漆黒の繭

漆黒の繭

last updateHuling Na-update : 2025-10-30
By:  琉斗六Kumpleto
Language: Japanese
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視力を失った鷹取雅史は、バディの真鍋美津留に「療養」と称して隔離される。 その場所は外界から完全に遮断された〝部屋〟。 優しさに満ちた真鍋の世話は、徐々に鷹取の自由意志と尊厳を奪っていく。

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Kabanata 1

プロローグ

"Congratulations, you're one month pregnant. Everything looks fine."

Mia Bowen held the results of her pregnancy test as she returned to her marital home, feeling like she was dreaming. Was she actually pregnant?

She mustered the courage to text her husband, Timothy Barrett. "Will you be coming home for dinner tonight?"

It felt like forever as she waited for a reply. He'd never liked it when people disturbed him at work, and she was worried that her message would go unanswered as it had in the past.

In the next second, her phone lit up. Timothy replied curtly, "Yeah. I have something to tell you."

After getting an answer, Mia hurried to get the groceries for that night's dinner. She put the results of the pregnancy test on the table, then flipped it over, feeling that she was being too obvious.

In the evening, a black limousine drove into the courtyard. Timothy got out with his suit jacket casually flung over one arm. He had a tall figure and striking features.

"Timothy, you're back." Mia jogged over to him, reaching out to take his suit jacket. But Timothy handed her some papers instead. A trace of surprise flashed in her eyes.

"Take a look at this. You can bring up any requests you might have," he said.

Mia looked down at the papers. The first page had the words "divorce agreement" written on it. The bright whiteness of the paper seemed to stab her eyes.

Timothy tugged his tie loose, traces of fatigue showing on his face. He looked down at Mia, taking in the baby fat around her face. She looked like a minor.

He didn't have any feelings for her. He'd only married her because his grandmother liked her. Her presence had also improved his grandmother's health, so this marriage was mutually beneficial.

If not for the accident a month back, he wouldn't even have noticed that they'd been married for three years.

Keeping this façade up would only be a waste of Mia's time and youth. It was better for them to separate.

Mia gently placed a hand over her belly and asked shakily, "If—and this is only hypothetical—I were to tell you that I'm pregnant, would you still go ahead with the divorce?"

Timothy's gaze landed on her belly. He frowned. "Didn't I tell you to take the morning-after pill after that time?"

What happened a month ago was an accident—the one and only accident that had happened over the three years of their marriage.

Mia acted like her hand had been burned. She quickly moved it away, but Timothy grabbed her by the wrist with a complicated gaze. "Are you really pregnant?"

Mia's breathing hitched. "I asked you a question. If I were pregnant, would you want to keep the baby?"

"No."

Timothy sighed. There was no point in having a baby when its parents were caught in a loveless marriage. It was what had happened with his parents.

Mia's heart seemed to empty out as he let go of her.

She watched as he walked away. Then, she tilted her head back to force the tears back. Timothy's words where like knives that stabbed her right in the chest.

Mia looked at the food she'd put her heart into making. They had gone cold. She poured them into the trash, feeling a bit nauseous from the greasiness.

She rubbed her belly. There was a tiny life growing in there. She swallowed her bitterness as she thought, "Your daddy may not want you, but I'll definitely protect you with all I've got."

She'd grown up as an orphan. Her adoptive parents had kicked her aside after giving birth to a pair of twins, banishing her to her adoptive aunt's house. Fortunately, her aunt, Patricia Bowen, treated her well.

It was Mia's biggest wish to have a family of her own. She knew Timothy didn't love her, but she'd still tried her best to be a good wife to him. Now, reality had proven to her that it was impossible for one to make a rock melt.

Still, now that she was pregnant, she wouldn't be alone anymore, even after the divorce.

Mia didn't bother reading the divorce agreement. She just signed on the last page.

That night, she slept in the master bedroom as usual while Timothy slept in the study. Everything was the same as before—they'd been married for three years but had also slept separately for those three years.

The following morning, Mia received a call from her mother-in-law, Sharon Hopkins. Sharon sounded imperious as she said, "Mia, have the maids tidy up one of the guest bedrooms on the second floor.

