LOGINジェイは少しの間沈黙した。表情は平坦なままだが、その眼差しは硬く鋭さを帯びている。彼はすぐには答えず、最も安全な言葉を選び出そうとするかのように間を置き、やがて短く事務的に答えた。「俺は自分の任務をこなしているだけだ」ヴィヴィエンヌは眉を上げ、口角を歪めて嗤う。「任務?面白いわね。遠く離れた柱の陰からコソコソ監視することが、子供の遊びに含まれているとは知らなかったわ」ジェイは挑発に乗らずに返す。「俺は遊んでいるわけではない」「それは残念ね。滅多にない瞬間を逃しているわよ」彼女はダグニーとディヴリオが隠れている茂みへと視線を送る。彼らの笑い声が微かに響く。見つけてもらう順番を、今か今かと待ち望む興奮に満ちて。彼女は声を落として言葉を継ぐ。今度の響きに、先ほどの嘲弄の色はない。「あの子たち、幸せそうよ。あんたにも分かるでしょう?」ジェイはその視線を追うが、ほんの一瞬だけで冷淡に返す。「それが何かを変えるわけじゃない」ヴィヴィエンヌは長く彼を見つめ続けた。彼女は一歩踏み出し、問い詰める。「本当にそう?それとも、あんたみたいな人間にとっては、それこそが一番危険なことなのかしら?」ジェイは彼女を見据えたまま、押し黙る。遠くから、ディヴリオの叫び声が聞こえた。「ヴィヴィエンヌおばさん!もう数え終わったよ!」ヴィヴィエンヌは小さく息を吐き、後ずさた。彼女はジェイに向かって薄く微笑んでみせる。「呼ばれたみたいね。心配しないで。まともに隠れることすらできない大人の護衛がいたなんて、あの子たちには黙っておいてあげるから」彼女は踵を返し、子供たちの声がする方へ小走りで向かっていく。ジェイはその場に立ち尽くしていた。彼の視線はヴィヴィエンヌの背中を追い、それが木々の間に消えるまで見つめ続ける。その間も、ある一つの思考が彼の頭の中を巡り続けていた。ダグニーは茂みに沿って軽い足取りで小走りをし、瞳をワクワクと輝かせる。もう諦めようとしたその時、何かが彼女の注意を引いた――あまりにも静かで、あまりにも不自然に硬直した影。庭園の風景の一部としては、どう見てもおかしい。「あーっ!」ダグニーはジェイの目の前でぴたりと止まった。彼女は嬉しそうに声を上げ、彼を真っ直ぐに指差す。「見ぃーつけた
その言葉に、空気が再び重くなった。セレーネは視線を動かし、少し離れた場所に立つジェイへと向けた。決して離れることのない忠実な影のように、真っ直ぐに控えている。二人の視線が交差した。命令が口に出されるよりも早く、ジェイは彼女の意図を正確に読み取っていた。セレーネが鋭く命じる。「ジェイ」ジェイは短く頭を下げる。「御意のままに、奥様」セレーネは一切の迷いなく命令を下した。「あの子たちの後を追いなさい。ダグニーとディヴリオの安全を確実にすること。一瞬たりとも、目を離しては駄目よ」「承知いたしました」ジェイが短く応えた。それ以上言葉を交わすことなく、彼は即座に歩み出した。音を立てず、しかし素早い足取りで二人の子供を追う。姿を見せることないが、確実にそこに存在するように訓練された、完璧な護衛のように。セレーネは、すでに誰もいなくなった小道へと再び視線を戻した。今しがた自分が下した決断は、他人の目には甘く映るかもしれないことを彼女は分かっている。だが、あの頷きの裏で、セレーネはすでに厳重な警護を手配していた。今日だけは子供たちに笑顔でいることを許すが、彼女自身は一秒たりとも警戒を解くつもりはなかった。彼女の知るこの世界では、善意でさえも凶器になり得るのだから。別の場所では、ダグニーとディヴリオがすでにヴィヴィエンヌを見つけていた。その女は古い大樹の木陰に立ち、小道に半ば背を向けていた。まるで周囲の世界にはもう、注意を払う価値などないとでも言うように。ドレスの裾が風に軽く揺れ、その顔には未だ燻り続ける不快感の残滓が張り付いている。ダグニーが先に駆け出し、彼女の目の前でぴたりと止まった。「ヴィヴィエンヌおばさん!」彼女は明るい声を上げる。「私たちと一緒に遊ぼうよ!」ディヴリオも追いつき、期待に満ちた手でヴィヴィエンヌのドレスの袖を引っ張った。「うん!鬼ごっこしようよ。かくれんぼでもいいよ!」ヴィヴィエンヌが顔を向け、微かに眉を上げた。二人の子供を少しの間見つめ、やがて短く息を吐き出す。彼女は冷たく言い放つ。「私は子供じゃないのよ。自分たちだけで遊びなさい」再び顔を背けようとしたが、ダグニーが先回りして正面に立ち塞がり、腕を広げて小さな、しかし頑固な通せんぼをした。「ちょっとだけでい
