サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

サラシがちぎれた男装騎士の私、初恋の陛下に【女体化の呪い】だと勘違いされました。

last updateLast Updated : 2026-09-05
By:  ゆちばOngoing
Language: Japanese
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ビリビリッ!「む……、胸がぁぁぁッ!!」「陛下、声がでかいです!」 *** フェルナン陛下に密かに想いを寄せる私こと、護衛騎士アルヴァロ。 私は女嫌いの陛下のお傍にいるため、男のフリをしていた。 だがある日、黒魔術師の呪いを防いだ際にサラシがちぎれてしまう。 たわわなたわわの存在が顕になり、絶対絶命の私に陛下がかけた言葉は……。 「【女体化の呪い】だ!」 勘違いした陛下と、今度は男→女になったと偽る私の恋の行き着く先は――?!

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Chapter 1

第1章:ちぎれたサラシと【女体化】の呪い

 ビリッビリビリッ

 嫌な音がすぐそばでする。

 私、聖騎士アルヴァロ・ズッキーニはハラハラしながら周囲に視線をやるが、幸い誰からも注目されていないことにホッとした。

(どうかこのまま事態が納まってくれますように……)

 けれど、世の中そんなに甘くない。

 王家主催の茶会をぶち壊しにやって来た国際指名手配中の黒魔術師は、黒髪金眼の若き国王フェルナン・フォン・イフリートに禍々しい魔力のこもった杖先を向けて叫ぶ。

「国王フェルナン!  貴様を呪い殺してやる!  我が最大の術、受けてみよ!」

「よし!  受けて立つ!」

(受けて立たんでいい!   こんの体育会系国王……ッ!  )

 黒魔術師の前に仁王立ちするフェルナン陛下の姿を見て、私は目玉が飛び出そうになった。

「陛下!  危ない!」

 いくら本人が望んだとしても、従者としては主君が呪われるなんてもっての外。黒魔術師の禍々しい術をフェルナン陛下に浴びせるわけにはいかないと、私は無我夢中でフェルナン陛下の前に飛び出し――。

 ビリリィッ!!

「うわぁぁぁっ!」

 呪いの黒光を身に受けた私は、大きな悲鳴をあげた。

 ちぎれてしまったのだ。

 手足じゃない。そんなグロい展開じゃない。

 ばい〜〜んっっっ!!

 サラシがちぎれてしまい、隠していた私のたわわな胸が騎士装束のインナーのボタンを弾き飛ばしたのだ。

 くっきりとした胸の谷間がインナーの隙間から覗き、それを見た王族の皆さん――とくにフェルナン陛下は絶叫した。

「アルヴァローーーーッ!  むむむ、胸がーーーーーッ!」

 声がでかい。ってかめっちゃ見てくる。

「陛下、み、見ないで……っ」

 私が大慌てで胸元を手で隠そうとしても、この大ボリュームをどうにかするのは不可能だった。

(もうダメだ……。女ってバレた……。擦り切れるまで使いまくってたサラシの寿命、完全に見誤ったじゃん……)

 私はもうどうしたら良いのか分からず、半泣きでフェルナン陛下を見つめることしかできない。

 そう、私は女。

 アルヴァロ・ズッキーニ、なんてふざけた名前の聖騎士は仮の姿。その正体は、没落貴族アルヴァローズ・ツー・シルフィード18歳であり、女嫌いで有名な国王フェルナンに十年越しの片想いをしている、恋する乙女だ。

(今まで男のフリをして騙してたって分かったら、女嫌いのフェルナン陛下に嫌われるどころじゃすまない……。最悪、処刑の可能性だって……)

 結ばれることは無理でも、せめて陛下のそばにいたいと願い、必死の思いで聖騎士にまで上り詰めたというのに。

 血と涙の滲む十年が、サラシがちぎれたせいでパーになってしまうなんて。

「アルヴァロ!」

 フェルナン陛下の鋭い視線に射抜かれ、私はぶるりと震え上がる。

「陛下!  ももも申し訳ございません。私は……、私は……」

 カタカタと震えが止まらないまま俯く私の肩に、ポンと大きな手のひらが乗った。

 私の大好きな大きな手。

 生まれ変わったら、この手を堂々と握れるような人間になりたい――……と私が来世に思いを馳せていると。

「俺を庇ってくれたこと、感謝する。しかし、まさかお前が【女体化の呪い】を受けてしまうとはな」

「へ……?」

(にょたいか?)

