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第29話

Author: Raisaa
「説明してください」

セレーネの声は淡々としていた。

低いが、鋭さを帯び、その場の空気を張り詰めさせるには十分だった。

イラルドは一度大きく息を吸い、深く頭を下げる。

「奥様が出られた後で、すべてを知ってしまった。」

セレーネは長い間、彼を見つめた。

その眼差しに怒りはない。

あるのは疲労、失望よりも、もっと深い何かを押し殺した色だった。

「ごめんなさい」

彼女は小さく言った。

「わたくしのせいで、あなたは殴られました」

イラルドは慌てて首を横に振り、さらに深く頭を垂れる。

「お気になさらないでください、奥様。むしろ、お力になれなかったわたしの方こそ、お詫びすべきです」

セレーネは静かに息を吐く。

「構わないわ。これは、わたくしたち自身の愚かさが招いたことですよ」

少しの沈黙のあと、視線を向けないまま問いかけた。

「ヴィヴィエンヌは?」

「モローお嬢様は、すでにご実家へお送りしました」

セレーネは小さく頷くだけだった。

「そう」

それだけ言い残し、彼女は背を向ける。

イラルドは、その後ろ姿を見送った。

背筋は伸びている。だが、どこか重い。

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