LOGINモロー前伯爵は小さくため息をつき、ようやく口を開いた。その声は低く重々しかったが、落ち着きを保っており、まるで一言一言が極めて慎重に選び抜かれたかのようだった。「お前をここに呼んだのは、義理の父親としてではない」彼は言葉を切り、静かに告げた。「叔父としてだ、ヴィヴィエンヌ。だから、本来の関係通りに私を呼べばいい」ヴィヴィエンヌは薄く微笑んだ。瞳の奥までは決して届いていない、ひどく浅い笑みだ。彼女の中で何かが音を立ててひび割れたように見えたが、彼女はそれを、意識的に作り上げた平静さで完全に覆い隠した。やがて、ゆっくりと、試すような口調で彼女が問う。「つまり。あなたは私のことなど、微塵も恋しくなかったということね?」モロー前伯爵がゆっくりと瞬きをした。一瞬、彼の眼差しが揺らぐ。まるで、全く予期していなかった問いを投げかけられ、激しく動揺した者のように。車椅子の肘掛けに置かれたその手が、微かにこわばる。ヴィヴィエンヌはすかさず、柔らかいが明確に棘を含んだ声で言葉を継いだ。「なんだかんだ言っても、私たちは長い間、互いに愛し合う父と娘を演じてきたじゃない。少なくとも、他人の目にはそう映っていたはずよ」二人の間に沈黙が漂った。夕暮れの風がバルコニーへと忍び込み、モロー前伯爵の背後にある薄いカーテンを揺らす。やがて、老人が先ほどよりも一段低い声で静かに答えた。「もしあの頃に戻れたとしても、私は、お前を受け入れたことを後悔はしない。お前を愛したこともな」ヴィヴィエンヌは鋭い視線を彼に突き刺したまま、次の言葉を待った。「だが、私が後悔しているのは、あのような自分になるべきではなかったということだ。何もかもを曖昧にし、役割も、感情も、境界線も、全てを混同するべきではなかったのだ」ヴィヴィエンヌが微かな冷笑を漏らした。氷のように冷たい声で彼女が質す。「ご自分がもうすぐ死ぬから、だから今になって、過去の歪んだものを全て真っ直ぐに正したいとでも言いたいの?」モロー前伯爵の眼差しが一瞬だけ険しく尖り、すぐにまた柔らかさを取り戻した。彼はその推測を否定する。「誤解しているな、そういう意味で言ったのではない」ヴィヴィエンヌは押し黙った。反論もせず、同意もしない。彼女はただそこに、背筋を伸ばして立ち尽くしていた。あまりにも何度も
最後の一握りの灰が家族の墓に納められた後も、その厳粛な空気がすぐに消え去ることはなかった。それどころか、北の大地全体が息を潜めているかのように、沈黙は一層重苦しさを増した。墓の建造物は古い城塞のように堅牢にそびえ立ち、灰色の石壁は高く、冷たく、そして永遠だった。それは、生まれては権力を握り、やがて灰へと還っていく幾つもの世代を見届けてきた無言の証人だった。儀式を終え、ディリアン、セレーネ、そしてオデットは墓の上部にあるテラスへと階段を上った。そこからは、北方の山々が眼前に広々と見渡せた。峰々は分厚い雪に覆われ、灰色の空の下で蒼白く輝いている。北風が容赦なく吹き荒れ、骨の髄まで凍りつくような寒さを運んでくるが、三人のうち誰一人として動こうとはしなかった。大自然はあまりにも美しく、そしてだからこそ残酷に感じられた。まるで、偉大な先代公爵夫人が永遠にこの世を去ったことなど意に介さず、世界はそのまま回り続けているのだと見せつけられているかのようだ。音のない時間がしばらくの間流れていった。オデットは少し背中を丸め、杖を握りしめて立っていた。その顔は今日、ひどく老け込んで見えた。母親の死が、彼女に残されていた僅かな気力すらも奪い去ってしまったかのようだ。彼女は山々を長く見つめ続け、やがて口を開いた。「ディリアン……」彼女が小さく呼びかける。ディリアンは真っ直ぐに前を見据えたままだった。その顔はこわばり、顎に力が入り、眼差しは虚ろでありながらも深い苦悩を帯びていた。「引退しようとは、一度も考えなかったの?」オデットが言葉を継ぐ。その声は平静だったが、隠しきれない微かな震えが混じっていた。「貴方はもう、あまりにも多くのものを背負いすぎたわ」ディリアンは静かに息を吸い込み、すぐには答えなかった。「私も、もう若くはないわ」今度はさらに消え入りそうな声で、オデットが重ねた。「母は逝ってしまった。そして私は……私は疲れたのよ、ディリアン。愛する人たちを失い続けることに、もう疲れてしまったの」その言葉は、愚痴としてこぼれ落ちたのではない。それは、たった今母を失った一人の子供の、偽りない告白だった。数秒の時間が、何分にも感じられるほど長く重くのしかかった後、ディリアンはようやく口を開いた。「考えてやる」それ