"A guest will be staying over for a few days. Remember to welcome her and treat her nicely."

Mia didn't even have time to ask who it was when Sharon had already hung up.

She smiled faintly, already used to how disdainful Sharon was of her. It was as if saying another word to her would bring shame to the Barrett family.

When Mia came downstairs, Timothy had left for work.

In the afternoon, a young woman dressed from head to toe in branded clothing walked into the living room. A trace of surprise flashed in Mia's eyes. Was this the guest Sharon had mentioned? A beautiful young woman?

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5 Kabanata
プロローグ
 意識を取り戻したとき、鷹取雅史は、自分がどこにいるのか分からなかった。 耳に聞こえる、規則的なモーターの音。 鼻孔に香る、清潔な消毒薬の香り。 だが、それらを確かめるために目を開いているはずなのに──。──なにも……見えない? 慌てふためき、焦りながら自身の顔に触れて、そこに包帯があることに気づく。 鷹取は、必死に記憶を手繰った。──そうだ、爆発の煽りを受けた……。 鷹取は、爆発物処理班に席を置く、エキスパートだ。 急報を受けて現場に赴き、タイマー型の爆発物の処理を行った。 だが、それは一つの爆弾の作動を止めると、連携している別の爆弾が爆発する特殊な仕様をしていた。 気づかず、処理を行ったために、起爆装置が解除された瞬間、建物内の別の場所で爆発が起きたのだ。 響く爆音。 咄嗟に腕を上げて頭を──顔をかばったように思うが……。「痛みはあるかい?」 声を掛けられ、そちらを向いた。 が、視界は真っ暗なままだ。「真鍋?」「そうだ、僕だ。痛みは?」 相棒の声に、どこかほっとした。 暗闇の中で、唯一の繋がりがそこにあるようで、心が少しだけ軽くなった。「……そう……だな、頭が痛むし……、背中も痛い……」「そうか。耐えられないほどなら、緒形先生に言って、痛み止めを増やすように頼むが……?」「いや……、我慢できないほどじゃないな。それより、目が見えない。どうなってる?」「包帯をしているからだろう。ちょっと待っていてくれ。君の意識が戻ったと、緒形先生に伝えてくる」 真鍋が離れていく気配に、鷹取は一抹の不安のようなものを感じた。
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Magbasa pa
1.部屋
 鷹取は、爆弾処理のエキスパートとして、長く務めてきた。 バディの真鍋美津留と二人、解除してきた爆弾の数は、同じチームに属する他の者たちの追随を許さず、常にトップの成績を誇ってきたのだ。 だが、ドクターから聞かされた話は、トップエージェントとして活躍してきた鷹取にとって、死亡宣告に等しいものだった。 手足に負った傷は、完治する。 治療の間に、体力や筋力が落ちはするが、それはリハビリで取り戻せる。 だが、視力だけは、もう二度と取り戻せない。 その事実が、彼の胸に深く重くのしかかった。 暗闇に包まれたまま、自分の身体がかつてのように動かないことを思い知らされる日々が始まったのだ。 それでも、彼の心は、諦めきれずに叫んでいた。──まだ、終わっていない……と。 退院の許可が降りたとき、そんな気持ちをつのらせていた鷹取に、「静かに療養出来る場所を知っている」 と言って、真鍋がその身を引き受けてくれた。 場所は……よくわからない。 