 フェルナン陛下の言葉に目が点になったのは、私だけではなかった。

「【女体化の呪い】だと?!」

 黒魔術師が衝撃を受けた表情を浮かべている。そりゃそうだ。

 今さら、彼が何の呪いを放ったのかは分からない。申し訳ないが、聖騎士である私にはまぁまぁ強い呪いを無効化するくらいの呪術耐性があったため、まったくもって無傷なのである。

(うーん、なんかごめん。謎の黒魔術師の人!)

「【女体化の呪い】などかけていないぞ!  私は――」

「えぇい!  人を騙す悪魔め!  俺の大切な従者を女体化させるなど、言語道断悪即斬んんんッ!」

 人の話を聞かないことに定評のあるフェルナン陛下は、黒魔術師に向かって剣を抜き放つ。

 そしてその剣は王様パワー的なもので眩く輝き、一呼吸で敵の喉元に差し迫った。

「女体化したアルヴァロを元に戻せ!」

「だから、女体化なんて知らねぇ!」

 女体化女体化うるさい。

 だか、黒魔術師は、私が女体化させられたと信じて疑わないフェルナン陛下の剣幕に押されたらしい。

 彼は「せいぜい女体化した従者を楽しむがいい!」と、とんでもない発言を残して一目散に逃げ去って行った。

「アルヴァロ……。その……怪我はないか?!」

 黒魔術師を追うことを諦め、剣を鞘に収めて駆け寄って来るフェルナン陛下の視線は、相変わらず私のはち切れそうな胸一直線。

 それはこの際いいとして。

「私に怪我はありません。でも……、女体化してしまいました」

 ありがとう、黒魔術師の人。

 この場はとりあえず、【女体化の呪い】で凌がせてもらいます。

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第1章:ちぎれたサラシと【女体化】の呪い
 ビリッビリビリッ  嫌な音がすぐそばでする。  私、聖騎士アルヴァロ・ズッキーニはハラハラしながら周囲に視線をやるが、幸い誰からも注目されていないことにホッとした。 (どうかこのまま事態が納まってくれますように……)  けれど、世の中そんなに甘くない。  王家主催の茶会をぶち壊しにやって来た国際指名手配中の黒魔術師は、黒髪金眼の若き国王フェルナン・フォン・イフリートに禍々しい魔力のこもった杖先を向けて叫ぶ。 「国王フェルナン!  貴様を呪い殺してやる!  我が最大の術、受けてみよ!」「よし!  受けて立つ!」 (受けて立たんでいい!   こんの体育会系国王……ッ!  )  黒魔術師の前に仁王立ちするフェルナン陛下の姿を見て、私は目玉が飛び出そうになった。 「陛下!  危ない!」  いくら本人が望んだとしても、従者としては主君が呪われるなんてもっての外。黒魔術師の禍々しい術をフェルナン陛下に浴びせるわけにはいかないと、私は無我夢中でフェルナン陛下の前に飛び出し――。  ビリリィッ!! 「うわぁぁぁっ!」  呪いの黒光を身に受けた私は、大きな悲鳴をあげた。  ちぎれてしまったのだ。 手足じゃない。そんなグロい展開じゃない。  ばい〜〜んっっっ!!  サラシがちぎれてしまい、隠していた私のたわわな胸が騎士装束のインナーのボタンを弾き飛ばしたのだ。
last updateLast Updated : 2026-08-19
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第2話 呪われ(てない)騎士
 アルヴァロ・ズッキーニがフェルナン陛下に仕え始めてから、三年が経つ。 彼は美しい金髪に翠眼をした、まるで女性のように小柄で華奢な美青年。そして、修道院で習得した神聖術と騎士学校で修めた剣術を誰よりも上手く使いこなす、とても優れた聖騎士だった。 フェルナン陛下もアルヴァロをたいそう重宝し、いつもそばに置き――……。     と、第三者目線で語ってみたが、アルヴァロは私、アルヴァローズが男装した仮の姿だ。   黒魔術師の奇襲、そして【女体化の呪い】事件から一週間――。  国をあげて黒魔術師の捜索が行われる中、私、聖騎士アルヴァロの生活……というか、フェルナン陛下の私への態度がガラリと変わった。  フェルナン陛下は自分が黒魔術師に体育会系的対応をしたせいで、従者の私が呪われてしまったと思い込んでいる。そしてその罪意識からか、私をとんでもなく気遣ってくれるようになったのだ。  