最後の言葉は、先ほどよりも微かな声で紡がれたが、はっきりと聞き取れるものだった。直後に短い沈黙が訪れる――それはひどく異質な沈黙であり、まるでその名がもたらしたこだまが、未だに完全には消え去っていないかのようだった。イラルドが恭しく頭を下げる。「承知いたしました、奥様」イラルドは即座に身を翻し、早足で立ち去った。これが決して先延ばしにできる頼みではないことを、彼は痛いほど理解していたのだ。歩き出したばかりのディリアンが、ピタリと足を止めた。振り返りはしなかったが、その顎のラインが微かにこわばる。まるで、その命令の意味を全て聞き届け、完全に理解したかのように。数秒が経過した後、彼は再び歩き出した。今度は先ほどよりも足早に。頭の中で騒ぎ始めた思考から、一刻も早く逃れようとするかのように。セレーネはその場に立ち尽くしていた。その眼差しは一瞬だけ虚空を彷徨い、やがてゆっくりと険しさを増していく。ジェイとビョルンを呼び戻すという決断――それは間接的に、ヴィヴィエンヌの影を再び自分たちの輪の中へと引き戻すことを意味する。それが決して単純な事ではないと、彼女は分かっていた。だが状況は変わったのだ。北が待っている。このまま宙ぶらりんにしておくには、未解決の事柄が多すぎた。彼女は、未だに横たわっているオデットへと再び視線を流し、短く目を閉じた。「お祖母様が、持ち堪えてくれますように……」彼女は消え入りそうな声で呟いた。それは、遥か北にいる祖母に向けられたものなのか……それとも、喪失の淵に立たされている全ての人々に向けられたものなのか、誰にも分からなかった。出発の準備は、異様な静けさの中で進められた――あまりにも整然と、あまりにも迅速に。まるで、誰もが足を止めないために、自身の感情を必死に切り捨てようとしているかのようだった。鞄が閉じられ、分厚い冬用外套が羽織られ、多くを語る必要のない短い命令だけが飛び交う。ついに全ての準備が整った時、城の前庭にはすでに馬車が待機していた。セレーネが先に乗り込み、顔色は蒼白ながらも無理に背筋を伸ばそうとするオデットを支えて乗せる。オデットの表情は平静だったが、杖を握るその手にはあまりにも力がこもりすぎており、彼女がひどく怯えていることを雄弁に物語っていた。彼女がひどく怯えているのは、北にい
その名が発せられただけで、部屋の空気が一瞬にして凍りついたかのようだった。ディヴリオとダグニーは足を止め、全身を強張らせた。使用人の一人が握っていたスプーンが手から滑り落ち、床に当たって鋭い音を立てたが、誰一人としてそちらを振り向こうとはしなかった。テーブルの最も近くにいたオデットの顔面から、一瞬にして血の気が引いた。その手は激しく震え、何かを問いかけようとするかのように唇が動いたが、声は全く出なかった。その眼差しは虚ろになり、やがて老いたその身体がぐらりと前へと傾く。ダグニーが短い悲鳴を上げた。「おばあちゃん!」だが、セレーネの方が早かった。彼女が大きく踏み出し、完全に床へ倒れ込む前にオデットの身体を受け止めた。それでもオデットは意識を失ったままであり、セレーネの腕の中で頭が力なく傾き、その呼吸は重く、そして不規則だった。セレーネが断固たる声で命令を下し、部屋の凍てついた空気を打ち破る。「今すぐ医者を呼んで!」数人の使用人たちが即座にパニックに陥って動き出した。部屋を飛び出していく者、椅子を運んでくる者、そして何をすべきか分からずにただ硬直している者。セレーネはオデットを近くのソファに寝かせるのを手伝い、彼女の頬を軽く叩いて、まだ正常に呼吸しているかどうかを懸命に確かめようとした。