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ピロトーク:ファーストコンタクト

Auteur: 相沢蒼依
last update Dernière mise à jour: 2025-07-09 06:08:59

 葩御稜と対談する――この事実が俺たちにいろんな意味で重く圧し掛かり、暗い雰囲気を脱すべく、徒歩十五分のところにある、ファミレスへ行くことした。騒がしいところに身を置けばお互いに自然と、会話が弾むだろうと思ったからだ。

 店内に入ると金曜の夜を満喫すべくお客が結構いて、席があまり空いてなかった。

「禁煙席でしたら、ご案内できますが?」

「ああ。タバコ吸わないのでお願いします」

 そんなやり取りを経て、スムーズに着席することができたのだけれど――。

(なんだろう? 店内全体が、どうも浮き足立っているように感じる)

「僕いつもの、おろしハンバーグ定食で」

 そう言い残して、涼一はトイレに行ってしまった。その背中をなんの気なしに、視線で追いかけてみる。そして気がついた。客の視線がある一定のところに、チラチラと向けられているのを。

 腰を上げて、その方向を目で追って見ると――。

「なっ!?」

 今、逢いたくない人間ナンバーワンの葩御稜が、誰かと楽しげに食事しているではないか!

 テーブルに頬杖をつき、フライドポテトを口にしながら嬉しそうな顔して、なにかを喋っていて。周りの視線をこれでもかと一身に浴びている状態なのに我、関せずといった様子で向かい側にいる男に、へらへらと笑いかけていた。

 テレビで見るよりも胸クソ悪くなるくらい、甘い顔をしてやがる。相手の男は、恋人だろうか――って、俺には関係ない。

 バッドタイミングでここに来てしまったけど、ヤツらの席からここは遠く離れているので、すれ違うことも、話しかけられることもないだろう。

 安堵のため息をついて、窓の外をぼんやりと眺めた郁也。

 一方トイレで用を済ませ、店内の浮き足立った様子にまったく目もくれず、席に戻る道すがら、お子様用の椅子に座り、無邪気に喜んでいる子どもに、心が囚われていた涼一。

「郁也さんが小さいときって、どんな感じのコだったんだろう」

 小学生のときは間違いなく責任感を求められる、学級委員長をやっていそうだよなぁ。僕は転校生で、お世話されちゃう設定なんだ。

 なぁんてニヤけながら歩いていたら、大きなものに思いっきりぶつかってしまった。

「すみません……」

 退きながらぺこぺこと頭を下げて、慌てて謝る。よそ見をして人とぶつかるなんて、なにやってるんだろ。

 内心、自分に呆れ果てていたら……。

「いえ、こちらこそ。ボーッとしていたので」

 頭上から降り注ぐ低くて艶っぽい声に首を上げて、その人を仰ぎ見た。郁也さんよりも背が高い――185センチは、軽く超えているだろう。

 タイトにまとめられたサラサラの黒髪に切れ長の一重まぶたが、とても印象的な男の人。背が高いから威圧感があってもよさそうなのに、まとっている雰囲気が優しい感じ。

「ちょっと克巳さん、リコちゃん似の可愛いコちゃんに、ぼんやり見惚れるんじゃないよ」

 彼の大きな背中に隠れて、もうひとりの男性がひょっこりと現れた。

(――ちょっ、葩御稜じゃないか!?)

「こらこら男性に向かって、可愛いコちゃんは失礼だよ」

「ゲッ!? マジで……すっげぇ可愛いから、つい。本当にごめんね」

 葩御稜みたいにとても綺麗な人から、可愛いって言われちゃったよ。正直、素直に喜べないんだけど。

 これ以上関わりたくないと考え、会釈をしてやり過ごそうとした瞬間だった。

「……すみません。連れが粗相をしたみたいで」

 あろうことか目の前にすっごく不機嫌な顔した、郁也さんが現れてしまった。

「いやぁ、こっちにも落ち度はあったからさ。お連れさんの可愛らしさに、俺の克巳さんが目を奪われて、ワザとぶつかったみたいだしぃ」

 肩をすくめながら恋人に対し、流暢に文句を喋る葩御稜本人に、額に青筋を立てた郁也さんが、いろんな意味でキレかけている。眉間には、これでもかという感じのふかぁいシワを寄せて、唇の端をぴくぴくと引きつらせているよ。

 ――どうしよう!?

 困ってしまい、克巳さんと呼ばれた人に思わず視線を飛ばすと、涼しげな一重まぶたをすっと優しげに細めて、小首を傾げた。

 葩御稜にあれだけグサグサと言われたのに、どうしてこの人、こんなに余裕があるんだろう? この可笑しな修羅場模様、是非とも小説で書いてみたいかも――。

「すみません。俺がぼんやりしていて、お連れの方に気がつかなかったのが原因なんです」

 そう言って郁也さんにきっちり頭を下げた、克巳さんと呼ばれた葩御稜の恋人。その紳士的な姿勢に、うっと言葉を詰まらせて黙りこくる郁也さん。

「こちらこそ、本当にすみませんでした。他所に目がいって先にぶつかったのは、僕のほうです」

 同じように、ちゃんと頭を下げる。葩御稜には頭を下げたくないけど、この場をなんとかするにはこれしかない。

 きっかけを作ってくれた克巳さんという人に、内心感謝していると――。

「……その可愛らしさと素直さに免じて、許してあげるよ。小田桐先生」

「え――!?」

 この人ってば僕のことを知ってて、ワザと突っかかってきたのか?

「そっちの仏頂面してる人は誰か知らないけど、モデル事務所に是非とも紹介したいくらいだね。どう?」

「担当の桃瀬といいます。小田桐の世話が忙しくて、間に合ってます」

 郁也さんがすっごくイヤそうに告げると、葩御稜は「へぇ……」と頷いて格好よく腕を組んだ。

「これは来週末にする、対談が楽しみだね。それまでに機嫌、どうか直しておいてよ桃ちゃん♪」

 桃ちゃん――って、意外と似合ってるかも。だけどこれは絶対に、口に出してはいけないシロモノだ。

 わなわなしながら真っ赤な顔してる郁也さんと、呆然としてる僕に軽く会釈して、去って行った噂のふたり。

 葩御稜のキャラはテレビ通りだったけど、克巳さんという人がなぜだか気になってしまった。恋人があんなにハチャメチャ言ったり、やっちゃったりする人なのに、どうしてあんなに穏やかでいられるんだろう?

 隣にいる郁也さんに、ちらりと目をやる。心底おもしろくないといった表情を一切崩さず、プイッとひとりで、席に戻ってしまった。

 ヤバイと思って、慌てて追いかける。

「ごめんね。僕が至らないばかりに、いらない迷惑かけてしまって」

「いや……。お前が無事なら、それでいい」

 あさってを向いたまま、乾いた声で言い放つ。

 むぅ、郁也さんの機嫌をすっごく損ねてしまったぞ、どうやって立て直すか――葩御稜との対談よりも、こっちの対処が大変かもしれない。

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