たとえば。 「従者だからといって、これまでのように重い荷を持たすわけにはいかん。俺が持つ!」  私、思わず、きゅん。 「奇異なる視線を向けて来る者がいるが、そんな視線など気にするな。俺のことだけを見ていろ」  すごく、きゅん。 「慣れない女の体が不便ならば、メイドに着替えや風呂を手伝わせるか? いやいや待て! 中身は男のままであれば、責任をもってこの俺が……!」  きゅ……じゃない。 「新品のブラジャーを持ちながらそんな話をしないでください!! イケメンな国王じゃなかったら捕まってますよ!!」  私に叱られ、フェルナン陛下は「うぅぅ、すまん……」と眉
last updateLast Updated : 2026-08-20
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第3話 男装騎士、その理由
 聖騎士アルヴァロは、3年前、つまり若干15歳でフェルナン陛下の従者選抜大会を勝ち進み、そして合格者ゼロと言われていた最終面接をクリアした優秀な青年――。  というのが表向きの私。  けれど、アルヴァロの正体は男装をした私、恋する乙女アルヴァローズ。 私がなぜ男装騎士をしていたかという理由は、生い立ちから話した方が分かりやすいだろう。  まず、私の生まれたシルフィード男爵家は事業に失敗し、一家は極貧生活を強いられた。これが6歳の時。 私はドレスや装飾品を全て売り払い、服は兄のお下がりである少年ものを着用。自慢の金色の長い髪もバッサリと切って売り物にした。もちろん、可愛いメイクやお洒落とは無縁だった。  けれど、子どもの私がどれほど生活を切り詰めたところで生活は好転せず、シルフィード男爵家は見事に没落。一家は離散し、私は修道院と言う名の児童保護施設に入ることとなった。  心機一転。静かに神に祈り、慎ましく暮らす修道女生活――になるかと思いきや、この頃世の中を逆恨みしていた私は、いわば闇堕ち状態だった。 「神なんているか、バーカ! いたら没落なんてしてねぇっつうの。助けてくれない神サマなんて、信仰なんてするかよ!」  あまりにも汚い言葉遣いで誰にでも突っかかっていた私は、修道院ではジャックナイフのように扱われていた。それだけでなく、近所の子どもたちから「信仰心のない没落貴族が修道院でタダ飯を食っている」と目を付けられ、毎日喧嘩を吹っ掛けられた。  幸い私は武闘派の兄から体術を仕込まれていたため、喧嘩は連戦連勝天上天下唯我独尊状態であり、そのことを苦だとは思っていなかった。ただひたすら、神様を恨んでいた。    だが、そんなある日だった。  当時8歳の私に
last updateLast Updated : 2026-08-21
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第4話 女嫌いの陛下、その日常
「見ろ。あれが【女体化の呪い】をかけられた聖騎士だ」「そもそも何処の馬の骨とも分からん男だったというのに、ついに女になるなど……。あのような者に陛下をお守りできるわけがない」「っていうか、ファミリーネームの“ズッキーニ”って何だ? 野菜だろうが」  王城の中を少し歩くだけで、文官や武官、使用人たちから指をさされ、ひそひそと話題にされる日常にも慣れてきた。  文句は言えない。私が男装バレを恐れ、【女体化の呪い】疑惑に便乗したのだから。ついでに「ズッキーニ」はマジでふざけて付けた偽名なので、馬鹿にされても気にはしない。 (でも――) 「陛下は呪いにあてられていらっしゃる。そうでなければ、呪われた女体化騎士など傍に置かれるはずがない」  時折聞こえてくる、フェルナン陛下に対する中傷。 私が女体化女体化と陰口を言われるのはかまわないが、フェルナン陛下が貶められることは許せない。  私は隣を歩くフェルナン陛下の顔を見上げ、 「陛下。あのクソ大臣、〆てきていいですか?」  と言いながら、指をバキバキと鳴らす。 すると、なんと陛下も指バキをしているではないか。 「じゃあ俺は、お前の悪口を言っていた文官たちを鉄拳制裁してくる」「ちょ……、えっ!  それはダメですってば!」  慌ててフェルナン陛下に指バキを止めさせると、本人は子どものように唇を尖らせて残念がっている。  パワハラの極み、ダメ!  絶対! 「あの、陛下……。私のことなんて庇ってくださらなくていいんですよ。元々上級貴族の出もない私が陛下にお仕えしているだけで、皆の反感を買っていたのに。その……、女体化まで……」
