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ブランシュ
私が『ザ・アイ』の扉をくぐったとき、最初に私を襲ったのは、その匂いだった。
私はあらゆることに備えていたつもりだった。汗の匂い、退廃をかろうじて隠す安物の香水、他の調査で潜入したバックルームの刺激的な空気。しかしここには、それらは何もなかった。空気は高級なレザー、何百ものろうそくで温められた蜜蝋、清潔な肌の香りに、何かもっと野生的で、もっと深いものが混ざっていた。権力の匂いだった。
ロビーは私の前に広がっていた。地下大聖堂のように、ボストンの内臓に掘り込まれた。天井は薄暗がりに消え、燭台の灯りが完全に届くことはない。深紅の垂れ幕が、屍衣のように厚く、コーニスから滝のように落ちている。壁は一方向の鏡で覆われ、その背後に存在、視線、沈黙の審判を感じ取ることができた。音楽はゆっくりとした低音で、有機的で、黒い大理石の床を伝って私の骨に浸透し、私の許しなく心臓のリズムを変えていく。
今夜、私の名前はエヴァ。
エヴァは存在しない。エヴァはこの世界のために仕立てられた虚構であり、嘘である。黒いシースドレスが、まるで第二の皮膚のようにあらゆる曲線を包み込む。ヒールが大理石の上で、私の持たざる権威をもって鳴り響く。冷ややかな眼差し、深紅に塗られた唇、腰のラインは「私はここにいるべき人間だ」と宣言している。だが私の存在のすべての線維はその反対を叫んでいる。
私はメインルームへと続く記念碑的な階段を下りながら、心の中でマントラを繰り返す。私はエヴァ。アートコンサルタント。ニューヨーカー。好奇心旺盛だが、容易に感銘を受けない。ここに来たのは観察のため、それだけだ。
段差は広く、私の前を通り過ぎた何千人もの足跡で磨かれている。一歩ごとに、私をまだ知らぬ法則が支配する世界へと深く沈めていく。鍛鉄の手すりは、汗で湿った私の手のひらに冷たく触れる。気を落ち着けるために段数を数える。十二。二十四。三十六。クラブは徐々にその全貌を現し、まるで断片的に明かされる絵画のように広がっていく。
記事の題名は、まだ決まっていなかった。 テーマは、ダミアンが解体した犯罪ネットワーク。 慈善活動や私的な社交クラブを隠れみのにしながら、人身売買、脅迫、汚職、暗殺に手を染めていた、パリと国際社会の上流階級のネットワークだった。 最初の二日間、私は資料を読み、分類し、事実関係を確認した。 ジャーナリストとしての感覚が戻ってきた。 長いあいだ抑え込まれていた本能が、研ぎ澄まされた刃のようによみがえっていた。 情報源を照合する。 日付を確認する。 人物の身元を再確認する。 一つの情報を鵜呑みにしない。 毎晩、ダミアンが私を訪ねてきた。 まだ杖を使ってはいたが、歩き方は日に日に安定していた。 私たちは塔のバルコニーで一緒に夕食をとった。 眼下には、地平線まで広がる公園があった。 「進んでいるか?」 彼が籐椅子に腰を下ろしながら尋ねた。 「ええ。でも……想像していたよりも、はるかに大きな組織です」 私は資料に視線を落とした。 「パリ
私は微笑んだ。 「契約だ。最後の契約。私たちの未来を確かなものにするための契約だ」 私は彼女の手を握り直した。 「だが、その前に君に書いてもらいたいものがある」 「書く?」 「君の記事だ。ここへ来た本当の目的。〈眼〉とその秘密を暴くために書こうとしていた記事だ」 彼女の目が大きく見開かれた。 「私に……記事を書いてほしいんですか?」 「そうだ。ただし、クラブについてではない。私についてでもない」 私は言葉を区切った。 「私が解体した犯罪ネットワークについてだ。ヴァンスと共犯者たちの罪について。世界が知るべき真実について」 私は彼女を見つめた。 「君は私のジャーナリストになる。公の世界における私の良心になる。光の中で、私の声を届けてくれ」 彼女は首を振った。 信じられないというような笑みが、唇に浮かんでいた。 「本気なんですか? あれほど秘密を守ろうとしていたのに、私に世界へ公表してほしいと?」 「私の秘密ではない。彼らの秘密だ」 私は答えた。 「〈眼〉が暴いた上流階級の人間たちの犯罪。私が集めた証拠。真実だ、ブランシュ。ただ真実だけを」 私は彼女の手を握った。 「それを書けるのは君しかいない。君には才能がある。勇気がある。そして、真実を貫く誠実さがある」 彼女は唇を噛み、灰色の瞳を
