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朝山妃那美の研究④

last update publish date: 2026-06-21 17:00:39

 朝山先輩の発表が終わり、機材の片づけを皆で協力して完了させた後、俺たち万物研究会のメンバー四人は中央のテーブルに集まって一息ついていた。

 発表を終えた朝山先輩は何だかんだ緊張していたようで、その糸がほぐれたかのように脱力している。

 香月先輩は優雅に珈琲の入ったカップを啜っており、その視線はテーブルに突っ伏している朝山先輩へと向いている。

 神崎はというと、前回と同様にスマートフォンで何かを調べているようだった。

「妃那美、発表について質疑応答の時間を取りたいんだが、いけるかな?」

 香月先輩の言葉に勢いよく体を起こした朝山先輩は、どんと来い! とでも言わんばかりに両手を広げる。

「では、私から質問させてもらおう。君は幽体離脱という体験を通して宇宙空間を進み続けたと言っていたが、それはどれくらいの時間、どれくらいの距離か分かるかい?」

「うーん、時間に関しては正直、数値で出すのは難しいかなー。体感としては、凄く長かったとしか言えないんだよねー。距離に関しても、ぶっちゃけ分かんない! 凄い速さで周囲の星々が全部線になってビュンビュン後方へと消えていく、そんな景色を長い時間ずーっと見てた感じ。だから惑星の位置とか、そういうのも視認出来ないくらいだったんだよねー」

「それって凄く……怖いですよね」

 それは、俺の口から自然と出た言葉だった。

 女性陣三人の視線が、一斉にこちらへと向く。

「いや、想像するだけで怖いなーと思って。だって凄い速さで進み続けたとしても、宇宙の果てまで到達するのにどれくらいの時間が掛かるかも分からないじゃないですか。そもそも果てなんてものは無いのかもしれない。もしそうだとしたら、永遠に同じ景色の中を進み続ける事になる……それって、考えるだけで怖くないですか?」

 俺の言葉に朝山先輩は同意を示すかのように、大げさにうんうんと頷いてみせた。

「やっぱり、岩倉君もそう思うよねー。私も幽体離脱中は考えたよー。もしかしてこれ、一生終わらないんじゃない? って。そう考えたら、もう怖くて怖くて泣きそうになったよね」

「想像しただけでも恐ろしいのに、戻れなくなってしまうかもしれないのに、妃那美先輩はまた宇宙の果てを目指すんですか?」

 次に口を開いたのは、神崎だった。

 彼女はいつの間にか手に持っていたスマートフォンから目を離し、朝山先輩の事をジッと見つめていた。

 その瞳を見返したまま、朝山先輩は朗らかに笑いながら言った。

「うん、目指す。単純に恐怖に負けた自分が悔しいし、その先を知りたいって気持ちが大きいからねー。もしあそこで恐怖に打ち勝って進み続けていたら、その先には何があったんだろうって、考えただけで眠れなくなっちゃうくらい気になっちゃう」

「……そうですか」

 朝山先輩の言葉を聞いて、何かを考えこむように神崎は俯いた。

 しかし、それは一瞬の事で、すぐに顔を上げた彼女は再び口を開く。

「あの……発表の内容とはあまり関係ない質問をしてもいいですか?」

「ん? なにかな?」

 そして、神崎が次にした質問の内容は、俺を困惑させるのには十分だった。

「いま、この場所に幽霊はいますか?」

 ……は?

 なんだ、そりゃ。

 急にそんな質問を投げかける意図が、まるで分からない。

 その瞳から発せられている、感情の色を認識する。

 恐怖と興味、それらが半々といったところだろうか。

 不思議だったのが、その質問を聞いた時の香月先輩の反応だった。

 まるで彼女は、神崎の質問の意図を理解しているかのように俺には見えたのだ。

「えーっと……あ、私が霊感あるって発表で言ったから、気になっちゃった感じかな?」

「まあ、はい、そんなところです」

「なるほどー。んとねー、霊がいる時って肌が粟立つような感じがするんだけど、今は特にそういうのないかなー。だから今この場に幽霊はいないと思うよー! 安心して!」

「……そうですか。変な質問をしてしまってすみません」

 ペコリと頭を下げた神崎に対し、朝山先輩は「全然良いよー」と言って、柔和な笑みを浮かべる。

 きっと朝山先輩は神崎が幽霊の存在を怖がっているから、そのような質問をしたと思ったのだろう。

 ただ、それは違う気がする。

 神崎の今の質問には、何か別の意図がある。

 俺には、そう思えた。

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  • プルチックの瞳   万物研究会①

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