに付き従う形でひとけのない茂みに来ていた。もちろん、他の公園利用者の迷惑になってはいけないからだ。 黙って聞いていると、彼らには雇い主がおり、雇い主がどうしても私に復讐がしたいと言っているとのことだった。 と言われても私は陛下のために日々たくさんの不届き者を成敗しているため、いったい誰の指金かは検討がつかない。職業柄、恨まれることはたくさんしてきたのだ。(まぁ、誰でもかまわないけど) どうやらチンピラ三人組は、私の正体について雇い主から詳しく聞いていないらしい。 華奢で可憐な貴族令嬢の装いの私を見て、「ちょっと味見させてもらおうぜ」、「お楽しみの時間だ」、「可愛がってやるよ」と下衆な台詞を吐いているので、まさか誘拐した相手が国一番の聖騎士が女体化した(ことになっている)姿だとは思いも寄らないだろう。そう思うと、なんだか気の毒になってしまう。「でも、今、仕事中だから。パパッと終わらせて、視察に戻らせて」 同情するなら拳をあげよう。 私は、剣がなくとも十分強い。寧ろ、型にはまらぬ自己流格闘技の方が、自信があるくらいで――、そんなことを思いながら、私の拳がチンピラ三人組に向かって炸裂した。 そして、闇落ち時代が蘇るような荒々しさで敵を秒殺。「はーっ! 胸、ジャマ!!」 サラシがあれば、もっと動きやすいのに。そう思いながら、私が指をバキバキと鳴らしていると。
「ふんんんんんッ‼」 俺、フェルナン・フォン・イフリートは、森林公園のど真ん中で気合の雄叫びと共に握り締めた拳を強く胸に打ち付けた。 周囲の目? そんなものは気にしている場合ではない。(危なかった。正気を取り戻せたぞ) 胸の痛みで頭が冷静になり、俺はほっと息を吐き出す。 その理由は、うっかり従者に惚れてしまうところだったからだ。(デートが楽しくて我を忘れてしまいかけた。アルヴァロは、どこかあの子に似ていて困る……) 公園に来ている民たちが遠巻きにこちらを見つめる中、俺はレモネードを二つ購入し、いそいそと従者アルヴァロのもとを目指す。そのアルヴァロが問題だった。 金色の柔らかそうな髪に宝石のような翠眼を持つその従者は、あどけない少年のような顔をしている癖に、体の主張はえらく激しい。 そんなアンバランスさは【女体化の呪い】によるためだろうが、むしろそこがイイと思ってしまうなんて、俺はなんて酷い主なんだろう。まるで変態じゃないか。 一刻も早く呪いを解いてやらなければならない。 いつも傍で支えてくれて、時に従者として、時に友人のように接してくれるアルヴァロ――想い人がいるという彼のために。(アルヴァロ。お前もきっと仲良くなれると思うんだ。あの子――十年前修道院で出会ったあの少女は、お前に似て強くてかっこいいから……) そんなことを考えながら、俺はアルヴァロの待っている池のほとりに戻って来た。 しかし。「アルヴァロ! どこだ、アルヴァロ!」そこにアルヴァロの姿はなく、残されていたのはへし折られた婦人物の日傘だけ。 それは、女性の装いをしてくれた彼が差していたはずの日傘だった。