last updateLast Updated : 2026-08-22
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第5話 荒療治の開幕
 先代王妃サブリナ様プレゼンツ【フェルナン陛下の女嫌いを治そう企画】!  荒療治と言うものだから、てっきり夜のベッドでうんぬんかんぬんさせられ(できる)のかと、ヒヤヒヤ(ドキドキ)したのだが、蓋を開けてみると、想像(妄想)とは大きく異なっていた。 「二人で夜会に参加して、ダンスを踊りなさい!」  これが、サブリナ様から課せられたミッション。 彼女曰く、「ダンスには男女のときめきが詰まっているの。きっとフェルナンにも、女性への耐性がつくわ」とのことだった。 先代王妃様の少女漫画的な発想に私は拍子抜けする一方で、練習さえしたことがないダンスを課題にされたことに冷や汗をかいていた。 (元貧乏令嬢で聖騎士の私は、ダンスとは無縁なんです……! お願い、陛下! 断ってください!)  けれどフェルナン陛下は、そのミッションをクリアすれば母親が少しは静かになると思ったのかもしれない。彼は顔を曇らせる私を鼓舞するかのように叫んだ。 「アルヴァロ!  今日から猛特訓だ!」「やっぱりそうなりますよね……!」  こうして私たちは、張り切ってダンスの練習プランを練り始めたのだった。  ◆◆◆ ダンスはもちろん私が女性パートを踊るわけなのだが、私の場合はまず、ドレスを着ての所作から壊滅していた。  長らく男性物の騎士装束しか身に着けてこず、最近だって谷間くっきりボディアーマー&ミニスカ&ニーハイブーツを装備させられていたのだ。私にあてがわれたビン底眼鏡メイドが選んでくれた淡いグリーンのドレスは大変素敵だが、コルセットで締上げられる胴や、高いヒール、そして重たいドレスの扱いは難しくてたまらない。 「ぞ……、臓器が飛び出しそうです……」  
last updateLast Updated : 2026-08-23
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第6話 夜会のはじまり
 そして迎えた王家主催の夜会。サブリナ様の目がギラギラと光っている中、主役であるフェルナン陛下は、私をエスコートして堂々と会場入りをした。    すると、聞こえる聞こえる。 女嫌いで有名なフェルナン陛下が連れているあのご令嬢は何者なのかと、あちらこちらで貴族たちの憶測が飛び交い、その正体が従者の聖騎士であると知っている者たちは驚きの声を上げているのが。 「あの美しいご令嬢はどこの誰だろう……?」「まさかあれがアルヴァロ・ズッキーニ……⁉」「きぃぃっ! なんて大きさなの! メロンかと思いましたわ!」  んなわけねぇだろとつっこみたくなるが、私は淑女らしくにこやかに微笑みながら、フェルナン陛下の隣を優雅に歩いていた。 いや、優雅に見えるように必死に歩いていた。油断するとコルセットで締上げられた胴から臓器が飛び出しそうだし、ドレスの裾か陛下の足を踏んづけてしまいそうになるので、一秒たりとも気を抜くことができないのだ。  しかし、どうやら私の頑張り第一段階は成功したようだ。 人の印象を左右するのは九割が見た目だという。ならば私は、人の目に美しくたおやかに映るようにと、外見を磨きに磨きまくったのだ。  幸い、かつての極貧生活とは異なり、現在陛下の護衛騎士を務めている私は高収入のリッチピープル。陛下に頼んで有給休暇を使わせていただき、金にものを言わせて、この夜会までに宮廷美容家のサロンに通った。全身のエステやマッサージ、流行りの化粧も教わり、肌やドレスに合うアクセサリーについても学ばせてもらった。  男装をしてきたこの人生で、まさかこれほど女性らしく華やかな恰好をする日が来るとは思っていなかったのだが、我ながら美しく仕上がったと自負している。 (これなら女の私でも、陛下に恥はかかせないはず)  私がドキドキしながらフェルナン陛下のご尊顔を拝もうとすると、彼もこちらを見ていた