セレーネはすぐには答えなかった。彼女は前を向き、固く閉ざされた山小屋の扉を見つめていた。その表情からは感情が読み取れない。怒りでもなく、絶望でもない。それはむしろ、あまりにも多くの可能性を天秤にかけすぎた結果、ただ疲労困憊してしまった人間の顔だった。「好きにさせる?」セレーネはゆっくりとその言葉を反芻した。唇の端が僅かに持ち上がったが、それは笑みと呼べるものではなかった。「私は、あの人を引き留めなかっただけよ」ヴィヴィエンヌは短く息を吐いた。それは笑いを欠いた嘲笑のように聞こえた。彼女は背を預けていた柱から体を離し、歩み寄る。彼女は告げる。「あれはディリアン公爵よ。あなたの夫じゃないの。そして今や、城中の人間が、彼があの女の別館に住み着いたことを知っているわ」ラミアは唇を噛んだ。明らかに何か言いたげだったが、言葉を飲み込む。ルナとアイレは顔を見合わせ、ますます濃密になっていく緊張感を感じ取っていた。セレーネはついにヴィヴィエンヌへと顔を向けた。彼女は平坦な声で答える。「警告はしたわ。もしその道を選ぶならどうなるか、私はすでに伝えてあるもの」ヴィヴィエンヌは鋭い眼差しで彼女を睨みつけ、反問する。「それで、あいつの好きにさせておくと?奴らがこの件をどう捻じ曲げて噂するか、あなたにも分かっているでしょうに」セレーネは小さく声を立てて笑った。短く、苦々しく、そしてすぐに消え去る笑いだった。彼女は言う。「人間というものは、いつだって全てを捻じ曲げたがるものよ、ヴィヴィエンヌ。私が口を開こうと黙っていようと、結果は同じだわ」彼女は長椅子から立ち上がり、山小屋の小さな窓へとゆっくり歩み寄った。そこから見える城の光はひどく遠く、決して真の温もりを与えてはくれない星のように、冷ややかに瞬いていた。セレーネの声はさらに低くなった。「私は疲れたの。耐え忍び、理解を示し、譲歩するだけの唯一の人間でいることに」ヴィヴィエンヌは少しの間黙り込み、やがて声を落として言った。「もしそれが犠牲についての話なら……あなたは一人じゃないわ」セレーネは首を横に振った。彼女は答える。「だからこそよ。こういう決断を下す時、私はいつだって一人だったわ」彼女は振り返り、全員を見渡した。その視線は嵐の中心から遠ざかる
案の定、セレーネの部屋の扉が背後で閉ざされた後も、ディリアンは本館には戻らなかった。彼は踵を返し、モルウェンナがこれまで滞在していた別館へと向かった。石造りの回廊がいつもより冷たく感じられるのは、まるで邸宅そのものが、たった今起きた異変を察知しているかのようだった。多くを語ることなく、ディリアンは使用人たちに短い命令を下した。その声は平静で、平坦で、しかし一切の反論を許さない響きを帯びていた。箱が次々と運び出されていく。衣服、書類、剣、そして彼の私物が一つずつ移されていった。使用人たちは頭を垂れたまま働き、空気に重く立ち込める緊張感を感じ取っていた。なぜ自分たちの公爵が本館を去るのか、誰一人として尋ねる勇気はなかった。彼らはただ命令に従うだけだった。ディリアンが別館の扉の前に立ち、真意の読めない表情でその作業を監視していたちょうどその時、モルウェンナが自室から姿を現した。彼女は言葉を失った。ほんの数秒間、モルウェンナはただそこに立ち尽くし、自分の目が信じられないとでもいうようにその光景を見つめていた。赤髪は今や綺麗に梳かされ、顔の汚れは落とされ、頭の傷には白い包帯が巻かれている。セレーネの怒りの痕跡はまだ残っていたが、それは彼女が慎重に作り上げた平静の仮面によってすでに隠蔽されていた。