そして、誰にも言ったことのない言葉を口にした。 「すまなかった」第44章:ダミアンの告白 私の声は低く、静かだった。 「地下の闘技場でのことも。あの試練も。残酷な教えも、罰も、テストも。すべて、すまなかった」 私は彼女から目をそらさなかった。 「冬の庭園で君が言ったとおりだ。君が忠誠を証明したあとも、私は試し続けた。再び誰かを失うことへの恐怖に、自分の行動を支配させてしまった」 私は拳を握った。 「傲慢さのせいで、君を失いかけた。許してくれ、ブランシュ。もっと早く君を信じなかった私を」 彼女は立ち上がり、カップをテーブルに置いた。 そして私の椅子の前にひざまずいた。 指先が私の膝に触れ、灰色の瞳が私の目を探す。 「私はずっと前に、あなたを許していました、ダディ」 彼女は静かに言った。 「あの地下の闘技場で、初めてあなたに見つめられた夜から。あなたは怪物ではなく、傷ついた人なのだとわかっていました。だから、あなたを癒やしたかった。救いたかったんです。あなたが私を救ってくれたように」 彼女は微笑んだ。 「私たちは、もうおあいこです」 沈黙が降りた。 感情と記憶と約束が、部屋の空気に重く満ちていた。 やがて、レナが遠慮がちに口を開いた。 「クロス様……それで、これからどうなさるのですか? その資料を」 私は彼女に顔を向けた。 当然の質問だった。 黒いUSBメモリの中には、何百もの文書と、何千ページもの記録が収められていた。 十五年間の執念の結晶。 そして、その答えはすでに決まっていた。 戦いのあと、医務室に朝日が差し込んだとき、私は答えを見つけていたのだ。 「すべて破棄する」 レナとブランシュが、驚いた表情で顔を見合わせた。 「破棄するんですか?」 ブランシュが繰り返した。 「でも、これまでの努力も、何年もの時間も……」 「犯人たちは逮捕された。ヴァンスは収監され、彼の共犯者たちの組織も解体された。私が司法当局に渡した証拠だけで、彼らを有罪にするには十分だ」 私はUSBメモリを見つめた。 「まだ闇に潜んでいる者たちもいるだろう。だが、もう私は彼らの裁判官になりたくない。影の王であり続けるつもりもない」 私はブランシュに手を差し出し
「だが、妹はやがて彼の本性を知った。慈善活動を隠れみのにして、人身売買に関わる捕食者。人を操り、弱者を踏みにじる男だった。妹は彼を告発すると脅した」 私の声は、石を削る火打ち石のように硬くなった。 「そして、彼は妹を殺した」 冷酷に。 計画的に。 証拠を一つも残さずに。 「警察は交通事故と結論づけた。路面の凍結。車の逸脱。即死。だが、妹は慎重な運転をする人間だった。しかも、あの日、その道路は凍結などしていなかった」 言葉を口にするたび、胸の傷から棘を引き抜くような痛みが走った。 それでも私は話し続けた。 「最初は一人で調べた。やがて、ヴァンスが特別な存在ではないとわかった。彼の背後には、人脈の網が広がっていた。権力と金と影響力を使い、罪を犯しても罰せられない上流階級の人間たちだ」 腐敗した判事。 不正に手を染めた政治家。 道徳を失った企業経営者。 「だから私は〈眼〉を作った」 私は二人を見た。 「権力のためではない。楽しみのためでもない。復讐のためだった」 クラブは巨大な蜘蛛の巣だった。 会員は、その網に絡め取られる獲物。 集められた秘密は一本一本の糸だった。 私は十五年をかけて、その網を編み上げた。 