last updateLast Updated : 2026-08-24
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第7話 危機襲来
「さ、この部屋なら大丈夫ですわ」 紫の人によって城内の小部屋に放り込まれ、私のドレスとコルセットは豪快に引っぺがされた。 夜会の会場の近くには、「二人で抜けちまおうか」と会を早抜けする貴族のカップル御用達の個室が存在する。つまりは、まぁ、窓が付いていなかったり、簡易ベッドがあったりするような、いかがわしい行為を想定した場所である。 フェルナン陛下は城に風紀の乱れた部屋が設けられていることを嫌い、それらの撲滅を目指しているのだが、元老院が出生率を上げたいと言って譲らないらしい。 まぁ、政治の話は置いておいて、ひとまず私のコルセットはその個室で緩められたのである。 新鮮な空気が肺に流れ込み、私は「はぁ~~っ!」と生きた心地を実感した。「助けてくださってありがとうございました。お陰でコルセット死せずにすみました」 簡易ベッドの上で胸のバンドとドロワーズだけになり、大変開放的になった私は、爽やかな笑顔で紫の人にお礼を述べた。 しかし私とは対照的に、その紫の人は憎々し気にこちらを睨みつけているではないか。そして私はようやく、それがどこのどなた様なのかに気が付いた。「こ……、これはこれは、ヴィオラ様……」 紫色のウェーブがかった長い髪。少し吊り気味な碧眼。髪と瞳の色と同じ組み合わせの豪華で煌びやかなドレスに身を包む女性は、ヒース公爵家の一人娘。以前、フェルナン陛下に縁談を断られたというヴィオラ・フォン・ヒース公爵令嬢だ。とても美しく聡明そうな女性で、フェルナン陛下と横に並んでも美男美女で絵になりそうである。「ご、ご機嫌麗しゅう……」「麗しくありませんわ!」  私はおずおずと話しかけると、淡いグリーンの布切れがたくさん、ベッドにまき散らされた。私の着ていたドレスだ。恐ろしいパワーであっという間に八つ裂きである。 ヒステリック美人! 控えめに言ってめちゃくちゃ怖い。「ひぇっ! ドレスが!」「不必要でしょう! あなたは男なんですから!」 裂かれたドレスの布を投げつけられ、私は怯えながらそれをキャッチした。せっかくビン底眼鏡メイドが見繕ってくれたというのに、酷い有り様だ。「ヴィオラ様、どうして」「これで分かるかしら?」 私の問に、ヴィオラ様は見覚えのあるビン底眼鏡をスチャッと掛けて答えてくれた。「あ! ビン底眼鏡のメイドさんの……!」「え
last updateLast Updated : 2026-08-27
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第8話 百合の間に挟まるべからず
「ヴィオラ様!?」  ヴィオラ様はずしっと私に馬乗りになると、なんとドレスを脱ぎ始めたのだ。薄暗い部屋の灯りにさらけ出され、女の私でもドキドキしてしまうほどの白く美しい玉の肌が現れる。思わずガン見してしまうが、これは私のせいじゃない。 「なぜ、お脱ぎに……?」「あなたがわたくしを襲ったことにするのですわ! 女体化したとはいえ、中身は男! わたくしの色香に耐え切れず、無理矢理押し倒してしまったという噂が社交界に広まれば、陛下はあなたを解雇せざるを得ませんから!」  自信満々のヴィオラ様は、上半身下着姿で色っぽく微笑む。  なるほど、なかなかに良策かもしれない。私の性別、表向きは男だもんなと納得した。 だが、しかし。 「この状況はどう見ても、ヴィオラ様が私を襲っているようにしか……」「え……。はわわっ!」  そう言われて、ヴィオラ様はようやく現状を客観視できたらしい。数秒遅れて素っ頓狂な声を上げると、急に挙動不審になり、目が右へ左へと泳ぎまくっている。 「ち、ちが……っ! 皆、高貴なわたしくしの発言を信じますから!! たとえあなたのドレスがビリビリで、わたくしが上に乗っている状態だとしても!!」「自分でもまずいと思ってらっしゃるんじゃないですか」  せめて八つ裂きになったのが私のドレスじゃなかったら……と、同情したくなってしまうほど、ヴィオラ様はうろたえ、最早半泣きだ。  体を張って、ずさんな「従者社会的抹殺計画」を実行するほどだ。ヴィオラ様は、きっと公爵家のために必死だったのだろう。 その気持ちは想像するとなんだか気の毒になってしまい、私はますます彼女のみぞおちを殴って気絶さ