やがて彼女は歩み寄り、声をかけた。「ディリアン?」その声のトーンは柔らかかったが、明らかな驚きが含まれていた。「何があったの?」ディリアンはすぐには答えなかった。彼の視線がモルウェンナに落ちる。冷たく、値踏みするように。まるで一人の人間を見ているのではなく、自分が遂行しなければならない計画の一部を見ているかのように。数秒が経過して、彼が口を開こうとした、その時だった。ディリアンが沈黙したままだったため、モルウェンナは待ちきれなくなったように尋ねた。「ディリアン、奥様と喧嘩でもしたの?」彼は短く答えた。「妻と口論になった。そして、追い出された」モルウェンナは静かに息を吸い込んだ。口角が持ち上がり、ほとんど見えないほど微かだが、深く意味ありげな薄い笑みを形作る。彼女は同情を装った声色で言った。「そんなこと、するべきじゃなかったのにね」しかし、その瞳には光が宿り、ゆっくりと膨れ上がる優越感を隠しき
ディリアンは長くセレーネを見つめていた。これから彼が口にする言葉は、怒りよりも遥かに硬い何かを貫き通さなければならないとでも言うように。彼はようやく口を開いた。「あいつは追い出す」セレーネが顔を上げた。この部屋に入ってから初めて、彼女の目がディリアンを真っ直ぐに捉えた。その眼差しには驚きと、疑念と、そして未だ癒えることのない傷痕が交錯している。ディリアンが一歩踏み出し、二人の距離が縮まる。外の世界に向けるいつもの強硬な態度は消え失せ、その声は低く落とされていた。彼は静かに告げる。「セレーネ……すまなかった。あいつを連れ帰ったことで、こんな結末になるとは本当に思っていなかったんだ。俺の判断ミスだった。俺が間違っていた」セレーネは彼を長く見つめ、やがて苦々しい小さな笑い声を漏らした。「それなら、あの女を連れ帰った本当の理由は何なの?」彼女は問い詰める。「あなたも、あの女の毒牙にかかったとでも言うの?」ディリアンはゆっくりと首を横に振った。セレーネに触れようと手を伸ばしかけたが、空中でその動きを止める。彼は正直に答えた。「お前を見ている時だけ、この現実が本物だと感じられるからだ。自分がまだ生きていると。これが、あの呪いによって作り出された幻影ではないのだと」セレーネは沈黙した。胸を激しく上下させ、頭の中で思考が渦巻いている。ディリアンは言葉を継いだ。「お前を手放すことなんてできない。これは俺の過ちだ。全てにおいて、謝罪する」セレーネは生唾を飲み込んだ。消え入りそうな声で尋ねる。「それが、あの時あなたが見たものなの?」ディリアンは頷いた。「ああ」セレーネは言葉を失った。長い沈黙の後、ディリアンが口を開く。「他に方法がなかったんだ。あいつに近づき、あの呪いを解くには……極限まで親密になることでしか成し遂げられない。これ以上は説明できないんだ、セレーネ。たとえ俺がそうしたいと望んでも」セレーネは俯いた。世界の全ての重圧を肩に背負ったかのように、長く息を吐き出す。その顔は深い困惑に満ちていた。彼女は静かに告げる。「それなら……私を行かせて」ディリアンは即座に首を横に振って拒絶した。「駄目だ」セレーネは誤解を恐れるように早口で言う。「遠くへ行くわけじゃないわ。サイ
モルウェンナが答えようとした、まさにその時だった。扉が乱暴に開け放たれた。セレーネが、嵐のように踏み込んできた。彼女はディリアンを一瞥だにしなかった。ディリアンの横を通り過ぎ、怒りで蒼白になった顔のまま、もはや抑えきれない速足で突き進む。誰も反応する隙すら与えずに――パーンッ!その平手打ちは、モルウェンナの頬に重く、乾いた音を立てて炸裂した。顔が横に弾き飛ばされ、髪が乱れ、打撃音が鋭く部屋に響き渡る。セレーネの手は激しく震えていた。後悔からではない。あまりにも長く抑圧され続けてきた怒りが、ついに決壊したのだ。モルウェンナが体勢を立て直すより早く、セレーネはテーブルの上のティーポットを鷲掴みにした。そして、一言も発することなくそれをぶちまけた。熱い紅茶が、モルウェンナの顔と胸元を濡らす。