ディヴリオはその場に釘付けになり、手をきつく握りしめていた。震える声で彼が尋ねる。「ママ……何があったの?」セレーネは息子の顔を一瞥した。彼女自身の心臓も普段より遥かに激しく脈打っていたが、その目に動揺は見せなかった。答えというよりは命令に近い、短い言葉で言い聞かせる。「落ち着きなさい」そして彼女は、伝令へと鋭く顔を向けた。冷たい声で問い詰める。「話しなさい。クリスティス様に何が起きたの?」伝令は唾を呑み込み、明らかに躊躇していた。「私めは……北方領より急報をお持ちいたしました、奥様。クリスティス様のご容態は――」「もう十分よ」セレーネが僅かに手を上げ、彼の言葉を遮った。そのような口調が、この部屋のパニックをさらに助長するだけだと分かっていたからだ。彼女が声を上げる。「イラルド」先ほどから扉の近くで硬直していたイラルドが、すぐさま前に進み出た。「はい、奥様」セレーネは微塵の躊躇いもなく命じた。「デ
ディリアンは深く息を吸い込んだ。ひどく息苦しく感じられる。それは怒りからではなく、直視するにはあまりにも困難な「ある事実」に気づいてしまったからだ。謝罪という行為は、彼が普段から慣れ親しんでいるものではない。それは彼が常に正しいからではなく、全てを一人で背負い込み、沈黙を選び、時間が残りの問題を解決してくれると思い込む悪習が染み付いていたからだ。しかし今夜、生まれて初めて、彼は自身の沈黙が中立なものではなく、相手を傷つける決断であったかもしれないということに気づかされていた。彼は言葉を切り、顎をこわばらせた。「俺は……俺からの謝罪に、何かの意味があるのかどうか分からない」セレーネは小さな苦笑を浮かべ、静かな声で諭した。「時にはね、謝罪とは、意味があるかないかの問題ではないの。私たちがかつて間違っていたと認めるための、勇気の問題なのよ」再び沈黙が二人を包み込んだ。冷たい城の階段は、それぞれ異なる形で傷ついた二人の大人の姿を静かに見守っている。ディリアンはこれほどまでに多くの嵐を共に耐え抜いてきたセレーネを見つめた。その夜の彼には、いつものようにすぐ答えを出すことができなかった。そしておそらく、権力や論理、あるいは断固たる決断だけでは解決できない事柄があるのだと、彼が初めて思い知った瞬間でもあった。ある種の事柄には……感情が求められるのだと。翌朝、レヴェンティス城は滅多にない完全な平穏に包まれていた。食堂の高い窓から柔らかな朝日が差し込み、何年にもわたってこの家族と共にあり続けた長い木製のテーブルの表面に反射している。そのテーブルは、幾多の笑い声や言い争い、そして多くの人々の人生を変えた決断の数々を見届けてきた。セレーネはテーブルの端に座っていた。背筋は伸びていたが、その肩はいつもより少しだけリラックスしているように見える。彼女の目の前では、ダグニーとディヴリオがオデットと共に朝食を楽しんでいた。ディリアンの席は空だった。彼はまだ眠っている。決して終わることのない数多の執務を夜通し片付けていたため、疲労困憊していたのだ。セレーネはわざと彼を起こさなかった。重苦しい会話も、下すべき決断も、説明を求めるような眼差しもないまま過ごす方がいい朝というものもあるのだから。ディヴリオはスプーンを握ったまま、長いこと何も口に運ば
ディリアンが戻ってきたちょうどその時、ジェイとビョルンが中庭を横切っていくのが見えた。二人はそれぞれ、ヴィヴィエンヌの荷物が入った木箱や鞄をいくつか抱えている。荷物の量はひどく少なかった。この城でそれなりの期間を過ごした人間のものとしては、あまりにも少なすぎたのだ――そしてまさにその事実こそが、ディリアンの胸に重苦しいものをのしかからせていた。彼は足を止めた。胸のつかえを少しでも和らげようとするかのように、長く、深く息を吐き出す。ディリアンは無言のまま踵を返し、城の中へと戻ろうとした。距離を置くことこそが、最も簡単な逃げ道だった。「ディリアン」背後から呼び止めるその声は穏やかで、決して声を張り上げたわけではなかったが、彼の足を止めるには十分だった。ディリアンは立ち止まった。