視力が奪われ、絶望に打ちひしがれている鷹取には、方向も、時間も、距離感すらあやふやだったからだ。 そして、その部屋で、鷹取は毎朝〝絶望〟の目覚めを繰り返していた。§ その〝部屋〟は、本当に静かだった。 部屋を訪れる真鍋の動く音以外、これといった音を感じない。 耳を澄ませば、換気のための空気の流れる音がかすかに聞こえるが、それ以外はまるで閉ざされた世界のようだった。「おはよう、マサ。今日の調子はどうだ?」 優しく尋ねる声に、鷹取は無機質な声で答えた。「……生きている……だけだ」 微かな気配の後、真鍋が彼の身の回りを世話し始める。 ベッドから導き、安全に椅子に座らせる。 どこに何があるか、皿の上の朝食の詳細まで手取り足取り教えるのだ。 だが、それが鷹取の苛立ちに火をつけた。「やめろ! 子どもじゃあるまいし!」 声を荒げて叫ぶ。 視界を失い、無力になった自分を思い知らされる日々の中で、唯一残された誇りが、引き裂かれるようだった。「怒るな。この生活に少しでも慣れなきゃ……」 真鍋が、穏やかに。 しかし揺るぎない声で言った。「うるさい! 放っておいてくれ!」 それが、八つ当たりであることは、苛立ちを爆発させた鷹取自身が一番良く分かっている。 それでも、なにもかもを叩き壊し
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2.清拭
「全部、食べられたようだな。少しは、回復してきてるようで、嬉しいよ」 食事のトレーを持って、真鍋が立ち上がる音がする。 鷹取は黙って、うなだれていた。 どれほどの拒絶や、抗いをみせても、真鍋はその優しいスタンスを変えない。 そして、外に出たいと申し出ても、やんわりと断られる。「真鍋。俺は外の空気が吸いたい。此処に来てから一度も、窓を開けたこともないだろう?」「……マサ。……今のきみは療養中で、光や雑音は良くないよ」「退院許可が降りて、もう医者にも掛かってない。リハビリもしてないじゃないか! なにが療養だっ!」 数秒の沈黙。「余計なことを考えちゃ駄目だ」 優しい声音だが、いつになく低い声だったように感じた。「食器を片付けてくる」 真鍋が、部屋を出ていく音がする。 鷹取は耳をそばだてた。 扉の開閉音のあとに、やはり施錠の音がする。──やはり真鍋は、自分をこの〝部屋〟に閉じ込めている。 鷹取は確信した。 呼吸が浅くなり、喉が渇いた。 肩が震え、吐き気すら覚えた。 心が、闇に溶けていくようだった。§「マサ、清拭をするよ。ちょっと体に触れるからな」 扉の開閉と、施錠の音。 続いて、キャスターのついた〝なにか〟が近付いてくる音と、微かに水音もする。「いやだと言ってもするんだろう? 勝手にやれ」 投げやりに、鷹取は答えた。 真鍋の手が背中を支えるように差し込まれ、体を起こされる。 そこに、シーツとは違うなにかを敷いているらしい音が続き、そして鷹取の着衣を脱がせ始める。 空調は適温に調整されているが、服を脱がされた時に肌寒さを感じた。 こぽこぽと響く水音。 ちゃぷちゃぷとタオルをすすぐ音。 そして、鷹取の肌に固く絞った、体温より少し熱いタオルが触れる。 すうっと、肌を撫でられると、それでも少し気分が良かった。 腕を持ち上げられたところで、なんとなく応じてその姿勢を保つ。「協力してくれるんだ。ありがたいな」「汗ばんでいたから、都合がいいだけだ」 言い張るように言ってしまって、少し子供じみた言い回しだったか? と思ったが。 何度かすすいで温められたタオルが触れる場所が、胸から腹、そして下腹部へと至る辺りで、鷹取は強張った。「おい……っ!」「ははは、なんだよ? シャワールームで互いの裸も見慣れているじゃないか
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3.希望
