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ピロトーク:えぐられたキズアト

Author: 相沢蒼依
last update Huling Na-update: 2025-08-01 11:58:09

 最近、僕の担当が代わった。副編集長になって、忙しい郁也さんから、鳴海さんにバトンタッチ。

 交代する関係で三人で打ち合わせをしたり、何度か顔を合わせている内に、鳴海さんと打ち解けることができた。

 今日は新作のプロットを見てもらうため、自宅に来てもらうことになっている。

 ふたりきりの打ち合わせは、はじめてなので、ちょっとだけ緊張するのは仕方ない。

 落ち着きなく、リビングを行ったり来たりしていると――。

 ピンポーン♪

 時間通りに鳴海さんが来てくれたので、どうぞと家の中に誘った。

「こんにちはー。今日もキレイですね、小田桐センセ」

 「はい、これどうぞ!」と言いながら、文明堂のなめらかプリンを手渡してくれた。

「いつもありがとうございます。今、お茶を淹れますね」

「いやいや、小田桐センセの手を煩わせたくないので、お茶まで持参しちゃいました」

 鳴海さんはカバンから、マイ水筒を見せる。

「知人が喫茶店をやってまして、スリランカの美味しい紅茶の葉を、わざわざわけてくれたんですよ。飲んでみませんか?」

「なんか気を遣わせてしまってすみません。戴きますね」

 テーブルにティカップを用意したら、そこに湯気の立つ紅茶を、コポコポと注いでくれる。

 キレイな琥珀色に引き寄せられて、カップに顔を寄せながら紅茶の香りを堪能した。

「……これ、不思議な香りですね。いろんなものが混ざってる感じ」

「さっすが! 実はミックスティなんですよ。レモンバームにローズの花びら、ブルーベリーが入ってるんです」

「なるほど。いろいろ混ざってるのに、イヤな感じがしないのは、すごいなぁ」

 一口飲んでみると、どことなく芳香剤を飲んだような、変わった味。むー……香りは好きだけど、ちょっと苦手な味かも。

「鳴海さんは、飲まないんですか?」

「いえ。これは小田桐センセに飲んでもらおうと用意したものですので、お気遣いなく」

 わざわざ用意して、持ってきてくれたものだし、ガマンして飲むしかないか。

 流し込むように口をつけてから仕事の話をしようと、プロットを書いた紙をそっとテーブルに置く。

「今回の新作は、職場恋愛のものを書いてみようかなって、こんなのにしました」

「なるほどー。引越しした先が、なんと上司の家の隣だったなんて、驚きの展開ですね」

「ええ。しかも上司には恋人がいるのに、主人公は無常にも好き
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