自分を呼んだ者の顔を確認できるだけの角度に、ほんの少しだけ顔を向ける。冷ややかな目で一瞥するだけだった。それが、彼の長年の習慣だった。彼は抑揚のない声で尋ねた。「何の用だ」ヴィヴィエンヌは彼から数歩離れた場所に立っていた。夕暮れの風が彼女の髪を揺らしている。顔色は蒼白だったが、背筋は真っ直ぐに伸びていた。涙もない。爆発するような怒りもない――ただ、それらよりも遥かに深い疲労の色だけがそこにあった。「あなたって本当に、血も涙もない人間ね」ディリアンの眉間が寄る。「どういう意味だ」ヴィヴィエンヌはひどく苦い、小さな笑い声を漏らした。まるでその問い自体が答えであるかのように、静かに首を横に振る。そして、静かだがはっきりとした声で言葉を紡いだ。「私に謝るべきだとは思わないの?」その言葉には、重々しい非難が込められていた。ジェイとビョルンは反射的に歩みを緩め、ヴィヴィエンヌから数歩後ろの位置で立ち止まる。二人は振り返らなかったが、今の会話は確かに聞こえていたようだった。ディリアンはヴィヴィエンヌを長く見つめ返した。問いかけられてすぐには答えを見出せなかった。そんなことは久しぶりだった。目の前に立つ女は、何かを強要するでもない。哀願することもない。声を荒げて非難することもない。その揺るぎない平静さこそが、理屈で言い負かすことも、権力で押し切ることもできない相手と向き合っているのだと、ディリアンに感じさせていた。やがて彼が口を開く。その
その朝、セレーネは違和感を覚えていた。朝食の席に、ディリアンがいる。しかも、同じ卓に腰を下ろしている。それは、ほとんどあり得ない光景だった。彼が屋敷にいる日でさえ、朝は執務室か自室に籠もるのが常だった。セレーネも、もう近づこうとはしない。どんな言葉も、どんな気遣いも。彼にとっては「邪魔」でしかないと、知ってしまったから。心の傷が、彼女の足を止めていた。「お祖母さんと母上が、後で来る」食器を置き、ディリアンが言う。セレーネは一瞬だけ彼を見た。「わたくしが、まだ療養中だとお伝えしましたか?」「だからこそ、見舞いに来る」淡々とした答え。セレ
その朝、空気は凍えるほど冷たかった。いつも通り、セレーネはディリアンの姿を見なかった。もはや慣れきっている。夫が屋敷に戻らないことなど、今に始まった話ではない。かつては、城の執務が忙しいのだと自分に言い聞かせていた。だが真実を知ってしまった今、胸に残るのは嫌悪だけだった。心の傷はまだ癒えていない。それでもセレーネは、時間が自分を強くしてくれると、必死に信じようとしていた。しかし、その朝は違った。突然、公爵邸に父、モロー伯爵が現れたのだ。「ヴィヴィエンヌに、いったい何を言った?」低く、重たい声。逃げ場のない問いかけだった。「何を?あの娘が、何か
食堂の空気が凍りついた。セレーネの言葉は氷のように落ち、ヴィヴィエンヌの顔色を奪い、ディリアンを立ち尽くさせる。まるで、初めて彼女を知ったかのように。「これは、お前らしくないな」ディリアンが低く呟く。セレーネは薄く微笑んだ。「わたくしのほうこそ、驚いておりますわ。ようやく、あなたがわたくしを見てくださったのですから」「その言い方、恥ずかしくないの?」ヴィヴィエンヌが堪えきれずに割り込む。セレーネの視線は平坦だった。「お二人に合わせているだけですわ。それで動揺なさるのは、なぜでしょう?」ヴィヴィエンヌは顔を引きつらせ、勢いよく立ち上がる。そのまま足
――流産したばかり?混乱しているだけ?ヴィヴィエンヌは一瞬、言葉を失った。不快感を押し殺すように表情が強張る。ディリアンは彼女の手を無造作に振りほどき、そのまま振り返りもせずに歩き去る。取り残されたヴィヴィエンヌは、その場で静かに目を細めた。唇が歪み、怒りを噛み殺すが、やがてその端に、かすかな笑みが浮かぶ。――セレーネが本気で、離婚するつもりなら……胸の奥で、期待が膨らむ。「レヴェンティス公爵夫人、ね?」その称号を、舌の上で転がすように囁く。ずるりとした笑みが広がり、低く喉を鳴らして笑った。そして何事もなかったかのように、ディリアンの後を追う。…