 ベッドに戻された鷹取は、放心していた。 脱力感と倦怠感で、指一本動かすのも億劫に感じている。 一方で、思考は忙しなく動き続けていた。 ここに留まるのは、危険だ……と。 まるで昏い夢の中に閉じ込められているようだ。 目を閉じていても、開いていても、闇が広がっている。「着替えたものを洗濯室に持っていく」 言いおいて、真鍋は部屋を出ていった。 遠ざかる足音。 しかし、鷹取は微妙な違和感を感じていた。──なんだ?──出入りの時にいちいち用事を断っていくのは、いつものことじゃないか。 しばらく考えて、鷹取はハッとした。 扉の開閉音しか、聞こえなかった……ような気がする。 感じていた脱力感も倦怠感も振り捨てて、鷹取はベッドの上に起き上がった。 希望というにはあまりに脆く、恐怖と隣り合わせの感情が、血を逆流させる。──いまなら、出られるかもしれない。 震える脚を下ろし、手探りで床をなぞる。 裸足のつま先に、冷たい床の感触。 手を伸ばし、壁を探り、鷹取はようやくベッドから降り立った。 距離は……八歩。 それは、真鍋がベッドから離れて扉を開閉させる時、いつも数えていた数字だ。 一歩ごとに、手を前に出し、壁を伝いながら進む。 やがて指先が角に当たった。 真鍋の八歩が、今の自分にはシルクロードより長く思えた。 角からさらに手探りで、扉を探す。 枠に触れた指先をてのひらとして広げ、ドアノブを掴む。──開いた! 思った瞬間、 不意に、胸が高鳴った。──逃げられる!──だが、どこに? 微かな恐怖に、足がすくむ。 それでも、鷹取はすぐに気を取り直した。 数々の訓練に耐え、鍛え上げられた軍人魂は、未だ鷹取の中に残っていた。 耳に聞こえるほど鼓動が鳴り響き、全身にじっとりと汗をかきながら。 一歩、鷹取は扉の外へと踏み出した。 裸足の足裏に触れる、感触が変わる。 瞬間、それまで鷹取を取り巻いていた恐怖が消え、たまらない開放感が訪れた。 真鍋の、底の見えない善意から。 閉塞感に息もできないあの〝部屋〟から。 自分は抜け出したのだ! 思わず走り出した鷹取は、足がもつれて倒れた。 全身を打つ、衝撃。 だが、その痛みすらが、自由への代償に思われた。 起き上がるために、肘を付き、体を起こし、立ち上がるための力点を探して
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Magbasa pa
4.打破
 その晩、鷹取は夢を見た。 真鍋と二人、任務に取り組んだ過去の日々。「僕はね、マサ。死ぬのは怖くないんだ」 それは、いつの記憶だろうか? 確かに、真鍋の口から聞いた言葉だ。──そういや、アイツ。実家の話を全然しなかったな……。 なにかの折りに、耳にした噂。 再婚した母親は、真鍋を邪魔に扱っていたと聞いた。 早いうちに親をなくした自分からしたら、親のある家庭は羨ましく思えたものだが。 その唯一の存在から邪険に扱われるのは、自分の境遇よりもずっとつらかろうと……思ったことがあった気がする。 死を恐れない、真鍋。──むしろ、死を望んでいたのか……? 突然、記憶がぐにゃりと歪む。 炎の中を、真鍋が走っている。 負傷した鷹取を抱え、全力で……。 目が、頭が、全身が痛む。 焼け付く空気に呼吸も出来ず、手足は痺れ、真鍋の体にしがみつくことすら出来ない。──そうか……、すがりついてるのは、ミツルの方だ……。 ふと、そんな言葉が脳裏をよぎった。 必死になって、自分の体を抱いて走る真鍋は、鷹取の生命を繋ぐ事だけを求めて、走っている。 途端に、気持ちがひどく軽くなった。§ ハッと目を覚ますと、そこは医療室の中だった。 視界に広がる、光、景色。 耳に聞こえる、人々のざわめき。 はじめはぼんやりしていたが、鷹取はすぐにもその状況に驚いて周囲を見回す。「……ここは……?」 戸惑いの声が漏れた。 見慣れた部屋、見慣れた機器、見慣れた……いつも酔っ払っている軍医の白衣姿。 軍医の隣に立っている、真鍋。「いやだぁ!」 瞬間、鷹取は悲鳴にならない悲鳴を上げ、ベッドの上から逃げ出そうとした。「おいっ! 動いては駄目だ」「落ち着きなさいっ!」「やめろっ! 離せっ!」 取り巻くなにかのチューブ。 腕に刺さった点滴。 思うように動かない手足。 それらに阻害されている間に、ベッドに取り付いた真鍋によって抑え込まえる。「離せっ! 離せっ!」「ドクター!」「抑えろ! おいっ! 手を貸せっ!」 軍医が部屋の外に向かって叫ぶと、バラバラと足音が聞こえ、鷹取の体を抑える手が増えた。「鎮静剤を打つ、腕を!」「いやだっ、離せっ!」 必死になって暴れても、数人がかりで抑え込まれては成すすべもない。 剥き出しになった二の腕に、注射の針が
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