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ディリアン公爵様、奥様が離婚を望んでいます!
ディリアン公爵様、奥様が離婚を望んでいます!
Author: Raisaa

第1話

Author: Raisaa
「奥様!」「奥様ぁー!」

叫び声が下から響いた。

人々の視線が一斉に、城で最も高い塔へと向けられる。

そこには、血に染まった白いドレスを身にまとい、一人の女性の姿があった。

セレーネ・モロー・レヴェンティス。

レヴェンティス公爵夫人。

いつもは穏やかで従順な彼女が、今この城で最も危険な場所に立っている。

背後では近衛兵たちが息を殺し、一歩の誤りが彼女を本当に飛び降りてしまうことを恐れ、慎重に距離を保っていた。

嗚咽が、はっきりと、胸を裂くように夜気を震わせる。

セレーネは痛みに顔を歪め、腹部を強く押さえていた。

五度目の流産。

今回は、彼女は真実を知っていた。

それは病でも、身体の弱さでもない。

すべては、跡継ぎを望まなかった、夫自身の仕業だった。

「セレーネ!」

低く重い声が背後から響いた。

振り向かなくても分かる――ディリアン――彼女の夫であり、この国の公爵だ。

セレーネは声を聞いても、振り返らなかった。

失望は、もはや振り向くことすら許さないほど深かった。

「俺の注意を引くための、またくだらない芝居か?」

冷たい声。

彼は面倒ごとを嫌う男だった。

ここへ来たのも、妻が塔に立っているという噂に耐えられなかっただけ。

セレーネは、かすかに苦笑した。かすれた声で、静かに答える。

「……まず、謝罪なさるべきではございませんか?」

視線の先には、侍女たちに囲まれて立つ一人の美しい女性がいた。

整った身なり。乱れた自分とは正反対。

ディリアンに愛される女。

彼の目には、決して自分など映らない存在。

「狂ったのか?」

嘲るような声。

セレーネはゆっくりと振り返り、夫を見つめた。

彼の目は赤く染まっていたが、その奥は氷のように冷たい。

「はい、狂っておりますわ」

そう、はっきりと告げる。

「あなたを愛してしまったがゆえに。そして、自分の五人の子どもを、あなた自身が殺されたからです!」

夜気が凍りついた。

近衛兵たちが息を呑み、ディリアンも一瞬言葉を失う。

「セレーネ、馬鹿なことを言うな」

感情を抑えようとする声。

セレーネは、血に染まるドレスのまま、哀しげに笑った。

「一度でも、わたくしを愛してくださったことはございますか?」

縋るような視線。

沈黙。

そして、彼は視線を逸らした。

「やはり、一度もございませんね」

自分の口から出た言葉が、刃となって胸に突き刺さる。

セレーネは震える息を吸い込んだ。

「もういい。降りろ、休養が必要だ」

「そのような偽りのご配慮はおやめください!」

セレーネは叫び、涙を零す。

「いっそ、わたくしを殺してくださればよろしかったのです!なぜ、何の罪もない子どもたちを……!」

「セレーネ、やめろ! 今すぐ降りろ!」

命令の声。

しかし、セレーネは一歩、後ろへ下がった。

「わたくしは飛び降り、死んで参ります。そして、子どもたちに謝るのです。

守れなかった母として、父親に殺されたことを」

「やめろ、セレーネ! 死ぬな!」

珍しく焦りを滲ませた声。

だが、セレーネは微笑んだ。

「わたくしの子どもたちの魂に誓います。あなたは必ず報いを受けるでしょう。

一生、後悔と苦しみに苛まれ続けるのです」

そして――

彼女は、身を投げた。

「セレーネ!」

ディリアンが叫び、兵たちと共に塔の縁へ駆け寄る。しかし、間に合わなかった。

骨が砕ける音。

血が地に広がる音。

セレーネの瞳は、まだ開いていた。

最後に映ったのは、塔の上から覗き込む、取り乱したディリアンの顔。

悲鳴が、夜を引き裂く。

星一つもない暗い空が、レヴェンティス公爵夫人の悲劇を静かに見下ろしていた。

……

「……セレーネ!」

はっとして、セレーネは目を見開いた。

息が荒く、溺死から救われた人のようだった。

目の前に立っているのは、ディリアン・レヴェンティス。

冷静で、冷酷で、鋭い眼差し。

背後には医師と侍女たち。薬の匂いが部屋に満ちている。

すべてが現実のように感じられた。

まるで、かつて彼女の命が尽きたあの舞台と同じように。

視線を横に向け、小さな机の上の時計を見つめた。

この日は、彼女が死ぬ二年前だ。

夜風が、わずかに開いた窓から入り込み、塔から落ちたあの夜と同じ匂いを運んできた。

記憶が蘇る。

体は地面に激突し、凄まじい痛み、そして暗闇に包まれた。

腹部に手を伸ばす。

包帯に覆われ、温かく、血が滲んでいる。

死んだはずなのに、生きている。

「奥様、手から出血しております。すぐに点滴を」

医師の声に、セレーネは硬直したまま頷く。

「医者の邪魔をするな」

ディリアンの苛立った声。

セレーネは深く息を吸った。

脳裏に浮かぶのは、自分の亡骸、人々の悲鳴、そして――

生まれることのなかった、五つの命。

ゆっくりと、夫を見上げる。

静かで、はっきりとした声。

「ディリアン様」

「何だ」

セレーネは、真っ直ぐ彼の目を見つめた。

「離婚しましょう」

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