ヴァンスとその共犯者たちを罠に誘い込み、証拠を蓄積し、彼らを破滅させる準備を整えた。 〈影の舞踏会〉は、その計画の集大成だった。 私はネットワーク全体を解体し、証拠を司法当局に引き渡し、一度に妹の復讐を果たすつもりだった。 だが、予想していなかったことが一つだけあった。 ブランシュ。 私は彼女を見つめた。 「君が現れたことだ」 彼女は驚いたように瞬きをした。 「私が?」 「そうだ。あの最初の夜、灰色の瞳と、ジャーナリストらしい生意気さを持って地下の闘技場に現れた君は、すべてを変えた」 私は少し身を乗り出した。 「君は獲物ではなかった。私のゲームの駒でもなかった。君は生きた炎だった。自分の姿を映し返す鏡だった」 私は、自分が何者になっていたのかを君に見せつけられた。 自分の網に迷い込んだ正義の執行者。 本来の目的を忘れた復讐者。 二度と傷つかないように心の周りへ要塞を築き上げながら、それでも傷つき続ける孤独な男。 私は身を
ブランシュが椅子から立ち上がった。 肩にかけていたブランケットを私にかけ、そばにひざまずく。 彼女の腕が私を包み込んだ。 ジャスミンの香りが私を包む。 そして、耳元で声がささやいた。 「あなたは勇敢です、レナ。ここへ来て、すべてを告白した。それは、私がこれまで見てきた中で最も勇気のいる行為です。あなたはこの家族の一員です。それは何があっても変わりません」 私は長いあいだ泣いた。 ペルシャ絨毯の上にひざまずき、私を許した主人と、私を慰めてくれる〈イニシエ〉の間で。 やがて顔を上げると、ダミアンが黒いUSBメモリを手に取り、奇妙な表情で見つめているのが見えた。 疲労と決意が入り混じった表情だった。 「このUSBメモリには、私の秘密がすべて入っている」 彼は考え込むように言った。 「すべての資料。すべての証拠。私は十五年前、妹の復讐のためにこれを作った。そして今夜、ようやく君たちに話そう。なぜ、これを作ったのか」 彼はブランシュに視線を向け、それから私を見た。 「二人とも座りなさい。真実を知る時が来た。すべての真実を」 ダミアン 真実はゆっくりと人を蝕む毒だ。 だが、同時に解毒剤でもある。 妹が死んだあの日から、私はそれを知っていた。 十五年間、私はその秘密を胸にしまい込んできた。開いた傷口にナイフを差し込み、何度もひねるように、頭の中で繰り返し考え続けてきた。 最も近しい部下たちにさえ、一度も打ち明けなかった。 けれど今夜、私の家族となった二人の女性を前にして、毒を薬へと変えなければならない。 私は窓際の
ダミアンは何も言わなかった。 その顔は大理石の仮面のようで、何も読み取れない。 ブランシュは青ざめ、ブランケットを強く握りしめていた。 「私は要求を受け入れました」 最後の言葉で、私の声は砕けた。 「書斎で鍵を盗みました。クロス様から書類を届けるよう言われた夜です。そして、複製しようとしました。けれど……」 私は震える息を吸い込んだ。 「できなかったんです。クロス様の秘密を複製することなど、できませんでした。あなたを裏切ることなど、できなかった。私に与えてくださったものを思えば、どうしてもできなかったんです」 私は顔を上げた。 「だからヴァンスには空のUSBメモリを渡しました。破損した複製品です。偽物です。あなたが彼に仕掛けた罠と、まったく同じように」 ダミアンの黒い瞳を見つめた瞬間、胸をナイフで刺されたような痛みが走った。 そこにあったのは、怒りではなかった。 失望でもなかった。 悲しみだった。 深く、古く、彼の魂の底から湧き上がるような悲しみ。 「最初から私に話すべきだったな、レナ」 彼は静かに言った。 「ヴァンスから最初の脅しを受けたときに」 「わかっています。本当にわかっています。でも、怖かったんです。追い出されるのが。信じてもらえないのが。そして……ここにある唯一の家族を失うのが怖かった」 涙が頬を伝った。