last updateLast Updated : 2026-08-28
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第9話 二人だけの夜会
(とんでもない目に遭った……。ドレスは台無しだし、陛下には百合認定されるし、練習したダンスは無駄になっちゃうし……)  毛布を巻いた状態で自室に戻った私は、騎士装束に着替えていた。手持ちの装束はすべてフェルナン陛下指定の谷間くっきりボディアーマー&ミニスカ&ニーハイブーツに差し替えられてしまっているのだが、だんだんこの格好に慣れてきていることは否定できない。 (あーあ……。陛下と踊りたかったなぁ……)  あんなに一生懸命に練習したのにと、私はベッドに座り込んで肩を落とす。 サブリナ様を納得させるだとか、モブたちを驚かせてやろうだとか、そんな理由を付けていたが、私の心はもっと単純だったらしい。  私は、憧れの人と踊りたかった。 堂々と胸を張って、フェルナン陛下の隣で夜会を楽しみたかった。 だから苦手なダンスも練習したし、綺麗になろうと努力もしたのだ。  だがこれは、呪われたと偽っている罰かもしれない。いや、そもそも男であると装って仕えていたからか。私は神様を信じてはいないが、世の中そんなにうまくいくようにはできていないのだろう。  私がそんなふうに落ち込んでいると、ドアを優しくコンコンッとノックする音が聞こえた。 「アルヴァロ。いるか?」  フェルナン陛下だ。 私は大急いで着替えを済ませ、ドアを開けた。 ドアの前に立っていたフェルナン陛下は、器用に両腕に料理やデザートの皿をいくつも乗せているではないか。まるでお城の配膳係のようで、私は面を食らってしまう。 「先ほどは置きざりにしまって、すまなかった。神々しいものを見た気がして、つい……」「言っときますが、ヴィオ
last updateLast Updated : 2026-08-29
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第10話 陛下は指輪を贈りたい
 天気の良い昼下がり。 室内の公務を片付けたフェルナン陛下と私は、二人で城下町に出かけていた。 残念ながらデートではない。城下町をお忍びで視察するために、デートのような雰囲気を醸し出しているだけだ。  正体がバレないように、フェルナン陛下は護衛の騎士という設定の衣装に身を包んでいる。国民全員に素顔を知られている陛下は、髪型を七三分けに、そして眼鏡をかけるという圧倒的「陽」のイメージを半減させるスタイルだ。 しかし、まあ、どんな見た目でもフェルナン陛下はかっこいいので、眼福であることには変わりない。もちろん、網膜映写機にその御姿は刻ませていただいた。  一方、私はというと。 「い……、いかがですか。私、貴族の娘っぽいでしょうか。……いや~、私男なので流行りのドレスやアクセサリーなんて分からないんですけど、ちょっと頑張って選んでみたというか……」  普段のミニスカの騎士装束や、夜会の時にもドレスは着たものの、自分でコーディネートするというのは、こっ恥ずかしくてたまらない。 入学した年から男女共学になった騎士学校でさえ、私はスカートの制服を選ばなかったのだ。男を演じていると、「自分で」女性ものを選ぶということが、軽く拷問なのである。  そんな精神状態の中で私が選んだものは、瞳の色に合わせたグリーンを基調にした爽やかなドレスに、同じ色の宝石の付いたチョーカーとイヤリング、そして上品なデザインの日傘。華美過ぎず、地味過ぎずの路線をいったつもりだ。 (アルヴァロは男設定だし、あまりガチめな服だと引かれるかもしれない。でも、ダサショボい装いは、隣を歩く陛下に不快な思いをさせてしまうかもしれないし、これくらいのラインが最適解だと思うんだけど……)  ドキドキしながら、チラッとフェルナン陛下の表情を伺うと――。
last updateLast Updated : 2026-08-30
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