茶はまだ十分に熱く、彼女の肌を瞬時に赤く腫れ上がらせた。モルウェンナは短い悲鳴を上げ、数歩よろめいて後ずさる。焼けるような痛みに呼吸が詰まっていた。セレーネは叫んだ。掠れ、荒れ狂う、純粋な憎悪に満ちた声で。「この、売女!」ディリアンが弾かれたように動き出した。彼は素早くセレーネの背後に回り、その怒りが取り返しのつかない事態を引き起こす前に、彼女の体を力ずくで引き剥がした。「セレーネ!やめろ!」彼は怒鳴りつけ、妻の体を腕で強引に羽交い絞めにする。「離して!」セレーネは必死に身を捩り、ディリアンの胸を叩き、どうにか拘束から逃れようと暴れた。「こいつに思い知らせてやる!裸になって夫を誘惑し、私の子供たちを殺しかけたこの売春婦に!」ついに涙が零れ落ち、怒りと混ざり合って声は完全に嗄れていた。セレーネの体は激しく震えている。彼女はもはや優雅で落ち着き払った公爵夫人ではなかった。子供を失いかけた、一人の母親だった。モルウェンナが、くすくすと笑い出した。その笑い声は低く、ゆっくりとしており、人を酷く見下していた。まるで火傷の痛みなど何でもないかのように、モルウェンナは気楽な動作で身なりを整え始めた。濡れたドレスの胸元を直して隠し、セレーネを見据えて、歪んだ薄い笑みを浮かべる。彼女は冷酷に宣告した。「ようやく、本性を現しましたね。公爵夫人」セレーネは声が裏返るほどに叫んだ。「私の子供たちに手を出した
イラルドが去ったあと、セレーネは書類を一つひとつ丁寧に確認した。城を出る日、迷わないために――すべてを理解しておく必要があった。気づけば、外は夕暮れ色に染まっている。控えめなノック音。「奥様。エレアノーラ様と、オデット様が到着されました」イラルドの声に、セレーネはすぐ立ち上がった。「わかりました」玄関へ向かい、丁寧に二人を迎える。応接室へ案内しながら、セレーネはいつも通り背筋を伸ばしていた。義母のオデットは、部屋に入るなり視線を巡らせる。調度品、床、カーテンの皺。ほんの些細な乱れも見逃さない人だ。だからこそ、セレーネは城を常に完璧に保ってきた。
その朝、セレーネは違和感を覚えていた。朝食の席に、ディリアンがいる。しかも、同じ卓に腰を下ろしている。それは、ほとんどあり得ない光景だった。彼が屋敷にいる日でさえ、朝は執務室か自室に籠もるのが常だった。セレーネも、もう近づこうとはしない。どんな言葉も、どんな気遣いも。彼にとっては「邪魔」でしかないと、知ってしまったから。心の傷が、彼女の足を止めていた。「お祖母さんと母上が、後で来る」食器を置き、ディリアンが言う。セレーネは一瞬だけ彼を見た。「わたくしが、まだ療養中だとお伝えしましたか?」「だからこそ、見舞いに来る」淡々とした答え。セレ
その朝、空気は凍えるほど冷たかった。いつも通り、セレーネはディリアンの姿を見なかった。もはや慣れきっている。夫が屋敷に戻らないことなど、今に始まった話ではない。かつては、城の執務が忙しいのだと自分に言い聞かせていた。だが真実を知ってしまった今、胸に残るのは嫌悪だけだった。心の傷はまだ癒えていない。それでもセレーネは、時間が自分を強くしてくれると、必死に信じようとしていた。しかし、その朝は違った。突然、公爵邸に父、モロー伯爵が現れたのだ。「ヴィヴィエンヌに、いったい何を言った?」低く、重たい声。逃げ場のない問いかけだった。「何を?あの娘が、何か
食堂の空気が凍りついた。セレーネの言葉は氷のように落ち、ヴィヴィエンヌの顔色を奪い、ディリアンを立ち尽くさせる。まるで、初めて彼女を知ったかのように。「これは、お前らしくないな」ディリアンが低く呟く。セレーネは薄く微笑んだ。「わたくしのほうこそ、驚いておりますわ。ようやく、あなたがわたくしを見てくださったのですから」「その言い方、恥ずかしくないの?」ヴィヴィエンヌが堪えきれずに割り込む。セレーネの視線は平坦だった。「お二人に合わせているだけですわ。それで動揺なさるのは、なぜでしょう?」ヴィヴィエンヌは顔を引きつらせ、勢いよく立ち上がる。そのまま足